1月末、朝の電車
「おはよう!桜」
やや人ごみの電車の中へ乗り込んできたのは私、尾瀬桜の友人、鵜瀬彩だ。
「おはよ、彩」
列車のドアがガタガタと音を立てて閉まる。
片田舎のこの辺では高校すらところどころにしかない。私と姫が通う学校までは電車で40分ほど。
「ねぇ、テスト勉強どんな感じ……?」
彩が不安そうに話しかけてくる。
「うーん、まぁまぁ?来週あたりから本腰入れようかな」
今は1月の末で北からやってくる大量の雪とともにもうすぐ学年末試験もやってくる。
「やっぱできる人は違うなぁ。はぁーあ。私なんて先々週から始めてるのにまだ全然理解できてないんだよぉ」
「それは……大変だね。大丈夫、上には上がいるように下にも下がいるよ」
「……全然励ましになってないぞー。むしろ追い打ちをかけているといってもいい」
すると古典がわからないだのお前を微分してやろうかなどと彩がわぁわぁ言いながら隣に座る私のスカートへしがみつき始めた。
「わかった。わかったから、スカートから手を離せ。
……ところでさ。最近、姫に会った? 私あまり見かけてないんだけど大丈夫なのかな」
「んー?あいつなら何とかなるでしょ。ああ見えてかなり頭のいい部類だから。それに比べて私はダメダメですよ。うわぁあ」
ちっ。話を逸らせなかったか。ところで、話に出した『姫』とはお姫様のことではない。市ノ瀬姫、私と彩の友人でクラスメイトだ。ちなみに私たちの学校はクラス替えがないので入学から卒業まで一緒である。
そんなことをしているうちに列車は駅にとまったようで再び人が流れ込んできた。
「ぐぅう。……あ、姫だ!」
噂をすればとばかりに彩が叫ぶ。
おーい、と手を振る私たちを見つけ姫は人混みをかき分けながらやってきた。
「2人ともおはよ。それはいったい何をしてるの?」
彩はいまだに私から離れようとしない。
「2人で勉強の話をしてたんだ。そしたら彩がふてくされちゃってさ。」
「ふてくされてないもん。桜が私に向かって『勉強のできないお前は古典の小池の足払いをうけて、もう一度高校2年生をやり直せばいい』なんていうからじゃん!!」
「いや、言ってねーよ!捏造すんな」
控えめに、ただし真剣な取っ組み合いがまたも始まってしまった。姫はにこにことこちらを眺めているだけだ。頼む、仲裁してくれ。先ほどはお姫様ではないといったがそれは半分くらいほんとで半分くらい嘘だ。姫は由緒正しい市ノ瀬家の末の娘、本人の容姿もそれなりにしゃんとしていてお嬢様のようだ。初めて姫の家にお邪魔した時の私と彩の感想は「家というよりお屋敷」であった。なぜ、お姫様でないかといえば…
「あ、そうだ。ねぇ、姫。姫は最近大丈夫だったの? 学校あまり来てなかったよね。具合悪かったとか」
私が聞くと姫はあいかわらずニコニコしたまま答える。
「あぁー、いや、実はね。この前まとめ買いした本があるんだけどそれがあまりに面白くてずっと読んでたら朝起きれなくなっちゃって、それでしばらく休んでたの」
…これだ。姫をお姫様と呼べない理由。よくいえばどこかほんわかしている、悪く言えば底抜けのアホだ。
彩が言う。
「姫ってほんとにアホだよなー」
「お前にだけは言われたくないだろうよ」
3人を乗せた列車は今日も滑らかに学校へと向かう。
初めまして。超電導です。
あとがきまで読んでくださり光栄です。
少しづつ更新していきますのでまた読んでいただけたらとてもうれしいです。
桜、彩、そして姫のことを少しづつゆっくりと綴っていこうと思います。
これからもよろしくお願いします。