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亡国の皇帝

亡国の皇帝(1)

レナの予言どうりミストリアの大地に本格的に長雨が振り出してきた。

ジョンはかねてから申し合わせたとおり、金龍を農地に配置して炎息により、雨を蒸発させ、残りを白龍の氷息で凍らせて川に捨てる作戦を決行した。

農民を総動員しての雨を飲み干し、僅かでも被害を少なくしようと決死の覚悟でシレーリムを雨から守った。

大飯食らいで有名なトロールが、この時大いなる武勲を立て、ミストリアの年間降水量の2%を飲み干す戦果を上げた。

流石にトロールは暫く使い物にならなくなったが、動員したトロールは貴族の称号(侯爵)と

一年分の無料食料券(国費支払い)を与えられた。

更にトロール全員に、ミストリアの英雄の地位を授けられる。

この論功行賞に不満を持つものもいたが、戦功第一なのは明白なので直接文句は言えない。

第一長雨は終わっていない。

文句を言わないで戦功を立てれば一階級位は確実に昇進できるかもしれない。

ヘタに文句を言ったら降格されて配下の者がその職に収まるだろう。

ジョンは足りない兵力を補う為に公務員を動員しようとした。

「セクハラ防衛隊をミストリアに転戦させよ」

この命令により王国のセクハラ防衛隊も長雨対策に参加した。

本来治安維持に創設された部隊だが、なりふり構っていられない。

ミストリアには子供と老人以外の全ての人間とゴブリン、エルフ、ドワーフ、コボルト、トロールなどが掻き集められていた。

パタレーンとミレイドは、高齢者の手によって収穫が維持されている。

ジョンはミストリア本島を守り抜く事で王国の国益を維持しようと考えていた。

このジョンの作戦を知ったエティルとペクダールは、技術支援を条件にミストリアに兵を送った。

名を隠してセタの兵も5万人ほどやってきている。

配下のルミとその兵団だ。

エレナとルミは宿敵であるが、人道援助は呉越同舟と決まっている。

あらゆる国家民族宗教のいざこざをスルーして行なわなければならないからだ。

セタ軍に救援を求める事はミューファとペレトン以外の全ての家臣女官軍人が反対したが、押し切って受け入れた。

これを機会にセタの領地の(宿屋以外の)返還に応じて、講和を打診した。

流石に即答で拒否されたが、これ以降セタは残虐行為を控えるようになったらしい。

エレナ軍150万人(30〜14歳の兵である)とリース一族の率いるペクダール兵350万人。

この機会に、セタはミストリアを取り込もうとして一部成功している。

戦艦を(4千トン級)2隻買取、自国の海軍を増強すると共に、ペクダールにも物資を送り込み

続けた。

ミストリアはこれでも技術後進国である。

文明的には新興勢力のビヤッカの方が、技術は上だ。

ミストリアの産物など、ブルマーにスクール水着、造船に大砲。

戦車、兵糧卵に観光業、シレーリム麦に肥料の土。

刀剣、巫女服位の物である。

パタレーンでは砂糖とモース馬。

ミレイドでは小説の収入位だ。

後トレニアと鶏の販売収入の税金もある。

長雨で、食料が不足すれば、景気は悪くなるので産業は衰退するであろう。

之を憂いたジョンは、反乱軍に降伏するように促して使者を送った。

「何?変態王が和平を申し入れてきただと?」

反乱軍の立て篭もる町は長雨であっさりと壊滅してエティルの保護国になっていたがジョンは諦めない。

使者には降伏させるように言い含めておいた。

「あのブルマー好きの変態王にして、金と女にしか興味のない色と欲の権化が俺達を許す訳ないだろう?死ぬ気で働け」

反乱軍の首領たるシャリーは、厳命するがもはや兵士に戦う力は残っていない。

之を機に、ジョンは講和の条件に長雨対策に参加しろと誘って飢えに苦しむ軍隊を骨抜きにすると、カルトミールにエティルと交渉させて、街と住民を50億ディルスで買い戻した。

冷静に考えれば人身売買なのだろうが、反逆者に人権など認める国はテラの一王国日本位だ。

「カルトミール老。戦功にて君の娘を大尉(兵50人)に任命する。真美大尉と名乗るように」

ジョンはカルトミールの娘(傾斜国風の名)を登用すると、試しに最近長雨対策の隙をついて

数を増やした狐と狼と熊を退治させてみた。

数日後、討伐を終えて(村人に売りさばいた)5億ディルスのディルスを持ってきた真美はジョンのお褒めに預かり、2階級特進。

更にジョンの抑えている株価3ディルス、配当年1ディルスのパン屋を任された。

従業員は5人。

ジョン王の直轄事業である。

このパン屋は、真美のカリスマ的魅力も手伝って儲かり続け、ミストリアのドル箱となった。

反逆者は、ミストリアでもっとも過酷な流刑地に送られた。

長雨対策では、もっとも過酷な土嚢積みをやらされている。

仮の処分で、何れ正式に判決が言い渡される筈だ。

ジョンは、土砂降りの雨の中自ら陣頭指揮を執っていた。

然しそれでも、経済活動を無視すれば、国民が餓死する。

雨に濡れても多少は平気であるような気がしたので、兵士や義勇兵に金で雇った市民を、有料のスクール水着で武装させた。(男用あり)

之が売れに売れて、300億ディルス位荒稼ぎしたらしい。

スク水でずぶ濡れになっても、体を拭けば良いだけだ。

スク水で肺炎になった女の子は聞いた事がない。

多少濡れても風をひく程度だろう。

勿論死者がでたら何かと不味いので急ピッチで、医術の研究が進められた。

食料は貴重なので、自国で開発した兵糧卵が最近のミストリア人の主食だ。

「国王は自分だけ上手いものを食っているんだ」

そう言うデマを飛ばした部下もいたが、早急に東方大陸に密偵として左遷させられた。

食料の枯渇に備えて主力以外の部下を飢饉のない地方へ、転勤させる作戦だ。

あからさまにやると国民が動揺するので、左遷の形をとっている。

金は宝石を(20ディルス)持たせた。

軍船は出せないので、民間船で送り届ける。

老人対策に、東方大陸にそれなりの領地を与えて他国に移民させ、国内の経済的負担を軽減する、後の世に鬼畜作戦と呼ばれる外道な作戦も、周囲の反対を押し切って強行された。

