壊れたもの
ーー
ーチル・マイル 庭
夜、ミケルが寝た後、ミコはこっそり抜け出し、孤児院の外で魔力操作の練習をしていた。
「この光を更に小さく……。」
宙に浮かぶ眩しいくらいの光の球をミコは何とか小さくしようとしていた。
「魔力を操作するには……。」
ーー
スコット曰く
「すまん!あんな口をきいたが、魔力操作は苦手だ!!ミケルに聞くといいんじゃないか?!ほら、頭良さそうだろ?!」
ミケル曰く
「魔力操作……ですか。そうですね、こう、シュ、シュ、シュルル……。ですかね?……え?分からない?……すみません。説明が難しいですね。とにかく、ギュッとして、クルッとして、パッです。……分からないですか。」
ハノハエム曰く
「魔力操作ですか。ここの子達にも魔力の調整に苦戦する子は多いですね。私がいつも言ってるのは……失敗し続けること!ですね!そのうち感覚が掴めるようになりますよ!」
サメン曰く
「簡単よ!こう……手の先のひらに魔力を集めて、どれぐらいで出せるか試し続けるのよ。そしたらそのうち出来るの!ほら!……え?魔法が出てない?……うるさいわね。最近ちょっと調子が悪いだけよ。」
ーー
「……ぅ。分からない……。」
くしゃっと顔をしかめてしまうミコは、その場に倒れ込んでため息を吐いてしまう。
「あと、三日……か。」
夜空を見上げながらミコはボソリと呟いた。
(三日後にはこの国を出る。……そしたら、英雄として本格的に活動を始める事になるのか。)
ミコは先の見えない話に漠然とした不安を抱いてしまう。
(……。……私に、出来るのかな。)
英雄。その責任の重さに暗くなってしまうミコ。その思考はサメンのことにまで及んだ。
(……サメンの魔入りの件、やっぱりスコットさんか、ミケルさんに相談した方がいいよね。)
ミコの脳裏に映るは森で遭遇した下位魔物。そして、最初の世話役であるコルトの見せた過去の映像。魔入りする途中の人間でも、容赦なく殺されたのだ。その姿とサメンを重ねては途端に気力が落ちてしまう。
(私に何が出来る……。たった三日で一体、何が……。)
一人思い悩むその姿は夜も相まって孤独感が強い。
ゆっくり起き上がったミコはパンッ!と頬を叩く。
(休んでる暇はない。今はとにかく魔力操作に集中しろ!)
英雄である自分にそう急き立てると、ミコは立ち上がり、再び魔力操作の練習に入った。
(戻ることも止まることも出来ない。その道を私は選んだんだ。)
なぜなら彼女は英雄であるから。
「英雄……様?」
突然呼ばれビクッと跳ねるミコ。振り返るとそこにはハノハエムが心配そうにこちらを見ていた。
(びっくりしたぁ……!!)
