狂気に身を染めようとも
狂気に身を染めようとも
作:ラインハルト
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登場人物
騎士:戦士と共に国の為に生き、共に戦場を駆け抜ける騎士団長。
戦士:槍、剣の名手、騎士と共に戦場を駆け抜けるが、裏切る、戦士長。
役表
騎士:不問
戦士:不問
騎士「ふぅ…今日の鍛錬はこれくらいにしよう、しかし貴方にはそろそろ勝てなくなりそうだ」
戦士「何を言うか、私など貴方に比べればまだまだですよ。
貴方に追いつく為に私は、もっともっと鍛錬をしなければ」
騎士「それ程までに鍛錬し、貴方は何処を目指しているのだ?貴方は既に槍も、剣も名手と呼ばれる程の熟練者ではないか」
戦士「どれ程鍛錬をしたとしても、世の中上には上がいるではないか、その者達から国を、王を、国民を、愛する者を、貴方を護る為、日々鍛錬をしているのだよ」
騎士「貴方の他者を護ろうとする、その意識の高さには敬意を覚えてしまうな。
私は貴方程の強き想いで戦えてはいないかもしれん」
戦士「たとえそうだとしても、貴方はこの国を護っているではないか。
誰が何と言おうと、貴方はこの国の騎士だ、皆の者が信頼し、憧れている騎士ではないか。」
騎士「そう言って貰えるのは嬉しいね…だが私は憧れられるような存在ではないんだよ。
いつも戦場では死の恐怖に怯えながら戦っているんだ…」
戦士「怯えながら…それは私も同じさ…私も誰よりも死を恐れている、だからこそ皆を護る為、日々鍛錬を続けているんだ」
騎士「そう…だな、お互い戦場では死なぬ様にしようではないか」
間
戦士「戦場では死なぬ様に…か…ははっ…何が戦場では死なぬ様にだ!先の戦でどれ程の犠牲が出たと思っているのだ!貴様が引き連れてくるはずの部隊の到着が遅れたせいで…遅れたせいで…私の弟は死んでしまった、私は貴様を許す事は出来ない…たとえこの身を狂気に染めようとも」
間
騎士「さて、皆の者、先程隣国に斥候に出ていた兵士が戻って来た。
その者によれば、隣国は我が国に戦争を仕掛ける準備をしているらしい」
戦士「また戦が始まるのか…しかも隣国とはな、隣国とは同盟を結んでいたはずであろう?」
騎士「確かに隣国とは同盟を結んでいたはずだ、しかし隣国は王が変わってしまった。
それにより、国の在り方まで変わってしまったのだろう…斥候の情報によれば、明日にでも同盟は破棄されるだろう」
戦士「なるほど…そういうことか、王が変われば国も変わる、国が変われば同盟も意味をなさない…か。
皆の者!よく聴け!これより戦の準備に入る、騎士の皆は騎士団長の元に集合し、作戦を聞け!
戦士諸君は私の元に集まれ!」
騎士「毎度すまぬな、本当ならば私が指示を出し皆の士気を高めなければならんというのに。
やはり騎士団長の座は私ではなく、貴方の方がいいと思うのだが?」
戦士「ふふっ…何を言っている、貴方は王に認められ騎士団長に選ばれたのだろう?ならば、貴方こそがその座に収まっているべきなのだよ」
騎士「そういうものなのかね?どうも私は騎士団長と呼ばれるのに慣れなくてね」
戦士「慣れなくとも、選ばれたからには責務を果たさねばな…お互いに」
騎士「そうだな…では後程会おう」
戦士「あぁ、後程」
間
戦士「ふふっ…ははは!…やっとこの時が来た、貴様に復讐する時が遂に訪れた…今こそ我が弟の無念を晴らす時が来たのだ!私が日々鍛錬を怠らなかったのは貴様を倒す為だ、国も王も国民もただの口実だ!
くはっ…ははは!隣国が戦争を仕掛けてくるのも私が裏切ったからだと知らずに哀れな奴め!」
間
騎士「……ふぅ、揃ったな騎士戦士諸君!これより我等は戦場に出る!諸君達も分かっているように、戦場に出れば必ず犠牲は出る…だが!臆するな!私達ならばこの戦負ける事はありえぬ!騎士戦士諸君の心を一つに誓い、全てを護ると!」
戦士「諸君達ならば既にわかっているだろう…だが!あえて言おう!私達は、槍であり、弓であり、剣であり、盾、鎧でもあるのだ!敵を討ち滅ぼす為、士気を上げよ!」
騎士「行くぞ皆の者!」
間
騎士「はぁぁ!ぐっ!隣国はこれ程までに力をつけていたのか!しかし、負けるわけにはいかぬ!たぁぁ!そちらはどうだ!?」
戦士「てぁぁ!こちらの事は心配するな!私ならば大丈夫だ!この日の為に鍛錬を続けてきたのだ!はぁ!たぁ!私はこのまま右翼に進んで行く!貴方は左翼を頼む!後程合流しよう!」
騎士「わかった!必ず合流しよう!」
間
騎士「おかしい…なぜこんなにも敵兵が多いのだ?
