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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

真実の愛のためなら悪魔にもなるよ?

作者: 23すてぃん




「如何かな?

我が国の王族でもなかなか手に入らない珍味なのですよ。是非公爵夫妻に味わっていただきたくてね」


「奥様、こちらのレバーペーストは絶品ですのよ?バケットに乗せて召し上がれば宜しいわ?」




大きめの椅子に身体を密着させて座り、仲睦まじい様子を最大限に発揮しているのはレッドドラゴン王国王太子、ジルバート・セル・レッドドラゴン


冷淡に、お客さんにレバーペーストを勧めたのは王妃殿下だった




ジルバートは全身で高貴を体現したようなエリザベスホワイトの肌に少し緑ががったグレートバリアリーフの瞳、白に近い神々しい金髪



その美貌はどこか人間離れしており、婚約者に向けるウールのような優しい表情を垣間見た者は鼻血を出して失神するほどであった



また普通の者なら10日はかかるであろう書類仕事を3時間で終わらせたり、15ヶ国語を自在に操りあらゆる外交も自国の有利に取りまとめてしまう実務能力に王宮では最早天才、ではなく神の才、神才であるとの呼び声も高い




ただ、一度怒りを含めば臓物の隅々まで冷気の虫が這いずり回るが如き恐怖を相手に与える絶対的な存在



彼が優秀なのは婚約者との時間を出来るだけ確保したいためであり、デートの邪魔になる全ての面倒ごとを速攻で潰す魔王であることは国王陛下や王妃殿下をはじめとしたごく一部の者しか知らない



そんな魔王(・・)に身体を抱き寄せられて頬を染めつつ、彼の希望により食事をあーんしているのはイザベラ・イグ・アシュタロテ・バルバザール



バルバザール公爵家第一子、長女

アメジストの吊り上がった猫目にパラジウムの如く高貴に光輝く銀髪はその美貌も相まって戦女神の如き存在感を持っている



もっともゆで卵のようにツルツルの肌は今はほんのりと紅く染まり、顔はさらに紅くなっているのだが



彼女が王太子より名前が一つ多いのはアシュタロテ聖王国の血を引いているためだ



とはいえ王位継承権は31位、話のネタになる程度のものでありイザベラ本人としては正式なサインの時に記入欄からはみ出し気味になるのが悩みの種である



それでも大好なお母様の出身を表す名なので、初対面で名乗る時などは必ず略さず名乗っている

彼女の母様は今は独身(・・)で、この王宮に王妃殿下の食客として滞在している




そして今日は王太子主催の内輪の食事会…元夫と愛人の顔を見たくないイザベラの母は流石に欠席している




元は世界最大の大国、ミレニアム帝国の王族であり、イザベラを本当の娘のように可愛がっている王妃ヘルゼコッホと専属の侍女であるエレナは場違いな(・・・・)平民の女に冷たい視線を送っていた




じつはそんなエレナも身分は平民であったりする


彼女は勲章が大量に付いた式典用の礼服を着て王妃殿のすぐ下座に座り同じくテーブルに付いて給仕を受けている



これは王妃殿下の国の方針によるもので、軍事大国であると同時に実績主義の彼女の祖国は軍人という職業自体が権威を持っているためだ



エレナは彼女にとって最も信頼の置ける護衛であると同時に姉代わりでもあり親友でもある






愛する女(・・・・)が嘲笑われていることを公爵は感じ取っていたが、文句を言うことも出来ない


「おっと、口の端にソースが付いているよ…ちゅ」

「あっ…もう、ジルったら!

陛下や王妃さま、エレナさんもおりますのに!」

「ふふ、真っ赤になって可愛いねイザベラは」



実父(ゴミ)や愛人の存在をイザベラは無視した




屈辱に震える公爵夫人もどき(・・・)



王太子が怖いため、必死にご機嫌を取りながら料理を口に運ぶ公爵



「ほう!!これは美味ですな!!とても上等な鶏肉のような、いや少しグランドオークのような風味も…」



公爵夫人もどき(・・・)のリリアナは頭を切り替えて食事を楽しむことにした



何しろ王太子肝いりの食事会だ



娼婦だった頃も裕福な男達に貢がせてそれなりに贅沢はしていたが、恐らくその頃の財宝を全て売り払ってもこんな料理は食べられないだろう



退屈な日々を送っていた時、夫と恋仲になり娼婦を辞めた



公爵家の別荘に囲われ(交尾して)程なくして身籠り、娘が生まれた

根っから身の程知らずだった彼女はすぐ乗っ取りを考え、娘には英才教育(・・・・)を施した



夫のことは愛している

愛しているがこそだった

あらゆる面で優秀な上に、小馬鹿にしたような態度を隠しもしない夫人によって夫の心は擦り切れていた──少なくともリリアナはそう思っている──それを癒やしてあげたかったというのはリリアナの烏滸がましさに溢れた本心だった



