EP6 幼女無双
魔王の刺客に追い詰められる魔導師ドヘターレ。それを救ったのはロリコン女騎士ローリエだった。
「ぎッ……この女よくも
我らの邪魔を……。」
「あなたはコトハちゃんを
しっかり守りなさい。
私がこいつらを片付ける。」
「た、頼む……。」
(コトハちゃんはここには
いないんだけどね……。)
コトハは宿屋に残したままだった。タオルでコトハを抱えているフリを続けているドヘターレは、ちょうどいいのでローリエになんとかしてもらうことにした。
「ナメるなよ。人間。」
3体の魔物はローリエに3方向から襲い掛かる!しかし、ローリエは冷静にそれを見極め、華麗に攻撃を防ぎ、回避し、被弾することもなくやり過ごす。
「はぁッ!!」
「ぎぃあああああッ!!」
ローリエの鋭い剣技が魔物を襲った。3体の内1体を早々と倒していた。
「ナメるなよ。魔物。
こちとらロリのためなら
どこまでも強くなれるんじゃい。」
「ぐ……おのれ……!!」
2体になってしまった魔物。だが、それでも果敢に立ち向かってくる。しかし、コウモリの魔物とローリエの実力差は明白であった。ローリエは魔物の攻撃を空中で回転しながら軽やかに避ける。
「“ローリング・コンバット”ッ!!」
「ぐわあああああッ!!」
続いてさらに1体。ローリエの回転斬りの前に敗れ、消滅していく。
「あとはあなただけね。」
剣で残った魔物を指す。ローリエはロリコンなのだが、騎士としての実力はかなりの物であった。ロリコンなのだが。
「苦戦しているようだな。」
「た、隊長……。」
「……ッ!?」
そこに今までの魔物と同じ種類の、一回り大きい魔物が姿を現した。鋭い目付きでローリエを睨む。
「よくも俺の部下を
2人もやってくれたな。」
次の瞬間。目にも止まらぬ速度の蹴りがローリエを襲っていた。反応出来なかったローリエは、鎧を纏っていない腹部に直撃を受けてしまう。
「がはっ……!!」
膝を付きダメージの色が濃いローリエ。なんとか剣を構え直し、体勢を立て直そうとする。
「せあッ!!」
「くっ……!!」
鋭い爪の攻撃がローリエに襲い掛かる。次はなんとか反応し、剣で防ぐが攻撃が重く、ローリエの顔には余裕がなくなっていた。
「俺がこいつを片付ける。
お前はドヘターレと
子供の身柄を確保せよ。」
「はい。隊長。」
「ま、マジか……!」
ドヘターレは自分が狙われると分かると、全速力で逃げ出した。しかし、魔物はドヘターレの動きを予測し先回りしていた。
「観念しろ。ドヘターレ!」
「ぐわっ!?」
魔物の攻撃を受け、派手に吹っ飛ぶドヘターレ。未だにコトハを抱えるフリを続けていた。
「コトハちゃん……!!
くそっ!こんな奴さっさと
やっつけないと……!!」
ローリエは魔物の隊長から距離を取り、剣に力を溜め始める。剣はピンクのオーラに包まれ始めていた。
「はあああああ……!!」
「む……ッ!?」
必殺の剣技を放とうとするローリエ。それを察知した魔物は回避しようと身構える。
「“ロリ魂”ッ!!」
ローリエの剣から、目にも止まらぬ斬撃が放たれた…!命中するかと思われたが、回避しようと集中していた魔物にはギリギリ当たらなかった。
「は、外した……!!」
「今のはなかなか良かった。
当たればの話だが。」
「ぐっ……!?」
ローリエは魔物に首を掴まれた。そのまま驚異的な力で締め上げられる…!
