十三日の金曜日は仏滅編 その3
あれから一週間が過ぎ、再び巡ってきた金曜日。
平日だが週末前ということで、ショッピングモールの中も賑わいを見せている。
俺は、バックヤードにて欠伸をかみ殺しながら届いた品の荷解きに精を出す。
それから中から出てきた新商品のサンプルを店内へと運び、店長とディスプレイの相談だ。
別に働く必要があるわけではないのだが、俺は、社会情勢や流行、生活の変化などをいち早く察知するため人の社会に溶け込んで生活を送っている。
他の組合員たちはといえば、それぞれで、俺みたいに人になりきって生活するという行動を理解できないという奴もいるけれど、どうせ日中は暇なのだし、暇をつぶすのにちょうどよいのだ。
それにこうして働き稼いだお金で、色々と買ったり遊んだりすることが出来る。
手を出してみたらコンピューターゲームというものもなかなか面白いし、別にわざわざそれを食べなくても生きてはいけるけれど、人間の食事もそれなりに美味だと思う。
俺が働いているのは街の一角にある大きなショッピングモール。
この中に店舗をかまえる寝具専門店『ぐっすり~Good sleep~』だ。
人間たちの熟睡・快眠は俺が活動する上でも非常に重要なことであるので、自身の活動に繋がる仕事を選んだっているところもある。
まぁ、モール内が混雑してきたところで、うちの店まで大いに賑わうということは滅多にないので、マイペースに仕事をさせてもらっている。
一人一人に丁寧にじっくりと接客をするのが、うちの店のやり方だ。
お客へのヒアリングからオーダーメイドの商品を提供するため、お値段もそれなりである。
勤務終了時刻まで、あと何人くらい客が入るかな、と思いながらサンプル展示用に商品棚の整理を始めていれば後ろから声がかかった。
「すみませ~ん!枕の寝心地を試したいのですが」
「あっ、はい!ただいま!」
慌てて商品棚からくるりと振り返った俺は、背後から声をかけてきたその客を目にして叫び声を上げるところだった。
「なななな!なんで……!?ここにっ!!?」
怯えた表情に、動揺を隠せない声で俺がそう問いただせば、客は……ヨーコちゃんは、目を瞬かせた。
なんでと言われても、と彼女は平然と言い放った。
「よく眠れる枕に興味があったから」
だからって、ピンポイントで俺の店にやってくることなんて、あるか普通―――!?
一応は、人口八十万人以上の県庁所在地の大きな街なんだぞ!?
わなわなと唇を震わせる俺を前に、彼女は訝し気な表情を浮かべて続けた。
「あの、店員さん?お試しできないのですか?」
そう言われれば、接客をしないわけにもいかない。
店長や他のスタッフから何を騒いでいるんだという視線をチラチラ受けつつ、俺はがっくりと項垂れて返事をしたのだった。
「……ただいま」
数種類のサンプル枕を手に、店内のベッドへと案内すれば、ヨーコちゃんは俺の後ろを歩きながら感心したように頷いていた。
「なるほど。人外生命体であっても、こうして労働に従事しないと、暮らしていけない時代なのね」
「いや、これは単なる暇つぶしっていうか……お願いだから、そういうこと大きな声で言うの止めてくれる?」
「え?人外も人間世界で勤労しないと生活できないってことを?」
「違うよ。俺が人ならざる者って話!これでも今の姿は、世を忍ぶ仮の姿なんだからな」
俺は声を潜めると、そう彼女に注意した。
まぁ、女子高生一人、そんなことを主張して、わあわあ騒いだところで、信じる者がいるかどうかだが。
せいぜい頭がおかしくなったと笑われるか、心配されるのがオチだろう。
「人ならざる者って、イメージしていたものとだいぶ違うのよね。もっと暴力的で頭から丸呑みにしちゃうぞっていうエイリアン系とか、人間が眠っている間にスマートにその血を啜り自らの糧にする吸血鬼系とか。そういうのを想像していたのに」
ヨーコちゃんがぼそりとこぼした呟きは、俺の耳にもしっかり届いている。
悪かったな、くたびれたサラリーマン系で。
大体、頭から丸のみエイリアン系だったら、初対面のあの夜、君の命はもうなくなっていると思うんだけどなぁ。
そんな奴が来たら、さすがに着ぐるみとバットだけでは対抗しきれなかっただろうよ。
案内したベッドの前で仏頂面になっている俺を、改めて頭の天辺からつま先まで眺めたヨーコちゃんは、素直に心の内を吐き出した。
「今日はわりとまともな格好なのね?」
「そりゃ、仕事だからね」
まぁ、くたびれたサラリーマン風のあれも、仕事もとい活動用の正装ではあるのだが。
それから、彼女はその形の良い眉を潜めて言った。
「き?」
『き』、とは?
