承1
ーーー承
「『Zombie Killer』は〜、ゾンビを倒しながら探索するのが基礎になる。まあ〜、基本的には目的っちゅうもんもない。
様々なことしよるよ。武器商や撃破ランカー、レイド攻略。様々さね〜」
「なるほど。では皆さんは何を目的に?」
ブロンズはカオスと並び、小声で喋っている。手には散弾銃を持つ。
前にはオメガ、後ろには三元が歩いている。
ちなみに四人はビルの階段を上っている。
プレイヤータウンを目指すのであれば、道路を歩くより、ビルからビルに飛んだほうが安全で良いのだと。
「儂らは〜」
「観光客だ」
オメガが小声で言う。
「ツーリスト?」
「キヒャハハ。楽しみ方の一つさね。様々な所を巡って〜、写真を撮ったり、景色を見て食事をしたり。観光客のようだろ〜?」
「な、なるほど」
(強くなりたいや攻略をするような楽しみ方ではないのか)
「まあ〜、初心者は武器を手に入れて、ゾンビを倒すのが目下の目的。儂らは〜、特殊、特殊」
「武器集めですか。銃とかですか?」
「そうそう。まあ〜、銃なんか手に入るのは難しい。まあ〜一応、散弾銃を渡したが、最悪殴ればいいさね」
(ん? 難しいのか?)
「散弾銃とかですよね? あの地下の奥に隠されている」
「ん〜? そうそう、下調べか〜?」
カオスもブロンズも違う意味で疑問符を浮かべている。
「いえ、散弾銃を使って暴れていたので」
「ん〜? んん?」
オメガや三元も疑問符を浮かべている。
『Zombie Killer』の中に出てくる武器は基本ランダムスポーン(ランダムで生み出される)。道に落ちていることもあれば、建物に隠されていることもある。
ただ散弾銃など強武器は厄介な場所に置かれている。
地下はとあるゾンビの溜まり場となる。暗闇を好み得意とするゾンビ。プレイヤーからは『シャドー』と呼ばれて、夜目が効く厄介なゾンビのことを指す。
ブロンズは一緒くたにして倒しているが、シャドーの溜まり場になるのだ。
『光がない』『数が多い』の二点からプレイヤーからは地下は避けられている。
それを理解している三人からは「どうやって散弾銃を手に入れたんだ?」と疑問だったのだ。
「地下に強行して、散弾銃をパクって逃走。お陰で何度も死にましたけど」
ブロンズは普通のことのように言う。
しかし聞いた三人は目を見開き、口を開けて驚いた。
「ハハハ、これは凄い初心者が入ったものだ」
オメガは大声を出さないよう、口を抑えながら笑う。
カオスも三元も釣られて笑いがこみ上げてきた。
「六○回!? いや〜、凄まじい精神力だね〜。常人じゃないな、キヒャハハ」
ブロンズは三人に会うまでのことを話した。
「まあ、手に入れた銃もパールなども全てロストしましたし、ただ殺られただけですが」
「ハハハ、いやいや君は大物になるさ。ブロンズ少年」
オメガは前を向いて歩きながら言う。
ブロンズはそんなオメガの背を見る。
「このゲームには経験値や能力値は無い。それ故に肉体の成長は一切ない。
だがね。君自身、プレイスキルの成長はある。ゾンビとの戦闘術、逃走術、武器操術。数多の経験と積み重ね。これが君の血となり肉となる。
実際、私は初心者の君に武器を持たせることを決めた。それを理解しなさい」
まるで教師のような言葉。
出発時、オメガはブロンズに武器を持たせることにした。カオスは「初心者だろ?」と否定的な意見だったがオメガが強行した。
ブロンズは計四時間の努力を認められた。心と目頭は熱く、なるのを感じた。
「はいっ!」
「というかプレイヤーと会うことあるんですか?」
「タウン以外でってことかい〜? 会うけど、会釈して終わりかね〜」
「何時も気まずいぞ。ハハハ」
コクコク。
三人は他プレイヤーとの出会いを思い出し笑った。
「じゃあ戦いになったり、助け合いは無いんですか?」
「まあ〜、基本そうじゃなあ」
「じゃあ俺は幸運でした。三人に助けて頂いて。遠目から見るだけで助けてくれないんですよ。「何度も助けてくれー」と思いながら走ってました」
「んあ〜、いや。君は『ランニングマン』に見えたのさ」
先程出た言葉で聞いていなかったこと。
「その『ランニングマン』というのは何です?」
「ん〜。まあ〜『囮』かね〜」
「ほう。囮ですか」
「プレイヤーたちが大人数で大移動する時に見つからないよう、一人を身代わりにする行為のことさ」
「そう、そ〜う。まあ〜、ユニオンというプレイヤーたちのチームがよく使う手法でなあ〜。無駄な消費と行軍速度を上げるために使う」
