02:市場散策〜川で水遊び
木の骨組みに布を張った小さな傘の下に、それぞれのお店が、果物や、野菜、道具などを並べている。そこはちょっとした広場で、そんなテントがあちこちまばらに、ポツポツと店を開いている。広場の木の周りに、赤や黄色の鮮やかな花が咲いている。その横に座って、花に何か白い粉のようなものをかけている。すると花の頭は踊るように勢いよく跳ねる。それは見世物屋のようだった。
でも……それは雨のせいか分からないが、お店の数はそれほどなく、すかすかだった。
そして誰もが、男も女も茶色い肌をさらしていて、素裸だった。傘の端から滴り落ちるしずくに腕が濡れると、手で払ってそこを掻いて、キョロキョロとお客を探している。
大きい乳が長く垂れた女の店を見ると、これが不思議な感じで面白かった。
服を作ったりするには小さすぎる、何かの動物の皮をなめしたような、あめ色の生地の端切れ。丸い貝の殻のような赤い小石。ただの棒切れにも見える、先の尖った針……しかし錆にびっしり覆われている。紙を重ねて積んであるのは、元々は本だったのだろうか、黄ばんでいて相当痛んでいる、その上、雨に濡れていても一向にお構いなしという風。ガラクタの市だ。
その年のいった女は、こっちを見てニコニコ笑って、手を振って呼んでくる。近寄ってみる。
「さあ早い者勝ち、見ていって」
彼女はこちらを向いていながら、透かして先の遠くの方を見つめているよう。棒切れを手に取る。袖に擦ってみると、黒い線が書けた。
「これをちょうだい」
「ハイハイ、それならあなた様の髪と交換だよ」
頭に手を当てる。長い間切っていなくて伸びきっていた髪を、指でつまんで擦る。懐に入れてあるナイフを取って、根元の辺りからバッサリとほとんど切り取った。女の太ももの辺りに乗せてあげた。
「あいがと、あいがと」
回らない舌でお礼を言われ、黒い棒を取った。女は手にした髪を、一本一本丁寧に集めていって、端を合わせて束ねた。尻に敷いている布の上に置いて、端を折り曲げて挟み込んだ。
「さあ早い者勝ち、見ていって」
ご機嫌な彼女は、さらに威勢のよい声を上げた。
少女の方を向いて、言った。
「髪が随分汚れていた、川で泥を落としてくるよ」
少女も一緒に、また川の方へ戻った。
雨は幾らか弱まっているようだが、以前細かい粒が振り続けている。
雨で流れの早い川、小石の敷き詰められた川原を裸足で歩く、いや上着も下着も全て脱ぎ捨てていた。泥に、破れ目、黒い布切れのそれを広げて、雨に綺麗に濡れるように川原に置いた。
川へと入る。浅くて足はくるぶし辺りまでしか浸らず、中ほどまで歩いていく。中に体を沈める前に、霧のような雨で全身を濡らした。
同じように素裸の少女も一緒に入ってきて、体をゆっくりと下ろしていき、座り込んだ。それほどに川は浅瀬で、そして次第に後ろへ体は傾いていき、ベッドに寝そべるように清流の中に入り込んだ。
わずかな乳房の膨らみの周りに渦が巻き、白い泡を立て、足先でそれは消散していく。少女は目をつむって、ゆったりとした川の流れの中に身を任せていた。
いったん川から出て、服を置いたところに戻り、先ほど手に入れた筆を取った。また川に入る。
少女の横へ行き、足を組んで座り込む。そして美しく隆起した乳房を、先端から下りていく滑らかな曲線を指先で撫でる。
薄い皮一枚の奥には、かわいらしい小さな肉体と魂があり、それは白っぽく薄く透明で、ほんの少しかたい。呼吸の度に小刻みに震え、熱を持ち赤く輝いている。
筆を持ち、その艶やかな肌に線を描く。とりわけ熱を持った熱い部分に……お腹のへその辺りから腰の方へ、そしてふくらはぎを、濃く深く塗りたくっていく。川の流れの中でも、この筆で書いた線や色は消えることは無かった。
小さな肉体の筋肉、体毛、傷を感じ取り、筆先で撫でたりして遊ぶ。その度に少女は体をくねらせたり、時に小さく跳ねる。
少女は寝そべったまま、こちらを見つめている。
まどろみ。少女が先に眠ったのか、それともこちらが先か。記憶の端に残っているのは、彼女は川のベッドで眠っている姿。いつの間にか、二人とも寝そべっていた