「は、ハノハエムさん……。どうされました?」
驚いていたのも束の間、ミコは作り笑いを浮かべると、少し安心した様子のハノハエムへ問いかけた。
「い、いえ。夜間子供が外に出ると分かるようになっているのです。反応があったものですから……。」
ハノハエムはチル・マイル孤児院の母である。
子供とは何をするか分からない。常にイレギュラーに備え、わずかな不安があれば想定し、注意し、対応する。それが例え、大勢の子供の中に、気分の悪そうな子供が埋もれてしまっていても、決して見逃すことはない。
「すみません……。早く魔力を操作出来るようにならないと、誰に危害を加えるかも分からないので。」
その発言でハノハエムはミコの立場を少し理解した。
「(英雄。その使命に責任を感じていますね。それも異常なまでに強く。)……。……体の状態を万全にしておくことも成功の近道ですよ。睡眠不足は悪い循環の始まりですから。」
人差し指を立てて、にこやかにアドバイスをするハノハエム。
(……たしかに、睡眠はしっかり取らなきゃ。どっちみち、今は集中出来そうにないし。)
一理あると納得したミコは、こくりとうなずくと、放出していた魔力を散らした。
「ご心配おかけして申し訳ありません。……時間がないと少し、気がせってしまいました。」
ぺこりと頭を下げたミコは、孤児院の方へ向けて動かし始めたその足を、少しして止めてしまう。
「ハノハエムさん。お聞きしてもよろしいですか?」
「……?はい?どうかされましたか?」
足を止めたミコの様子に、怪訝そうに首を傾げるハノハエム。
「もし、もし孤児院の子供達の中の誰かが、故意に他の子供達を攻撃する。場合によっては殺してしまうかもしれない。……もしそんな事が起きてしまった時、ハノハエムさんはどうされますか……?」
「っっ!!」
ハノハエムは目を見開いた。目の前の少女の質問は、孤児院の母として最悪と称せる出来事を挙げたのだ。
「……。私は、そうならない様に日々注意を向けています。だからと言って起きないとは言えません。中には精神的に問題がある子もおります。どんなに注意していようと起きる時は一瞬。止めることも難しいでしょう。理想は誰も怪我せず、死なず、当たり前です。」
ミコの真っ直ぐな視線を受けて、ハノハエムはニコリと笑う。
「でも、一線を超えようとする子には少し手荒いですが、眠ってもらいます。私、こう見えて闇属魔法に適性があるんですよ?」
ハノハエムはにこりと笑って言った。
「そ、そうですか。」
ハノハエムをじっと見つめていたミコは思わぬ返事に口角をヒクつかせてしまう。
(流石、あのヤンチャな子供達を一人で世話してるだけある。……ハノハエムさん意外と怖いんだな。でも、その子供が魔入りしたら……聞くのはよそう。)
「……。今日はもう休む事にします。変なことを聞いてしまいすみません。ありがとうございました。」
「いいえ。おやすみなさい。」
嫌な事を考えたミコは一礼し、歩き出した。その背中をハノハエムはにこやかに手を振って見送った。
(なぜ、あのようなことを聞いたのでしょうか?)
笑顔でミコを見送ったハノハエムは、振る手を止めるとため息をつく。
「……該当する子が居るとしたら?もっと子供達と接しないと……!(ハノハエム!しっかり!)」
ハノハエムは自分の頬を叩き、自らの意思を改めた。そして、子供達の健やかな成長を心の底から祈って、厨房へ向けて歩き始めた。
ーー
ー
明朝。皆が寝静まっている中、庭には二つの人影があった。魔力操作の練習をしているミコと、それを見守るミケルである。
(まずは普通に……。)
ミコの手の内にあらわれるは、バスケットボールほどの大きさの光球。まだ薄暗い周囲を明るく照らしだす。
(やっぱりダメだな……。でかい……。)
普通に出して見たミコだが、その大きさに唇を噛んでしまう。スコットからは二回り小さくと要求された。
(小さく……小さく……小さく……。)
ミコは自身の周囲に舞う、淡白い粒子をより小さくなるように深呼吸しながら意識していた。
両手の内側にてバスケットボールほどの大きさの光る球。それを小さくしようと少しずつ魔力を減らしていた。
(少しずつ魔力を減らしてって……。)
しかし、次の瞬間、光球は霧散し消滅する。
「はぁっ……!!はぁっ……!!はぁっ……!!」
ミコはたまらず膝に手を付き、息を荒くしてしまう。
(魔力量を減らすことは出来ている気がする……。ただ、ほんとに少しずつで、その間、魔法を維持するのにだって集中しなきゃいけない……。出すだけなら集中せずに出来るのに……小さくしようとすると魔法が消えてしまうのはなぜ?)