「あー。それで俺が『わざとゾンビを集めている』と勘違いされていた訳ですか。なるほど」
ブロンズは遠巻きに見て、手を出さない。なんなら蔑む目を向けられた理由が分かった。
(あれはユニオンへの蔑みと可愛そうという目か)
「本当の〜、ランニングマンは音を鳴らしたり〜、銃声を鳴らしてやる奴もいる。たま〜に仲間を逃がすために殿としてやる奴もいるが。
まあ〜、まとめてランニングマンと呼ぶわけだ〜」
「感謝」
「そうなさ、オメガが「助けよう」と言わなかったら見捨ててたからな〜。感謝することさ〜」
「なるほど、ありがとうございます。オメガさん」
「おうよ」と拳を上げて答える。
四人はビルの間を飛んで移動している。
屋上には木の板が置かれていることがある。
ビルから飛ぶ、もしくは立て掛けた木の板を歩きながら移動した。
「うおっ。怖えー」
風が吹く中、木の板を進む。
散弾銃を持っているためバランスは細心の注意を払っている。
「よい、しょっ」
「よい! じゃあ板はそこに置いてくれ」
長い木の板を引っ張り、置いておく。
「こういったことが出来るのは、このゲームの特徴ですね」
「置いた物が盗まれることもあるがな〜。とあるユニオンはビルをまるごと要塞にして入口はロープでしか登れない。な〜んてこともしたらしい」
「ハハハ、このゲームは自由度が高いんだ。何でも出来る。まあ職業にもよるがな!
よしここからは隣のビルまで下を行こう」
ビルとの距離が離れているため、飛ぶにも木の板を置くにも届かない。
オメガを先頭に屋上からビル内部へと入った。
「あー、職業ですか。皆さんはどんな職業なんですか?」
(俺のは運び屋だったか)
「儂は〜、『科学者』だな〜。銃弾やら科学製品を作ることが〜できる。レア職業でな」
「あ、もしかして、助けていただいたときの爆発も?」
「そう、そ〜う。あれは爆弾を設置しておった。それで三元は」
「ガンマンとか?」
装備している武器で予想する。
「お〜、惜しいなあ〜。正解は『警察官』だ」
「ん? ああ、拳銃ですか」
三元は拳銃二丁を抜き、手持つ。そしてクルッと回転させてホルダーに収めた。
「警察官は〜、拳銃使用時、標準補助がついてな〜。正確性が上がるのだ」
「おおー」
(いや、普通に当たりじゃん。良いな)
そしてビルの外に出る。オメガが道路のゾンビを確認して進む。ハンドサインでビルからは歩いて出た。
走ることで転けたり、ゾンビに気づけないことがないようにだ。
「そして私が『ヒーロー』だ」
オメガは自身を指差して言う。
「ヒーロー?」
(職業か? それ)
「あら〜、反応がよろしくない」
カオスの言葉にオメガは肩を落とす。
「あ、ハハハッ、すみません。それでどんな能力が?」
「私は超人的なパワー! が手に入った」
握りこぶしを作り言う。
「パワー? それだと『Baby&Boltの法則』を無視してませんか?」
「おお〜、君は優等生だね〜?」
『Baby&Boltの法則』とは。
陸上のボルト選手の肉体を赤ちゃんが操作するとして100メートルで10秒台を出せるかどうか?答えは不可能。現実世界以上の事は脳が出来ないよう制限をかけている。
つまり現実世界で足が遅いものは電子世界でも遅い。速いものは速いという法則の話だ。
脳は肉体に制限をかけて、壊れないようにしている。これはVRゲーム、フルダイブシステムでも脳の勘違いで適用され、実際の肉体と同じレベルに制限をかけてしまうのだ。
ブロンズはオメガの言った「超人的なパワー」に疑問符を浮かべた。
「だが〜、ゲームは工夫をしているのだよ〜。オメガは「超人的なパワー」と言ったが〜、正確には『耐久値』が低〜く、設定されているいるのさ」
「あー、なるほど。耐久値が低ければ「超人的なパワー」と言えますね」
「まあ武器も壊れやすくなるんだがね。ハハハ」
オメガは腰の拳銃とナイフに触れる。
「『ヒーロー』はSSRの〜職業。強いが弱点もあるということさ」
「なるほど。それじゃあ俺の職業よりも圧倒的に強いですね」
「それでブロンズ少年は何のしーー」
プップー! プップー!
「何!?」「んお〜!?」「!!!」「なんだっ?」
すると四人の目の前を自転車が駆け抜けた。
「「「「…………」」」」
その瞬間、三人は走り始めた。
ブロンズは驚いて「何、何っ!?」と付いていく。
しかし三人は必死の形相で全力疾走をする。