起1
ーーー起
「こんの、クソゲーがぁぁぁ!!!」
迷彩柄の上下を着た彼。
『ブロンズ』は必死に逃げていた。
後ろからは体が青白く、腐食し崩れている死体。ゾンビが襲ってきていた。
ゾンビの走るスピードは早くない。せいぜい小走り程度だ。
それであればブロンズの全速力の走りで逃げることは出来る。しかし問題はゾンビの数にあった。
後ろからは数百を超えるゾンビたち。一匹が数匹を呼び、数匹が数十匹を呼ぶ。
中には「アアアー!!!」と高音で叫ぶ個体もいる。その声で周囲のゾンビたちもブロンズのもとに集合した。
荒廃した人の気配がない街。
ブロンズが走る道は建物に挟まれた、広い四車線の道路。道路には壊れた車や、朽ちて落ちた看板や外壁。食われた死体。
様々な障害物がある。
それを屈指して数百のゾンビから逃げる。
目の前から迫る走ってくるゾンビ。
斜め前にある車。
それに向かい全速力で走り、土台として真上へと逃げる。宙を舞い、着地。
前から迫るゾンビも、ブロンズの動きに一瞬止まる。
「へっ! クソ野郎どもがっ、止めれるなら、止めてみやがれ!」
そして大きな交差点。見える範囲ではゾンビの姿はない。
(突っ切るか、曲がって建物に入るか。よし! 曲がる)
体制を低く、百メートル走のように曲がり角を目指す。
後ろから追う、ゾンビたちとも距離が離れ、余裕できた。
「今度こそ生き残れるぜ! ざまぁ、みやがれゾンビ共が!」
ボフッ。
目の前に柔らかい障害物にぶつかる。ブロンズは跳ね返され、尻もちをついた。
「っんだよ。んあ?」
目の前には巨大なお腹があった。
「はっ!? ゾンビかよ!」
お腹は三メートルほどの身長の巨大なゾンビ。お腹がふっくらとし、体色が青緑。戦いの後の返り血と傷が、今までのゾンビの比でないことが分かる。
右手には人ほどの棍棒。
(いや、人かっ!?)
そのゾンビは死んだ人間を振り上げる。
「なんだよ! またかよーーー!!!」
そんなどこかの戦士長のように叫ぶ。ブロンズは体力がゼロ。死亡した。
プレイヤー名、ブロンズ。
彼は大学受験が終わり、暇が出来た。そこで発売初日に購入し、ホコリを被っていた VRMMOゲームソフト『Zombie Killer』をプレイした。
国内ゲームソフトでランキング六位の人気で発売から半年が経過した。ゾンビサバイバル✕パルクール✕ハントという人気ワードをかけ合わせたゲームだった。
VRMMOゲームでは今、パルクールが流行っている。電脳世界は当然、怪我も危険も無い。
ちなみにソフトランキングではパルクール要素が入っているゲームが殆どだ。
閑話休題。
そんなゲームにブロンズは期待を大きくしていた。しかしプレイ早々ーー
「ん? どこだここ?」
ブロンズは自身の肉体を確認した。
茶髪の天然パーマをかき上げている。薄い眉毛に唇で塩顔。
彼の実際の見た目をコピーして作り出している。
服装は上下長袖迷彩柄の初期装備だ。
久しぶりのVRゲーム。気分は良くルンルンとして飛び上がりそうだった。
目の前には各種、ステータスと『運び屋』という言葉。目線中央から左上が自身の名前と小さいゲージ。右下が緑のゲージとオレンジのゲージ。
(緑が体力でオレンジがスタミナかな? 運び屋? は説明がないと分からん)
「しかし何処だここ?」
ブロンズは辺りを見渡す。
人の気配の無い部屋。アパートなのだろうが何もかもボロボロだ。
「プレイヤータウンか? にしてはボロいし、何の説明もないんだが」
窓際に行き、外の様子を見る。
「んあ?」
窓の外には荒廃した街。人の気配どころか、住んでいる様子すらない。建物は朽ち、道路には落下物が落ちている。
「お? 人か? おーい!」
すると道路にトロトロと歩く人の姿。すると首だけ動き、ブロンズを見た。
「うおっ! ビックリした。あれがゾンビか、流石ゾンビゲーなだけある。リアルだな」
顔は青白く、目が飛び出している。服がボロボロで、よく見れば体も傷を負っている。
ピコンッ。
「おお?」
するとブロンズの目の前にプレイテキストが表示された。
先程のゾンビの写真と下に長い説明が書かれている。
「長えなぁ。まあ読むか、なになに〜」
性格的には読み飛ばすタイプだ。しかしゲームを円滑に進めるため、仕方がなく読み始める。
『ゾンビは世界中に広がりプレイヤーたちを襲います。多数のゾンビは人の多いプレイヤータウンなどを目標にしています。プレイヤータウン近くは防衛システムにより自動的にゾンビを攻撃します。
初心者の皆さんは、必ず武器を手に持ち、プレイヤータウン近くで戦ってみることをオススメします』
「プレイヤータウンってのがあるのか? あ? じゃあここは何処だ?」
頭を掻き、横に傾げる。そして続きを読む。
「ぐぁぁぁっ」
「んあ? おわっ!」
するとブロンズは押し倒された。
「あだっ。なんだ!」
目の前、正確にはプレイテキストを挟んで、道路を歩いていたゾンビがいた。そのゾンビはブロンズを押し倒し、首元を噛んでくる。
「ちょい、ちょい。なんだよっ!」
しかし目の前のプレイテキストが邪魔をする。ろくに目の前が見えない。
ゾンビに首元を噛まれた。
「あだっ!」
VRゲームでは実際の痛みは軽減されている。だが感覚を残すためゼロではない。
ブロンズもビックリして声を出した。
どうにかしてゾンビを追い払おうと暴れる。しかし目の前が見えていない。
プレイテキストを消そうとするがやり方が分からない。
「クソッ、これで終わりかよ!」
ブロンズの体力ゲージはゼロになった。
目の前は加速世界に入ったように周りが伸びて見えた。
そして一瞬。
再び体は見知らぬ場所。人の気配も無い、荒廃した世界。今度は四車線の道路の真ん中にリスポーンされた。
「はぁ?」