「あ、あがああああ……!!」
「人間にしてはよくやった。
だが、ここまでだな。」
(コ……コトハちゃん……。
あ、あなたとお風呂に
入りたか…)
『ボキッ。』
無慈悲な音が響く。うら若きローリエの首の骨はいとも簡単に折られてしまった。そのまま力なく倒れ微かに痙攣していた。
「そ、そんな……。」
変態でコトハを襲おうとしていたローリエだったが、自分たちを守ろうと懸命に戦っていた。そんな彼女があっさりと殺されてしまい、ドヘターレは激しく動揺していた。
「人間に同情するとは。
どこまでも魔族を
侮辱するつもりか。」
魔物と魔物の隊長がドヘターレに迫る。絶体絶命だった。
「このまま連れ去るのも
面倒だ。ドヘターレは
半殺しにしろ。」
「はっ。」
魔物がドヘターレに襲い掛かろうとした。その時。
「ど、ドヘターレさん!」
「コトハちゃん……!?」
「何ッ……?」
宿屋からローリエを追ってきたコトハが姿を現した。ドヘターレが丸めていたタオルを落としていた。
「こいつ……。子供を
抱えていたフリを
していたのか……。」
魔物は苛立っていた。その気配に怯えながらコトハは周囲の状況を確認するかのように見回す。すると…。
「ろ、ローリエさん……!?」
ローリエの亡骸に駆け寄るコトハ。子供が目にするには余りにもショッキングな光景だった…。
「そいつはもう死んでる。
貴様のために無駄な
抵抗をしてな。」
「コ、コトハちゃん……!!」
「あ、ああああ……。
ああああああ……!!」
「わあああああああッ!!」
コトハが泣きながら絶叫した。痛ましい姿にドヘターレは胸が締め付けられていた。
コトハは次第に光り輝き、その光は周囲に広がりローリエを飲み込んでいた。
「な、なんだ……!?」
“絶対禁忌”、それはこうげきしちゃダメだけではなかった。今回は“絶対禁忌”が発動していたのだ…!
「あ……あれ……?」
ローリエが目を覚ました。確かに首の骨を折られていた。折った本人、魔物の隊長が一番驚いていたのだ。
「そ、そんな馬鹿な……!?」
“絶対禁忌”は、コトハが悲しいと思ったことを無かったことにした。ローリエの怪我は完全に後遺症無く回復していた。
「ローリエさんっ……!!」
コトハはローリエに抱きついた。初めてコトハに抱きつかれ、ローリエはヘヴン状態だった…。
「こ、コトハちゃん……。
でへ、でへへへ……。」
「この小娘……。
ふざけた真似を……!」
魔物の部下がコトハに襲い掛かる…!しかし。
「な、何ィ……!!」
“絶対禁忌”が発動する。ローリエに抱きつかれたまま、見えない壁で魔物の攻撃を一切受け付けないコトハ。
「もうやめてください……!!」
コトハが一喝すると、魔物は急に苦しみ出した。
「ぐ、ぐわあああああッ!!」
そのまま光り輝き、爆発してしまった。
爆発が晴れると、そこにはウサギが立っていた。ウサギは幸せそうにしながら踊っている…。
「コトハちゃんのおかけで
こんなに可愛いウサギに
なれたぞー☆わーい!」
「な、なんだこの力は……ッ!?」
コトハを攻撃し続けようとした魔物は、友好的なウサギとして姿を変えられてしまった。ウサギはコトハの元に駆け寄ると、コトハに頭を撫でられ、穏やかに目を閉じていた。
「この娘を連れ帰らなければ、
魔王様の面目は保たれんのだ!!」
魔物の隊長が激しい攻撃のラッシュを仕掛ける。だが、コトハを守る力は微動だにしない。ロリコンとウサギに挟まれながら、コトハは真っ直ぐな瞳で隊長を見つめている。
「ぜあッ!!セイッ!!
はぁ……はぁ……!!」
「どうしてそんなに
暴力を振るうんですか?」
「う……ッ!?」
うるうるとした大きな瞳で見つめながら、隊長に問い掛けるコトハ。
「私は、怪我をするのも
怖いし、人を傷付けるのも
怖いです……。」
「なんで怖がらずに
そんなことが
出来るんですか……?」
「だ、黙れ……。」
「みんなと仲良くしちゃ
ダメなんですか……?」
「だ、だま……黙……。」
「黙れええええええッ!!」
隊長がコトハから発せられた光に包まれる。すると悪しき心は浄化され、隊長の顔付きはみるみる穏やかになった。
「コトハちゃん……。
俺が間違っていた……。」
「これからはみんな
仲良く暮らせるような
そんな素敵な世界を
夢見て生きるよ!」
「はい……!」
コトハの力で魔物の部隊は為す術もなくあっさり全滅していた。
「こ、これが幼女の力……!」
全てを治し、全てを防ぎ、全てを浄化する。驚異的な幼女の力に、ドヘターレは圧倒されていた。