起3
「邪魔だ! どけぇっ」
ブロンズは手に持ったパイプを振り上げ、目の前のゾンビを襲う。
ゾンビの首元を狙い一撃で沈黙させる。しかし止まらない。走って駆け抜ける。
後ろからはランナーが迫っている。
ランナーは足が発達し、足が速い。しかし室内では直線ではないため、速度が制限される。
そのお陰でブロンズは生き残っている。
ビル内で鬼ごっこだ。
だがスタミナゲージが低下、一割を切っていた。
「こんのクソゲーがあああ! どう考えても無理ゲーだろうがっ! 売ってやる! こんなクソゲー、もう止めてやるからなあ!」
そう叫んだ瞬間。
ドガンッ!
地面が爆発した。
正確には走ってきた後方の地面だ。
「んなっ!? あだっ」
爆風に巻き込まれ、ブロンズは吹き飛んだ。
「な、なんだ!?」
何が起きたのか周囲を見渡す。突然の出来事。
ランナーたちは穴に落下し、ブロンズを追う者はいない。
ガタッ、ガラララ。
すると地面が爆発により崩壊していく。
「不味いっ、んな! しまっーー。ゴフッ」
ブロンズは逃げようと立ち上がろうとするが、足が爆風で落下した瓦礫に挟まれた。動けないと驚いた、その瞬間。
横から軽車両と衝突したような衝撃を受けた。
ゾンビたちに襲われてはいない。運ばれているのだ。
「な、何!? 誰!?」
「静かに」
男性の低い声。
ブロンズは荷物のように、肩に背負われている。驚きの声を出そうとしたが黙らさられた。ブロンズは肩視点から、背負った人物を見る。
銀髪の刈り上げ。褐色の肌にボディビルダーのように発達した筋肉。上半身はパツパツのライダースーツで、下半身は赤迷彩のパンツ。
顔は見ることができない。
アメリカ映画のラフな軍人のような姿。
軍人は背負ったまま走る。道を知っているように戸惑いがない。
すると後方から全力疾走でランナーが三体走ってくる。
ブロンズも何かすべきか? と探すが背負われては何も出来ない。
(追いつかれるぞ!)
そしてランナーが飛びかかろうとした瞬間。
ドシュッ。ドシュッ。ドシュッ。
三体は脳みそが吹き出した。
「んなっ」
向かいのビルからの三発の射撃。
見事、急所に直撃しランナーたちは沈黙した。
そのままブロンズと軍人はゾンビたちから逃げ切ることに成功した。
「うっし、下ろすぞ!」
大声の軍人が言う。
場所はビルの広い一室。机や棚を入口に置いている。一つの入口からしか出入りが出来ず、防護のしっかりしたキャンプ場だと分かる。
「あ、はい」
ブロンズは下ろされ、目の前の軍人を見る。
後から見た通り、銀髪の刈り上げに褐色肌。上半身がライダースーツで下半身から赤迷彩のスボン。手には鉄板が剥き出しのグローブ。腰には拳銃と小さなバッグを装備。
軍人はゴーグルと黒いマスクを外す。
顔は褐色で堀が深く、鼻が高い。外国美人の顔立ちだ。
「ナイスファイト。ビルから飛び込んだのは良いガッツだった」
そう言って軍人はブロンズの頭を撫でる。
軍人は一八○センチ後半。ブロンズは実際通り一六九センチ。
親と子のような身長差だ。
「ただ初心者の茶髪少年が『ランニングマン』をするなんてどういうことだい?」
「ランニングマン?」
ガチャッ。
「ヒュ〜、疲れた疲れた〜。全く人助けに出ることになるなんてな〜」
コクコク。
すると入口から二人の人物が入ってきた。
一人目が老人科学者という風貌の人物。
軍人と同じくゴーグルと黒マスク。そしてボロボロの白衣で、腰には同じバッグを装備している。
科学者はゴーグルを上げる。
顔はヨボヨボで目が鋭い。
ブロンズを推し量るような目線を送る。
二人目がガンマンのような人物。
赤柄のシャツに黒いパンツ。腰には拳銃を二つとバッグを装備している。頭は光が反射するほどのハゲ。ゴーグルと黒マスクにより厳つさがある。