ポタポタと地面に落ちる汗。ミコはその異常な量に悪寒がするも、首を振り、汗をぬぐってはもう一度両手の内側に魔法を生成しようとする。
(まずは普通に……。)
その手の内にあらわれるは、バスケットボールほどの大きさの光球。まだ薄暗い周囲を明るく照らしだす。
「すぅぅぅ……ふぅぅぅ……。」
深呼吸をしたミコは、徐々に光球が小さくなるよう、余分な魔力を削り始めた。
(粒子の塊が魔法の源のはず……。それを少しずつ消して行く……。)
光の球のサイズに変化はない。しかし、ミコは少しずつ小さくなっていると思っている。いや、そうであってくれと願っているのだった。
(集中……集中……。)
苦戦しているミコを見守るミケルは、何も助言出来ない現状を悔しく思っていた。
(ほとんどの子供は体の成長と共に魔力操作も自然と出来るようになる。しかし、中には育成方針で魔力操作をさっさと終わらせようとする所もある。そういった育成方針であっても、出来るまでにかかる時間は約一ヶ月。魔法という存在すら最近認知したミコ様がたった数日で魔力操作なんて、到底不可能な話。)
ミケルは眉間にしわを寄せてしまう。
(せめて……何か私に出来ることがあれば……。)
その時、ミコの生成していた光球がパンッと霧散してしまう。
「はぁ……はぁ……はぁ……。」
(もう一度……。)
ミコの全身から淡白い光の粒子がちらちらと舞い出る。集中し始めると、周囲の淡白い光の粒子がミコの手の内に集まり、バスケットボールほどの大きさの光球が生成される。
「ミコ様。」
「はぅぃ!!」
ぱぁっと霧散してしまう光球。驚きのあまり集中が途切れてしまったのだ。
ミコは何事かとミケルの方を向いた。
「練習中に申し訳ありません。見ていて気づいた事があります。」
「気づいたこと……ですか?」
「はい。」
首をかしげるミコに対し、静かに頷いたミケル。
「ミコ様は内包する魔力量に制限がないためか、魔法を行使しようとすると全身から魔力があふれ出てしまうようです。周囲が魔力に満ちた場所での魔法の使用は、普段より性能を向上させると耳にした事があります。恐らく、ミコ様の膨大な魔力量が自然とその現象を引き起こしているのではないかと。」
ミケルの説明にミコはぽかんとしてしまう。
「簡単に言えば、ミコ様の全身からあふれ出る魔力が、魔法を勝手に強くしているという事です。」
「っっ!!」
(私の周りに浮かぶこのつぶつぶが、勝手に魔法を強くしている……?!)
ミコは周りに舞う淡白く光る粒子を見た。
「じ、じゃあ!このつぶつぶを消せば通常の魔法を打てるようになりますか!?」
希望を見出したミコは嬉しそうにミケルにたずねる。
「恐らく。」
ミコは深呼吸をして、周りに舞う淡白い粒子を消す。
(光属魔法……'光球')
ミコが魔法を行使しようとした時、やはりぶわっと淡白い粒子が全身からあふれ出てしまう。
「あっ……。」
生成された'光球'はやはりバスケットボールほどの大きさ。
「うぅ……。」
勝手にあふれ出るそれに眉をひそめるミコはしかし、直ぐに笑みをうかべる。
(少しずつ出来るようになってる気がする!)