頭のおかしさに拍車がかかったかと思ったのも一瞬、すぐに俺は彼女の視線がどこに向いているのかに気づいた。
ああ、これのことか。
今日の俺は寝具専門店の店員仕様なので、白いワイシャツに黒のスラックス、その上から会社から支給されている蘇芳色のスタッフ用エプロンを身に着けている。
ヨーコちゃんは、俺のエプロンの左胸部分についている名札を読んだようだ。
「『き』じゃない。『稀』だよ」
俺がそう教えると、ああ、と彼女は合点がいったように頷いた。
「マレちゃん、ていうのね!」
「…………」
店員に向かって、もとい、人ならざる者に対しての敬称にしては、些かフレンドリーすぎないか?
俺も彼女のことをちゃん付けで呼んではいるから、もう何も言いはしないが……
俺は黙々と準備を進めると、彼女をベッドへと促した。
彼女は俺の指示に従い、靴を脱ぐとベッドの上へと上がった。
今日も学校帰りだったのだろう、ブレザーの制服姿で、彼女が横たわればタータンチェックのプリーツスカートが少し横へ広がった。
脱いだ靴を綺麗に揃えているあたり、やはりお嬢様だとは思う。
そういえば、彼女の従姉妹のミドリちゃん宅もお金を持ってそうな家だったなと振り返る。
「お客様、いかがでしょうか?」
他のスタッフが近くを通ったので、寝転ぶ彼女へ店員モードでそう訊ねる。
寝心地を試すのは良いが、ヨーコちゃん、本当に枕を購入する気はあるんだろうか?
俺が言うのも何だが、うちの店の枕は結構質が良くて人気があり、その分、お値段もするわけなのだ。
お嬢様であれば、お小遣いも潤沢なのだろうかとも思ったが、ミドリちゃんへの差し入れでコンビニエンスストアを避けてわざわざスーパーマーケットを選んでいたくらいだ。
うちの枕を購入するのに、彼女個人がポンとお金を出せるか怪しいものである。
俺がそんなことを考えていれば、ヨーコちゃんは満足そうに笑顔を浮かべた。
「頭にフィットして、すごく心地良いわ!枕一つでこんなに違うものなんだ!びっくりしちゃった」
そう言われると、販売側としても嬉しくなってしまう。
彼女の資金問題はすっかり頭から飛び、そちらの枕も試したいと言う彼女へ、言われるがままに枕サンプルを渡す俺。
いくつかの素材を試しながら、彼女は言った。
「実は、わたし用というより、従姉妹のミドリちゃんにおすすめしたいんだ。あの子、眠るのが怖いって言っているの」
「彼女が?確かにこの間も体調が悪そうだったけど、まさか寝不足が原因?」
俺はヨーコちゃんの枕を入れ替えながら首を傾げた。
「ほら、夢のお告げがあったじゃない?アナタの訪問を知らせてくれた……」
ああ、あれね、と俺は遠い目をする。
訪問っていうか、不法侵入だけど。
あのお告げさえなければ、俺がケツバットを受けることにもならなかったし、人ならざる者であることがバレれることも、このベッドの上で寝転ぶ少女とここまで関わることにもならなかったはずだ。
もう過ぎたことは仕方ないけれどね。
「あれからも度々、予知夢みたいなものを見ていたらしいのだけど、近頃は夢と現実の境目がわからなくなってきているようなことを言い出して。それで自分でも怖くなって全然眠れていないみたいなの。でも、眠らないと身体にも悪いじゃない?せめて枕を変えたら落ち着いてぐっすり眠れないかなって閃いたの。でも本当に効くのかまずはわたしが試してみてからと思って」
何だ、そういうことか。
しかし、それは枕ぐらいで解消できる問題ではないような……
ヨーコちゃんいわく、今夜、ミドリちゃんの家にお泊りをするという。
