04:朝〜男〜少女
暗闇の中で、組んだ腕に頭を乗せて寝転んで、目をつむったりあけたり。朝日が昇るそのときをジッと待っていた。夜半は大分過ぎ去って、朝が近いことが外の冷気の具合から分かった。あれだけの騒ぎだった夕べから、今はもうシンと静まっている。それこそ逆に、ここに何十人もいて寝ているというのが、不思議に思えるくらいだった。
誰かが、膝の音を鳴らして立ち上がったのが分かった。その様子を遠目で、入り口の濃い蒼い枠の外へと出て行くのを見ていた。その横の大きな窓も、蒼色は濁っている。まるで壁に描かれた抽象的な絵のように、濃淡は繊細で美しい。そしてそこに一際色の濃い部分があって、真っ直ぐ立っていて、その影は微妙に揺らいでいた。
目の前に転がっていた果実を取り、ゆっくり起き上がった。ぼんやりする頭を抱えて、入り口へと、乱雑に寝転ぶ人たちの足に気をつけながら出ていった。
「食べますか」
手に持っていた果実を、影の男に差し出した。泥だらけの、ひげがモジャモジャはえた、白目の男だった。
男は無言で手を差し出した。震えている手に、こぼれ落ちないように、ゆっくりその手の中に納めてあげた。頬がこけ、顔色は白く生気が無く、肉体は枯れ切って、今にも魂が抜け落ちてしまいそうだった。皮を剥く力も無いらしく、指は皮の上を滑るばかりだった。取り上げて、すぐにサッと剥いてあげて、もう一度手渡した。男はそのままかぶりついて、歯でちぎって何度も噛んだ。垂れた汁が、口から喉を伝って、真っ黒な服に染みる。
「ここで、休んでいかれたらどうですか」
男はとても小さく頷いた。
「いまにもくだけて倒れちまいそうだ」
男は掠れた声でそう言って、汁でべとついた手でこちらの肩を押して入って、闇の中に混じっていった。
すると今度は、少女が外からやってくるのが見えた。すれ違う時に、少女の前に果実を差し出した。少女はこっちを見て頷いた。
「お父さん、もう来ない」そう言った。
そして、母親と女性のところへ……丸くなり、眠った。
外は段々と蒼さに明るさを持ち始めていた。その冷たい空気を胸いっぱい吸いたくなって、道に出た。