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帝国の内情

(4)「なんという素晴らしい国なのだ。俺の趣味を分かってくれるとは」

この言葉を吐いた男は勿論イーボルトである。

ミューファに降伏したイーボルトは、ジョンの命令で、酒と女に溺れていた。

女の子の方は、イーボルトの側近であるが、酒の方はミストリアの地酒である。

ミストリアの新商品であるこの地酒を、一応降伏兵であるイーボルトとその部下に、試しに飲ませてみたのだ。

卑劣な名軍師トルハの進言でこうなったらしい。

捕虜虐待と取られかねない暴挙であるが、本人達は満足していた。

酒と言っても、汚れきっている水の変わりに、開発されたものなので、アルコールは少ない。

子供でも飲んで問題にならない位だ。

テラ風で言えば、エール酒のようなものである。

流石にエール酒は子供には飲ませられないが、ミストリアの地酒なら問題ない。

因みに、イーボルトに飲ませているのは、料理用の地酒である。

料理の方も、ミストリアとパタレーンの農家から戦後の復興政策もかねて、50万人分を買い付けて、イーボルトの部下達に振舞ってやっている。

イーボルト本人は、宮廷の料理技術向上を目的として集められたペレトンを中心とする女官達がもてなしていた。

女好きのイーボルトの趣味を理解したこの接待に本人は喜び、30億ディルスを献上して、

ジョンのご機嫌を取った。

この功績により、イーボルトの身分は回復され、一般人として首都圏の出入りが許された。

彼はこの権利を利用して、5人の愛妾と共に新しく建設されたトーポー学問所で女の子の着替えを木の陰に隠れてチラ見している。

ジョンの警戒を解く為の処世術だと、ペレトンとトルハは思っていた。

因みに覗いているのは、陸上運動の着替えである。

ミストリアの新法では見るだけなら罪にならなかった。

しかもトーポー学問所はセクハラにはやたら寛容で、国王の寝屋教室などと揶揄される位なのである。

助平にとってはこれほどの環境は有難いものであった。

トゥーロを中心とする部下たちの一部に、文句を言う者もいたが、元々の口実が国王の愛妾探しであるからそれも仕方あるまい。

しかもその愛妾たる者の年齢が平均13歳なので、ジョンはロリコンだと思われていた。

しかも、この制度によって、行き場をなくしたフェチな趣味の持ち主がラーゼルンに集まってきたのだ。

その数2700人。

彼らの造った街は俗にオタクシティと呼ばれる工業都市となった。

何故か機械工学の達人が多かったが・・・。

最近の王国の工芸品の3割は、オタクシティで生産されている。

税収にすると1億であった。

輸出用に生産された、様々な製品が、港町に運ばれている。

「こんなに美味しい国はねえぜ。女の子の生着替えを堂々と鑑賞出来る国なんてな」

イーボルトは元々助平な気性なのか、愛妾をほっといてトーポーに入り浸る毎日を送っている。

しかも徴税官の職権を利用してブルセラショップ、「スク水の館」まで開いてしまうほどであった。

いらなくなったスクール水着を税収の代わりに徴収してオタクシティのスクール水着フェチの若者に高く売り飛ばすのである。

趣味と実益を兼ねた笑いの止まらない商売であった。

フェチの人種は金の続く限り目的の品を買い漁る性質を持っているのだ。

よって確実にぼろ儲けが期待できるのである。

イーボルトはこの商売で2ヶ月で1億ディルスを儲けた。

税金を(4公6民)支払っても6千万ディルス残る。

愛人5人を囲うには、十分すぎる額だ。

イーボルトは、アリシア方面での商売により、4億ディルスも稼ぎ出していたが、ジョンに資産と株を献上して、一株5千ディルスの株20万を失った。

ジョンはこの資産を運用してミストリアの砂糖生産と、軍馬の改良に取り組み始めている。

龍と馬の混血であるユナホーン(と名付けられた)の生産にも取り組んだが、一部の人権団体の抗議により、4万頭だけ生産されて中止になった。

ユナホーン族はジョンの命令で、ドルクレンの配下におさまり、物資の運搬を担当している。