元気のない従姉妹の様子が心配なので、一緒にお菓子を食べながらのんびり映画でも見て、彼女の心を少しでも和らげないかと考えているらしい。
何の映画を見るかはすでに決めているという。
「『十三日の金曜日』シリーズにするの!今夜にぴったりの映画じゃない?でもミドリちゃんの部屋、和室で戸も障子だから、音量には気をつけないとね」
そう言われて、俺は店内レジの奥に貼られていたカレンダーに目をやった。
そうか、今日は十三日の金曜日か。
しかもよく見たら仏滅である。
こだわりはあまりない方だったが、ヨーコちゃんとのこの再会も、十三日の金曜日な上に仏滅だから仕方ないのだ、と自身に言い聞かせる。
それから彼女は聞いてもいないのにペラペラとお泊りの予定について楽しそうに話す。
残念ながら今日のところのお買い上げはなさそうだが、彼女自身、枕の違いへの驚きと興味から心が非常に動いているのは見て取れた。
俺はヨーコちゃんのお喋りへ適当に相槌を打ちながらも、店員として働く以上は商売魂をもって、要所要所で悪魔のささやきをねじ込んだ。
枕だけでなく、このベッドのマットレスも良いものなのだ、と。
「今、お客様が寝ているマットレスは、適度な沈み具合がありつつ、身体の芯の部分をしっかりと支えてくれるので人気の高い商品なんですよ」
「言われてみれば……!」
「好きな素材を選んでいただき、きちんとお客様の身体を計測して作るオーダーメイド枕っていうのも、一日で出来るので人気がありますね」
「えっ、一日で!?」
「お値段はそれなりにしますが、睡眠時間は人生の三分の一を占めるとも言われますしね」
意外にもセールストークに乗せられるタイプなのかもしれない。
ベッドの上で上体を起こし、何やら考え込みはじめた彼女にトドメの一撃だ。
「ぜひ、次は従姉妹さんだけでなく、ご家族もご一緒に。ぜひ、今使用している寝具とのその違いを確かめてください」
俺はベッドから降りるヨーコちゃんの手をとり介助をすると、そう告げたのだった。
寝具専門店『ぐっすり~Good sleep~』、お客様へ快適な睡眠を提供いたします。
もちろん、俺の本業である大事な活動のために、ね!
彼女が店を去った後、スタッフたちからの思わぬ質問責めにあった。
普段からつかず離れず程度で職場の人間たちと適度な距離を保っていた俺は面食らう。
そう、強烈な出会いと再会からすっかり失念していたが、ヨーコちゃんの容姿はとても目を惹くのだ。
人ならざる俺でさえそう思うくらいだから、同じ人間たちからしたら、より一層だろう。
顔見知りのようだったが、どこで知り合ったんだと訊ねられて、つい言葉に詰まってしまった。
成人男性、しかも独身一人暮らしという設定の俺と女子高生ヨーコちゃん、どこに接点があったかと聞かれてもすぐには思い浮かばず……まさか夜の活動のターゲットだったんですとも言えるわけもない。
もしや金銭を介すような仲じゃ、と変な心配と探りまで入れられてしまったため、それだけは必死に否定した。
最寄り駅が同じで何度か顔を合わせるうちに顔見知りにとどうにか誤魔化し、それ以上の追及を逃れるべく定時を迎えてからそそくさと退勤してきた俺。
それにしても十三日の金曜日ねぇ?
彼女に言われるまで、全く意識していなかった。
というか、はっきりした寿命なく、だらだらと生きているような俺たちみたいな存在にとっちゃ、曜日や日付なんて些細なものである。
日中は人間社会で生活を営んでいるが故に、それなりに知識はあるが……その映画のチョイス、従姉妹をゆっくり寝かせる気があるのだろうか?
