セタの受難
セタの受難(1)
その頃セタは炎風のメンバー18名と共にエティル軍の執拗な追撃をかわし、エティル東方に幾重にも連なるエトナ山脈にひっそりと身を潜めていた。
鬱蒼とした木々の怪物樹人や、久しぶりの獲物を求めて次々とやってくる蚊などに苦しめられ、暑さにも耐えかねた5人の女性幹部のうち、2人が肌も露なスクール水着(エティルでは下着として使用されていた)姿になり、(ジョン派の象徴にセタが思っていた)怒り狂ったセタに切り殺され、食料の獣をおびき寄せるための囮とした。
残りの2人は之に恐怖して逃亡を図り、セタに捕まり、散々凌辱された後、之も切り刻まれ、魚の餌にされてしまう。
最初は190名いた炎風もある者はセタに殺され、ある者はセタの慰み者になり、ついには14名にまで減ってしまった。
このような所業の持ち主だからエティルの人民はセタを悪魔か鬼畜の如く憎んでいた。
当然補給も足らずに、村人を手にかけ、食料を奪い、少女を拉致して身代金を要求するという生活をしている。
「之では正真正銘、ただの夜盗だ。セタ様。エティルを放棄いたしましょう。いかにセタ様が勇将でもこの数の差では勝てませぬ。南方へ逃げ、再起お謀るべきかと思います」
最後までセタについてきた14名の部下はセタの怒りに触れて切り殺されないように身構えて進言した。
セタに殺された4名の女性幹部の二の舞にはなりたくない。
忠義の為にセタと心中する気は部下たちにはなかった。
ただ、セタを見捨てれば自分達はエティルに降伏して拷問死するしか道は残されていないだけの話である。
しかも裏切り者の汚名が子孫永代にまで付きまとうのだ。
革命を起こして高級幹部にのし上がらぬ限り、この者共に幸せな未来はないだろう。
「セタ様。エレナはまだこの辺りの陸内港には気付いていない筈です。船で川を下れば密かに南方まで転進できます。その国で兵を挙げ、北はジョンに。東はエレナに。南を我等にといういわゆる天下三分の計を御取りになるべきです。そして反ジョンの勢力と結託してミストリアを攻略すればエティルは戦わずして降伏します」
セタの軍師ルミ・アーケシュトが懸命に説いた。
ここでエレナに決戦を挑むとか言われたら炎風は全滅だ。
セタはそこまで馬鹿ではなかったようだ。
悔しそうに下唇を噛みながら宣言する。
セタは心中壮烈な復讐をジョンに施す事を誓った。
全ての権力を彼から奪ったジョン派のトルハに復讐するのだ。
「撤退する。天下三分の計だ」
セタは怒りにかまけて3つの村を焼き払い、村人を皆殺しにして憂さ晴らしをしながら港を目指した。
この間6名の兵がマラリアで死亡し、5人が村人との戦闘で戦死した。
死んだ者は、作法により、鳥葬で葬られる。
掛かった鳥はセタ軍の夕飯になるのだ。
「死んだ者に用はない。せいぜい俺たちの夕食に貢献するのだ」
こういう性格だから、部下に見放されてミストリアを追い出される羽目に陥った。
パタレーンやエティルを渡り歩いたが何れも敗れて、放浪している。
このセタに組しよう勢力が無かったわけでもない。
数百人の山賊を率いるマラカシ1家やエティル軍の大将、エラル・ドラームはセタの為に港を襲い、脱出港を確保してくれていた。
セタが女性幹部を殺害して食糧確保の撒き餌にしたり、(3日待った)村を襲ってなけなしの食料を奪ったりしなければ手持ちの食料が尽きる前にマラカシの押える隠し港に比較的安全にたどり着けた筈であった。
然しそれを言ったら女性幹部の二の舞である。
ミストリアを理不尽に追放され、復讐の為に各地の軍閥を渡り歩いているセタには、情勢がよく見えない。
どう考えてもジョンの天下統一は時間の問題であるから、降伏して領地の返還を求めたほうが、余程建設的であろう。
ジョンの最大の政敵、シャリーの娘はジョンの部下として手厚く保護されているのだから、セタだって優遇される可能性はあった。
然しもはや手遅れ・・・。
そしてセタの襲撃に脅えた村人の有志が自警団を結成してセタのいる山を包囲したのだ。
「村人の山賊狩りの義勇兵が我等を追撃。港へは入れません」
「この山は1万の村人に取り囲まれております」
部下達が顔を青くして報告した。
村人に捕まったらなぶり殺しにされるに決まっている。
「如何いたしましょう?セタ・ブレーメン様」
出来れば降伏だけはしないで欲しいと部下達は切実に思った。
降服した所で、どうせ殺されるに決まっている。
部下達は、セタの首を取って村人に命乞いをしようかと真剣に悩んだ。
一生鉱山で強制労働とかでも、命だけは助けてくれるかもしれない。
「セタ様。かくなる上は山に火を放ち、村人ごと焼死させましょう。そして火に撒かれて逃げ惑う村人を切り殺すのです」
セタの軍師、ルミ・アーケシュトがそう進言した。
もはやそれしか、助かる道はないだろう。
然しセタは笑い飛ばして言った。
「正規軍でもないクズ共が100万人集まっても俺は倒せんさ。俺は一応ハイファ・エルフだからな。通常攻撃はきかんのだよ」
俺達はどうなるんだよ?