「ミコ様。まずは」
「周りのつぶつぶを消しながら魔法の行使、その練習ですね!」
「……っ。」
目をキラキラさせているミコに少し驚くミケルは、少ししてうっすらと笑う。
「がんばりましょう。私も何か気付いた事があれば助言致します。」
「はい!お願いします!!」
ミケルは直ぐに練習に入り始めたミコを優しく見守る。
ーー
ー
ミコの練習は朝食を済ませた後も続いていた。既に太陽は真上に登っている。ミコは木陰で日を避けながらも、魔力を消した状態で魔法を出そうとしていた。
(指先から出るイメージ……指先から出るイメー)
その時、ミコの目がピカッと光りを放つ。
「なっ!目がっっ!!」
「ちょっ!ちょっとミコちゃん!なんで目が光ってるの?!目が……!目が光って……!!なんでさ……!」
目が光り出したミコを見て笑い声を上げるはサメン。魔法の練習をしていたミコを隣で見ていたのだ。
「うぅ……笑わないでよ……。」
魔法を止めたミコは、目を擦りながらサメンに言う。その顔は赤く、とても恥ずかしそうだ。
「だって、目が光ったのよ?こぅ……カッ!って!」
「言わなくていいからぁ!」
ミコの真似をするように目を見開くサメンは、恥ずかしそうにしているミコを見て余計に笑ってしまう。
「もう、集中するんだから!サメンちゃんは静かにしてて!」
「はいはい、分かった分かった。」
「私は早く出来るようにならなきゃ行けないんだから……!」
木の幹に寄りかかるサメンを後目に、ミコは再び集中し始めた。
「次はどこが光るのかしらね……。」
「サメンちゃん!」
ぼそっと呟かれた一言に、ミコはムスッと声を上げる。サメンはくすくすと笑うと木に寄りかかり目を閉じる。
「……ふぅ。」
ため息を吐いた後、ミコは再び集中を始める。
(……でも、今のサメンちゃんは普通だな。魔入りの条件ってなんなんだろう……?波があるのかな……?今は体調が良いとかそういう……。)
チラリと片目を開けてミコはサメンを見た。
「ぁっ。」
ミコはサメンと目が合うと思わず声が漏れてしまう。
「私が居るから集中出来ないのかしら?口、光ってるわよ?」
サメンに指摘され、ぽかんと口を開けていたミコはすぐさま両手で口をふさいだ。
「さ、サメン隊はどうしたの?いつもはそっちで遊んでるって聞いたけど……。」
話を変えようと話題をふったミコだが、サメンは怪訝そうに肩をすくめるだけだった。
「なに?ほんとに私が邪魔だったの?」
「いや!邪魔じゃないよ!ぜんぜん!!」
「じょうだんよじょうだん!」
けらけらと笑うサメンに、ミコはからかわれたと思い眉をよせてしまう。
「……。ちょっとね。もうサメン隊はいいやって思ったのよ。」
「えっ……どうして?みんな楽しそうにしてたじゃん。またスコットさんを倒そうって……。」
「……。色々とあるのよ!色々と……!」
納得の行かなそうなミコに、サメンは切り替えるように話しかける。
「それより!魔法はね!何か物を媒体すると良いのよ!私も魔法を使う時は杖を使ってたわ!」
サメンは懐からなめらかな触り心地の木製の棒を取り出した。ポケットにしまえる位の大きさだった。
「ほら!ちょっと貸してあげるからやってみなさいよ!そこから魔法を出すように意識を集中させるの!そしたら、あなたもコツを掴めるようになるんじゃない?」
にこやかに話を逸らそうとするサメンにミコは納得がいかなかった。
(……。サメン隊、あんなに楽しそうにしてたのに?ご飯を一人で食べようとしてたけど、昨日だけじゃないみたいだし……。)
「……ミコちゃん?」
(人と接するのを避けている……?)