もちろんドレスに宝石、肉欲は貪欲に求めはしたが



しかし、なんの因果か同じ年に夫人が産んだ娘は5歳の時に当時は第一王子だった王太子殿下と出逢い、互いに恋に落ち、幸せな環境が努力を強大に後押ししたことや元々の素質もあってあれよあれよと言う間に社交界の令嬢の頂点、淑女の鑑となっていた



今日は欠席しているリリアナの娘、ユーリは夫の容姿と自分の容姿の良いところを集めたようで非常に可愛らしい妖精の姫のような外見(・・)に成長した



一年前、リリアナの娘であるユーリを公爵家当主エドワードは正式に家に迎えいれた



王家から軽蔑と侮蔑を多量に含んだ書状が陛下・王妃殿下・王太子殿下の連名で送りつけられエドワードは肝を冷やした 


暗殺防止として公爵夫人レティーナは王家と祖国から派遣された特殊部隊の合同部隊がご丁寧に大司教まで連れて公爵邸に乗り込んで来てその場で離婚を成立させると連れて行ってしまった


その際レティーナが花瓶でエドワードの頭をかち割ったこともあり貴族なんて名ばかりの野蛮な女なんだとリリアナは思った



元々仲良しの侍女達と共に日中の殆どを王宮で過ごし、公爵家には寝るために帰るだけだったイザベラは虐待及び冤罪の防止と通達が出され王妃の部屋の隣の部屋を与えられ王宮に住むことになった


お嬢様至上主義だった侍女達は王太子に雇用主が変更されそのまま王宮の上級侍女、一部の者は女官となった




そんなことを反芻しながらマナーもクソも無い雑な所作でフォークを口に運んだ



「…お、美味しい!!」



マナーも忘れてガツガツとソテーやレバーペーストを胃に収めていく







卑しい彼女は気付かない





「さあ、私達はデザートにするか」

「はいですわ!」



「…なあ、妃よ…いいのかな本当に」

「あら、当然の制裁ですわ?ずるいずるいにつける薬はありませんもの」



小声で話す陛下と王妃



「まあたしかに公爵家乗っ取りを企んでた証拠も上がっておる…リリアナ殿に同情の余地は無いが…アレはあまりにも」



「まあまあ!仕方ありませんわ?

いくらニアミスした三日間だけとはいえ、わたくしがイザベラちゃんの為に私財で特別にあつらえた髪飾りにずるいずるいして、イザベラちゃんが傷付いてしまったんですもの…あの子が赦すわけがありませんでしょう?」




たっぷりと食べたこともないような美味しい肉料理の数々で腹を膨れさせ、上等なワインも何本も飲み干して公爵とは名ばかり、領地経営は代官に任せっきりの無能男とその番のアバズレはことのほか上機嫌であった




それを口の端をニイイイィ、と吊り上げて妖しい笑みで王太子は見つめる



その魔性の美貌にリリアナの顔がカアァッと熱くなる…私もまだまだお肌も綺麗だし…アッチの技術は若い子には負けないわ!と一瞬妄想が渦巻くが、いずれはイザベラを冤罪で陥いれ、彼は我が子にあてがうのだからと自分に言い聞かせる



「ああ、今日公爵を呼んだのはな、イザベラとの婚姻が2ヶ月後に決まったからだ」



「あ、ええとその」

「…え?!あ、はい」



「やっとイザベラちゃんがわたくしの義娘になるのですわ〜!」

「イザベラ様は護身術の稽古も優秀でいらっしゃいますからね

将来は殿下と背中を預けあってバッサバッサと敵を斬り倒す美しい戦女神となられることでしょう」


だいぶ酔った王妃殿下は席を立ち上がって息子から婚約者を奪い取り強く抱き締めた


公式な席では威厳がそのままドレスとなって、それを纏っているかのような彼女も可愛い義娘の前ではデレデレである


護身術?の教師を務めるエレナも優しい大叔母(・・・)の目でイザベラの頭を撫でた




女3人がわいわいと退室し、部屋には国王陛下と王太子殿下、そして護衛達と公爵夫妻といった面子が残る



「…なんでも、王太子殿下はイザベラ様と真実の愛で結ばれているともっぱらのお噂ですよね


でもあのようなキツそうな娘よりもユーリの方が殿方の立て方をよくわかっているんですっ!」

「こ、こら!!

殿下!!大変申し訳ございません!!!