老人は与えられた東方大陸の領地で悠々自適の生活を送っているし、受け皿となったゴドス国

は人口を増大させ、国力を増進させたが、弱者切捨てといわれても仕方がない。

「ミストリアでは養えないのだから仕方ないだろう」

苦情を言った老人の家族にジョンが言い放った。

食料ではない。

老人介護のシステム作りが困難で、財政負担が多いのだ。

他国の土地を買って楽隠居していただけるなら、その方がはるかにマシだろう?

「飢饉が収まったら何時でも会いにいけるように船団を用意するからまっていてくれ」

ジョンは老人の移民希望者を募っていた。

ミストリア人の老人のゴドス移民者は数千万に及んだ。

之によりゴドスは急速に国力を増大させ、隣国を併合して東方大陸の西と東と南と北の一部を支配下に置いた。

中央に位置するマヤ帝国(人口3億)のみがゴドスの侵攻を辛うじて防いでいた。

ゴドスはミストリアの長雨に便乗して、穀物をべらぼうな高値で販売して500億ディルスの金を国外に流出させる事に成功した。

ゴドスはこの儲けで、ミストリア侵攻の為の5千トン級大型帆船と、大砲ゴドスバスターの製作に取り掛かった。

ゴドスの直属の人口はせいぜい3万人位なので、併合した領地の12億の属民を押さえ込むには、強大な武力が必要なのだ。

ゴドス軍2千万は全員傭兵。

主力は8千である。

ジョンは之を聞いても別に恐れなかった。

ジョンにとってゴドスは老人ホームなのである。

嫌がる老人は、国庫負担の介護人に世話をさせる事にした。

まあ今の所は長雨問題のほうが重要なので、ゴドスから兵を借り受け、軍事訓練と引き換えに、長雨対策に当たらせたのだ。

「今年の収穫がなければ僕たちは餓死するしかないぞ。死ぬ気で働け」

ジョンは戦意を高揚させるため、食糧不足を装った。

ジョン本人もサラディスの技術を応用して造った有人ゴーレム、サクリアを導入して雨を防いでいる。

更に、サラディスの技術を応用して天候を制御できる嵐巨人を召喚したりもしていた。

全体の30%しか制御できなかったが、それでも多くの田畑が救われる。

「王。出来れば司令官室で政務を行って欲しいのですが」

王の精進ぶりに、部下のトゥーロがたまりかねて忠告した。

王の責務は国を守ることであって兵士や民衆を直接指導することではない。

どの英雄物語も英雄は自ら前線に立つが兵学上は間違っている。

「ヒーリングの魔法で弱ったシレーリムを回復させろ。分かったか?」

ジョンはブルマー好きとスクール水着美少女凌辱事件が災いして自分の信用ががた落ちになっていると思い込んでいた。

そのイメージを払拭するためにはこの国難を乗り越え、民衆思いの王である事を証明せねばならない。

「五月蝿いぞ。トゥーロさん」

ジョンはウザそうに部下を見た。

「政務はミレイレアさんの仕事だ。僕の仕事は経世済民だよ。民衆を見捨てたら明日からは麦の飯は食えなくなるんだ。僧侶のヒーリングで増やした麦などトレニアの餌にもならんわ」

ジョンの逆鱗に触れた事を知るとトゥーロは立ち去ろうとして控えていたペレトンにぶつかった。

「失礼」

トゥーロは慌てて任地に戻り、部下の指揮をとる。

ペレトンが、トゥーロの変わりに説得した。

「ジョン様。政務が滞って困るのですが」

やんわりとペレトンが言った。

「万一食料が底をついた時の為に司令官室で商売に励んで下さると私は嬉しい」

「ペレトンさん。誰が僕の代わりに農業の指揮をとる?」

「はっ?」

ペレトンは多分農水大臣のトゥーロでしょうと答えた。

彼以外に適任者はいない。

然し彼の指揮権が及ぶのは農水大臣直属の部下だけである。

「ミレイレアさんは政務で忙しいし僕以外に誰がやれば良いのだ?」

ペレトンは言葉に詰まった。

確かに代わりの人材は少ない。

「私が指揮をとりましょう」

ペレトンは自ら名乗り出た。

「あなたが?大軍の指揮をとった事があるのか?」

「ないです。然しどうにもなりません」

ペレトンはここぞとばかりに進言した。

「あなたは如何見ても文官タイプだ。王の大権を貸し与えるから代わりに商売に励んでくれ」

ペレトンの申し出をあっさりとはねると、王の印を彼女に貸し与えた。

「この長雨で食料が枯渇している所もある筈だ。真に残念だが安い値で売ってやれ」

ジョンはそれだけ命令すると長雨対策に復帰した。

正確には2年位は食いつなげるが経済的ダメージが大きすぎ、国は崩壊するだろう。

ブルマー好きの変態皇帝と呼ばれながらジョンが今まで政権を保持できたのは民衆を餓えさせない優しい王であるからだ。

その幻想が敗れたとき、民衆はジョンを退位させるだろう。

生まれた時から王様でそれ以外の能のないジョンにとっては退位は極めて深刻な問題だ。

王を首にされたらどうやって生活すればいいのだ?