部下達はこの時逆心を抱いた。
セタが大見得を切ると手下たちが2人武器をセタに向けたのだ。
「何の真似だ?」
セタは不機嫌そうに呟いた。
トルハと言い、こいつらと言い、如何して俺を裏切るのだ?
あのブルマー好きの変態王より俺が劣ると言うのか?
「貴様ら。そんなに死にたいのか?」
セタは黄金の鞭を取り出すと身構えた。
「俺を裏切るのか?」
セタは逆上して尋ねた。
「殺人鬼より変態の方がはるかにマシだ」
部下達はやり返した。
「もうあんたには付いてゆけない。貴方の首を手土産にエティルに降伏する。命だけは助けてくれるだろう。」
セタは再び部下に尋ねた。
「俺を裏切ると言うのか?」
部下たちは黙ってセタを切りつける。
黄金の鞭で防いだが、その拍子にセタは足を踏み外し、山の急斜面を転がって川へ落ちた。「しまった。之では降伏しても処刑されるだけだ」
部下達は一番知恵のありそうなルミに縋る様な視線を向けた。
ルミはセタが生きていると信じていたが、この部下達を殺そうと決心する。
「包囲の解けるのを待つしかない。このエトナ山を1万位の兵で包囲出来るか。必ず諦めて別の場所を探す」
ルミは言い切った。
それでも部下達の不安そうな表情は消えない。
たっぷりと部下の不安を煽ってから部下に言った。
「お前はここで狼煙を上げてから川へ飛び込め。自殺したように見せかけるのだ。そうすれば私は安全だ。それともここで私に切られるかね?」
部下達はぶんぶんと首を振った。
「俺達は命さえ助かるなら喜んでルミ様の支配下に入ります。ですから見捨てないでください」部下達は必死に命乞いを始めた。
ルミはそれを無常にも拒否する。
ルミが剣を振るうと部下達は首を失い、地にふっした。
「役に立たぬものなどいらんわ」
ルミは死体を村人のいる方角へ投げ落とすと、仕方なく自分で狼煙を上げ、その場を立ち去った。
単純な農民の事である。
炎風が仲間割れをして殺しあったと思うに違いない。
たとえ真相を見破られていても女性が主導権を握る事が皆無な(2年前までは)エティルではルミが殺したとは思われないのだ。
ちなみにルミがセタの手下となったのは自分の才能をセタが認めてくれたからだ。
ミストリアも候補に挙がったがルミはジョンの為にブルマー姿を披露してやる気は微塵も無い。
第一セタの家臣であるルミと反逆者トゥーロでは、お家騒動に発展するに決まっていた。
ルミはジョンが即位するまでは、ミストリアの若伯爵であったのだ。
今はたったの12ディルスでセタに雇われていた。
ルミの故郷の、南方の大陸には、栄えている時に買った領地が1州と民150人がいる。
当面はセタをその領地に迎えて、再起を謀る心算であった。
傾斜国の更に南方にある大陸で、俗にビヤッカと呼ばれている。
ルミの領地は、砂鉄の生産が盛んで、魔法鍛冶師が2人もいた。
小国ながら、税収は4万ディルスにもなる。
ルミはセタを探す為に、水着姿になると川を探索し始めた。
身持ちの硬いエティルでは、水着姿でいるだけで、相手が勝手に避けてくれる。
やがて狼煙を見た農民がルミの計略どうりに惨劇の場に集まっていった。
「これは酷い」
農民の1人が息を呑んだ。
惨殺死体は腐乱化してラドカイン虫の食料となっていた。
こういう状況になれない農民達は、戦慄を覚える。
「仲間割れか?セタらしい最後だな。おそらく仲間割れの末に相打ちになったのだろう」
哀れな奴だと農民達は思った。
取り合えず担架を用意して、使用人の1人に墓地まで運ばせる。
「奴はミストリアの貴族だ。損害賠償は8割増しでジョンに請求してやれ」
村人は、セタに陵辱された女性兵士の死体を丁重に埋葬させると、引き上げようとした。
然しその意見に反対するものも1人だけいた。
「之は計略だ。セタは死んではいない。早くセタの居場所を探すのだ」
農民に雇われた傭兵、クラム・ドゥルームの意見である。
生涯に500人主君を変える事を目標にしているフリーターのこの若者は、380人目の主君にこの農民達を選んだ。
村の唯一の財産、5千ディルスと聖剣メタボ3を貰い受ける約束でだ。
