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6 エピローグ


「ゴア王子がマチルダとの縁談を断っただと!?」


 縁談後に落ち込むジョージを前に、次期ハミルトン家当主である長男のアルフレドはワナワナと拳を強く握り締めた。


「ゴア王子のような軟弱な男にはマチルダのような逞しい令嬢がピッタリだと思ったが、マチルダの良さを見抜けないとは、なんたる間抜けな王子よ! 」

「アルフレド、一応アレでも王国の第二王子なのだから、言葉を慎みなさい」


 やんわりとジョージがアルフレドを嗜める。


「戦の際には、第二王子への援軍を出すのはやめましょう!」


 次男で第一騎士団団長のマックスが憤慨しながらテーブルを激しく叩いた。


「そんな勝手な判断は出来ないからね?」


ワナワナと怒りで震えるマックスの肩に、イーサンが落ち着かせるようにポンと手を乗せる。

兄達二人の乱れっぷりに、同じように怒りに沸いていたイーサンの心は急速に凪いでいった。


「マチルダは?」 


冷静さを取り戻したイーサンは、改めてジョージににマチルダの様子を尋ねた。


「一人になりたいと言って中庭にいるよ」


 ジョージは傷心の娘を思い、痛ましそうに顔を曇らせた。


「おのれ、ゴア王子め!! 次に城で会ったら覚悟しておくがいい!!」


 可愛い妹の落ち込んでいる姿を連想したアルフレドが、怒りの収まらない様子で、腰に差している剣に手を掛けた。


「反逆罪になるから気を付けてね、……ホントに」


 暴走手前の長男に、いよいよジョージの顔にも疲労の色が見え始める。


「よし! マチルダは俺の第一騎士団に入団させよう!」


 マックスが名案とばかりにガタリと席から立ちあがる。


「ねえ、そんなことしたら本当に一生お嫁に行けなくなるから」


宥め役に疲れたジョージは頭を抱えた。


(マチルダが絡まなければ本当に優秀な息子達なんだけどな~)


ジョージは心の中で呟くと、ハミルトン家の将来に僅かな不安を感じるのであった。





 ◇




「はぁ……」


 マチルダは中庭のベンチで一人、大きな溜め息を吐いた。


「また、やってしまいました……」


 咄嗟のことだったとは言え、ハミルトン家の者以外に怪力を見せることは、マチルダが家を出た時の騒動以降 、ジョージを始め兄達からもきつく禁止されていた。


 あの時の闇組織は解体され、そこにいた貴族連中も一斉に摘発され、家門ごと取り潰された。

 マチルダが闘技場で魔物達と闘った記憶を持つ者は他国へ飛ばされたり、既に処分を受け、世に出てくることはないものの、いつどこで再びそのような噂が飛び出すか分からず、ジョージはマチルダの将来を心配し、マチルダの怪力をひたすら隠した。


 (自分自身が招いた結果とはいえ、これからこの先、私は殿方と恋をしたり、その先の結婚まで行き着くことなど出来るのでしょうか……)


自己嫌悪と将来を憂い、マチルダはズンと重暗い気分に陥った。


「また随分と落ち込んでいるね」


マチルダの様子を心配し、中庭に様子を見に来たイーサンが、しょんぼりと項垂れるマチルダの背後から声を掛けた。


「イーサンお兄様……」

「落ち込む必要なんてないんだよ? マチルダ」


 イーサンはマチルダを慰めるように優しい声で語りかけながら、マチルダの隣に腰を下ろした。


「ゴア王子がただの小物だったってことさ。マチルダにあんな男は勿体無いよ」


 先程の兄達に圧倒されていたものの、同様の気持ちを抱いていたイーサンは、ジョージがいないことをいいことに、ゴア王子を散々罵った。イーサンの容赦ない暴言の数々に、困ったように、しかし可笑しくなって、ようやくマチルダの顔に笑顔が浮かんだ。

そんなマチルダの頬にイーサンが優しく手を添える。


「マチルダは今のままで充分魅力的だけど、マチルダの怪力ごと受け入れてくれる子息を必ず僕が見つけてあげる。……僕や兄上達は本当のところ、マチルダを誰にも渡したくはないのだけどね」


 さも面白くなさそうな表情をするイーサンの手に、マチルダはそっと手を重ねた。


「私、結婚出来なくても兄様達のお側にいられれば幸せです」


 目の前のイーサンと今やすっかり妹溺愛となった二人の兄達を思い浮かべ、マチルダは素直な気持ちをイーサンに伝えた。


「あ-……」


 マチルダの健気で純粋な言葉にイーサンは思わず抱き締めたい衝動に駆られたが、ぐっと堪えると困ったようにマチルダを見つめた。


「そんなことを言ったら、僕達もいつまでも結婚出来ないし、ハミルトン家も僕達の代で終わってしまう」


 イーサンの話に、素直なマチルダは残念そうにしゅんと小さく項垂れた。


「……それは、お父様が困りますね」


 そう言ってマチルダは少しだけ押し黙ったが、直ぐに何かを決意したかのように、勢いよくベンチから立ち上がった。


「私、頑張ってお嫁に行きます!!」


 イーサンを振り返りマチルダが力強く宣言する。


「……うん」


 ようやく元気を取り戻したマチルダの姿に、イーサンは微笑むと少し寂しそうに頷いた。




 この時、イーサンの頭の中では既にマチルダの次の縁談相手が浮上していたが、今はこの純粋で愛しい妹ととの二人の時間を大切にしたいと、イーサンは頭に浮かんだ考えを隅へと追いやったのだった。



これで番外編は終了します。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

次回の本編で完結予定となっています。

次作の励みとなりますので、面白かったらいいね、評価もよろしくお願いします(人´∀`*)


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