食べ物は何とかなる。

エルフの食事は光合成と水だけだ。

然しその他は如何にもならない。

ジョンはトゥーロを呼び戻して命令した。

「トゥーロさん。サラディスには巨人召喚装置があったはずだ。それを逆用して妖精界にミューファさんを送れ。イーボルトさんの言によればあの子はブァンレイア人の筈だ。妖精界に居住するエルフ共を結集させて地上に呼び寄せ、長雨に対抗する」

ブァンレイア人の強大な魔力で自体を解決させようと?

そんな悠長な事をしてて良いのか?

まあ口実に過ぎないのだろうが。

「僕達は引き続き、ドラゴンを使って雨を蒸発させる。産卵の時期に合わせて龍の息吹で大地を雨から開放するのだ」

ジョンの訓令にミストリア兵は明らかにだるそうな態度を見せた。

口には出さないが、兵の士気が低下している。

「ジョン王。少し休ませてやらないか。こう毎日氷運びをやらされては体が持たん。1日でいいから」

ついに側近のトゥーロが止めに走った。

ジョンは何故か食料に五月蝿い。

「その1日が命取りになるのだ。麦は既に根腐れを起こしている。ヒーリングでかろうじて食い止めているところなのだ。飢饉を乗り切ったら豊作祈願の革命祭り(鬼追い祭りのような物。権力者が鬼の役割をする)を行う。だが食料がなくて金儲けはできんだろ?」

ジョンは士気の低下を自分のブルマー好き(この時点ではデマだが)のせいだと思っている。

ジョンは一応名君なのに、拝金主義が災いして、兵士達の指揮は乱れがちだが、それでも支持率99.99986%を維持していた。

独裁者並みの支持率であるが、本人はそう思っていない。

ジョンは国民に嫌われているものと信じているのだ。

「祭りだぞ」

ジョンは部下の機嫌取りに、水を与えて宥めにかかる。

高級な水だが、部下はそう思わない。

能天気なジョンは、祭りでもやれば兵の機嫌も直るだろうと思っていた。

しかし部下はやる気なさげに言った。

「ジョン王。俺達は疲れている。この戦いが終わったら特別休暇2ヶ月と3日間の宴会、月給を1人あたり250ディルスにする事を要求する。要求を聞かなくても仕事はするが、やる気が格段に違ってくるぞ」

過酷な労働に耐えかねた女性兵士がストを決行した。

幾らミストリアの未来の為とはいえ、もう限界だ。

「やはりブルマー好きの変態王などにはついていけんという訳かね?」

ジョンはブルマー好きの評判が、民心を得られぬ原因と思い込んでいた。

それを見た民衆が、慌てて宥めにかかる。

「言っとくが、あんたのブルマー好きは全国民に聞いたアンケートでは女性の99.99%が仕方ないと答えた。あんたの施した女性優遇政策が認められて人心が豊かになり、多少のセクハラは気にしない風潮が出来つつある。スクール水着美少女凌辱事件でさえ、65%がセクハラ擁護派に回った。我々はあんたのブルマー好きにけちをつけているのではない。我々はジョン王が求めるなら何時でもブルマーにもスクール水着になる用意がある。抱きたいというのなら好きにしてもいいと言った者さえ、国民の少女の中に16237名もいた。ちなみにその筆頭がペレトン様だぞ?」

之を聞いたジョンは驚いた。

ペレトンさんが僕を好きだというのか?

ジョンは意外そうに考えた。

ブルマー好きの変態王たる僕の何処が良いのだ?

「正気かね?ああ、君達。3時間ほど休息して良いぞ。」

ジョンはこの兵士のチクリを真剣に検討した。

まあ悪くない。

ペレトンは美人だからな。

あの娘は僕だけのグラビアアイドルになってくれるだろうか。

然し当面は食糧問題が優先だな・・・。

「要求を呑もう。月給は300ディルス。2ヶ月間革命祭りを行う。それで良いか?」

ジョンはあっさりと要求を呑んだ。

部下達は一応納得して引き下がった。

ジョンは金に汚いが、吝嗇ではない。

ブルマー好きだが、為政者としては有能である。

「ではさっさと仕事をしろ。300ディルスも出すんだ。過労死直前まで使い倒してやる」

ジョンは休んでいた兵を駆り立てて仕事を再開させた。

休暇については却下されたようだが元々期待はしていない。

男の兵も、女性兵士達も、喜んで仕事を再開した。

龍達は、丁度雨が上がって日が出てきたのでゆっくりと昼寝をしている。

このチャンスに、出来るだけ 土を乾かし、麦へのダメージを回復させねばならないのだ。

兵士達は火球の魔法を麦の側に(燃えないように)撃ち込み、土の回復を図り、ヒーリングで運悪く焼けてしまった麦を再生させた。

そんな戦いが2ヶ月も続き、雨季も終わろうとした頃、1人の少女が六千人の、飢えに苦しむドワーフを引連れ、ミューファの所領を訪れた。

既にミストリアの人口は3億人を突破している。

養う水と食料は少女の故郷、テーレ連合のそれをはるかに凌駕する。

それなら飢饉に苦しむテーレ連合の民を救ってくれるかと思ったのだ。

「皇帝陛下。本当にミューファ様に会うんですかい?我が人口はたったの4千万。相手は帰順した属国として扱いますぞ。当然相手は陛下を人質にするかブルマー姿にして慰み者にするかしてくるでしょう。それでも行かれるのか?」