ゲーム的に表現するなら攻撃力+1(10%増し)の魔剣である。
他国に残してある、部下15人(女性兵士6人と娘3人と妻を含む)は盗賊ギルドの援助で、
出店した織物屋で、月420ディルス儲けている。
クラムは仕入れ担当だ。
魔剣ならさぞかし客寄せパンダになるだろう・・・。
然し農民の反応は冷たかった。
鍬や斧を構えると、クラムの周りを取り囲む。
「あんたはもう帰っていいぜ。セタを倒したのは俺達だから報酬はなしだ。さっさとこの国から出ていかねえと打ち殺すぞ」
クラムは村人は初めから、報酬を払う気がないようなのをやっと悟った。
然し契約した以上は、例え騙されても仕事だけはしなければ、再就職は絶望的なのが、フリーターの辛い所だ。
只働きでも仕事をしないと、契約不履行で捕縛されるのである。
官憲はフリーターの言い分は聞かない。
聞いたとしても、警察に睨まれると、仕事がなくなるのだ。
そんな訳で頑強にクラムは言い返す。
「セタは死んでいない。この狼煙を見れば計略だって事くらい分かるだろう。どこの世界に狼煙を上げて居場所を教えてやる敗残兵がいるのだ?近くを探せばセタは見つかるはずだ」
村人は既にクラムの忠言を報酬欲しさの戯言と決めて掛かっている。
「ああ、聞こえねえなあ」
思い切り馬鹿にして蔑んだ声でクラムに言った。
「セタは死んだんだ。報酬欲しさにこれ以上言いがかりをつけるなら官憲に突き出すぞ」
そう言うと村人5人がクラムを引きずって川へ突き落とした。
「貴様ら。必ず官憲に突き出してやるから首を洗って待っていろう・・・」
クラムの捨て台詞に村人が言い返す。
「馬鹿な奴めが。俺達に支払い能力が無い事くらい推察できねえのか」
農民達は口々に川底へ落ちていくクラムに罵声を浴びせた。
それを見た他の傭兵は一目散に逃走してセタ派に走った。
然し勝利に浮かれる農民達はまだこの事を知らない。
クラムは落ちていく意識の中でこの村人に対する復讐を誓った。
「傭兵達が逃げたようだ。契約不履行の罪で手配しろ。全員縛り首だ」
とことん理不尽だが用済みになった傭兵の末路など何処の世界でもこんなものだ。
だから伝説の勇者様の末路はひた隠しにされ、吟遊詩人ですら歌わない。勿論用済みになったとたん上意討ちにされるのだ。
王にとっては邪悪な魔王軍も伝説の勇者様も同じ敵だ。敵を倒すには必要だが倒した後はどちらもいらないのである。
「川底に2千の農民を派遣しろ。奴の言うとうりセタが万一生きていたら傭兵どもと合流するかもしれん。それからクラムの死体は出来れば回収しろ。セタを殺した英雄として葬ってやらぬと後々言いがかりをつけられるからな」
そしてこのエトナ山を観光地にしてクラム饅頭やクラム煎餅を売ってしこたま設けるのだ。その時、農民の1人が村長に訴えでた。
「村長。娘御のメル・フォート様が傭兵共に拉致されたようにございます。引き換えに約束した報酬を迷惑料の10万ディルスと共に払うよう要求しております」
「何?」
自警団の代表である村長の顔色が変わった。
セタを倒していい気分でいた村人の背筋も凍り付いた。
然し我にかえると、馬鹿にした様に言う。
「何を寝言をほざいている。無視して傭兵共を皆殺しにしよう」
女性に対する偏見が健在のエティル人にとっては人質は無価値であるように写る。
ミストリアは好景気で、女性の権利もある程度認められているが、エティルでは戦乱による荒廃で、政治の道具としか見られていなかった。
セタも少女誘拐に手を染めたが村人は1ディルスも出さなかったのだ。
その娘、エルフのアイリは、何故か陵辱される事なく、セタの召使になる条件で、港の味方に
保護されていた。
「俺の娘を誘拐するとは。叩き切ってやる」
ミレイドの詩人の書いたミストリアの宣伝用小説(ジョンの部下が勝手に書いた)を読んで、
ミストリアに傾倒したらしい村長は、思わず怒号した。
この声に同調したものはたったの12名。
この時点で村長はミストリアへの亡命を考えている。
村長のビグンはこの言葉で確実に失脚して村八分にされるだろう。