まさか!戦士長が裏切りを…いや…そんなはずはない、誰よりも鍛錬をし、国を護る為に生きてきた者だぞ、ありえぬ!しかし、不穏な噂も耳にしていたのは確かだ」
間
戦士「ふぅ…やっと合流地点に来たか…チッ…隣国の兵士共め、私が味方だと言う事を忘れ襲ってくるとは、思いの外時間がかかってしまった。
まぁ、いいだろう、騎士団長が来るまで待とう」
間
騎士「もうすぐ合流地点か…やはりおかしい、合流地点に近づけば近づく程、敵兵がいない。
覚悟を決めるしかないのか…いずれ狂気と手を結び貴方は私の前に立つのだろう…私はそんな貴方を…貴方の事を倒さなければならない。なぜ同じ道を、同じ時を歩む事が出来ないのだ…戦士長!なぜ貴方は私を裏切った!」
戦士「そうだとも…たとえ狂気と手を結び、狂気にこの身を染めようとも私は貴様を赦さん!なぜ裏切っただと?それならば聞こう、先の戦でなぜ貴様の部隊は応援に駆けつけるのが遅れたのだ!?貴様の部隊の遅れさえなければ、私の弟は死ぬことは無かったのだ!どれ程の戦士達が犠牲になったと思っている!」
騎士「あの時にも言ったでは無いか!我が隊は遠征に出ていた!あと少しで間に合った所を敵国側の奇襲に遭ったのだと!」
戦士「奇襲に遭ったとしてもだ!貴様の部隊の半数は応援に回せたはずだ!それすらしなかったのはなぜだ!?」
騎士「それは…どうしようもなかったのだあの時は、あの時は王の妹君の護衛もしていたのだ」
戦士「それがなんだと言うのだ!なぜ半数の兵をこちらに回さなかった!もういい…もはや私は止まれぬ、この身を復讐という狂気に染めてしまった以上…戻る事は出来ない…さぁ!剣を抜け!」
騎士「どうしても、仲間には戻れないのか…それならば仕方ない!私は国を護る為に貴方を倒す!
はぁぁぁ!」
戦士「はははははは!それでいい!貴様は私に倒されなければならない!
てぁぁぁぁ!」
間
騎士「ぐっ!負けるわけにはいかぬ!はぁ!」
戦士「たぁ!頑張るじゃないか…やはり貴様は強い!あれ程鍛錬した私と渡り合うとは!」
騎士「私も貴方に隠れて鍛錬をしていたのでな!貴方の不穏な噂を聞いたその時から!」
戦士「ふっ…なるほどな!しかしそれだけで私に…狂気に染まった私に勝てると思わぬ事だ!」
騎士「ふふっ…ははは!狂気に染まっただと!?貴方は自分の心の弱さを亡くなった者のせいにして、逃げているだけではないか!何が狂気だ!そんな者に私は負けぬ!はぁぁぁぁぁぁぁ!」
戦士「ぐっ…がぁぁぁぁぁぁ!なぜ勝てぬ!あれ程鍛錬したのに…なぜだ!はぁはぁ…もはや次の一撃を放つ気力しかないか…ふふっ…さぁ!決着をつけようか!」
騎士「なぜだ!もう勝てないのはわかっただろう!?それ程までに私の事を恨んでいるのか!?憎いのか!?今なら私以外この事を知る者はいない!まだ戻れるんだ!」
戦士「もう…戻る気は無い、戻ろうとも思わん…私は貴方を…国を裏切ってしまった、貴方なら分かるだろう?このまま戦士として終わらせてほしい」
騎士「そこまで覚悟を決めているのか…戦士として終わりたいと、まだ戻れるのに…それならば私も覚悟を決めよう…ここで貴方を倒す!」
戦士「覚悟を決めてくれたか…ありがとう…すまない。
いくぞ!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
騎士「礼など…来い!
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
戦士「がはっ!はぁはぁ…ぐっ…やはりこういう結果になったか…ははは、最期に貴方と戦えてよかった。
私は貴方と戦いたかったんだずっと…戦う為の理由が欲しかっただけなんだ」
騎士「そんな気はしていたよ…貴方が本当に裏切る理由なんて無い事は分かっていた」
戦士「やはり気付かれていたのか…ふふっ…うっ…はぁはぁ…そろそろ…行ってくれ…私の亡骸は…ここに…捨ててい…け…」
騎士「逝ってしまったか…今は戦争中だ、感傷に浸っている暇ない、さよならだ…共に戦い抜いた友よ」
間
騎士「あの戦いから、もう何十年過ぎただろう…そろそろ私の寿命も終わる頃のようだ…友よ待っていてくれ、私もあと少しでそちらに行く。
また出逢う事が出来たならその時は、昔話に花を咲かせ…酒でも酌み交わそう」