イーボルトは、ありったけの物資を首都に集めて、ミストリアの経済力の増強に努めた。

「ラナよ。この金で巨大な城を建設するのだ。之だけの金があれば税金を納めても城位建てられる。パタレーンの国境付近に土地を買い、作業に入れ」

イーボルトは、商会の全資産、船(500トン級)4千隻。

財宝1200億ディルスを、首都に借りた借家に運び込ませていた。

財宝を守ると称して、商会の部下3万人を首都に移住させている。

アリシアの商会拠点を失ったイーボルトは、ミレイド、ミストリアで勢力の拡大を図るしかない。

パタレーンの商会拠点もいずれジョンに押えられるであろう。

しかし、イーボルト商会の幹部でもある、愛妾達は即座に反対した。

「アリシアとの国境にですか?」

ジョンの親衛隊長に出世しているラナとイゲスンは難色を示した。

そんな事をされたら遠距離恋愛になるじゃないか?

何の為に、スク水姿になってまでイーボルトの側に侍っていると思うのだ?

一緒に居たいからではないか・・・

「私達は反対します」

ラナははっきりと言ってやった。

然しイーボルトは、女子の事情など考慮に入れない正確であるらしい。

しかもパタレーンは、壮絶な小競り合いの末、奪回した4州以外はアリシアの領土だ。

敵の襲撃を受けながら城を造れと言うのが?そりゃあんたには出来るのかもしれんが・・・。

「私達はイーボルト様と一緒に暮らしたいのよ?アリシアには忠義の部下を送ってください」他の愛妾、メルゲンとマリー、レメンドが歩調を合わせる。

それが癇に触ったのか、イーボルトは珍しく激怒した。

「あいつらを信じられるのか?」

イーボルトは愛妾達に言った。

「俺の栄達を聞きつけ、何処からともなくやって来た7480人のゴブリンと3212人の裏切り者の民と兵士50名をか?俺が勘当された時、奴らがどういう態度をとったか忘れたのか?俺は忘れん。奴等は転生の裏切り者なのだ。信用など出来るか」

イーボルトがミストリアに仕官してからスクール水着好きに転向したあからさまな部下のゴマすりに嫌気がさしているらしい。

しかも全員がミストリアの貴族になれると信じていた。

ジョンはイーボルトの部下に、気前よく騎士の位を授けると、更なる献金を要求する。

拝金主義者のジョンは、イーボルトにとっては鬼門であった。

然し王としてはマシな方だ。

イーボルトは、築城術に長けていて、アリシアの名城を建築している。

要するに自分で建築に行く心算なのだろうと愛妾達は思っていた。

「しかもそのうち6人もミストリアのスパイに成り下がった。俺を信頼しているのはお前らだけだ」

イーボルトがそう言うとマリーがため息を付いて言った。

「そりゃ家族だもんね」

マリー達は言った

何故かいつの間にか愛妾達に紛れ込んでいたエレナも呟いた。

洪水作戦により国を滅ぼされたエレナは、泣く泣くジョンの庇護を受けている。

ミストリアの大将軍(兵10万人)に就任したマリーとエティル軍元帥(兵4千)に抜擢されたエレナは何故か仲が良く、ジョンへのご機嫌伺いを名目に遊びに来ていた。

エレナは突如現れては突っ込みを入れる才能に長けている。

ミストリアの瞬間転送装置(イーボルト所持)により、エレナはいつでもイーボルトの屋敷に行けるのだ。

因みに転送出来るのは一月に3回、3人までである。

マリーとエレナは二人とも一応姫であるので、国賓待遇で料金はたったの8万ディルスであった。

「今日はマリー」

マリーも挨拶を返す。

「ようこそ、エレナ」

一年前のシステリアの怒り戦争の頃なら有り得ない交友関係である。

エレナは一時的とはいえ、天下統一寸前まで1人の犠牲者もなしに突き進んだ英雄なのだ。

トルハの老獪な計略に掛かり、1諸侯に落ちたとはいえ、まともにやりあったらエレナに勝てるかもしれない将軍は11名しかいないだろう。

少なくともマリーでは勝ち目は無い。

ミューファも同様だ。

イーボルトなら勝てるかもしれないが・・・

彼はギルモアを侵略してきたペクダール軍150万をたった390名の手勢で打ち破った不世出の名将なのだがフェチな趣味のせいで愚将に思われ、徴税官にしかしてもらえなかった。