「村長。村のしきたりに意義を唱えれば村八分にされますぞ」
娘御は見捨てろと暗黙裡に語っている。
之に対して村長は言った。
「我らの王はルシー様だが?彼女が誘拐されても見捨てるのか?」
ビグンは同調した12名の村人を周りに集めて、3歩下がった。
「あんな小娘に何が出来る?」
之に村長が噛み付いた。
「俺の一人娘だぞ。お前らにだって家族はいるだろうが」
村長はそう言うと傭兵と取り引きするためにマラカシの拠点へ急行した。
この時点で村長の地位を剥奪されている。
クラムを川へ突き落とした村長とは別人だ。
やがてマラカシの拠点へたどり着いた。
食を求めて集まってきた流民の勢力を糾合して1500人に増えていたマラカシは、近隣の村を襲い、4万人の奴隷を従えていた。
「やっと見つけたぞ。営利目的の誘拐なら地図位用意しておけ」
ビグンは誘拐犯に毒づいた。
「そんな事したらエティル兵が討伐に来るだろうが」
部下の2人がビグンを嗜める。
旧エティル長官として有名な、カービー公爵とブレプソン伯だ。
何故かジョンを嫌い、ビグンに匿われていた。
エレナの2万ディルスの献金と、ミストリア皇帝の3千万の契約金でも口説き落とす事ができなかったらしい。
ジョンもエレナも、金を返せと言い募ったが、もはや手遅れであった。
ビグンは10ディルス程度の球菌しか出しておらず、村長は実質的に首にされたので、明日からは路頭に迷う事になる。
「ジョンに仕えようかな?駄目かな、カービーにブレプソン?」
この2人が、ジョンを嫌っている事を知っているビグンは、遠慮がちに聞いてみる。
「まずはメル様を救出する事だ。お前の食事代位、面倒見てやるから心配するな」
ビグンは、カービーが狼煙で掻き集めた、300人近い元部下を見渡して言った。
「お前がジョンの手下になりたいのなら俺たちも仕えて良い。だがあの拝金主義者のジョンと
俺達が仲良くやれると思うか、お前は?」
カービーに言われてそれはそうだとビグンは思った。
確かにブルマー好きの変態王、ジョン・ラッセルでは性格的に愛想にない。
「それは別に良いんだ。シャリーだって凶悪な王だし、俺も結構悪事は働いたしな」
ビグンの心を読んだらしいブレプソンが呟いた。
「ここだけの話だぞ?旧ペクダール皇帝の双子の娘が、ミストリアにいるらしいんだ。俺達は例の瞳狩り戦争の実行部隊なんだよ。あのペレトンとかいうガキもメデューサ・エルフらしいから、下手に仕官したら殺されるに決まっているだろ?」
ビグンはようやく納得した。
確かにあのペレトンが相手では命はないかもしれないとビグンは思った。
「そのシャリーの甥に当たるらしいジョンに仕えている位だから心配ないんじゃないですか?大体あのジョンは何者なんだ?奴の両親はどうなっている?」
ビグンが何気なく聞いてみた。
「母親は、シャリーの手を逃れて何処かに身を隠しているようだが、大方は死んだと思っている。父親はシャリーの手に掛かり、普通のエルフに魔法で変えられて、南方の島に軟禁されたらしいな。ジョンと配下の将軍達は知らない筈だ」
ビグンは之を聞いて呆れ返った。
自分の両親だぞ・・・。
「シャリー失脚後に行方不明になっている。シャリー派の残党共が、密かに処刑したのかも知れんな・・・」
「・・・」
ビグンは不運なジョンの両親に祈りを捧げるとマラカシの兵が守る港の城門に部下を進めた。
「俺の娘を返してくれ」
ビグンはいきなり部下と共に土下座をして泣いて頼んだ。
人質作戦を取られては慈悲にすがるしか手はない。
「お前らにも妻や子供がいるんだろう?」
ビグンは、クラムを暗殺する片棒を担いだ事は忘れているらしい。
「お願いだ。俺にとっては可愛い1人娘なんだよう」
ビグンは泣いて頼んだが、マラカシは無情にも通告する。
「お前が10万ディルスに、傭兵との契約の報酬を払えば返してやろう」
ビグンは再び泣いて頼んだ。
そんな金があったら最初から払っているとは思わんのか?
如何して夜盗は、金持ちの居る街ではなく、貧しい村を襲撃するのだろう?