余計に眠れなくなりそうな気がするんだけど。
ヒタヒタと小さな足音を立てながら俺は暗い路地を歩く。
すでに日はとっぷりと沈み、俺たちの活動時間だ。
今夜の割り当ては、三十代の独身、男性会社員。
先程、該当のアパート周辺の様子を見てきたのだが、うーん、まいった。
予定に反して、どうやらまだ帰宅していないらしい。
事前の調べではこの時間にはいつもであれば帰宅しているはずだが、花の金曜日ということで飲みに出ているのか、それとも仕事終わらず死んだ魚のような目をして絶賛残業に励んでいるのか。
まぁ夜は長いことだし、もうどこかで少し時間を潰してから出直すか、と俺がたどりついたのは夜の児童公園だった。
ここは、と思わず口から溜め息がこぼれる。
「ヨーコちゃんに遭遇した公園か。それにしてもあの子、本当に神出鬼没だよな」
果たして、今日、店で会ったのも偶然だったのか?
しかし、GPS発信機はこの公園でヨーコちゃんが俺の胸ポケットから取り出した後に回収したのを見ている。
ミドリちゃんちに向かう道中、再びポケットにそっとしのばされた可能性もないとはいえないため、改めて服のポケットも全部チェックしたが、それらしきものは見当たらなかった。
「まさか、またミドリちゃんの夢のお告げを受けて、とか?そういや、今日も気になることを言ってたな」
『眠るのが怖いって言っているの』
『近頃は夢と現実の境目がわからなくなってきているようなことを言い出して』
敷地内に数本立つ外灯の光に吸い込まれるように、虫が飛んでいく姿を横目で見つつ、俺はベンチに一人腰掛け、ヨーコちゃんの言葉を思い出すと首を捻った。
人間であっても超能力をもち、予知夢や未来視ができる者がいるとは聞いたことがあるが、ミドリちゃんもその類いだろうか。
様子を見聞きした限りでは、生まれつきの能力というより、ここ最近になって発現した力で、彼女の心と身体がそれについていけてないといったところかもしれない。
ボーッとしながら、そんなことを考えていれば、背後から声がかかった。
「こ~んなところで一人で黄昏ちゃって、何してるの~?」
「見てわかるだろ。時間潰し中だ」
俺は振り向きもせず、愛想なくそう答えた。
組合のお仲間の一人である。
しかも、今一番会いたくない奴だ。
そうなんだ、と笑いながら、当たり前のように俺の隣に座るコイツは……
「お前は?もう終わったのか」
「そうだよ、と言いたいところだが生憎、まだなんだ~。すんなりと済ませるはずだったのに、まさか今日に限って部屋に男を連れ込むとは思わないだろ?今日は空振りだね~」
薄いコートを羽織った肩をすくめながら、ソイツは自嘲気味に笑った。
ターゲットは今頃、部屋でイチャついてるところだろうよ~、と。
事前に下調べをしていても、たまにあるのだこういうタイミングの悪さってやつが。
お気の毒様、と俺は素っ気なく返す。
「まぁ、今日一日は餌にありつけなくとも、どうにか乗り切れそうだけどね。割り当ての関係で、あっちが駄目だったらこっち、とすぐにターゲット変更できないのが難しいところだよな~。人間たちも少子高齢化で数が減っているから調整が必要なのはしょうがないことなんだけどさ」
口元から白く尖った歯をちらつかるソイツは、空振りに終わって行きどころない気持ちをどこかに吐き出したかったのだろう。
なかなか俺の隣から動こうとしない。
俺はチラリとソイツの顔に視線を動かした。
物語で謳われるほどの美形顔ねぇ?