しかし、娘は、ユーリは殿下を一目見てからというものずっとお慕いしているのです!!…アシュタロテの血を継ぐイザベラが次期王妃なのはしかたありませんが、ユーリの気持ちにも応えてやっては頂けませんか?!」



護衛の近衛騎士達は失神寸前だった

陛下に無許可で剣を抜き、この二人の首を刎ねようか本気で迷った



恐らく、それを本当に実行してしまっても陛下は軽いお咎めで済ませてくれるという確信すらあった…彼が指示を出せそうにない青い顔をしていたからだ



頼むから、もう喋るな

嗚呼

視界の端で魔王が邪神に進化している




どんな恐ろしいことが起こるか…





たが、それすら甘い



婚約者を溺愛する王太子は、既に制裁の7割を完結させていた



「公爵、弁えろ」



その一言で公爵は震えがあり、ズボンからは湯気が立ち上っていた



「まあいい…ああ、それからそっちのババアの戯言も不問にしてやる

喜べ雌豚」



雌豚

何度も色々な男に言われた言葉だ

貢がせて破産させた男、冷たくあしらった男、一山いくらの冴えない男達



そんな男達に言われてもあまり気にしなかった蔑称だが

人を狂わせる次元の美貌で高貴なオーラを立ち昇らせた、憎き前妻の子を溺愛するこの国で二番目に偉い男から言われると、思いのほか心に傷を作った



王太子の、本来義母となる女を見る目は




欠陥品を見る目だった


生き物ですらない





「さて、害虫(・・)リリアナ殿

お腹を痛めて産んだ幼虫(・・)の味は如何だったかな?


公爵も、愛する番の幼虫の味はどうだったかね?

ああ、勿論私達の食事は普通の高級魔物肉だがね…美食の真髄はゲテモノにあると言っても、流石にチカチロやダーマーの真似事はしたくないからな」



部屋の隅の仕切りのカーテンを王太子自ら立ち上がって引く



大きめの金属製のボールが台の上にいくつも並べられ、解体されて調理された愛娘の残りかすが乱雑に捨て置かれていた



見たくない

理解したくない



いくら思考を遮断して考えることを拒否しても、それは無理だ



消化器は悲しみと怒りと、それを塗りつぶすほどの自己嫌悪に絶叫の痙攣を繰り返す



胃が、食道が



先程笑顔で腹に収めたものを一刻も早く体外に排出せんと泣き叫ぶ




公爵は「う…うおぉん…うぅん」とよく分からないうめき声を上げながら吐瀉物と涙を垂れ流し続けるだけの続ける置物と化してしまった


リリアナは盛大にテーブルにぶちまけたナニカを手で必死に掬い取ってはぶつぶつと何かを呟いていた



ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…


最早誰に対しての謝罪なのかも、何を謝っているのかも




王太子はため息を一つ吐き、剣を抜くと公爵の首を刎ねた

そしてリリアナを蹴り倒して頭を踏みつける




「あまり王族や貴族を舐めるなよ売女(フンデン)



そもそも、高貴な身分や立場というものはな、国などという概念が無くただのボスだった頃の手下や部下達を守り食わせるために他所のコミュニティーを襲い屍山血河を築くところから始まっているのだ」


「特に近しかったものが高位の身分となるのですわ、後には」



冥界の死神すら平伏して命乞いをするが如き愉悦と侮蔑と暴虐の折り重なった笑みを携える王太子に、母親である王妃が捕捉をさりげなく加える



「そんな我々(ゴロツキ)



そんな我々(ギャング)



そんな我々(バンディット)




身内(ファミリア)に弓を引かれて、前歯を折ったり手足をへし折る程度で満足するとでも??」




───────────────




「やあ、イザベラ」

「もうジル様?夜更けですわよ?」



「…フライングはしないよ?誠実でありたいからね。


でも、手を握ったりはしたいんだ。私は貴女といる時しか人間になれないからね。」




「もう…お休みになる時はご自分の部屋にお戻り下さいましね………



我慢できないのはジル様だけではないのですよ?」



「…実は襲われたいのかな?

そんなことを言われたら理性が吹き飛んでしまうよ?」



2人は、同じタイミングで吹き出し、破顔した



その後、レッドドラゴン王国は栄華を極めた


平民のこともよく考えた数々の革新的な政策は、結果的に国力そのものを底上げすることとなり、王と王妃となったギルバートとイザベラは平民の熱狂的な支持を集めつつも、貴族にも尊敬された。



幸福(・・)が平民にも行き渡った王国では、世が世なら英雄にもなり得る"秩序を壊そうとする身の程知らず"は、同じ平民にメッタ刺しされて死ぬ存在と成り下がった




それすら計算


愛する妻、愛する我が子達



特に3人の娘達



王女である彼女達が、ピンク頭の公衆便所から悪意を向けられた時には


同じ平民が、平民の誇りとプライドを守るために公衆便所(ピンク髪ヒロイン)を排除する世界を作るために




「…やっぱり待てないよ…」

「もう!膝枕で我慢してくださいませ!頭なでなでもして差し上げますわ!」

「…うん、ありがとう我が愛しの姫君」

「もう…甘えん坊なのですから…」




魔王(ギルバート)の本質は、甘えんぼう



end




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