陛下と呼ばれた少女リピーム・シルは之を聞いて頭を抱えた。

何故ジョンがミューファを皇帝に擁立したのか知れないが、皇帝は話の分かる人だとリピームは思っている。

リピームは発言した部下を怒鳴りつけた。

「余計な事を思い出させるな。私の決心が鈍るではないか。そうしたらお前らは餓死にするかもしれんのだぞ。それでも良いのか?」

リピームは傾斜国の南方の大陸国家テーレ連合の皇帝である。

3億の民衆に食わせる麦があるなら少しくらい我等にも分けてくれるだろうと本気で信じていた。

しかもジョン王は(ブルマー好き以外では)不世出の名君で通っている。

リピームは感想を漏らした。

「豊かなとこであるのは間違いないね。然しミストリアの道中雨ばかり降っていたのは知っているだろう?今年は凶作かも知れんぞ」

部下は不安に思ったが、ジョン王やミューファがテーレ連合を見捨てられぬ訳はないと確信していた。

見殺しにすれば、金儲けの客を失うからだ。

「ジョンのやり口は、常に私利私欲である。民が栄えてこそ国が栄えるという事を分かっている」

リピームは部下を派遣して皇室のお宝を根こそぎ売りにだすと、食料を買う当座の資金を捻出した。

皇帝との交渉が失敗した暁には、べらぼうな高値のついた麦を買わざるおえない。

リピームはミストリア王家の内情は知らなかった。

ミストリアの促成栽培の技術で1年に4回連作できる(土と肥料は補充する)事を知らなかったらしい。しかも、通常より倍も種を播いているので1年の収穫は通常の8倍であった。

それでも食料自給率はたったの280%位である。

飢饉が来ても直に餓えると言うわけでもなかったが、国民の危機管理能力を高めるため、真実を語らなかった。飢饉が起きて食料を吐き出さないのは人道に反する犯罪だが、飢饉はまだ起きていない。今なら龍の息吹で、9割方は播種量60粒を維持できるだろう。

その事を町の住人に聞いた部下は言った。

「陛下。困りましたね」

部下の発言にリピームは考え込んだ。

ここまで使えない手下とは思わなかったのだ。

リピームは使者を派遣してトップ会談を提案する。

ミューファは居なかった。

既に妖精界へといってしまったらしい。

リピームは部下の男にミューファとの会見を望む手紙を渡し、出直す事にした。連れてきた5千隻の(千トン級)大船団には、自腹で政府の食糧庫から購入した麦を積み込み、テーレ連合へ送っている。

ジョンが宣伝した食糧不足は物価の高騰をまねき、(今の地球なら立派な詐欺である。)450億ディルスも儲けてしまった。

ミストリアの株価はこの詐欺により、16ディルスまで高騰している。

後でこれを知った民衆が流石に怒って、責任者のゴルコット長官は三階級降格され、騎士団長を命じられた。真に理不尽な話である。

ちなみに儲けはジョンが隠匿した為、マクユイが蜂起して首都ルーシーを襲った。

正規軍の一部が(2人)ジョンを見限り、マクユイに付き、城門を開いた為、五百万人以上の兵士が首都で激戦を繰り広げ、マクユイを追い払った。

「この収穫期の直前に反乱を起こすとは絶対許さん。兵を動員してマクユイを追い払え。容赦するな」

ジョンの命令でマクユイはセクハラ防衛隊に根こそぎ逮捕され、奴隷階級に落とされた。妻子には罪は及ばない。

どっちもどっちだと思うがジョンの所業はこの国では詐欺にならない。

「僕に帰順してミストリアの法を遵守するなら元の身分に戻してやる」

ジョンは捕らえた反乱軍にそう誘いをかけた。

「国家財産を私物化してブルマー姿の女子と戯れる変態等に誰が仕えるかぁ」

兵士達はそれでもルーシーに置いて来た家族が、人質にされていると思い込み、反乱軍の首魁、バートン以外は降伏した。

降伏兵には懲役刑を課し、新たな港城、アセリアを1ヶ月で、南方の海岸に建設させた。

この城は南はルゼーティア、西はパタレーン。

東はエティルの最重要地帯である。

この地の商業利権を入手したジョンは自ら大船団を率いてエティルに赴き、事情を知らないエティルに取引を持ちかけ、砂糖と引き換えに食料を安く手に入れた。

それを馬鹿高い値段で売りさばき、1500億ディルスを儲けてしまうのである。

こちらの富はミストリアの民衆に分配された。

憐みではない。

ミストリアの民衆にに投資すれば1000億以上の税収が転がり込んでくるからだ。

然し何時までもこんな事はしてられない。

新たな税収の道を模索するときが来ていた。

「税収のアイデアはないか?」

長雨を何とか凌ぎきったジョンは国庫を潤す税収について話し合いを持った。

「いいアイデアがあります」

予め策を検討していた家臣団はジョンに秘策を授けた。

「巨人貸し出し業などは如何か?1人1700ディルス位で」

ジョンはこの家臣をしばき倒した。

「それは奴隷貿易ではないのか?」

流石のジョンも即座に反対した。

「いえ、貸し出すだけです。妖精界を攻略して1億の巨人を集め、1700億の税収をたたき出してご覧に入れます。

「・・・」

ジョンはこの能天気な部下たちに頭を抱えた。

妖精界に1億巨人がいたとしてどうやって税収を取り立て従わせるきなのか?

「使えない奴だ。どうやって1億も巨人を売りさばく心算なのだ?それならセタと組んで奴隷貿易をしたほうが遥かに儲かるぞ」

ジョンのこの発言で部下の1人がエレナに寝返った。

播種量81粒のシレーリム麦の種子を7粒も持って。

然し表向きは依願退職なのでこの事はジョンの死後450年も後になって考古学者により発覚した。

「王。お戯れを。では如何いたしますか?」

ジョンの謀略担当の軍師トルハはスク水フェチの変態太守イーボルトの目覚しい活躍により、パタレーンの株価が170ディルスにまで跳ね上がった事に目をつけた。特に変わった事をやったわけではない。

