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エティルの内戦

プロローグ2(1)エティルの内戦

ルイスはトゥーロに暇をもらうと海を渡り、ミストリアの東方のエティル・ゼフィナ大陸を訪れていた。

パタレーンでの戦火を逃れ、ルイスに助けを求めてきたエルフ720人と3人の娘を引き連れてである。

姉のルシー・トゥースと妹のエレナとアミだ。

エティルの東にある旧ミストリア領のペクダール大帝国を目指している彼らは、エティルの1州ババロアで有り金をはたき、補給を済ましていたのだ。

一応軍隊を所有しているので、難民の中から編成した50名の精鋭軍の為の馬も必要である。

主要武器は5mの長槍であった。

鎧は軽装のレザーアーマーであった。

この武装を整える為に使ったトゥーロからの退職金とミストリアの実権を奪ったペレトン達が褒美にくれた軍資金は底をつく。

軍隊は滅多に生産活動はしないので、金は減る一方なのだ。

領地はないから、屯田を起こすわけにもいかない。

仕方がないので、1万ディルスの賞金を賭けて、賭け路上武道会を開き、参加費100ディルスで数百人の挑戦者を集めて試合を行った。

ルイス軍の豪傑白鷺将軍の活躍により、475勝6敗と言う、好成績で資金を蓄え、ルイス軍に参加を求めてきた豪傑8人と流民400名(人間)を配下にした。

之が折角集めた軍資金を枯渇させる事になる。

路上舞踏会で儲けようにも、豪傑白鷺の噂は街中に広がり、100ディルスも払って挑戦する物好きな腕自慢はババロアにはもう居なかった。

因みにルイスの逗留によってババロアは、好景気に沸き、税収も6割り増しにまで増えている。

「ルイスさん。俺達どうなるんでしょうね?」

720人のエルフ達を代表してルイス軍団のスポンサー、アーケノイドが言った。

「金はもうないぜ。ペクダールではリース・サーパント率いる夜盗勢力の支配下にある。やはり正統派のペレトン様にお仕えするべきではないのか?それともお前は王になりたいのかね?」

取り合えずこの状況を何とかしてくれればルイスが王になっても反乱者になっても構わないのだが忠告だけはしておいた。

ルイスは何を今更と言うべき表情でアーケノイドを見つめている。

「俺だって王の血をひいている。オリジナルのエルフは6人しかいないのだからな。ジョンとミューファとシャリーとミレイレアとレナとセタの6人だ。後は古代ミストリアが培養した2体の複製品から増やしたのだ。その2体がペクダールの初代の王なのだよ。当然全てのエルフが王の血をひいているのだ。俺が王になって何が悪い?」

ルイスはそう公言した。

之を聞いたアーケノイドは諦めたように呟いた。

「それなら他のエルフの流民達にも声をかけましょう。ルイスさんはこの国に腰を落ち着けて兵力を養ってはいかがです?そして領主のバーゲン王に使いを出して領地を分けてもらいましょう。この国は豊かです。税収9割でも餓死者が出ないのですからね」

それは謀反せよという心算か?

「エティルの軍人になるのです。そして北をバーゲン王のモラギーナ公国。南をエティルに分け取りして勢力を蓄え、ペクダール王を討つのです。そして頃合を見てモラギーナを討てばミストリアに対抗できる大国にのし上がれるでしょう」

アーケノイドの献策はルイスによって魅力的であった。

北部7州を支配する(直轄地1州)モラギーナを後ろ盾にすれば天下統一も夢ではない。

気掛かりなのはモラギーナを裏切る時がいつか来るという事だ。

ルイスはモラギーナと天下を二分する気はない。

「アーケノイド。あんたが交渉してくれるのか?」

ルイスはその場で手紙を書くとアーケノイドに渡した。

「俺は土産代わりにモラギーナ国境外の大国サーテー公国を(2州)落す。エルフ達はサーテーに進出して反乱を起こせ。残りはサーテーのアルカニアン城を奇襲して之を占領する」

ルイスはそう言うと50名のエルフを引連れ、その日の内にアルカニアンに奇襲をかけ、激烈な攻防戦の末、敵兵全員を捕虜にして之を落した。

この地で、50名のエルフ軍のうち、怪我をした7名を除いた43名に、帰順させた敵兵3千人を再編成して自軍に取り込み、軍を強化すると金蔵を開いて民衆に分配して人気取りに勤めた。

