移民の星
思いつきで書き始めたので、落ちはないし中途半端だし……。
その様な訳で「そういうネタか~」ぐらいの軽いノリで読んでいただけると幸いです。
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新生共和歴4508年12月31日
移民候補惑星第776号に対する調査報告書 第7回
調査員:セヴリーヌ=アデラ
ガエタン=ヴァンド
報告者:セヴリーヌ=アデラ
今回我々が調査を行った惑星は、残念ながら我々が生存可能な環境ではなかった。
この惑星はあまりにも地殻が薄く、事あるごとに地震が起き地殻が割れマグマが噴出した。
AIの解析においてもテラフォーミングでの改良も難しいと判断されたため、残念ながら次の惑星調査に望みを掛けることとなった。
報告は以上。
ここからは、私の私信であり愚痴である。
恐らく我々の母星は次の惑星調査が開始される前に、この宇宙から消え去っているだろう。
主星の死期が近いことが確認され、主星が超新星爆発を起こすとされた約1000年前に我々を含めた移民惑星調査船が、事前の観測によって移民候補とされた惑星に向けて、宇宙の各地へと飛び立っていった。
銀河を渡る事は我々の技術力をもってしても容易ではなく、遠大な時間をコールドスリープを使ってやり過ごす他なかった。
コールドスリープの技術は確立されていたとはいえ、何度も睡眠と覚醒を繰り返せば体への悪影響は免れない。
そのため調査対象の惑星に到着する度に、移民船に眠る100万人の中からAIによって選出された2名が調査を行うという方法が取り入れられた。
今回私と共に調査を担当したガエタンは、お調子者だが不思議と細かいことに気が付く人物で、融通の利かない私の性格とは正反対の部分が最初は疎ましく、今では頼りになるパートナーだと感じるようになった。
もし叶うなら、次の調査でも彼と共に仕事ができればよいと考えている。
さて残念ながら、今現在どの調査船からも第二の母星となる惑星を発見したという報告は入っていない。
移民調査は第105期まで実施され、約1万隻の船が母星を旅だったとされている。
すでにその中には音信不通となった移民船もいるらしい。
願わくは、次の惑星が我々の生存可能な星であってほしいと願いばかりである。
私達は間もなくコールドスリープに入る。
次の調査員の幸運を祈る。
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新生共和歴4721年 2月 9日
移民候補惑星第777号に対する調査報告書 第1回
調査員:イヴ=トネール
アダム=ブルイリ
報告者:イヴ=トネール
約48時間前にコールドスリープから目覚め、AIによる惑星表面の調査報告を確認した。
データは報告書と共に添付されると思うが、この惑星は我々が製造可能な環境にとても近いと推測される。
惑星表面の約7割が水で覆われ、窒素を主とした大気に覆われていて気圧や気温も我々の生存に適していた。
陸地には木々が生い茂る場所や砂漠があり、程よく平地も広がっている。
多種多様な動物も陸地や海に生息していて、食料としての価値も見いだせそうだ。
またこの惑星を含む星系は銀河系の外周に近い部分にあり、主星も若く寿命も長いという調査結果を得た。
まさに我々が望む第二の母星と言っても良いのではないかと思われた。
しかし、この星にはすでに知的生命体が存在している。
文明レベルは量子コンピューターがまだ研究段階のため、我々の技術力からすればかなり劣る。
そのお陰で惑星上に張り巡らされた情報ネットワークに容易に侵入することができ、すでにAIによる解析が進んでいる。
その結果、現在この惑星には統一国家や統一政府は存在せず、244の国と地域がそれぞれの国の思惑によって活動を行っている。
恐らくその影響で、科学の発展に多少なりともブレーキが掛かっているのではないかと推測される。
惑星自体についての調査を継続しつつ、我々調査員はこの知的生命体の活動についても引き継き調査を継続する。
報告は以上。
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新生共和歴4721年10月17日
移民候補惑星第777号に対する調査報告書 第2回
調査員:イヴ=トネール
アダム=ブルイリ
報告者:イヴ=トネール
前回報告した通り、この惑星は現地の知的生命体により『地球』と呼ばれているため、今後は我々も『地球』と呼称することとする。
また現地の知的生命体についても同様に『人間』と呼称し、その他の動物や植物についてはなるべく現地の知的生命体が付けた名前で呼称することとする。
地球は現在、人間の間で未知のウィルスが猛威を振るっている。
人間たちはこのウィルスを『covid-19』または『新型コロナウィルス』と呼称している。