只税金を無税にして穀物での支払いに切り替えただけである。

それも収穫の2割である。

之により、経世済民的にゆとりを持った農民は、魔法使いを雇い、脅威の10期作に挑戦したのだ。

イーボルトの捧げた熊の生贄のお陰か、パタレーンの雨は平年の6割り増しですんだ。勿論大豊作である。

「パタレーンの商人に声をかけて穀物を集めさせ、飢饉が来たら売りさばいて大儲けしましょう。それとモースと砂糖の生産を増強して巨利を得ましょう」

とにかく収入源をブルマーやスクール水着意外に求めないとマクユイが再び反乱を起こすかもしれない。

ジョンは、物品納税制度を導入する事にした。

1人当たり10ディルス分の月貢をミストリアの住民から取り立てる事にしたのだ。

之が悪名高い鬼の納税である。

然し、平均600ディルスの年収を上げる農民にとっては払えない金額でもなかった。

税収は他国に売りさばく麦を買い付けるために使うらしい。

農民から取り立てた金で農民から麦を買い付ける。

つまり、只で大量の麦を入手出来るのだ。

そしてそれを建国間もないエティルに売れば3倍近くで売れるのである。

この交易で月収400億ディルスが保証される事となった。(自腹で買い付けた麦も勿論ある)収入は軍隊の給養費と農機具の近代化に使われた。

具体的には魔法の掛かった農機具を作り出し、国民に売りつける。一台1万ディルスもした馬車鍬ゴーレム(自動開墾機)も導入され、農民の税収を飛躍的に高めた。

ちなみに長雨を乗り切ったミストリアでは近年まれに見る大豊作で、播種量152粒のシレーリムが912粒も実ったのだ。

ジョンは即座に傾斜国に麦を売りつけ、1200億の儲けを出し、飢饉の噂から需要の高まった国内でも高値で売りつけ、更に600億儲けた。

「王様。この地方でも10期作に挑戦しようと思いますがよろしいですか?陛下には肥料の研究をして頂きたい。その道では陛下にかなう者はいませんから」

農水大臣のトゥーロが尋ねてきた。

それを聞いてジョンはうざったく思った。

それくらい自分の判断でやれ。

「かまわん。ルミナスの生産に注ぎ込んでいる魔術師以外ならどれ程の勢力を使ってもかまわぬ。君には多大な期待を寄せているから農水大臣にしたのだ。はっきり言ってミレイレアが右宰相なら農水大臣は左宰相だ。古来より食料がなくて経営できた国が1つでもあるか?食料を作りすぎて困るのは価格の下落だけだ。だからこそ食料の最低価格は昔から決まっている」「いや、決まってないですよ」

トゥーロは思わず言ってしまった。

次にジョンがなんと言うかはルシアンム(大猿)にも分かる事である。

「君はもう少し聡い男だと思っていたのだがね。では早速食料の公定価格を決める命令を出してくれないか?それとも出来ない訳でもあったのか?今なら罪には問わんぞ」

罪人扱いされたトゥーロはふてくされて言い返した。

「この国では汚職は犯罪ではありません。俺は議会の議員でもあります。地元の商人達が俺の支持者で、資金面の援助も受けております。よって立場的に商人の利益を損なう命令を出せないだけです。

ジョンにはこの小市民の感覚が分からない。

「そんなものかね。分かった。命令は僕が出そう。君はこの事を商人たちに通告しろ。議会にはかけん。ミストリアの僕の私領での話だからな」

この国は3つの勢力に分断されている。

ミューファ領とミレイド領とジョン領である。

パタレーンはジョンの私領だがイーボルトに管理を委託していた。

ちなみにパタレーンは意外にも中央政府の方針に反して(反乱ではない)スクール水着禁止令を出し、物議をかもし出した。

スク水フェチで有名なイーボルトの出す法律に思えないからだ。

更にブルマー禁止令も出ている。

「僕は商人の利益を守りたいのだよ。最低価格を決めなければ価格が暴落したとき商人も農民も一網打尽ではないか?税収も減る。それでも良いのか?軍隊を食わせられなかったら国は乱れ、セタの侵攻を受ける。そうなれば民衆はあの暴虐なビヤッカの支配を受けることになるんだぞ」

ジョンはトゥーロにそう言い募った。

「では行け。最低価格は7日分で金貨4枚だ」

ジョンはトゥーロを追い出すと将軍のクデルとイベラークを側に呼んだ。

「お呼びか?」

2人は魔法の武具に身を包んでいる。

「ああ。君達には軍功により、金1億ディルスを与える。それと部下4万人を雇える権利を授ける」

こう言ったジョンは、アセリアを守る兵として2人を派遣したのだ。

農民に対する給食制度と家政婦制度も議会の全会一致で可決された。

こちらは農業防衛隊と呼称され、ドワーフの若者が中心の組織だ。

その頃リピームの方はやっと皇帝代理への面会が叶い、ジョン王に謁見する事ができた。

リピームは深々と頭を下げて慈悲を乞う。

「そういうわけでテーレ連合は、餓えております。代金は2倍にして帰しますからどうか麦を我等に」

あからさまに懇願した。

皇帝のプライドなど既にかなぐり捨てている。

そんなリピームをジョンは冷淡に眺める。

そして言った。

「飢饉の原因は何なのだ?」

まず尋ねるのはそこであった。

媚びる相手をこの少女は(ドワーフである)間違えている。

農民に媚びる事ができれば飢饉など起きなかったとジョンは思った。

「どうせ人民の飢えをよそに贅沢でもしているのだろう」

ジョンは変態の噂があるが本人は極めて質素な生活を送っている。

酒も煙草もギャンブルも女もやらない、金儲けだけが生きがいの男であった。

「とんでもありません。飢饉の原因はレビネア(虫全般)ですから。それでエティルに援助を申し込んだらあの国も飢饉で余裕はないと言われました。南傾斜国も同様です。もはやミストリアに援助して頂くしかありません。助けて下されば私の寿命が尽きるまで忠誠を誓わせていただきます」