更に4日後、サーテー公国首都ダルニアンを制圧。王と騎士団6千は、東方の7州を領有するエンドレ公国に落ち延びた。

ルイスは取り合えず追撃は避け、国内の整備に時間を費やした。

国内の商人を拝み倒して軍資金を用意したり、国民の税金を2割下げ収入の40%までに引き下げたり、エルフの流民を受け入れて3千の兵を編成したりである。

この軍資金集めは慣習化して一月に40%の臨時税を払う事になってしまう。

「分かっていると思うが産業を興せ。人口102万のサーテー公国ではエンドレの反撃を食らえば全滅だ。兵を雇う安定収入が必要なのだ」

ルイスはエンドレと細やかな軍事紛争を起こしていた。

このままでは人口1500万人のエンドレが60万の大軍を率いて反撃してくるだろう。

それだけは避けねばならない。

「ルイス王陛下。敵が反撃してくる前にこちらから奇襲してエンドレ王を打ち破り、その兵を合わせてエンドレを占領してしまうしか手はありません。兵力を総動員しても4万人くらいしか集められませんから」

部下の1人がそう進言した。

そのとうりだ。俺もそう思う。

「最初の計画通り、モラギーナに援助を頼んだら如何だ?」

アーケノイドがルイスに忠告した。

「金と食料と馬を集めてからだ。基本税が20万ディルス。臨時税が100万ディルス。貢物が200万ディルスだ。之で傭兵を雇えるだけ雇え」

ルイスは部下の進言を無視。

主力隊5千をエンドレに派遣した。

ルイス軍は局地戦にてエンドレ軍を敗退させ、捕虜にした兵を自軍に取り込み、総兵力2万人にまで数を増やした。

エンドレ軍は国境守備隊を15万に増強。

無敵の騎馬隊にて対抗する。

「騎馬隊など、柵で防いでしまえば良い」

ルイスの部下の一人が、そう忠告して褒美に、金貨5千枚を貰っていた。

その部下は、サーテーに豪邸を買い、部下を10名雇ってルイス軍の中尉に取り立てられた。

その兵で近隣の夜盗や海賊を制圧して、捕虜5千名と鹵獲した400トン級帆船6隻をルイスに献上して、海軍大尉に昇進したのだ。

大尉となったその部下は、デトンと名乗り、捕虜の海賊を通じての密貿易により、資金を蓄え、100隻以上の600トン級帆船の製造と、乗組員8千人の訓練を始めた。

「何だと?ルイスの奴が海軍の編成と訓練に乗り出しただと?」

エンドレ王は、宰相メッサイアと警護隊長ロラン、国軍司令官ガイの前で恐怖に震えた。

如何考えてもルイスの次の侵略目標はエンドレだからだ。

「はい。一応国境守備隊は増強しておきましたが、たぶん負けるでしょう」

ガイは数こそルイス軍の30倍だが、貴族による寄せ集めの騎馬隊では、ルイスに勝てない事を悟っている。

しかもルイスはあの名宰相トゥーロ(元)の部下だった男だ。

ルイスの背後には、パタレーンの大半を無血開城にて制圧して、好景気に沸いているミストリアがついているのだと、誰だって誤解するだろう。

「だが降伏するわけにもいかぬ。我が部下達への義務もある。メッサイア。海軍を動員してデトン軍を撃滅させろ」

この命令を受けた海軍500隻は、サーテーの港を早速攻撃すると、デトンの軍を港の防備に釘付けにして、上陸部隊4万を陸から港に差し向けた。

港の守備兵400は、当然敗れ去り、補給を絶たれたデトン軍は水上艦隊の夜襲に切り替えて応戦する。

この戦法は、20世紀のテラ(地球)でもやった軍隊は少なかった。

闇の中では連携作戦は困難だからだ。

「港は占領するな。占領したらルイスは諦めてこの地を放棄する。ルイスがこの地に送り込むであろう救援軍を撃破して、そのまま国境守備隊15万で各個撃破するのだ」

作戦の司令官に任命された、白衣将軍は港を含むサーテーの村々を、広範囲に襲撃する事で、ルイスが派遣するであろう討伐隊を分散させて各個撃破する作戦を採用した。

ルイス軍は陸軍2万。

海軍8千。

兵を分散させ、5千位になった所を奇襲して壊滅させれば、ルイスに勝機はない。

案の定ルイスは、娘のルシーに本国兵2千を預け、次女のエレナに1万の兵を与えて港を救援に行かせ、末娘のアミに5千の兵で国境守備隊を奇襲させた。

「白衣将軍。ルイス軍が出撃しました」

エンドレのスパイが報告してきた。

白衣将軍は、報酬の500ディルスをスパイに与えると引き続きルイス軍を監視させる。

白衣将軍は命令を下した。

「15万の兵を5万ずつ分け、三方からルイス軍本隊である1万の兵団を攻撃する。我が軍の主力部隊であるエンドレ王の本隊を狙っている5千の兵は、エンドレ王が片付ける手筈になっているから心配するな」