「ミコちゃんってば!」
サメンが肩を揺らしたことにより、ミコはハッと我にかえる。
「え?ぁ、ごめん。ちょっとぼーっとしてたや。」
「もう!私が直々に教えて上げてるんだから!早く杖もって!」
「は、はい!」
慌てて杖を手に取るミコは、どこか安心した様子のサメンから魔法の指導を受ける事になる。
「感覚はさっき言った通り、この杖の先から魔法を出すように意識するのよ!」
「それって、指先からやるのと違いあるの?」
単純な疑問を抱いたミコに、サメンはふっふと笑う。
「なんか、かっこいいでしょ!」
「ないんだね……。」
「あるわよ!ある!!」
「(ㅎ.ㅎ )ジッ」
「……なんでかは、忘れちゃったけど。」
乾いた笑い声を出しながら、サメンは後ろ首をかいた。
「とにかく違うんだね。」
「そう!とにかく違うのよ!」
「ふーん。(本当にこれで魔力量がコントロール出来るのかな。)」
ミコが半信半疑で杖を構えた直後、ミコが握っていた杖がパンッ!と弾け粉砕してしまう。直後に淡白い粒子が辺りに濃く満ちる。
「わっ!!」
「……ぇ。」
驚き仰け反るミコと、目の前の出来事に理解が追いつかず、目を見開き言葉を失うサメン。
「壊れ……た?」
眉を寄せ現状に困惑してしまうミコは、直後、自身を押しのけ、粉砕した杖を集めるサメンに驚いてしまう。
「ご、ごめんね!サメンちゃんの杖壊しちゃっ……。……サメンちゃん?」
手のひらに粉砕した杖を集めたサメンは、しばらく呆然としていた。
「ミコちゃん、ごめん。ちょっと、また後でね。」
「え?……あ、サメンちゃん!」
ミコは走って行ってしまったサメンの姿を見て、何か取り返しのつかないことをしてしまったと察した。
(追いかけなきゃ……!)
「あーぁ。やっちゃったね。君が杖を持てば壊れるに決まってるのに。」
ミコが追いかけようとした時、樹上よりキザったらしい声が聞こえてきた。ゾッと鳥肌が立つミコは、すぐさまその方向を睨みつけた。
「……ビリド、さん……。」
樹上にてミコを見下ろすは、忍者のような黒装束を纏う細身の男性。顔こそ見えないものの、その声から察せられる人物は一人だけであった。
「やぁ、英雄さん。元気?」
明るい声と裏腹に、ビリドの懐からキラリと反射する物があった。
「っっ!!」
ミコが驚く間に、短刀がミコへ向けて投げられていた。
(当たるっ!!)
ミコが痛みを覚悟した直後、短刀は光輝く剣に弾かれ地面に落ちる。
「ちぇっ。それってそんな直ぐに出せるんだね。」
ビリドがつまらなそうに舌打ちをする中、ミコの前では光輝く剣から手、腕、肩と徐々に人の体が生成されていた。
スキルーーー光輝く兵士
(助かった……。また、反応出来なかった。)
ミコは悔しそうに顔をしかめるが、直ぐに光輝く剣を生成し、自身の手に握る。
(スキル……光輝く剣。)
ミコはビリドを睨みつけるが、ビリドからはため息をつかれてしまう。
「ちょっとした冗談じゃないか。そんなに警戒しないでおくれよ。」
肩をすくめながら言うビリドは枝分かれした木に座る。
「私が杖を持てば壊れるって、どういう事ですか?」
未だ警戒をゆるめないミコに呆れてしまうビリドは少しして話始める。
「さっきの杖が壊れたのは、単純に杖が君の魔力量に耐えられなかったからだ。杖には耐えられる魔力量に限界がある。所有者の魔力量によって使用する杖の位は変わる。そして、魔力量無限の君が扱える杖は存在しない。どんな一級品でも長くは持たないだろうね。」
自身の腰から杖のような柄の長剣……法杖剣を引き抜き、ビリドは剣身を見る。
「あの杖は君が持った時には既に限界だった。君が魔法を出そうとすれば当然、杖はあぁなってしまう。劣化していた事も大きいだろうけどね。」
法杖剣を鞘に戻したビリドは、樹上からミコに杖を投げ渡した。
「わっ!?」
直後、ミコの手に渡った杖は跡形もなく粉砕してしまう。