リピームは慌てて言い訳をした。

この条件ならジョンも文句はない。

「助けてやったらドワーフの鍛冶職人を全て動員して我々の為に武器を造らせるか?そして1人当たり200ディルスの礼金を払うか?」

之では脅迫しているみたいだ。

しかし、リピームはこの脅迫にあっさりと屈した。

元々ミストリアへの服属が前提の話である。

出なければ誰が酔狂にも援助などするだろうか。

ドワーフは、一般的に身分に拘らない種族である。

そして採掘の専門家であった。

神話では光と闇の戦いで暗黒神についたというだけの理由で子孫永代にいたるまで差別を受ける可哀相な種族でもあった。

当然、光の神に付いたエルフとはジョンがドワーフの尽力で政権を取って、王族同士が(トルハとドルクレンである。彼は一応王家の血筋であった)仲良くなってしまうまで、急敵同士である。(ドルクレンはリピームの兄である)シャリーは何故かドワーフを重用していたが・・・。

ジョンの心には偏見の入る余地がなかったので、1般的にミストリアは魔王軍と化している。その光の神、ルシアに付いたのがゴブリン、コボルト、トロール、巨人、龍、人間、エルフの光の7種族である。

ドワーフは暗黒神についたらしい。

「王様。領土は明け渡します。直接命令を下してください」

焦れたリピームは、ジョンにそう申し出た。

ジョンは之を辞退する。

「嫌だ。今の僕にはテーレ連合を治める能力がない。自国の経営で手一杯なのだよ。大体僕はあんたのいる国をよく知らない。だが麦は送ってやろう。早速ドルクレンに命令する」

この何気なく言った一言がリピームの運命を変えた。

「ドルクレンがここにいるのですか?」

リピームは意外な所で就職していたらしい兄に心時めく。

「ジョン王。いまドルクレンと言われましたか?」

リピームの問いにジョン王が答える。

「我が陣営に随一の補給の達人だよ。エルフの娘を好む変人だから国を追われたのか?」

ジョンは恐らくドルクレンの素性は知らない筈である。然しこの答えは的を得ていた。

「ふふっ。ドルクレンは君の兄か何かなのか?あの男を手放したのは君かね?惜しい人材を無くしたものだ。あの男はイエスマンだが、補給に関してはあれに勝るものはいない」

ジョンは折角傘下に入ろうとしたリピームを蔑むのを止められなかった。

王の守るのは民と部下なのだ。国民を飢饉にさらす王など、ジョンにとっては悪役である。「畑を広げて農作物を育てるしかないだろう?シルさんは、僕の物であるシレーリム麦を只で寄越せと言うのか?独立国に対しての脅迫だとは思わないかね?」

この言葉にリピームは考え込んだ。

まあ一応麦は送ってくれると言うのでそれは問題ないようだが、この分だとジョンはドワーフ苛めを始めそうだ。

それを悟ったのかジョンが言う。

「心配するな。苛めはやらん。ドワーフの技術者10万人を此方に移住させてくれないかね?嫌と言ったら麦の供給を2%減らすだけだが・・・」

脅迫しとるのはあんたのほうだ。

リピームはそう思ったが、黙っていた。

この王を怒らせたら本当に凌辱されるかもしれない。

助平で有名な王なのだ。

「まあ良い。ではテーレ連合に魔法の武器を一千万本注文しよう。値段は120億ディルスで良いか?」

ジョンは法外に安い値であるが、敗戦国並の条件をつけた。

完全に配下国扱いである。

「それから伝説のドワーフの宝物を差し出すように」

リピームは呻いた。

あれを差し出せと言うか。

ドワーフに伝わる仔馬の杖を・・・。

一日に150キロも走るという名馬である。

国土の狭いミストリアでは肩身の狭い思いをしている馬だがテーレ連合では伝書鳩の代わりに持ちいられていた。

ミストリアの(パタレーン原産)モースにも匹敵する馬であった。

「別に良いですけどね。600億ディルス払う気があるなら・・・。あっ、麦でも構いませんよ」

流石はドルクレンの妹である。

交渉においては右に出るものはいないだろう。

「駄目だ。一応この国も飢饉に襲われているのだ。他国へやる麦などないことになっているのだ。いざという時の為の非常麦なのだから金にならないと民衆がぶつくさ言う」

ジョンはリピームに冷たく当たった。

全くこの人に八つ当たりしてもどうにもならないと思うのだが・・・。

「君にはセタを攻略する司令官を命ずる。どうせ君の手には負えないと思うが傾斜国にセタが進出しないようにしてくれれば麦は幾らでも送ってやろう。どうだ?」

どうだといわれてもなぁとリピームは思った。

要するに此方に選択権はないのだろうが。

「分かりました。セタは出来るだけ引き止めましょう。麦はテーレ連合4000万人の3ヵ月分で十分です」

こうでも言わねばあの気まぐれそうなジョンに処刑されるかもしれない。

民は大事だが彼らの為に今の地位を投げ出すつもりはない。

ジョンに仕えて栄耀栄華を極めるのだ。

「君は何か勘違いしているようだな」

ジョンが普段より冷酷な目でリピームを見た。口元も薄笑いを浮かべている。

之では全くの悪役だ。

「この僕が王なのだよ。君達は黙って僕に仕えていれば良いのだ。僕と取引するなど身の程を知りたまえ」

このジョンの発言にリピームは色めき立ったが文句を言うのは止めておいた。

ジョンは世間の噂どうり、金と女の子のブルマー姿にしか興味を見せない変態であるらしい。この男はドワーフの娘にも興味があるのか?まあいい。どうせ栄耀栄華にふけるか、殺されるかのどちらかだろう。

「申し訳ありません。国家は解体して陛下の沙汰を待ちます」

リピームはその代わりに名刀を所望した。

ミストリア王家に伝わる魔法樹の装備ひと揃えである。

「正気か?君は自分の立場を分かっていないようだな。テーレ連合など僕が250万の兵を出せば瞬く間に落ちる。君にミストリアに逆らう事は出来んのだよ。大人しく沙汰をまっとれ」ジョンは生まれた時から王族で、我儘に育っている。