白衣将軍はエレナ軍の進撃するであろう山岳地帯に兵5万の本隊を、残りを5万ずつ川を前にして布陣させた。

エレナ軍を川に誘い込んで三方から攻撃して壊滅させる古典的な戦法だ。

エレナは、敵の作戦は分かっていたが、取り合えず川を前に布陣させると増援部隊を待つ戦略に出た。

上陸部隊の4万は、エレナ軍の背後に布陣して、慎重に敵軍の分裂を待つ。

アミ軍の方は、エンドレ王自ら指揮している40万の軍隊に囲まれ、山岳地帯に逃げ込み、応戦していた。

2人共初陣であるが、脅威的な統率力で白衣将軍の配下の猛攻を防いでいる。

慎重なれど、やはりルイス軍を見くびっていた、白衣将軍は攻めあぐねて、当惑していた。

普通60万対3万で、勝てないなどと言う事はありえない。

エンドレ王もエレナ軍は兎も角、アミ軍は一蹴する心算でいた。

「如何して40万の精鋭を動員して5千の兵を打ち破れないのだ?」

何故かルイスの軍才に恐怖しているエンドレ王だが、やはり味方の勝利を信じたいらしい。

苛立ちを隠さずに、無能な部下を罵った。

ガイがそれを止める。

「焦りなさるな。補給は出来ないように完全に包囲しているのですから、一月もすれば崩壊します。今は建物にありったけの火矢を打ち込んで、敵軍の野営を焼き払う事です」

敵の兵力は3万。慎重に持久戦に持ち込めばルイス軍に勝ち目はない筈だ。

アミ軍さえ崩壊させれば、ルイス軍は劣勢になり、増援部隊も集まらなくなる筈だ。

敗軍の将に雇われる物好きな兵は少ないだろう・・・。

然しアミ軍は巧妙だった。

夜な夜な、敵軍の火矢により燃え上がる炎と煙に紛れて、夜襲を行い敵軍を恐れさせた。

勢いに乗ってエンドレ王の本陣を急襲して双方に犠牲者なしで、エンドレ王を国境まで押し戻した。

アミは直接対決はアミ軍の自滅を招くので兵を休ませ、本国に補給部隊の派遣を要求した。

ルイスは募兵した3千の新兵と一月分の食料を送ってくる。

エンドレ軍は、軍隊の建て直しに躍起になり、補給線の襲撃は行わなかった。

エレナ軍はこの勝利を知ると川を渡り、挟撃覚悟で正面の軍を攻撃して、奇跡的に勝利した。

犠牲者は双方0である。

白衣将軍が挟撃を仕掛けた時には、大勢は既に決していた。

白衣将軍は兵を纏めて、山岳地帯に引き上げてしまう。

唯一港に派遣された4万の兵のみが、転進して訓練不足のルイス海軍を崩壊させた。

エレナ軍は之に構わずに、兵力を増強。

5千の兵と3千の馬を募り、川を前に再び布陣した

「それでいい。直に兵を発して国境守備隊を撃滅する。兵は後から送ってくれ」

先発軍の勝利を知ったルイスは、自ら兵を率いて前線にやってきた。

速戦速勝がモットーのルイスは3千の兵と共に国境の砦に奇襲を掛け、之を降伏させた。

辛うじて何を逃れた司令官のモザトブは州都ヘザンに立てこもり、体勢を立て直そうとしたが敗残兵を吸収して15万に膨れ上がったルイス軍に包囲され、降伏した。

ルイスは更に3州を攻略。首都のコールを包囲した。

アミは4万。

エレナは5万の兵を引き連れ、港を攻撃しているエンドレ軍を攻撃、之を散らした。

白衣将軍の軍は本隊の敗北を知ると、ルイス軍の侵攻に備えようとして本国に帰還中、エレナ軍の奇襲を受け、総崩れとなり、エレナの捕虜になってしまう。

「白衣将軍殿。我が父上に従う気はないか?その気があるならあたしの一存で5千ディルスの月給と領地を捻出してもよい」

エレナは破格の条件で、白衣将軍を誘ってみた。

「お前ならルイスを裏切るのか?そうではないだろう」

予想どうり白衣将軍は寝返りを拒否した

まあ本国には家族もいる。

寝返ったら家族が酷い目にあうので、降伏するわけにも行かないのだ。

「ではエンドレに帰るといい。貴方は人傑だが、兵数が同じ条件で戦うなら負けはしない」

エレナは白衣将軍に武器と食料を与えて、あっさりと放逐した。

その白衣将軍に、敗残兵6万が合流して一大勢力となる。

