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1 怪力令嬢のお見合い

*R5.11/5 第一章【加筆・修正】行いました。


本編完結にあたり、本編で説明不足となっていた箇所に加筆を加え、またそれに伴い表現のおかしい部分も修正させて頂きました。話の内容に変更はありません。


加筆内容といたしましては、ボルド王国の国王についての説明を追加しています。

また、各人物の特徴や会話、心理描写、戦闘描写も少し加筆しました。


本編完結までに時間を要した分、私の表現方法が変わっている所等が沢山あり、作品に統一感を持たせるため思いきって加筆・修正の考えに至りました。

少しでも皆様がこの作品を読みやすくなれば幸いです。


*この作品は他誌にも掲載しております。



世界最大の覇権国家ヴィゴーレ王国。


 その王国のゴア第ニ王子と、王国に仕え、世界最強と謳われるハミルトン騎士団を統率するハミルトン公爵家の令嬢マチルダの、優雅なお茶会と称したお見合いが現在粛々と執り行われていた。


 公爵家の深窓の令嬢マチルダは、これ迄人前に出ることがなかったため、『ハミルトン公爵が出し惜しみする程の大層美しい令嬢に違いない』と人々からまことしやかに囁かれ、貴族令息の中にはまだ見たことのないマチルダに対して、恋慕の情を抱く者がいる程密かに高い人気を誇っていた。


  そんな噂を当然耳にしているゴア王子は、ある程度の期待と少しの猜疑心を抱きながら今日のお見合いの席に臨んだのだが……。


  ゴア王子は、目の前に座る噂通りの、或いはそれ以上の可憐な美少女に一目で心を奪われていた。

 柔らかなウェーブを描き胸元まで伸びた栗色の髪の毛、色白の肌に映える琥珀色の瞳。艶やかな薔薇色の唇。

 

 マチルダのあまりの美しさに見惚れたゴア王子は、手にしていたカップのお茶を口元に運ぶ前に飲もうとし、中身を股の間に溢してしまうという見事なまでの醜態を晒していた。


「熱っ!!」

「まぁ、大変です! 私のハンカチをお使い下さい」


  情けないゴア王子の様子に、幻滅することなくマチルダは慌てた様子で、持っていたハンカチをゴア王子に差し出した。


「す、すまない。手元が狂ってしまい……」


 ゴア王子はマチルダの差し出した清潔そうな白のレースのハンカチを受け取ると、恥ずかしそうに股に溢れたお茶をそそくさと拭き取った。

 周りの使用人達はそんな王子をいたたまれない思いで見守っていた。


「マチルダは美しいだけでなく、優しさにも溢れているのだな」


 マチルダの人柄の良さを目の当たりにし、ゴア王子の彼女への好感度は、ぐんぐん上昇を続けていた。


「そんな……。私は当たり前のことをしたまでです……」


  褒められて、マチルダは恥ずかしそうに頬を赤らめ俯いた。

 その仕草の可愛らしさにゴア王子は胸がキュンと締め付けられ、高鳴る鼓動の苦しさに思わず眉を潜めた。

 見た目の印象通り、控えめで淑やかで、何より、箱入り娘として16年間育ったため、異性慣れしていないその様子は、マチルダよりも4歳年上のゴア王子の庇護欲を猛烈にくすぐっていた。



 (何て(うぶ)な令嬢なんだ。あらゆる害悪からこの私が絶対に守ってやらなくては。というか、守りたい。いや、守らせて下さい!)



 気を抜くと鼻の下が伸びそうになり、ゴア王子は王子然とした端正な顔を崩さないよう、必死に表情筋に力を入れた。



 それからお茶会は滞りなく進み、両家ともにこのお見合いは成功だ、と確信したその時だった。



 --ズズズズッ



 地鳴りと共に突然の地震が王国全土を襲った。

 激しい揺れは一瞬であったが、一同は暫くその場を動けずに固まっていた。


 やがて揺れが収まると、中庭にいた者達は余震が来ないことに一様に安堵の色を見せた。



 --ピシッ!!