自分の意に逆らうものがいると我慢がならないらしい。

全く困った王だ。

こういう奴がいるから反乱は絶えないのだ。

「王。テーレ連合には異界へ行くリーフの星門がありますぞ。100億ディルス投入すれば使用権を認めよう」

ジョンは頭を抱えて変な方向へずれて行く交渉の妥協案を探った。(本人達は大真面目だが)その結果、麦を1年分テーレ連合へ送る見返りに、武器と馬の援助を受けることになった。

その結果ミストリアはドワーフの秘法を手に入れた。

鉱山収入を20%増す事の出来る魔法のアイテムだ。

質素倹約を家訓にするテーレ連合では余り役にはたたなかったらしいが、強欲な変態王ジョン・ラッセルにとっては真に役に立つアイテムである。

特に全体の20%までなら1月に幾ら消費しても含有量が減らない真に有難い魔法なのだ。

ジョンはこの魔法を使って60億ディルスの月収をかもし出す。

之を注ぎ込んで、観光名所ジョンパレスを造り出した。

ミレイドの収入の9.5割を占めるカジノに対抗する策である。

金の力で即日カジノはオープンして20億ディルスをかもし出した。

ちなみにジョンはこの金で傭兵を雇い、妖精を召喚して妖精界の中央大陸の男爵量をミューファに命じて乗っ取らせた。

勿論妖精界の者にふんだんに金を支払っている。

隊長はジョンの手下レナに任された。

妖精界に先に送り込んだミューファは天の川銀河方面の(リーフの星門の1つが繋がっていた)1つ木星に送り込まれた。

リーフの星門は天の川銀河へ繋がっていたらしい。

労働用ゴーレム、サクリアは木星コロニーの建設に使われている。

ちなみにジョン達の居るのはアンドロメダ星雲の惑星である。

サラディスを元に急ピッチで開発した、魔道戦艦オーディーンによって月に1部のゴブリンを送り込んだジョンは、(大気圏突入能力あり)セタの絶え間ない嫌がらせを回避しながら完成した(オーディーン3基搭載能力あり)ルミナス空母を、月に送り込み、取り合えずルミナス内の食料栽培システムを利用して農業をさせた。

一応月の土壌改良には取り組んでいるが、何時の日にか農作物が出来るかわからない。

水を得る魔法は存在するのでそれは問題ないのだが、空気を生み出す魔法は存在しなかった。「レナ様。本当に占いでは俺達大地主になれるんでしょうね?下手な島くらいの財産が手に入ると言うから月探索隊に応募したのですぞ」

2年経っても月の97%(面積は地球の半分)しかテラフォーミング出来ない無能なレナに愛想を付かした手下がつい愚痴を言った。

「占いは絶対ではない。的中率は35%弱だ」

レナは妖精界と月基地総督となっている。

月には怪獣ヒドラがたむろしており、之を手懐けて侵略のスピードを飛躍的に高めた。

それでも冥王星と火星の辺りまで兵を送り込んだミューファには叶わない。

地球には、使者を送り、南極に拠点を設け、じわじわと勢力を拡大してきた。

「と言うのにこちらは月1つ攻略するのに2年。しかも入植者はたったの15万人。

儲けはたったの150億ディルス。ミューファ様は地球での密交易で1400億ディルス設けたというのにですぞ。

「不満があるなら止めてけっこう。然し約束の領地は契約不履行の罪で没収だな」

レナは大仰に言い張った。

部下達が色めき立つ。

「月基地の周辺で栽培しているアルテミス麦の収穫が今年やっと豊作になりそうだ。

それまで待て」

レナは手下共を殴りつけるとヒドラ退治を断行させた。

そしてケンタウロスの部族を倒滅して全員を傘下に治めた。

セタは(惑星から見て)緑色に変化した月にうろたえたがジョンの仕業とは思っていない。

南極に落ち延び、傭兵と野党を掻き集めてビヤッカ帝国を再建したセタは、ゴーレムを組織してテーレ連合へ攻め入った。

「セタが攻め入ったと?全く・・・。あいつら自分だけがゴーレム技術を保持してるとでも思っているのか?お目でてい奴だ」

即座に対ゴーレム用兵器、アキレスバスターを投入してセタの侵攻に備えさせるとジョンに援軍派兵の使者を送った。

ゴーレムの足首を魔法の鎌で砕いて動けなくした後、蛸殴りにして兵を捕虜にするのでこの名前になったらしい。

「セタはあの緑化月がジョン様の手下の植民地化の証だと気付いていない。愚かな奴だ。もっと愚かなのはエレナだがな」

リピームの手下でテーレ連合宰相アトバヌはほくそ笑んだ。

「あのジョン様に愚かにも抵抗を続ける不届き者と言うわけだ」

宇宙船を保持するミストリアにエレナは大砲のみでどうやって抵抗する気なのか。

愚かにも程がある。

妖精界で幾ら覇権を握っても、ジョンの兵はあの名将トルハの軍事能力に対抗出来る程の才人を入手するのは現実問題として不可能である。

レナの占いでは妖精会には軍神トパーズがいるのである。

世界も天の川銀河位はあるらしい。

50年位はほっといても平気だろう。

「如何してエレナが愚か者なのですか?」

軍務大臣頓知期間は、本当に只椅子に座っているだけの大臣である。

狡猾なセタの軍事力にはついていけない。

「かくなる上は、陸上草むしり用ゴーレムザナトーンの軍事転用をお認め下さい」

アトバヌは腹が立って頓知期間を怒鳴りつけた。

何の為に並みの軍人500人分の給料を払い、退職後の天下り先を保証してきたと思っているのだ。

いざと言う時に、国家の盾に使う為ではないか・・・。

「アキレスバスターで応戦しろ。報告ではセタのゴーレムは空を飛べなく、魔法も使わないらしい。動きも鈍いから、アキレスバスターで十分に対抗出来る。切り札のゴーレムドールは出来るだけ使うな」