敗軍の将ではエンドレには帰れないので、兵と自分の家族を本国から密かに呼び寄せ、船に乗り、アリシアに落ち延びていった。

アリシアには、不世出の名将イーボルト率いるイーボルト商会が存在するのだ。

彼の力が借りられれば、形勢は逆転するかもしれない。

彼の恋人のマリーも、ジョン王と比べても遜色のない名君として評判である。

ある事件により、故郷を追放されなければ、エティルはイーボルトによって統一されていた事は間違えない。

然し追放された事により、彼がその才能を発揮する機会は今の所は失われていた。

「イーボルト殿の力を借りて形勢を挽回するしかエンドレには再起の道はない」

白衣将軍は、海軍をエレナ軍への押えに、2隻残して本軍とアリシアに向かった。

白衣将軍はアリシアに着くと、イーボルトに20万ディルスの大金を献上して、面会と助力を乞うた。

イーボルトの兵は2千名だが、エンドレ兵などよりは、見た目も強そうである。

イーボルトは面会を許可すると、あからさまに嫌そうな態度を見せた。

「俺は何度か帰国に仕官を申し入れた事があった筈だ。今になって何を言っておるのか?」

イーボルトは、一応面会には応じてくれたが援助する気はないようだ。

然しそれでも諦める訳にはいかない。

「非礼は王に代わってお詫びいたします。エンドレが滅亡すれば、ルイスは貴方の故郷のギルモアも征服しますぞ。それでも良いのですか?」

白衣将軍は、部下と共に懇願した。

イーボルトは之を聞くと冷酷に言い渡す。

「俺を脅すのか?俺はお前と友好関係にはない。アリシアもエンドレとは国交がない筈だ。俺がお前らを捕虜にしてルイスに送りつけようとも勝手と言う事だ」

イーボルトはアリシア国軍司令官のマリーに声をかけると、マリーは5千の兵を繰り出して白衣将軍を包囲した。

外に展開している6万の兵は、アリシア軍4万にあっさりと降伏して捕虜となっている。

「白衣将軍。お前はルイスに引き渡す。お前の兵は再編成してマリー姫の配下に組み込まれる」

「正気か?ギルモアを裏切るのか?」

白衣将軍は捨て台詞を吐いたが、時既に遅し・・・。

白衣将軍はマリーの近衛兵のよってたかっての攻撃についに降伏した。

「待ってくれ。分かった、降伏するからルイスに引き渡すのは止めてくれ」

白衣将軍は所持していた剣を放り投げると、大人しく捕縛された。

「良いだろう。特別に許してやる」

イーボルトは大嘘をついた。

命乞いに応じる気はない。

イーボルトは取り合えず白衣将軍を屋敷の地下牢に放り込むと、ルイスに呼応してアリシアに侵攻するかもしれないミストリアに備える為にマリーを国境まで追いやった。

因みにイーボルトに軍の指揮権はなく、立場はマリーの副官である。

それも実権はなく、早い話居候であった。

それでも自腹で雇った2千の兵は、その頃アリシアに侵攻して来たアルトニアの大軍5万を打ち破り、ミストリアのミューファのアルトニア攻略に貢献している。

それに加えて度重なる勝利で、調子に乗ってアリシアに侵攻して来たミューファ軍10万を激戦の末撤退させた。

お互い不殺の兵団を気取る将軍である故に、犠牲者は出ていない。

この局地戦が、酷くルイスを不安にさせたらしい。

アミの軍権を剥奪して、有効使節として派遣した位だ。

アリシアはアミの提案をのみ、ルイスとアリシアは同盟を結ぶ事となった。

「己。ルイスの奴。全ての国境兵を集結して袋叩きにしてやる」

同盟の話をエンドレ王が知ると、彼は心底怯えた。

エンドレ王はいきなり訪れた、帝国の落日に少し混乱しているようだ。

国境兵を動員すればルイス以外の隣国が領土に侵攻を始め、コールだけになってしまう。

首都にはまだ8万の兵が残っていた。

「落ち着いてください。敵は強行軍を続けて疲れきっているはずです。今、夜襲を掛ければ、ルイス軍はヘザンまで後退する筈です。そしてモラギーナを誘ってサーテーを突かせれば確実にルイス軍は孤立して崩壊します」