偏見の無いジョンでも流石にスクール水着フェチは変態だと思ったらしい。

ジョンのは只の商売だ。

「俺が5千も軍勢を持っていたらあんな卑劣な戦法を使わずともお前に勝って見せたさ」

イーボルトは不用意に軽口を叩いた。

その言葉にエレナは疑問を持ったようだ。

穏やかに聞く。

「如何してなの?」

イーボルトは答えた。

「お前は軍人にしては優しすぎる。ジョンのように勝つ為には手段を選らばねばと言う所がない。それでは老獪なトルハの策には勝てんさ。盆上の戦争ゲームならお前はジョンに勝てると思うがね」

それを聞いたエレナは顔をこわばらせて聞き返した。

目にわずかに怒りを含んでいる。

「ジョンの差し金なの?システリアの1件は」

エレナは思い当たったようだ。

ふと頭に浮かんだ疑惑をぶつけてみる。

イーボルトは呆れて言った。

この姫は何を今更言っておるのだ?

「それに気付かぬ愚か者はお前位だ。やはりお前は謀略には向かぬ。黒仮面卿は不世出の軍師でトルハに匹敵するが彼だけでは今のエティル領でも納めきれない。本気でジョンに対抗する気ならお前が出陣した後背後を突かれぬ様にするべきだ。それにはスクール水着フェチの男は無能と言う思い込みを捨てるところから始めた方がいい」

イーボルトにとって「スク水大好き」な評判はかなりのコンプレックスらしい。

彼の就職活動に多大なダメージを与える趣味だからだ。

エレナもスク水フェチには偏見をもっている口である。

イーボルトの細かい忠告をうんざりしながら聞いていたエレナは思い余ってたずねた。

「如何してそういう話になるの?あたしがスクール水着好きの英雄を持て余しているように聞こえるけど?」

事実そうだろう。

イーボルトはそう思っていた。

エレナがイーボルトと手を組めば今頃は天下統一を出来たのだから。

最終的にジョンに仕える事にしたが条件次第ではエティルに就いても良いと思っていた・

「俺は之でもギルモアでは不世出の名将と呼ばれた男だ。お前が攻め、俺が守り、黒仮面卿が策を講じる。之ならジョンを打ち破れたかもしれんな。然し俺はそのジョンに仕官している。お前が叛乱の機会を待つ気でいるのなら諦めた方がいい。お前が1国力をアップさせる間にジョンはその10万倍国力を増すだろう。攻め込めばジョン軍は必ず野戦に持ち込むから俺が軍司令ならジョンに7度位は勝利して見せるがね」

エレナは意外に思った。

食料の保護のためか?

あの私利私欲の王が何故食料などに?

「作物を守るために野戦に持ち込むの?卑劣なジョンらしかぬ戦法ね」

エレナは考え込んだ。

民の為に食料を守るなら聖王だし、金儲けなら私利私欲だ。

然し食料など売って金になるのか?

光合成で体力を維持して、滅多に食事を取らないエルフには、食べ物の有難みが分からないらしい。

エレナは考えた末に人間やその他の生物が、食事を取る事を思い出した。

「あの変態王も部下や国民には優しい王であるのか?」

エレナはジョンを見直したようだ。

だがいつかジョンとは決着をつけねばならない。

ふとエレナは思った。

イーボルトだったらどうやってジョンと戦うと言うのだ。

「仮定として貴方ならどうやってジョン王と戦う?」

エレナはイーボルトに聞いてみた。

イーボルトは答えてやった。

自分の戦略眼を披露出来る機会は彼にとっても嬉しい。

早速聞かせてやった。

「南方大陸傾斜国を統一してジョンの目をそちらに向けさせるさ。そして電撃的にエティルを占領する。ジョン王はお前と同じで兵の消耗を嫌うタイプらしい。大陸を押さえてしまえば諦めて、今度はシステリアを炊き付ける事も無く、撤兵するさ。そしてジョンがブルマー好きの変態だと言う噂を流し、ミストリアの保守派を叛乱に走らせる。6千万人はいるんだ。数千人位は不満を抑えられぬものがいるだろう。そしてジョンの国に混乱が続く事を願ってアトポックとサーシアを再併合する。そうしてから返す刃でミストリアを奇襲すると言ったところか。そして和平に持ち込み、北はミストリア。南は傾斜国に譲り、天下を三分する。之だけなら5年もあれば簡単だ。然しその後を聞きたいのなら雲の彼方に住む雲巨人でも味方につけるしかないだろうな。ジョンは未だ制空権は握っていないから空軍を創設すればミストリアに勝てるかもしれんぞ」