ビグンは、心中毒づいたが、表面上は泣き落としを続ける。
「金を出せ。お前がたらふく資材を溜め込んでいるのは知っているのだ」
それは村の共同基金の資金だ。
村に橋を建設する為に、7年掛かって蓄えた7万ディルスだぞ。
迷惑な話だ。
「俺は村長職を解任された。資材には手が出せない。それにだ・・・」
ビグンはそこで戦術を変えた。
「そんな金があったら傭兵共に最初からくれてやるわい。娘を返せ。そうすれば見逃してやる」
マラカシがセタとつるんでいると知らないビグンは高圧的に条件を出した。
12名の村民も鍬を掲げて威嚇をする。
マラカシの兵は、そんなビグンをあざ笑う様に微笑を向けた。
「へっ、お前ら、俺の命令うには逆らえん事を分かっていないようだな。まあ良い。3日やる。俺の命令を聞くか娘を殺されるかどちらかにするんだな」
そう言うと威嚇の矢をビグンの目の前に放った。
慌ててビグンは後方に下がる。
「見下げ果てた奴だな」
ビグンは毒づくと交渉を諦めて帰っていった。
12名の農民は、ビグンについて行った。
近くの洞窟に身を潜めて対策を練る。
「如何します?俺達はあいつの手引きをしろと要求されるでしょうね?」
村民の1人が推測した。
あいつらは、貧乏村の村長の娘などを誘拐して、何がしたいのだ?
因みに400ディルスあれば一年は遊んで暮らせるであろう。
「ビグンさん。如何します?」
部下の1人シャルロット・アートニムが尋ねた。
一応村祭りで肉を切る役目を仰せつかった英雄である。
ミストリアの旧王家で、雑役婦をしていたらしい。
一応部下も3名だけいた。
トゥーロとトルハの反乱により職を失い、ビグンの元に身を寄せていたのだ。
部下もついて来ている。
「セタを見つければ娘さんを返してくれるのではないか?ビグンさん。セタを探しましょう。奴を人質にしてメルを開放させましょう。」
セタはプライドが邪魔な上、あの会議と会議室での失策によって正規軍と戦える希望な少しも無い。
会議室とはセタが部下に見捨てられた崖の本陣のことを言っている。
「セタを探すのだ。」
どうせ物好きな女の子の家で匿って貰っいたに決まっている。
それゆえ荒狂う川の周辺を徹底旗に探し始めた。
この頃になるとエレナも自体をようやく違えていた事に気が付き、セタ・ブレーンへの倒滅作戦と評して6万人の兵士を(エティル政府軍に傾斜国と同じ数だけの給料を支払った)送ってやった。
中学生も含めたエリート魔法戦士で構成された最強の魔術師兼戦士である。
エレナはミストリアの豪商イーボルトの支援で集めたこの兵で、セタ排除によるエティルの統一を計画していた。
ジョンはエティルに再侵攻する気は今の所はないらしいので自由に行動ができる。
エレナはそう計算している。
「君達は之から反政府武装ゲリラを撃滅しろ」
学閥で構成された兵の40%を占める24000の女性兵士には、エレナが直接号令を掛けた。
更にエレナは兵士達に与える報酬について付け加える。
「セタの首を取った者は刑務所に入れるが50万ディルス払ってやる。生け捕りにしたら2500万ディルスやるぞ」
この破格の報酬に部下達が色めき立った。
セタを生け捕れば家族が一生遊んで暮らせるだけの富が手に入るのだ。
「エティル王万歳」
「エティル王万歳」
部下達の王を称えるその声はミストリアに届いたと後世の学者によって伝えられた。
明らかに誇張されて伝わっているようだが。
「諸君。あたしは人には優しくするがセタは人殺しだ。しかも人間ではない。捕らえて自決させるかミストリアの裁判官に裁いてもらう事になる」
兵士達は再び歓喜の声を上げた。
ジョンにセタを引き渡せばいくばくかの金が手に入るであろう。
「ジョンのやることもひとつは正しい。世の中金と食料だ」
エレナはそう思ったが身持ちの硬いエティル人にそれは言えない。
「セタは生け捕りにしろ。まあ殺そうとしたって我らの武装では無理だが」
そこで部下が口を挟んだ。
「エレナ姫。セタが本当に捕ったら如何なさるおつもりですか?エティルの国庫にはそんな余裕は・・・」
エレナの口約束を重く見た側近の黒仮面卿は釘をさした。
それを聞いたエレナは悔しそうに歯噛みする。
「セタは逃げたと思う。あのボンクラな我が兵にセタは倒せん。攻撃が効かないのだから倒しようがない。ほおって置いて傾斜国あたりへ逃亡させるのが上策であろう。あんな奴のために我が国民を犠牲にするわけにはいくまい」
エレナは深追いはするなと釘を刺しておいた。
2500万ディルス貰っても遺族に渡されるのでは甲斐がない・・・。
ジョンと戦火を交えて悟った事、それは戦争は生き残る戦いであると言う事だ。
死んでしまっては命を懸けた意味がない。
生き残る為にはどんな卑劣な策でも平気で講じる。
それがジョン流の為政者なのだ。
「一応反政府勢力は討滅する」