之を言ったのがセタの妹セリア・ブレーメンである。

彼女はヘたれキャラのセタと違い、冷静温厚な人柄であった。

鬼畜な兄に耐えかね、別行動をとっているらしい。

「篭城すればアリシアの名将マリーとイーボルトが援兵を送るかもしれません。イーボルトは白衣将軍などとは比べ物にならない人傑ですぞ」

夜襲により、決着をつけてしまえば、アリシアが如何動こうと数の力で押さえ込むことは出来る。

セリアはそう計算していた。

エンドレ王はそこまで読みが深くない。

「お前の忠告は有難いが其れは出来ない。危険を冒さずとも兵糧が尽きれば撤退するさ。其処を襲撃すれば良いだけではないかね?」

ルイスの恐ろしさを知らない王は軽く笑い飛ばした。

潜在的に恐れていても何処かでルイスを見くびっている。

現実逃避という奴かもしれない。

セリアも言い返した。

「それではルイスは併合したケタルかルキセアかドトーランに要塞陣地を構築して守りを固めてしまいます。決戦を日延ばしにする度に勝ち目がなくなるでしょう。こちらの兵糧も2か月分しか残っていません。もし先に兵糧が尽きたらこの国は滅亡します」

この言葉に王が折れた。

不運な事に、エンドレ地方は凶作である。

食料の補給は望めなかった。

50万人以上の兵と数万人の使用人を抱えていたのである。

余剰食糧などあるわけがない。

篭城は滅亡を早めるだけだろう。

「良いだろう。2万の兵を授ける。3州を奪回してヘザンに撤退させてみよ」

どうせ無駄死にだろうと思ったが、兵を与えた。

口減らしにはなるだろう。

「はっ。必ずルイスの首を取って見せましょう」

セリアは大見得を切って宣言した。

セリアはその夜、2万の兵でルイスの本陣めがけて突撃した。

「やはりそうくるよな。おい、民衆にあのことはちゃんと言ったか?」

奇襲を予期していたらしいルイスは兵に撤退命令を出した。

兵糧の補給が続かないのはルイス軍も同じである。

戦争で商船が通れないので、傾斜国からの麦が入手出来ないのだ。

しかも海軍ではルイス軍のほうが劣勢である。

エンドレ海軍は2隻しか残存していないが、それでもルイス軍が相手なら対応できた。

「はい。ルイス様が領主である限り税金は収入の40%であると触れ回りました」

「そうか。ではヘザンに撤退する。糧食の欠乏しているこの時を狙って猛攻を掛けてくるとはエンドレにも知恵者がいるようだ」

ルイスは、足手まといになる投降兵を先に監視付きで逃がしてから4万の兵と共にヘザンへ逃げ帰った。

それを追撃して15万に増えたセリア軍がへザンを包囲する。

「この機に乗じてサーテ-とモラギーナを占領するのだ」

初めての大勝利に浮かれたセリアは最初の作戦を変更して直接モラギーナを攻撃して散々に打ち破った。

そして強制的にサーテーに宣戦布告させ、10万の兵で難攻不落の名城アルカニアンを攻撃させた。

ルイスはアミに5千の兵でアルカニアンを守らせ、本隊はセリア軍を牽制する。

ミストリアからの交易再開の交渉の使者はこの時来た。

ペレトンはここぞとばかりにミストリアとの同盟を提案する。

「ルイスさん。久しぶりですね」

まずは丁寧に挨拶した。

「ようこそ。俺に用があるならあいつらの首を手土産にくれんかね?」

ルイスがいきなり条件を言い出した。

エンドレ王の首とセリアの首である。

この条件にペレトンは多少戸惑った。

ミストリアは、不殺の王国である。

ペレトンは答えてやった。

「良いでしょう。でもミストリアは人殺しはいたしません。平和的にエンドレを内部崩壊させましょう」

「ほう?ミストリアの謀略好きは有名だがエンドレも落とせるかね?」

ルイスはヘザンで兵力の精鋭化に勤めて、8万の精鋭部隊と2万の親衛隊を編成していた。

補給は続かないので何時までも雇っては置けないのだ。

占領地の金蔵や、商人からの信用貸しも、底をついていてこれ以上は望めない。

「ペレトンさん。エンドレなど後一押しで落ちる。その前に金が尽きればシャリー王の二の舞になるのだ」

ルイスにとって必要なのは金と糧食である。

金を前面に押し出す者は後世の評判が悪くなるが、この2つがなくて国家経営は出来ない。

ルイスは改めて、ペレトンにエンドレ討伐を依頼した。

この時からペレトンは金に任せてエンドレ中に王の悪口を触れ回った。

信じ込むまで何度でも。やがてあまりに多く聞かされた悪口は、だんだん部下の信頼を低下させたようで3ヵ月後、エンドレの将軍、アルト伯は国境守備隊を率いて反乱を起こした。