確かにコイツは悪くない容姿ではあるが、美形という括りならヨーコちゃんだって良い勝負をしそうな気がする。
それにしても、と。
「本物に会ったら会ったでまた、イメージと違うとか言い出しそうだけどな」
俺のそんな嘆きを拾ったのか、隣に腰掛けるソイツ―――吸血鬼の奴が俺の方を見た。
首を動かしたのにつられ、街灯の光を反射する肩までかかるほどの長さの金髪がバサリと動く。
端正な顔立ちに、肌荒れ一つないつるりとした肌、金色の髪、切れ長の目。
血のように赤いルージュがひかれた唇を開けば、そこから尖った歯が覗く。
少女たちにとってもそこまではイメージ通りなのだろうが―――
「ん?何か言った?」
女吸血鬼から不思議そうにそう訊ねられたが俺は左右に首を振った。
そう、うちの組合員にも何人か吸血鬼はいるが、その中でもコイツは女だ。
タキシードスーツならぬ、露出過多なビキニを身に纏っており、現代社会で夜中に一人で道を歩くには、目立つ上に露出狂と通報される恐れがあるため、前述のコートで隠している。
なんでビキニをと訊ねれば、この自慢の焼けた肌を見せたいからだ、というのだ。
吸血鬼といえば、病的に白い肌のイメージが強いはずだが、なぜかコイツは健康的な焼けた肌をしている。
コイツらの身体の特性上、日光は厳禁なはずなのに、どうやって焼いたかと問えば企業秘密だとニヤニヤしながら述べる、ふざけた陽キャの女吸血鬼である。
この女吸血鬼、血を求める対象……いわゆるターゲットも人間の女性と定めているので、もしかしたらいつの日か本当にヨーコちゃんと出会うこともあるかもしれない。
俺の様子を訝しげにしつつ、彼女は話を続けた。
「そういえば、さっき今日のターゲットが空振りに終わった報告で組合事務局に顔出してきたところなんだけどさ。なにやらバタバタしていたよ~」
「組合事務局が?」
現在、組合事務局を取り仕切っているのは、かなりのやり手ジジィだ。
いつ何時も、落ち着き払って仕事を捌く彼だというのに、何かあったのだろうか。
目を丸くして話に食いついた俺に、女吸血鬼―――ミラーカの奴は教えてくれた。
「目目連の奴がさ、割り当てられていたターゲット宅に行こうとしたら、弾かれちゃったみたい」
目目連というのも、俺やミラーカと同じく組合の一員である。
日本においてはいわゆる外来種的存在の吸血鬼とは異なり、目目連は古来よりこの地にすまう妖怪の一種だ。
「弾かれたって、どういうことだ?」
「そのままの意味だよ。家自体に変な結界というか、霧のようなモヤがかかって進めなかったって。人の目には映らないモヤで、誰か『お仲間』の仕業だろうと。でも事務局で確認したけど、割り当ての重複なかったらしく、うちの組合員の能力によるものではないみたい」
そこまで話をすると、ミラーカはやれやれとベンチに座ったまま空を仰ぎ見た。
今夜は月明かりが少なく、俺たちにとっては絶好の活動日和なのだ。
「可哀想な目目連。障子がある家は最近減ってるから、出番が少ないって嘆いていたのに。今回は、ようやく割り当てが入った上に、珍しく自室が和室の女子高生だから、思い切り脅かしてやるぞって張り切ってたからね~」
目目連の特性は、障子に無数の目が浮かばせるというものだ。
まさに日本の妖怪といったところだろう。
暗がりに浮かび上がった目という目を見て驚いた人間たちの叫び声と恐怖心を糧としている。
俺も見せてもらったことはあるが、怖いと言うより、まぁ、気持ち悪いのなんのって!
無数の目から一斉に視線を向けられた日には、身体中がゾワゾワすること間違いない。
へぇ、とミラーカの話に相槌を打ちながら、俺は何かが引っかかった。
部屋が和室仕様って、最近どこかで耳にした気がする。
『部屋が和室で、戸も障子だから、音量には気をつけないとね』
そうだ、今日、ヨーコちゃんが……
「何にせよ、こちらに害がなければいいけどな。組合員なら節度やマナーを守って行動するだろうが、余所の連中だとそうもいかないし。うちの組合の縄張りが荒らされるのも久しぶりじゃないかな〜?ここ最近は平和だったもんね~」
両手を伸ばし、大きく伸びをしながら、呑気にそんなことを口にするミラーカ。
俺はベンチから腰を上げた。
「……目目連が割り当てられてた相手の家がどこかわかるか?」
俺の問いに不思議そうな表情を浮かべつつも、ミラーカは素直に教えてくれた。
「え〜っと、なんていってたかな。確か、三丁目にある黒い壁の家だったはずだよ。ターゲットの名前は、そう。湯免だった!」
湯免ミドリって女の子だったはず、と。
2023/09/17