ミストリアの龍部隊は、作物の促成栽培と森林の保護に使われており、戦争兵器ではない。

然し流石のイーボルトもジョンが空船部隊の創設に走っている事には気づいていないようだ。エレナは諦めたように呟いた。

「やってみよう。然し無駄に終わる公算の方が大きいかな?」

あくまで仮定の話ではあるがエレナは本気で出来るだけの才覚がある。

エレナはイーボルトやマリーとの歓談を早めに切り上げると領地に戻り、金に任せて雇った8万人の兵を引連れ、武装蜂起に走った。(イーボルトはこの機密漏えいの罪で3階級降格され、中央政府がら、パタレーンに左遷された)

エレナは、軍を5手に分けると、ミストリアの守備兵の守る城を急襲して之を散らした。

更に、ジョンの部下でエレナ級の孟将ザドエンが6千の義勇兵にて立て篭もる城を瞬く間に包囲する。

ザドエンは、一応エレナ軍を独自に考案した煙玉で後退させると、部下を集めて言った。

「エレナは馬鹿なのか?武装叛乱などジョン王の250万人の正規軍が来ればたちまち鎮圧されるぞ」

ザドエンはジョンの勝利を信じて疑わない。

「まったくですな」

部下達が調子を合わせる。

「兵糧も我等だけなら3年は持つぞ。金だって10万人の兵を半年雇えるくらいはある」

エレナの最初の一撃を耐え抜けば、反撃のチャンスは幾らでもあった。

それ故に油断しきっているようだ。

ザドエンは取り合えずエティル方面軍を組織して自力で城を守る一方、本国に救援要請を送った。

たかが10万弱の兵など、ミューファの率いるミストリア軍の敵ではない。

「1月もあれば援軍が来る。それまで持ちこたえろ」

ザドエンはエレナに降伏しようとした部下達を地下牢放り込むと二百の兵でエレナ軍を迎え撃った。

エレナを見くびって、どうせ負けたら城に逃げ込めば良いと思っている。

エレナはザドエンを無視して城を攻撃、残存兵を虜にしてしまった。

「何だと・・・?城が落ちる訳がない」

部下の報告を受けたザドエンは城の金蔵を見捨てて北に逃げて行った。

「降伏してエティルの大将軍にならない?今なら北の4州の太守にしてあげるよ」

エレナは北へ逃亡したザドエンに寝返りを進めた。

しつこく使者を送りつける。

それに観念して降伏する太守がちらほら出始めていた。

「エレナ様。あの悪逆非道なミストリアから女性を解放いたしましょう」

「ブルマー好きを強要する王に仕えたくありません。」

エレナは余りにもイーボルトの予言どうりに事が進むので拍子抜けしていた。

傾斜国はあっさりとエレナと同盟を結び、保護国化している。

そしてエレナにとって幸運な事に、ミストリアの南部のチノハラ高原でジョン王の治世で初の反ブルマー大乱と呼ばれる武装蜂起が起こった。

叛徒は92名。

即日鎮圧されたが残党が海賊と結びつき、小塔を根城にヒカカキア共和国を宣言。

イーボルトの支援を期待してパタレーンに進撃した。

イーボルトはこのヒカカキア共和国に何故か大敗して、ジーダン領に逃げ込んだ。

「何?パタレーンが落ちたと言うのか?」

正確には、占領されたのはパタレーンの東半分だが、エレナは意外に脆いミストリアの軍事態勢に拍子抜けした。

ジョン王の側近のドルクレンは何をしているのだ?如何してパタレーンとエティルに増援部隊を送らない?