アトバヌ宰相はここでセタ軍を叩けば、手柄を独り占めにしてミストリア王国の地方長官になれるかもしれない。

リピームがジョンの配下になれば対等な立場のライバルである。

テーレ連合の司令官になれるかもしれない。

気分だけでも合法的にテーレ連合の主権者になれるのだ。

「テーレ連合の沼沢地でセタを迎え撃て。あいつら、テーレ連合を見くびった報いを受けさせてやる。ああ。乗組員は必ず生け捕りにしてセタに送り返せ。ジョンが五月蝿いからな」

一応敵兵は捕虜にして自軍に組み込むジョンにとっては敵兵は皆殺しのテーレ連合は殺人鬼の集まりらしい。

「セタは殺せ。ジョン王はあの男の恐ろしさを知らない。生かしておいてはミストリアの為にならない」

頓知期間は早速国民を無理矢理徴兵した王立義勇軍を率いて沼沢地で決戦を挑み、セタ軍のゴーレムを6機鹵獲する事に成功した。

テーレ連合はこのゴーレムを沼沢地から引き上げて、セタ軍に強襲をかけ、大敗して領土の殆どを失い、首都の港町ルグイナシティに逃げ込んだ。50万に膨れ上がったセタ軍は之を包囲して、降伏を勧告する。

「ザナトーンとゴーレムドールを使って反撃しましょう。このままではテーレ連合は崩壊しますぞ」

己の無能さを棚に上げて頓知期間が進言した。

アトバヌは仕方なくゴーレムの使用を認める。

「一機はミストリアへ送ってやれ。どうせこの国は無くなるのだ。研究用に送ってやれば俺達の出世は保証される」降伏すると決めてからアトバヌは交戦意欲を完全に失っていた。

どうせジョンの物になってしまうのであるから・・・。

「和平など論外です。ザナトーン一機でセタゴーレム隊150機はおとせますぞ」

どうでも良いと思った。

ジョン王のご機嫌伺いの方が重要だ。

セタは援軍要請から3日でルグイナシティに辿り着き、テーレ連合の反撃に備えている、海軍総督ミシェリア・ラフト・リートは、ミストリアで開発した超重力爆弾ビックバン・ランタンを腰に下げて参戦していた。

早い話、新兵器のうちもっともヘボイ物をテストする為にジョンは援軍を送り込んだのだ。

真相を知ったらリピームはジョンの敵に回るかもしれない。

「ジョン王は国内の統治に忙しく、私が派遣された。心配するな。食料は送ってやる」

ミシェリアはテーレ連合の兵士を鍛え直す事から始めた。

全ての兵力を海に投げ込み鮫と戦わせる程に苛烈な修行だったらしい。

耐え抜いたのは540万人中2千人のみであった。

他はセタ軍に寝返り、何故か登用されている。

初歩的な計略なのだが上機嫌のセタは気付いていない。

「この勢いでテーレ連合を抑えてしまうのだ。

降伏兵を取り合えずモルゲイン大陸の攻略に派遣しながらセタは新たな構想を練っていた。

モルゲインさえ落とせばミストリアに抵抗出来ると信じて疑わない。

「皇帝陛下。ミストリアが介入する前に和平交渉をして占領地を折半するべきだと思います。今なら和平を拒めません」

ルミがそう言うとセタの顔色が変わった。

「何故だ?ルグイナシティは明日にも落ちる。テーレ連合は俺の物になるのだぞ」

ルミはセタの顔色を伺いながら進言した。

「この戦いの目的はテーレ連合をミストリア陣営から引き離す事です。占領しても配下に賢人がいない以上、ミストリアの250万人の本体に奪回されてしまうでしょう。ここは我慢して、多額の賠償金と3州の割譲と技術者の確保で手を打つべきです。下手に占領してしまうとあの変態のイーボルトがエレナと組んで攻め寄せるかもしれません」

「ほう?」

セタは珍しくルミの意見に耳を傾けた。

そして和平交渉の使者をテーレ連合に送りつける。

驚いたのはミシェリアであった。完璧に策が裏目に出たので仕方がないが。

「ミシェリア殿。セタは思ったより頭の良い男だ。この状況では和平するしかない。それともここで戦って540万人の同胞を見殺しにさせるか?」

最初の計画では降伏兵が反乱を起こした隙にセタのゴーレム部隊を一網打尽にする予定であったがモルゲインに追放されてしまった。

之ではセタに反撃され、ミストリアはダメージを受ける。

「身代金は王が出す。講和をしたければ勝手にしろ。私は王の命令があるまで此処で戦う。淑女共。80隻の5千トン級ガレー船と4万人の海軍でセタ海軍の後方を絶つ」

ミシェリアは相当に鍛え上げられた海軍を率いて、セタの後方を襲うと船員8万人を全員捕縛した。

之により540万の兵は退路を絶たれ、全員降伏する。

決死の覚悟で反撃してきたセタの水兵による人質作戦がなければテーレ連合を解放出来た筈であった。

アトバヌは早々に降伏してしまったので、ミシェリアが技術者ごと高額の礼金にて押さえ込んだゴーレム技術以外のゴーレムはセタの手に落ちた。

「アトバヌの奴。一体奴は何をしたいのだ?」

旧テーレ連合の参謀、ミトレンシナは節操のないアトバヌに、反感を覚えていた。

「私もミシェリアに付く。アトバヌは反逆の罪でいずれ王様に処刑されるだろう」

そう言うとミトレンシアはアトバヌを見捨ててその場を立ち去った。

テーレ連合は領地の95%をセタに割譲してようやく命脈を保ったがモルゲインを武力占領して抵抗する。(当時、7月の反乱により、新傾斜国の領土となっていた)

新傾斜国はミストリアに降伏して6千の兵で残存するセタ陸軍を決戦して大敗した。

モルゲインはセタの衛星国となってしまう。

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