 だがしかし、再び中庭に不吉な亀裂音が響いた。



「銅像が!」



 使用人の一人が慌てたように大きな声を上げると、ゴア王子の後ろに建つ初代皇帝の銅像を指差した。

 皆の視線が一斉に銅像に注がれる。

 剣を持つ手を天に高く掲げ、勇ましいポーズを決めて立っている初代皇帝の二本の足に、先程の地震の影響によって大きな亀裂が入り込んでいた。


 ピシピシッ!!


 足元の亀裂はあっという間に拡がると、土台から崩れ落ちるように、目の前にいたゴア王子に向かってグラリと倒れ込んできた。


「ヒッ!!」


 ゴア王子の身体をすっぽりと覆う程の巨大な皇帝の像が、まるでスローモーションのようにゆっくりとゴア王子目掛けて倒れて来る様を、ゴア王子はなす術もなく視界に捉えていた。


 (ぶつかる!!)


 誰もが絶望的な光景を思い浮かべる中、突如として彼に救いの手が差し伸べられた。




「危ないッ!!」


 そう叫ぶと同時に、マチルダは座っていた椅子を蹴るようにして飛び出し、素早くゴア王子の前に周り込むと、倒れてきた銅像を両手でガシッと正面から受け止めた。



「「っ!!!?」」



 マチルダの姿にハミルトン公爵は青醒め、城の者達は目の前の信じられない光景に呆然とした。


「ふんぬっ!」


 マチルダは両手に力を入れると、掴んでいた皇帝の銅像を誰もいない遠くの芝に投げ飛ばした。

 

 放り投げられた銅像が大地にズシンと鈍い音を立てながら落ちると、再びその衝撃でお城の庭が軽く揺れた。

 その場にいたもの達の身体も小さく揺れた。


 ゴア王子は目玉が飛び出る程驚き、あんぐりと口が開いた状態で目の前のマチルダを眺めていた。


「殿下、お怪我はありませんか?」


 ゴア王子を救えた嬉しさに、マチルダは笑顔でゴア王子を振り返った。


 マチルダの視界にワナワナと肩を震わせるゴア王子の姿が映る。


「まぁ、殿下。そんなに震えて……さぞ怖かったのですね。でももう大丈夫ですから」


 先程の恐怖でゴア王子の身体が震えていると思ったマチルダが心配そうにゴア王子に言葉を掛けた。

 しかしそんなマチルダの思いとは正反対にゴア王子は青褪めた顔をみるみる赤くして


「よ、寄るな、化け物め!! こ、この縁談はなかったことにしてもらう!!」


 と怒りを顕に破談を言い渡した。

そしてそのままもつれる足で、その場から一目散に走り去って行ってしまった。


王子が去った庭園はしんと静かに静まり返っていた。

 ものすごく気まずい空気が流れる中、ハミルトン公爵は、未だに状況を把握出来ていないマチルダに優しく肩を叩きながら声をかけた。


「……帰ろうか」


 全てを諦めたような悲しい笑顔で、公爵はマチルダに帰りを促した。


「はい、お父様」


そんな公爵の気持ちに気付かないマチルダは、曇りのない笑顔で公爵の提案に同意したのだった。




 ◇




「砦はまだ完成しないのか」


 ボルド王国の第一王子であるマンフリードは幼馴染みで側近のカイに苛立ちながら尋ねた。


「急いでおりますが、何分人手不足でございまして」


 焦りながらカイが答える。

 マンフリードは、執務室の窓から見える城下に広がる海の遠方に視線を投げた。


「いつまた敵国が攻めてくるか分からぬというのに。モタモタしていたらこのような小さい国など一溜りもないぞ」

「おっしゃる通りでございます」


 ここボルド王国は、この世界を形成する大陸のひとつ、最も強大な力を誇るヴィゴーレ王国の南側にひっそりと存在する小さな国であった。


 澄んだ海と年中暖かい気候に恵まれ、とても住みやすい土地であった。

 そんな平和な国で近年、鉱山から希少な魔石が発見された。


 この世界では魔法使いが少なく、魔力を秘めた魔石は人々の生活に大きな潤いと発展をもたらしていた。その為魔石の需要は高いものであったが、使用頻度が上がるにつれて世界中で魔石の数が不足し、今や魔石の価値は上がり続ける一方となっている。