電撃的に首都を急襲。

全ての兵を殺さずに追い払ったアルトは、自立を宣言、アトナリ国を建国した。

其処へ、ペレトンの兵がアトナリ国を2百の兵で急襲。

アトナリ国は4日で滅亡してエンドレは5つに分裂してしまった。

その鮮やかな手際のよさに流石のルイスも脱帽するばかりである。

モラギーナはこの勝利で後顧の憂いが立てたと思ったのかセリア軍は無視して12州の大国アドレン国と3州のメサイア国を攻撃した。

セリア軍はエンドレ軍を見限り、モラギーナに降伏。

之を受け入れたモラギーナ王はセリアをメサイアに派遣して屈服させた。

サーテーではこの隙に、特産品のエールビールの生産に追われえていた。

之をエンドレで売りさばき、軍師金を得るためだ。

然しこのままでは取引は出来ない。

エンドレはサーテーの仇敵なのだ。

「ミストリアと同盟を結べば、中継貿易でビールを売りつけられる」

先にイーボルト一派が差し出した白衣将軍を、400万ディルスの身代金でエンドレに引き渡したルイスは、闇商人ギルドと手を結び、エンドレにビールを売りつける計画を立てていたらしい。

然しこの計画は、ギルド側から取り立てる予定税収が、250万ディルスだった事もあって、頓挫した。

イーボルトが500万ディルスの税収を納めるから独占販売権をくれと言ったかららしい。

ギルドも、そんなことをされては困るので、イーボルトの配下に入り、結局ギルドが取引を仕切る事になったが、ルイスは知らない。

他にも海の王国の財源確保の為に唯一漁が許されている、エティル・サーモンの輸出を始めた。

此方は、ミストリアに闇で売りに出す予定だ。

「ペレトンさん。紅茶の生産国はエンドレでもサーテーでもない。7州の大国ギルモア国なのだ。ギルモアを何とかせぬ限り紅茶の交易はありえない。エンドレの諸侯達と同盟が結べるように仲介してはくれんかね?」

ペレトンの要求は分かっていたのでルイスは正直に言ってやった。

「ジョン様は事を急いでいます。出来れば3ヶ月で紅茶を調達してほしいのですが・・・」

「無理だ」

ルイスははっきりと言った。

「エンドレを支配下に置くのに5年はかかる。ギルモア攻略は更に5年はかかるだろう」

占領するのは3ヶ月で十分である。

領地としてルイスの民として手懐けるのに手間取るのだ。

ルイスは2カ国を押さえ、残り5カ国を攻撃していた。

人を殺さず、捕虜にしながら少しずつ力を弱める作戦である。

そして適当な時期にペレトンを派遣して5カ国を降伏させた。

こうして9州を攻略したルイスは、ビールの販売権を握り、エンドレ領内で売りさばき、国力を充実させる基盤づくりに奔走した。

養鶏にも手を出してみた。鶏というものは便利な生き物で一日に一個のペースで卵を産む。

数さえそろえれば安定収入が保証されているのだ。

しかも有精卵でなければ命が宿っていないので僧侶が食べてもOKな筈である。

ルイスはこの鶏を大量に買いあさり、エティルブランドを立ち上げた。

株価は最初から2ディルスである。

この買占めでエティル・ゼフィナの他の国の株価は鰻登りに上がり、エティルの殆どの鶏がサーテに集まった。

鶏の値は、1羽7ディルスにまで跳ね上がり、エティル中で鶏の高騰による便乗値上げに苦しんだ。

卵は一個1ディルスである。集中的に有精卵ではない卵を、ギルモアに売りつけ、暴利を貪ると、その金でトレニア(黒豚)を1頭80ディルスで買い漁り、卵を与えて育ててみた。

トレニアもこの買占めによって異常高騰を続け、450デイルスまで値が跳ね上がってしまう。ルイスは子供の産めなくなった老トレニアを法外な価格で売りつけ、五百万ディルスを叩き出した。

この金は国庫に納められ、ルイスの居城メルビア城の建設費用に充てられた。

「ペレトンさん。紅茶が目当てならギルモアに行くといい。国王のギル・シャーンは温厚誠実な人の筈だ。それ故に安心して謀略を掛けられる」

エティルの農業を改革しようとジョン秘蔵の播種量7粒のシレーリムを播いて密かに育てていたペレトンは、ルイスの一言で追い払われた。

ルイスはこの播種量7粒の価値にきづいていない。

その為、折角ジョンから送られた播種量7粒のシレーリムを雑草としてトレニアの餌にされてしまった。

然しそれでも、経済的にギルモアを痛めつける能力は持ち合わせている。

ルイスの作戦によってギルモアの農業は壊滅的な打撃を受け、激高のエティルブランド製品を買わざる負えなくなった。僅か2ヶ月でギルモアは3億ディルスもの借金をする羽目に陥ったのだ。

