01.姉、ダイエットを志す
きっかけはゴールデンウィークが終わったころのことだった。
ある日の晩にノック一つすることなく、迷惑女が僕の部屋に闖入してきた。
僕にとって世界で最も面倒くさい女。それは僕の姉である。
「ねえ! わたし太った?」
と、姉は唐突に口にした。
…………。
なあ西田。お前だったらこういう時にどう答える? どうだったら正解なんだ?
仮説1.「うん。前より太ったように見えるよ!」
仮説2.「いや、全然? 気のせいじゃないかなあ」
仮説3.「体重計に聞けばわかるんじゃないかな?」
仮説4.「わからない」
仮説5.「興味ない」
どうだろう……。どれも不正解であるような気がしてならない。
仮説6以降がすぐに思い浮かばず、僕は脳内に住まわせているヴァーチャル西田を召喚した。
この危機的状況を乗り切るために、もはや頼れるのはお前の思考パターンしかない。
<質問内容>
とてもめんどくさい性格の姉から「私は最近太ったと思うか?」と聞かれました。
どのような回答が正解ですか? それとも何を言っても地雷を踏むことになりますか?
<模範解答>
「どうかなあ? 見た目にはあまり気にならないけど、体重的には増えているの?」
姉は特に気を悪くしなかった。
「そう? 体重はちょっと増えちゃったかな」
よかった。めんどくさい展開にならなくて。
ありがとうデウス・エクス・ニシダ。
もう帰っていいよ。
「ねえ、ダイエットした方がいいと思う?」
ごめん、デウス・エクス・ニシダ。カムバック!
<質問内容>
とてもとても面倒くさい姉から「体重がちょっと増えたけどダイエットをした方がいいか?」と聞かれました。どう答えたら正解ですか? ちなみに、自分で考えろといえば確実に気を悪くします。
<模範解答>
「体重のことはさておき運動するのは良いことじゃないかな。軽い運動から始めてみて、続くようなら続けてみたらいいんじゃない?」
姉は納得したようだった。
「そっかー。そうだよね。何か始めてみようかな」
特にありがとうもごめんねもなく、嵐のようにやってきた姉は風のように去っていった。
あー、面倒くさかった。
ありがとう、デウス・エクス・ニシダ。もう帰っていいよ。
……と思ったらまた、部屋の扉がノックもなく開いた。
「ねえ! 何を始めたらいいと思う?」
そんなこと、僕の知ったことか!
そして姉は、アマチュアボクサーとしてデビューすることになった。
もう、何が何だかワケが分からない。