 そんな宝の石がこの小さな国で発見されたのだ。


 小さな国での希少な魔石の存在は、自国の発展を目論む国々の格好の標的とされた。


  小さく平和なボルド王国の民達は、誰もが穏やかで争いを好まない者達ばかりであった。


 そして、小さな国であるが故に他国に比べて兵士の数も圧倒的に少なく、そのため敵国に攻められればあっという間に他国の支配下になることは明らかであった。


 それでも今日まで敵国の襲来に耐えてこられたのは、ボルド王国全体を取り囲む大陸屈指の要塞【モノリス】がこの小さな王国にそびえ立っていたからだった。



 ◇



 ボルド王国はその土地面積の小ささと、鉱山から採れる豊富な資源によって、分厚い屈強な壁を街全体に覆うことができた。

 そして周りは海で囲まれ、城と街は海面から高台に位置し、モノリス要塞はその高さ故、あらゆる侵入者を許さなかった。


 しかし、ここ最近敵国の襲撃が頻発しており、僅かだが砦に綻びが見られ始めた。


 そこを壊され、砦を突破されることを恐れたマンフリードは砦修復を急いでいた。


「国を守るのも楽ではないな」


 マンフリードは小さく息を吐いて、山積みの書類が置かれた机の前に腰を下ろした。



 ――コンコン


 執務室のドアが叩かれる。


「入れ」


 マンフリードに代わり、カイが入室の許可を告げた。


「失礼します」


 ドアを開けて入ってきたのはボルド王国外交官のレジーであった。


「マンフリード殿下に急ぎの書状がありますので、届けに参りました」


 忙しいレジーがわざわざ直接持ってきたということは、それ相応の案件であると悟ったマンフリードはすぐさま書状を受け取り、裏側の印璽(いんじ)を確かめた。


「これは……。ヴィゴーレ王国のハミルトン公爵からだと?」


 覇権国家を支える大物の名に、マンフリードは驚き、思わずカイとレジーに視線を投げた。


「そのようでございます」


 レジーは緊張からか、いつもよりも硬めの口調で口を開いた。


「ハミルトン家と言えば、大陸一の武力を誇るハミルトン騎士団を統率している名門一族じゃないか。そんなとこが何故最弱で有名なこの国に書状なんて送ってきたんだ?」


 驚きに思わず素の口調で自国を揶揄するカイに、マンフリードはジロリと不快そうな視線を送った。

 マンフリードの視線に気付いたカイが慌てて口元に手を当て、自身の発言を誤魔化した。


「最弱で悪かったな」


 ふんっと鼻息を洩らし、不機嫌そうに眉間に皺を寄せながら、マンフリードはおもむろに引き出しからペーパーナイフを取り出し、慎重に書状の封を破いていった。



 静かに書状を読むこと数分――。



 その間、カイとレジーは固唾を飲んでマンフリードを見守っていた。


「どういうことだ?」


 マンフリードが書状を読み終わり、奇妙な表情で呟いた。


「何と?」


 マンフリードの訝しそうな様子に、外交官であるレジーが食い気味に尋ねた。


「娘のマチルダ令嬢を私の嫁に貰って欲しいと……。どうやら私に縁談話のようだ」


「「はっ?」」


 予想だにしなかった書状の内容にカイとレジーは同時に間の抜けた声を発した。


「何故寄りにもよって私なんだ?」


 相手の意図が分からないマンフリードも、何か裏があるに違いないと必死で頭を捻らせるのだった。


次は二人のお見合い編となります。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

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