「俺が何をしたって言うんだ?こんな理不尽な商売があってたまるか。」

農業破綻し、農業収入の99.87%を失い、食料の無くなったギルモア市民は逃亡して、エンドレに逃げ込んだ。

その数200万人。之により、ギルモアは市民税も取れなくなり、軍隊は崩壊。6州の長官が食料を求めてサーテーに降伏した。

こうなるとギルモアに選択の余地は無い。

王家の娘エミリーとルイスとの縁談を条件に降伏するという策に出た。

ちなみにルイスの妻は肺結核で死亡している。

喪が明けぬうちにルイスの姫と同じ名前の娘との縁談を持ってきたギルの失礼な態度にルイスは激怒した。

「何?縁談だと。ギルは血迷ったのか」

ルイスは大笑いをして嘲った。

今頃和議など結ぶ馬鹿な国王など世界中探したっていないさ。

既に味方の大勝利で、しかもギルモアには食料が無いはずである。

降伏するなら無条件降伏しろといえる立場であった。

「君は今がどういう状況なのか分かっていないようだね」

ルイスは高圧的に言い渡した。

「無条件降伏だ。それ以外認めん。帰ってギルにそう伝えよ」

之に対して会見に出席した使者はこう答えた。

「ギルモアの皇女を娶ればお前が正式なギルモア王だ。他に直系の子孫はいないのだから。それでも無条件降伏しろというのか?」

ルイスは鼻で笑った。

「俺はギルモア王ではない。エティル王を目指しているのだ。モラギーナもペクダールもいずれ俺の物にしてみせる。俺はお前らの手は借りない。ただ・・・。」

そこでルイスは少し考えた。

「紅茶の権益をくれないかね?それと5ヶ国割譲するなら考えてやろう。暫定的な処置だがね。」

この言葉にギルは呻いた。やはりこのルイスという男俺から全ての権益を奪う心算なのだ。「くそう、あのペレトンとかいう子供さえいなければ今頃俺は世界1の皇帝になれたのに」