地球時間で約1年前に発見が報告されてから、すでに世界各地で感染が確認され、世界の感染者数は8410万人、死亡者数は183万人に上っている。
未だ決定的な治療法が見つかっておらず、混乱はまだしばらく続くとみられる。
今回のウィルス問題について、我々がこの星に移民するとなった場合に、我々にとって有害なウィルスや生物が存在する可能性を検討する必要がある。
人間にとっては有害でなかったとしても、我々にとっては有害であり、我々の仲間が全滅する可能性も否定できない。
そのため、可能な限りウィルスやその他病気について調査を行い、安全を確保する必要があると考えている。
報告は以上。
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新生共和歴4721年11月 1日
移民候補惑星第777号に対する調査報告書 第3回
調査員:イヴ=トネール
アダム=ブルイリ
報告者:イヴ=トネール
調査員アダムと協議を行い、我々二人が人間とコミュニケーションを図ってみることにした。
そのために、人間の体を入手して我々の意識を一時的にその体に移し、その体を使って人間とのコミュニケーションを図る計画を立案した。
この計画についてはAIによる検討も行い、以下の条件において実施するのであれば問題ないと判断された。
条件:調査員は直接船外で出ないこと。
意識を移す先の人間は、能動的に殺すのではなく、死亡してすぐの遺体を確保すること。
我々の意識を移した場合、恐らく対象の人間の記憶は消去されてしまうと推測される。
そのため、生きている人間を使うのではなく、死亡して体がまだ新しいうちに利用しようという事になった。
この条件に適う人間の体が入手出来次第、我々は作戦を開始する。
報告は以上。
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新生共和歴4721年11月20日
移民候補惑星第777号に対する調査報告書 第4回
調査員:イヴ=トネール
アダム=ブルイリ
報告者:イヴ=トネール
人間の体の入手に成功し、アダムが意識を移して人間とのコミュニケーションを図る事に成功した。
対象の体は『日本』という国の学生で名前は『三島由貴』、年齢15歳、女性。
対象者が女性のため、同じ女性であるアダムの方が適任だろうと判断し、今回はアダムの意識を移すこととした。
電車に跳ねられて死亡したところをトランスファーシステムを使って船内の隔離施設に収容し、破損個所を修復。
アダムの意識を移して、すぐにこの女性の自宅へ送り返した。
破損個所を修復する際に読み取っておいた記憶から、この女性の行動パターンを解析し、アダムは女性が生きているかのように振舞うと同時に、人間社会の事を調査することとした。
報告は以上。
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新生共和歴4721年12月18日
移民候補惑星第777号に対する調査報告書 第5回
調査員:イヴ=トネール
アダム=ブルイリ
報告者:イヴ=トネール
アダムが人間『三島由貴』として行動を開始して、間もなく一カ月が経とうとしている。
まず『三島由貴』について分かった事は、彼女は現地の高校に通う二年生で、同じクラスの生徒から虐めを受けているらしい。
彼女が電車に跳ねられたのも事故ではなく自殺だったようだ。
虐めについてアダムは『三島由貴』のように耐えることができず、相手に対して反撃をしてしまっているため、人が変わったように見られているようだ。
コミュニケーションを図るという点では、虐められたままでは良くないため、この件についてはアダムに一任しようと考えている。
『covid-19』については現在も猛威を振るっており、人間達は第三波がやってきたとして警戒を強めている。
報告は以上。
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新生共和歴4721年12月24日
移民候補惑星第777号に対する調査報告書 第6回
調査員:イヴ=トネール
アダム=ブルイリ
報告者:アダム=ブルイリ
私が人間『三島由貴』の体を使って人間として生活するようになって一月半が経った。
学校での虐めについては首謀者達を沈黙させることに成功し、学校での生活はかなり楽になった。
しかしその行為が目立ってしまったようで、常に誰かからの視線を感じることが多い。
そんな中、同じクラブ活動をしている男子生徒に告白をされてしまった。
即断ったのだが、もし『三島由貴』だったらどうしたのだろうという考えが頭に付いて離れない。
とにかく今は私達がこの地球に移住した際に、人間たちと共存できるものかどうかを見極めなくてはいけない。
報告は以上。