「恐らく反乱など即日鎮圧出来ると思っているのでは?」

「イーボルト様はあれでミストリアの名将ですからな」

エレナも言い募る。

「甘いな。イーボルトさんはあたしを見くびっていたらしい。ザドエンにこの事を伝えてやれ。降伏するしかなくなるはずだ」

エレナは黒仮面卿に命じて占領地の太守と兵を集めさせた。

そして2ヶ月掛かってエティル全土をほぼ手中に収めてしまい、ザドエンを孤立させた。

抵抗らしい抵抗は、エティルではもはや見られない。

然しエレナは焦っていた。

「降伏するように説き伏せられるものはいないのか?」

エレナは苛立って尋ねていた。

ザドエンを降伏させることが出来ねばいずれ体制を立て直したミストリア軍に殲滅されてしまうだろう。

どうせジョンの本隊が来るまでの優勢とはいえ、備えはしておくべきだと思った。

あの高慢なジョンに一子報いなければ気がすまない。

「黒仮面卿。そなたが出向いてくれぬか?幾ら人材を集めてもザドエンを逃がしてはエティルの統一は有り得ない」

焦ったエレナは、建国の基本方針を撤回しようとした。

それを黒仮面卿本人が押しとどめる。

「エレナ姫。幾らミストリアが制海権を握っている海域でも5000トン級戦艦がエティルに来るのには一月位は掛かるはずです。かの国は内戦の最中であるようですので、暫くはこちらには来ないと思います。来たとしても反乱を平定してからなら三月位は掛かるはずです」

黒仮面卿が希望的観測を口にした。

敵の主力軍を撃滅しないで首都を占領してもいずれは、兵力で勝るミストリアに奪回されてしまう。

兵学の基本らしい。

「兵の一部を山岳にやってドラゴンを退治させろ。その財宝で篭城戦に備える」

エレナはよほど焦っているらしい。

王城に立て篭もってミストリア軍を防ぐ心算でいるようだ。

黒仮面卿はそれを押しとどめる。

「姫。それをやるくらいなら話し合ってみてはいかがか?」

黒仮面卿はザドエンとの話し合いを提案した。

トップ会談である。

「応じるかな?」

エレナはザドエンの性格を考えた。

会談に応じれば虜にされるに決まっている。

「応じるでしょう。奴はジョンとはしっくりいっていないと思う。降伏の口実を探しているはずです」

この旨を書き記した書簡をザドエンに送りつけると観念したのか意外にあっさりと降伏してミストリアに帰る事を承諾した。

「如何いう事だ?ミストリアはエティルを放棄する心算なのか?」

ザドエンを追い払い、エティル全土を手中に収め、陸軍が上陸できないように竹の柵を全ての海岸線に整備してからエレナは尋ねた。

「知った事か。我々はこの国民を飢えから救わねばならないのだよ。その為に比較的豊かなビンチや洪水の被害が少なかった北部地方から穀物を買う金が必要なのだ」

エレナに登用された学者のエドウィンがエティルの統治司令官としてありったけの食料をかき集めてきたのだ。

このせいでエティルの軍資金は3日で底を尽いた。

明らかに宿敵ミストリアの配下であるバルボン将軍からの援助米を受けざる負えない。

そしてバルボン将軍がエティルから出ることは無かった。

「耕作地が回復するまで年貢の取立ては勿論無い。ミストリア軍の残した兵糧で飢えをしのがねばならん。然しミストリアの配下となったかつての北部地方からは取り立てるぞ。ミストリアの庇護の下繁栄を謳歌しているのは事実のようだからな」

実際ミストリア量になってからミューファの考えた密集農法により収入は(播種量3粒で)4倍に膨れ上がり、(10cm間隔で12種類の穀物をまとめて植え育てる新農法。

酷く土地が痩せる為、連作は出来ない。)

かつて無い豊かな生活を謳歌していた。連作は出来ないので農法は3圃制である。

ちなみにビンチはこの穀物を餓えた貧民に高く売りつけ、大儲けした。

「ルシー姉様。暫くあたしは流民となった我が民をかき集めてまいります。部下を残していきますのでミストリアの侵攻があれば兵糧を奪ってください。それからエティルの本領の72万の民衆の税金は流民を呼び戻すために使います。そしてエティルを再建してみせる」

