転1
ーーー転
四人はビル街に戻った。
「よし休憩だ」
ビル屋上でそれぞれが息をつく。走ったことによるスタミナ消費。それの回復待ちだ。
「かな〜り、近づいたんじゃないか〜?」
「そうだ。後、一五分といったところか」
カオスの質問にオメガが答える。
「ふーー」
ブロンズは大きく息を吐く。
(かなり時間が掛かったな。やっとか)
そして屋上から下の様子を見る。
「顔を出しすぎないようにな〜」
「はい」
そっと下の様子を伺う。
「ん? なんだ?」
「どうした、ブロンズ少年」
オメガが腰を下ろして近づく。
その瞬間、オメガがブロンズを押し倒した。
シュッ。
「退避!」
オメガの大声。
カオスと三元は走って物陰に隠れた。
ブロンズは押し倒され「何事か!?」とオメガを見る。
そこには下半身を失ったオメガ。
さっきまでブロンズが立っていた場所。屋上の地面ごと斬られた。鎌鼬が襲ってきたような綺麗な斬り跡。
「んな!?」
(押し倒してくれなかったら死んでたぞっ)
するとオメガはブロンズから降りる。そして服を掴み、無理やり立たせた。
「行け!」
カオスと三元も階段入口で待っている。
するとオメガの上に刃があった。
その刃は、黒い触手の先端に扇状の刃がある。
どう考えても先程の攻撃はこの触手が原因だろう。
ブロンズは触手がオメガを斬り殺すことが目に見えて分かった。そして触手はギロチンのように刃を下ろす。
「行け!」
オメガは再度、指を差して指示を出す。
助けるべきか、逃げるべきか、指示に従うか。ブロンズの思考はそんなことをしなかった。
ただ体が動いた。
「フンッ!」
オメガの出した手を掴み、引っ張る。引っ張る重量を感じさせない素早い動き。
間一髪で刃を避けることが出来た。
そしてブロンズはオメガの上半身を抱き、入口に走った。
「んな!? ブロンズ少年、下ろせ! 追いつかれるぞ」
オメガは下半身が無くなっているといえど、服や体格の重量で重さは四○キロはある。更にブロンズ自身の装備や武器による重量。
普通であれば俊敏に動けず、走るなど無理に思える。
そう三人は思ったのだ。
「どういうことだ?」
ブロンズの足の速さは落ちることがない。一瞬で屋上入口に辿り着く。
「行きましょっ!」
ブロンズは階段を降りていく。
カオスと三元の二人も驚いたが、ブロンズの必死な顔に進む。
「ブロンズ少年!」
「俺の職業は『運び屋』なんでっ! こんなの余裕ですよ!」
「『運び屋』だと!」
三人はそれぞれに驚く。
ネット情報で纏められたサイト。SSR職業紹介の中の一つ。『ヒーロー』に並ぶ、最上位ランク職業『運び屋』。
『運び屋』は『重量が十分の一になる』という能力。一見、戦闘向きではなく、足手まといに思われる能力だ。
だが遠征などで問題となる運搬面で重宝される。重量が十分の一という使い方次第では、大きく化ける能力。
『ヒーロー』のように『使用武器の耐久値が低い』などの、大きな欠点が無い。それ故にSSRの中でも、特出していると評価されている。
現在、ブロンズが持っている重量。
装備品一○キロ。武器、アイテム五キロ。抱きかかえるオメガ四○キロ。計約五五キロ。
だがブロンズが感じる重さは、運び屋の職業により五キロ弱。
走りの邪魔どころか、妨げにすらならないのだ。
だが三人はブロンズの職業について語るほど、余裕は無い。
オメガはブロンズの背中に回る。
「一旦、触手の攻撃が来ない、外に出ろ!」
「おう!」
コクコク。
「はい」
ブロンズは「何による攻撃なのか」を今問うことはしなかった。
ビルの窓から見えるのは黒い毛。そこから触手が生えている。
(触手? 黒い毛?)
ブロンズはニ○年代の人気ラノベを思い出した。
「黒羊、シュブ=ニグラスか!?」
「そうだ、この地域のエリアボス『ブラックシープ』だ。奴の攻撃は見たとおり、一撃必殺。当たるなよ!」
(あれがエリアボス。ゾンビを大量に倒さないといけないと言っていたが。まさかあの爆発音が?)
「ビルから離れず走れ! 道路だと足でしか攻撃してこない。出来るだけ急げ!」
「オメガ、何処を目指すんだ?」
後ろを走るカオスが問う。
ちなみに三元が先頭。ブロンズとオメガが真ん中。カオスが最後尾だ。
「このままタウンを目指す。倒すのは無理だ。都市の防衛システムに任せる! 三元はゾンビが向かってきたら早打ちだ!」
「おう!」
三元は手を上げて答える。
バンッ。
前方から走ってきたゾンビ。
三元がベッドショットで仕留める。
ブラックシープからの攻撃は、オメガの言うとおり足でしかしてこない。
オメガの攻撃を伝え、三人が避ける。
「ブロンズ少年! 散弾銃を貰っても?」
「はいっ」
腰に収め、使っていなかった散弾銃を渡す。