エレナはエトナ山に本陣を置くとセタ捕獲作戦と称する山狩りを始めた。
セタに苦しめられた旧ギルモアの農民は喜んでエレナに協力した。
なお、クラムを殺害しようとした農民達はエレナに捕らえられ、契約不履行と殺人の罪で、国外追放になり、ドラゴンのいる島に置き去りにされた。
彼らのその後の運命は誰も知らない。
農民の家族は、エティルにも居られないので、ミストリアに亡命した。
ビグンは特別の計らいで亡命が認められた。
セタはその頃マラカシの手引きにより港で脱出の機会を伺っていた。
ルミが河川で倒れていたセタを連れて港までやってきたのだ。
そしてセタが誇る超大型自動船サラディス(430万トン級)にて脱出する為の食料集めに奔走していた。
「出来れば使いたくなかったのだがこうなっては仕方ない。サラディスで傾斜国を併呑してくれるわ」
そんなものがあるならさっさと使ってエレナ軍を叩いてしまえば良いではないか?切り札の出し惜しみをしているからこうゆうめにあうのだ。
セタの部下はそう思ったがキレやすいセタを怒らせれば、死が待っている。
部下達は口をつぐんだ。
「如何考えてもこの国の造船工には造れませんな」
ルミが相槌を打った。
「エティルにはないでしょう。無論ミストリアにも。我等は船内のゴーレム(無人)製造システムを復活させた。巨人召喚装置もな。傾斜国は我等との同盟を拒否できないでしょう」
セタは、之を聞くと珍しく哄笑した。
「そのとうりだ。然しゴーレムの存在が露見すれば著作権法に違反して我等の技術を真似するやからが出るに決まっている。それだけは避けねばならない」
セタは毅然と言い返した。
既にミストリアの叛乱から5年の月日が流れていた。
ミストリアでは魔術師軍団50万人による戦車部隊ゲラムCの開発に成功している。
人口もミレイドが7254万人(幼子1207万人)。
ミストリアでは4620万人(幼子770万人)エティルが3800万人になった。
人口統計に矛盾があるのは民族が移動をするからである。
ジョンはこの兵で南方のルぜーティア公国を包囲攻略。
傾斜国侵攻の足掛りとした。
セタはジョン艦隊(5千トン級)5千の包囲網を潜り抜けながら傾斜国へ向かう事になったのだ。
この戦いにジョンは介入したらしい。
800隻もの艦船がセタの侵攻を妨げる為に配備されていた。
この主力艦隊は、囮としてセタの前方に陣形を構えた。
甲板には、ゲラムCの主砲が150門搭載されている。
大砲が珍しいこの世界では敵なしの武装の筈だ。
強いていえば、実戦訓練ができていないので、何処までセタに対抗できるか分からない。
「ジョン王が自ら介入してきただと。傾斜国3億の民はジョンにとって魅力的なのか」
セタが珍しく道理に合ったことを口にした。
ジョンがセタ討伐に5千の艦船を投入するとは考えにくく、傾斜国撃滅の為の作戦の序盤と考えるのが普通だからだ。
「厄介だな。あの姑息なミストリアではセタ様に勝ち目はないだろう」
ジョンは兎も角、あの姑息なトルハが相手ではセタに勝ち目はないだろうとルミは思っている。
口にだせば確実にセタに処刑されるだろうが・・・。
「ジョンに傾斜国を取られては天下三分の計が崩壊するではないか」
危機感を募らせた、セタはサラディスを強引に港から出航させ、ジョン艦隊を蹴散らしながら傾斜国を目指すことにした。
ジョンのルゼーティア攻略が傾斜国侵略の布石と受け止められたらしい。
「サラディスを出向させてミストリア海軍を壊滅させる」
セタは命令を発すると、サラディスをミストリア軍の後方に回り込ませて後ろから奇襲する作戦を、ルミの進言により、決行した。
作戦を見破られないように、5隻の船を囮として海軍の前面に出す。
之を見た司令官は、セタを見くびって掛かり、500の艦隊で砲撃させた。
セタ軍はミストリア艦隊の砲撃で沈没して、全員ミストリアの捕虜となった。
セタ軍の本拠を突こうと、艦船を前面に押し出し、港を攻撃させる。
犠牲者は双方0だ。
勝利に浮かれてがら空きになったミストリア艦隊の後方にサラディスは回り込む・・・。
セタは容赦なくやたら豪勢な艦隊の本隊に大砲を打ち込んだ。
「じっ地震か?」
思わずそんな感想を抱く程、ミストリア軍は驚いた。
慌てて大砲により沈没しかけている、艦船の乗組員を救出に入る。
「何だあれは?」
サラディスは、司令官の乗る船を守る護衛官20隻を一撃でしとめた。
こうなっては勝ち目はない。
その余りの巨大さに度肝を抜かれたジョン兵は一応攻撃はしてみたがサラディスの砲門に6隻に50隻以上も沈められると諦めて道を譲った。
然しセタは諦めない。
逃げる船団を徹底的に追撃して負傷者を救出しながら後退する船団をほぼ全滅に追いやった。
「司令官殿、どういたしましょう?」
生き残った兵士が血迷った事をぬかして来た。
この状況で、しかも背後を取られて勝てる心算でいるのか?