「そいつか〜? なんだ初心者じゃないか〜。ランニングマンをさせるとは、ユニオンの連中はクズどもだな」
科学者はブロンズの目の前に。正確にはブロンズの目の下に立つ。
ブロンズより二○センチは低い。
(小さっ。というか)
「すみません。そのランニングマンっていうのは? アイドル系統の何かですか?」
三人は驚いた顔でブロンズを見た。
四人は円になって座る。
「よし、出来たぞブロンズくん」
「あっ、すみません。ドクター・カオスさん」
老人科学者ことドクター・カオスはコップを渡してきた。
コップには黒緑の液体が入っている。
ブロンズは戸惑いながら中身を見る。
「キヒャハハ。それは薬草汁。いわゆる回復ポーションだ〜。飲めば体力が回復する。我慢して〜、飲みなさい」
そう言われ、目を瞑って飲み干す。
「うげぇぇぇ」
予想通り、言われた通り苦い。
しかし視点、右下の体力ゲージは回復していく。
「それでリスポーンをしてもランダムになる訳か!」
「ええ、そうです。オメガさん。それで何度もリスポーンを繰り返して。大変でした」
「なるほどな!」
軍人ことオメガは良い反応をする。
「何か分かりましたか?」
「さあ!?」
三人はコケる。
「初期」
するの赤柄シャツこと三元は一言だけ言う。その声は妙に高い。
(高っ)
しかし誰も声には触れない。
「初期?」
「ん!? ああ! 初期ソフトのバグか!」
オメガは右の拳で左の手のひらを叩く。
「ん? バグ?」
「あ〜『Zombie Killer』は初期の頃、面白いことが起こった。キヒャハハ。それが初期スポーン位置の〜、設定ミス。
本来、初心者はプレイヤータウンにスポーンして始まる。だがその設定ミス、という言い訳をしているんじゃ〜」
「という言い訳?」
「キヒャハハ。先のブロンズくんのようにリスポーンがランダムだと難しいすぎたんだろうさ〜。急遽、プレイヤータウンが作られ、危機のない安全地帯が作られた」
「どうすれば良いですかね?」
「んまぁ〜、運営に連絡するのが普通だな〜。だが〜、一週間はかかるぞ」
「よし、プレイヤータウンに行くぞ!」
オメガは立ち上がった。
「おお〜?」
三人はオメガに顔を向ける。
「タウンに行けば、リスポーン位置は固定される。万事解決だ!」
「ええっ、皆さんにご迷惑ですよ。自分で行きます」
ブロンズは立ち上がり言う。
「近くの〜、プレイヤータウンまでは一時間はかかるなぁ〜。そこまで一人で行けるかどうか。まあ決めるのはオメガだ」
カオスの言葉に三元も頷く。
「ブロンズ少年。君は逃げる中でクソゲーと言っていたね」
オメガは手を腰に当て、ブロンズの前に立つ。
「え、ええ」
「クソゲー。初心者には高難易度で、君の不運を聞けば、そう思っても仕方がないだろう。
しかしね。私たちはこのゲームが好きだ。売る売らないはブロンズ少年が決めることだ。しかしこのゲームの魅力を知ってもらってから、決めて欲しい。
それが私たちゲームを愛する者の気持ちだ」
オメガは優しい顔をする。そしてブロンズの頭を撫でる。
「よし! 出発するぞー! 者ども準備だ!」
「あいよ〜」
コクコク。
二人も立ち上がり準備を始めた。
そしてカオスがブロンズの肩を叩く。
「初心者を導くのも熟練者の仕事さね〜。まあオメガがお前さんを助けた時点でこうなることは分かっていた」
「本当にーー」
「あ〜あ、言うな言うな。オメガは強引な女なんだ。我慢して従っていればいい。さて、君も装備品を渡そう。付いてきなさい」
カオスは先導して倉庫へと向かった。
何処までも優しいプレイヤーたち。
ブロンズには彼らがヒーローたちに見えた。
「えっ? 女? オメガさん女性だったのっ!?」