「ぁ。」
固まってしまうミコは、しばらく硬直した後、ビリドへ目線を向ける。ビリドはなんとも不機嫌そうな顔をしていた。
「ほらね。それより君、さっさとあの子に土下座した方いいよ。今の杖は僕の剣の柄と同じ素材で作られてるもの。相当の物さ。君が、集中するまでもなく壊れたけど!」
嫌味ったらしいビリドの発言はミコの額に冷や汗を流させる。
「あの子の持っていた杖、相当年季が入っていたくせに君の魔力に耐えていた。かなり高価なものなんだろうね。……て、もう行ったか。」
既に走り去ったミコにため息を吐くと、ビリドは孤児院を見る。
「ここは本当に幸せな場所だね。」
ぽつりと呟いたビリド。その肩をトントンと慰めるように叩く光る手があった。
「〜〜〜……!!」
光の兵士であった。
「は?」
イラッときたビリドが光の兵士を殴るも、その拳は兵士を貫通しただけであった。
「〜〜〜……!!!」
「何言ってるかわかんないし!てか!同情すんなし!!」
樹上にて行われるビリドの戦い。しかし、温い光を放つだけの光の兵士には一切の攻撃が効かなかった。
「あぁぁぁぁ!!腹立つぅぅう!!!」
ビリドの叫び声は兵士の温い光に包み込まれるのであった。
ーーー
ーーサメン隊 本部
粉砕してしまった杖を机の上に置いたサメンはため息をこぼす。
「お父様。お母様。お二人との思い出は、もう……。」
バラバラとなった杖を前に、サメンは酷く落ち込んでいた。同時に、左手から黒い瘴気がチラリと舞い上がる。
「っっ!!」
サメンは驚くとバランスを崩してしまい、ソファに座り込み無事に済んだが、自らの左手を見て涙目になってしまう。
「どうして……。どうしてっっ!!……今は楽しくなんか……。」
ひっくひっくと嗚咽が始まってしまい、サメンは感情に任せて泣くことしか出来なかった。
(もう……時間がないんだ……。)
サメンがそう感じると、途端に自分が孤独であるように思えてしまった。
(もうすぐ……魔物に……。)
直後、廊下へと続く扉が勢いよく開かれる。
「っっ!!」
「はぁ……はぁ……。サメンちゃん、見つけた……。」
入口には息を切らしているミコが居た。相当走ったのだろう様子が見られた。
ミコはおもむろに息を吸い込むと、サメンに向けて走り出した。
「サメンちゃん!ごめんなさぁぁぁぁあい!!」
「っっっ!!???」
ズザザァと滑り込みながら土下座するミコは、サメンの座るソファの直前にて止まる。
「サメンちゃんの杖、すごく大事なものだったんだよね?!それなのに私、壊しちゃって!本っっ当にごめんなさい!!私……私、どうしたらいいか」
ミコがとにかく謝罪の意を示そうとする中、言葉につまり、少しの沈黙が訪れた時であった。
驚愕から解放されたサメンは思わず吹き出してしまう。
「ぷっ……!ははっ……。……いいのよ。もう。いいの。」
「でも……!……っっ!!」
ミコは顔を上げると目を見開いた。サメンの涙を見たのだ。魔入りを抑えている中でも他人に見せようとしなかった涙を、今ミコに見せたのだった。
「少し、私の話を聞いてくれる……?」
悲しく笑うサメンはミコにソファの右手側に座るように促した。
「ぅ、うん……。」
ミコは察した。これからするサメンの話は、英雄としてではなく、友達として聞くべきであると。
「なぁジャール。さっき英雄が来なかったか?」
「ぁあ?んだてめぇ。ぶち殺すぞ。」
「それはさすがに理不尽ってものじゃないか。ほら、さっき僕のとこに英雄が大慌てでサメンがどこに居るかって聞いてきたんだ。」
「……ちっ。俺のとこにも来たよ。サメン見てないかってな。あんまりの慌てようだから俺もサメンを探し始めてたんだ。満足かぁ?」
「あぁ。なんかあったのかな。サメン。ジャール!ここは二手に別れてサメンを探そう!協力だ!」
「ぜったいやだ。しね。」
「えぇ……。」