司令官は憤慨したが怒りを抑えて優しく言った。
「負傷者を船に乗せて後退するぞ」
「え?逃げるのか?ミストリア将兵の誇りはどうなるのだ?」
部下がまた血迷った事を言った。
この戦いが敗戦だと言う事が分からないとは思えんのだが・・・。
「この戦いはどう見てもミストリアの惨敗だ。幸いにして死者はいないが・・・。もし我らに犠牲者が出たらあの色と欲の権化のジョン様はえらく悲しむだろう。手塩にかけた兵だからな。1人でも損害がでれば、兵の教育にかけた金が無駄になるのだ」
「うっ・・・」
部下達は、悔しさに涙を流した。
しかしそれ以上は抗議せず、セタの船に煙幕を打ち込んでから撤退する。
セタは追撃出来なかった。
この戦いでのミストリアの損害は船4790隻、負傷者170万人のみである。
之により、ミストリアの天下統一は5年遅れた。
セタはルぜーティアに立て篭もったミストリア海軍を艦砲射撃して散々に打ち破り、撤退を条件に降伏させた。
セタはそのままルぜーティアに兵を置き、大ビヤッカ帝国の建国を宣言する。
人口6300万人の大国ルぜーティアから徴兵して300万人をかき集めたセタは動揺を隠せぬパタレーンに侵攻。
之を占領した。
この報告を部下から聞いたジョンは、
「なんて弱い軍隊だ」
と嘆く事しきりであった。
やはり金では強い軍隊は創れないか?
そんなことはないとジョンは思った。
金で動かぬ者などいる筈はない・・・。
ジョンは取り合えず、セタにあっさりと敗れ去り、逃げ帰ってきたハタモン将軍を詰った。
「お前には精鋭5千を与え、パタレーン方面軍を任せていたのだぞ。幾ら300万とはいえ、もう少し持ちこたえられなかったのか?」
海軍への処分は寛大なものだっただけにハタモンは屈辱に耐え言い返した。
「出来たらそうしていますよ。でもそれをやると死人が出るだろう?それで良かったのか?」ハタモンが必死に抗弁した。
ジョンは処刑はしない男だが、追放は御免だ。
ジョンはハタモンにできるだけ優しく言ってやった。
「ああもういい。セタがミストリアに攻めることはないから安心して残存兵5千を休ませろ。もし来るならその時がセタの最後だ」
ジョンは一応残存海軍5千隻を使って海を守らせた。
サラディスの火砲で全滅するのは間違えないのでこちらからは手が出せない。
ジョンは早速金に任せて魔法をふんだんに使った、新型艦の製造を部下に命じた。
金に任せて掻き集めた魔法使いと技術者は、早速命令を遂行する。
「強度を5倍にしろ。金は幾らかかっても構わぬ」
「はっ」
部下はジョンが渡した宝石入りの袋を大事そうに抱えて立ち去った。
早速主力兵器の製造に取り掛かる。
軍師のトルハが割って入りハタモンにも命令を下す。
「サラディスの火砲だって魔力が尽きれば鉄屑だ。撃ちたいだけ撃たせてやれ。残弾が0になっらゲラムCにて反撃する。だがセタも愚かではない。直に大勢非なりと判断してパタレーンに撤退するさ。そして残弾を補給するかするだろう。それを狙って筏で奇襲を掛け、サラディスの動力を破壊するのだ。ハタモンはパタレーンに舞い戻り、反撃のときを待って蜂起しろ」トルハは遠大なパタレーン開放作戦を立案した。
2度に渡って折角占領したパタレーンを奪回されている。今
度こそ確実に占領して保持しようという意気込みであった。
その為に給料で雇った傭兵隊2万(正規軍は年給である)をハタモンに指揮させ、税金徴収は国で雇ったイーボルトの手下にやらせる事にした。
之によってクーデターや叛乱は起こせなくなり、王の権力は飛躍的に増大した。
反乱を起こせば給料の支給が止まるからである。
サラリーマンやサラリーウーマンにとって給料の支給停止は人生の破滅を意味しているから逆らえるわけがなかった。
兵士だって家族を食わせねばならないから給料を60歳位まで貰わないと生活出来ない。
同然終身雇用が伝説となるのである。
それを防ぐための再就職が天下りなどと陰口を叩かれるのだからどうしようもないのである。「王。戦わないのなら今まで訓練を積んできたのは無駄という事ですか?軍隊は何の為にあるのです?」
ジョンの栄光とミストリアの為と信じて軍隊に志願したラーゼ司令官が軍隊を代表して聞いた。
軍の役目は民を守ることではないのか?