そう言いながらもギルは持参した5州の株をルイスに渡した。

「偽者だったらエミリーとお前は処刑する。この者を軟禁しろ。兵はギルモアに進軍させる。」

それを聞いたギルは慌てて言う。

「待ってくれ。俺はお前の言うとうり降伏したのだぞ。お前にやった5州にちゃんと茶畑もある。俺の民には何の責任も無いだろう?」

ルイスは冷淡に宣告した。

「俺の領地に進軍して何が悪い?お前を王に対する不敬罪で処刑する。者共。この謀反人をこの場で処刑せよ」

「ひい、助けてくれぇ」

ギルは必死に命乞いを始めて助かろうとした。然しルイスは許さない。

「斬れ」

ルイスの命令は即座に遂行され、ギルモアは滅亡した。

ルイスは、ギルの首を火葬して散骨すると進軍命令を出した。

「モラギーナが余計な干渉をする前にギルモアを滅ぼすのだ。エンドレの兵をギルモアに向かわせろ。幾ら犠牲者が出ても構わぬ。3日でギルモアを征服するのだ」

そうしないとセリアがモラギーナをたきつけて、サーテーに侵攻してくるに決まっている。

時間は無いのだ。

「之で俺は南エティルの王になれる」

ルイスは味方の勝利を確信していた。

動かした兵はたったの2千だが、内部崩壊を続けるギルモアなら丁度いい。

ルイスが派遣した兵はギルモアの逃亡兵を吸収しながら、州都を占領した。

1部の者がマクユイと合流してレジスタンス、炎風を結成。

ゲリラ戦でルイス軍の侵攻を10日間遅らせた。

之がルイスにとって仇となる。

案の定、沈黙を守っていたモラギーナがセリアに唆されて軍をサーテーに送ったのだ。

迎え撃ったルイス軍は、国境沿いに引き上げて守りを硬くしたモラギーナ軍に手も足も出ず、持久戦に持ち込まれた。

後方はセリア率いる軍団によってあっさりと分断され、蜂起したエンドレの5将軍を糾合しながらサーテーを襲った。

然し以外にも国民はセリアを見限り、ルイスに味方した。

アルカニアンに侵攻するセリア軍の背後を襲い、補給を断ったのだ。

セリア軍はエンドレを占領。

ルイスは仕方なく自分に味方する者には、税金を2割に減らすと言いふらさせた。

「父上。私が行きましょうか?」

ルイスの娘、エレナはルイスに進言した。

渡河作戦で、エンドレ軍15万を撃破した名将である。

疲弊しきったエンドレなど、エレナの敵ではない。

「私が出陣とあれば子供と見くびってセリア軍は全軍で出撃してまいります。そこを徹底的に殲滅してエンドレを解放いたしましょう」

エレナは大見得を切った。

ルイスを言いくるめて兵を借りれば後は気魄で押しとおす心算なのだ。

「いくらいる?5千位か?」

エレナは即座に答えた。

「50名もいれば敵軍の敗残兵を合わせて10万位にはなります。ご懸念は無用です」

エレナはそう言うとルイスの指示を待った。

ルイスは考えた。

どうせ次女だ。

ルシーさえ生きていれば問題ない。

ルイスはエレナをセリア討伐に派遣する事にした。

「やってみろ。成功したらエンドレの港を1つやる」

ルイスは無理矢理に3千の兵をエレナに与えるとエンドレへの進撃を命令した。

エレナはその日の内にヘザンに入城して統治権を太守から剥奪。

迫ってきたセリア軍を散々に奇襲して追い払った。

双方に犠牲者はいない。セリアは首都に立てこもり、敗残兵をかき集め、再起を図ろうとした。

然し思いがけない敗戦で兵士の心に恐怖が暗い影を落している。

やっと4千集まっただけであった。

エレナには生来の人徳があるようでこちらには8千の兵が集まってきた。

セリアを見限った敗残兵である。

「セリアには降伏の使者を送りなさい。出来るだけ怖そうな人を送るのですよ。気魄で敵の戦意を喪失させるのです」

エレナは恐持て男で有名なカールをセリアの本城に送りつけた。

然しその工作は無駄に終わりそうだ。

セリアは初めての敗戦で気力を失ったようだからだ。

「私は逃げる。お前達はルイスに降伏するといい」

そう言うと一目散にモラギーナに逃げ帰った。

その後でエレナが4万人に増えた軍隊を率いてエンドレ全土を奪回する。

エレナは住民の歓喜の声と貢物に迎えられた。

褒められて調子に乗ったエレナはギルモアに侵攻。

抵抗する兵を一蹴して首都を落し、全土を支配した。

この間双方共に犠牲者はいない。

マクユイと炎風は東の山岳地帯に逃げ込み、抵抗を続けた。

それゆえエレナもギルモアから撤兵するわけに行かない。

仕方なくルイスの指示を待つ事にした。

「エレナ様。次はどういたします?」

物好きな兵士が尋ねてきた。

略奪の許可を待っているのだ。

「略奪は出来ない。あたしに免じて略奪を諦めてくれないか?この国はもうルイス王の領地なのだ。略奪などしたらあんたらは皆殺しにされるぞ」

その言葉に圧倒された兵士たちは渋々略奪を諦めた。

然し食い下がるものもいる。

「エレナ様が褒美の領地をもらったらちゃんと請求しますからね」

全員分保証したらどう考えても1千万ディルスは掛かりそうだ。

然し恩賞はきちんと与えなくてはいけない。

給料で雇われているミストリア兵とは状況が違う。

所詮恩賞を餌に掻き集めた烏合の衆だ。

「あたしはサーテーに戻る。あんたらはギルモアを炎風から死守せよ。」

そう言うとモースに乗り、一目散にサーテーに戻った。

「父上。反乱を平定して戻りました。ご懸念の無いよう、軍はギルモアに置いて来ております」

エレナは神妙に詫びを入れた。

「つい調子に乗り、ギルモアを制圧してしまいました。如何か処刑だけは身内に免じてお許しください」

こう素直に詫びを入れられるとうっかり処刑するわけにはいかない。

ルイスは優しく言った。

「お前を軍功によりギルモアの太守に任命する。一応左遷だから5年間は任地から出てこないように。それから勝手にギルモアに兵を進めた罰として王位継承権を剥奪して伯爵に降格する」

エレナはそれを聞いて思った。

私をギルモアの太守にするあたり、やはり子供だと思って甘く見ている。

「父上。話を聞いてください」

エレナはわざと不満そうな声を出した。

大人しく受け入れれはかえって叛意を疑われる。

「王の命令である。それとももっと降格されたいというのかね?」

「そっそれは」

エレナは悔しそうに俯いた。

そして拳を握り締めて言う。

「分かりました。陛下の思し召しのとうりにいたします」

エレナは軍権も守備兵4千のみとされ、ギルモアに左遷された。



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