エレナは早速部下を各地に放って国民を集め始めた。

ミストリアの侵略を跳ね除ける為にはジョンに懐柔された北部の兵では駄目だ。

信用のおける流民の兵が必要なのだ。

「エレナ様。流民2万人集めました」

「こちらは8万人です」

たったの9ヶ月で394万人かき集めたエレナ達は、土地を与え、耕作を開始させた。農民と化した流民達は国家の手厚い援助を受けながら1月位で育つもやしの栽培に力を注いだ。

とにかく何でもいいから腹にたまるものを作るべき状況である。

耕作地では取り合えず、三圃制で麦と豆を作らせた。

一応北部の民2743万人を含めれば食料自給率は85%である。

北部は豊かな穀倉地帯が広がっている。

然し何時反抗するか分からぬミストリア派の民を信頼するわけには行かないのだ。

今のところは・・・。

「目指すは播種量15粒だ。徹底的に優良種を探し出せ1粒や2粒なら必ずあるはずだ。それと土の改良だ。分かったか?」

エドウィンは北部地方からのなけなしの食料を均等に分配して餓えから民衆を救うと土の改良に取り掛かった。

ミストリアの隆盛の秘密を土と播種量にあると見抜いたあたりは凄かったが手遅れであった。ミストリアではこの一年の間にミスリルの飛空挺、(500トン級)エレーナを開発していた。

勿論名将エレナ・トゥースにあやかったのだ。

因みにミストリアのシレーリムは、播種量も研究の結果81粒にまでなっている。

エレナが之を知ったら流石に諦めて降伏するだろうと思うが不運にもエレナは知らなかった。「エレナ様。播種量7粒のシレーリムと思われる草の群生地を発見いたしました」

この程度の情報でおお喜びする位技術的には遅れをとっている。

エレナのカリスマ性のみがエティルを統一国家たらしめている要因なのだ。

ちなみに、ルイスがトレニアに食べさせたシレーリムがいつの間にか群生したものらしい。「ルシー姉様。あたしはミストリアと和平したいと思います。姉様のお力で実現させてもらえませんか?」

ルシーは怪訝そうに答えた。

「和平?私が皇帝なる名誉職に留まっているのは病弱だからだ。

それを踏まえて言っているのか?」

「はい。能力的にはあたしより姉様の方が上の筈です。ミストリアと和平できるのは姉様しかいません。ここで和平出来なければヒカカキアを平定した後にエティルを滅ぼそうと軍を派遣してくるでしょう。火球の呪文でも使われた日には竹の柵など何の役にも立ちません」

「柵などなくてもよい。帝国は磐石だ。今すべき事はミストリアに対抗する海軍を編成する事。そしてシステリアと講和する事だ」

ルシーは机上の空論を並べ立てた。

然し実行するべき者はルシー本人である。

「私は王都を動けぬ。ミューファ殿は果たして来るかな?」

エレナは一瞬誰のことを言っているのかと思った。

ルシーはミューファをミストリアの主権者と思っているらしい。

「ミストリアの皇帝はこの国と同じく名誉職です。実際にはジョン王が実権を握っております」

之を聞いたルシーは笑い出した。

「それならミストリアは恐れるに足らずだ。お前と戦に及んで勝てるのはミューファとイーボルト位しかおらん」

ルシーは勝つ為なら手段を選ばぬジョンの恐ろしさを実感できていないらしい。

トルハは、ミストリアの勝利の為なら、惑星をエティルに落とす位はやる姫である。

「ミューファ殿はお前より強いぞ。あの娘をジョンが傀儡にしているなら確実にミストリアは分裂する。暗殺するか利用するか出来ないならジョンの負けだ。何時の日かミューファにジョンは討ち取られるかもしれない」

それまで大人しく数十年も待っていろというのか?まあいい。どうせ講和する心算でいるのだ。

ジョンが愚かなセクハラ容認政策で議会に解任されるまで、大人しく待ってやろう。

もっともジョンが倒されればミューファが政権を取って内戦になるのでなければ待つだけ無駄であるが。

エレナはほくそ笑むと、エティルの再建計画のために、重臣達との協議に入った。

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