しかしジョンの答えは意外であった。
「経世済民の志しを果たす為に君達はいるのだ」
「はあ?」
いきなり超絶に飛躍した話についていけない部下達は唖然としてジョンを見た。
少なくとも兵士達がそういう答えを予測してなかった事だけは確かである。
「我々はセタの軍事侵攻の話をしておるのですぞ。経世済民の志と不戦主義は如何関係あるのです?」この時、ジョンの側で控えていたトルハが説明してやった。
「この馬鹿共が。商業利益を守って税収を確保する為に決まっているだろうが」
能無しの手下や同僚共の余りのアホさ加減にぶち切れたトルハが粗暴な言葉でジョンの言葉を解説した。
「ジョン王はお前達を失って王の権威と税収に穴があく事を恐れている。働き手を失った家族は消費を控えめにするからだ。王にとってお前達は商業利権の一部なのだ。だから最低限の税源を確保する為、結果的にパタレーンを見捨てて無傷で保持しなければならない。今セタと戦えばミストリアの全ての船が沈められるのかも知れないのだぞ。そうなったらミレイドは離反し、税収が減り、国民の生活が悪くなる。そう言いたいのでしょう、ジョン様」
「1つだけ違う」
ジョンが言った。
「僕はパタレーンを見捨てるつもりはない。傾斜国への交易路が断たれては困るからだ。セタとは同じ空気を吸えないが、北傾斜国とは共に天下を収められるかもしれない」
ジョンは手下達のセタ嫌いが影響してセタ音楽と称する風刺歌を手下に作らせ、国民に歌わせていた。
ブルマー好きの変態皇帝とミストリア国民に刷り込み続けるセタ派への反撃である。
もっともセタの悪行たるや余りの酷さであるので反発心から進んでブルマー姿になる貴族の娘が増えてきていた。
はたから見ればアホらしい戦いなのだがブルマー派は、反セタと女子の自由の象徴に受け取られている。
いずれやはりセクハラは良くないという時代が来れば廃れるかもしれないが今の所はブルマー派に抵抗するものは以外にも家の家長や地主、職人などであった。
「あんな奴と僕を一緒にしたら怒るぞ」
ジョンは嫌な事を思い出させられて不機嫌そうに言った。
「僕は確かにブルマー姿の女の子とイチャイチャしたいとは言ったし、今は性的なこともしてみたいと考えている。然し、セタのような卑劣間に変態よわばりされる覚えはない。体制が整い、期が熟したら反撃して補虜にしてやる。皆もその心算で今は自重しろ。今攻撃に出たら、たとえサラディスを捕獲しても追放するからその心算でいろ。分かったか?」
個人的な恨みを心中に重ねて部下に言い放った。
「それにこの際だから訂正しておくが僕はコスプレで性的行為をするならスクール水着で試してみたい。僕の毒牙にかかる少女がいるなら、スク水姿で僕を誘惑する事だ」
最後の言葉はともかく部下達は一応ジョンの真意を理解して言った。
「分かりました。命令があるまではミストリア軍本隊は攻撃を仕掛けません」
部下達は誓約した。
それで当面の問題はミストリア株の信用回復に取り組む事となった。
革命と戦乱のごたごたで株価は1ディルスにまで落ち込んでいるのだ。
言わずと知れた破綻寸前である。
借金も1200兆デイルスにまで膨れ上がっていた。
シャリーの残したサラ金からの借金が膨れ上がったらしい。
取り合えず借金の利子を停止する代わりに爵位を与える事にして無理矢理債権者を納得させた。
因みに公爵である。
債権者は一応喜んで利子の停止に応じた。
断ればジョンは借金を踏み倒すだろうと言った本音はとても語れない。
「戦争をやる前に之を何とかせねばならんな。新税を取り立てるか?」
徳政令を出すのは簡単である。
然しそれをやると経済が崩壊してしまう。
「とにかく宣伝をして株価を上げるのだ」
ジョンはそう決意した。
セタと戦うには経済を再建しなければなるまい。
そして10億ディルスの賠償金を支払う約束をして屈辱的な和平をセタとした。