大反抗作戦
(3)「何?パタレーンが陥落したというのか」
その頃、サラディスの火砲を頼りに北傾斜国をほぼ手中に収めていたセタはこの報告を聞くと捕虜にした7億のゴブリン族を従えて取って返そうとした。
既に北傾斜国は組織的な抵抗は出来ずに、王族とわずかな兵のみがテロリスト(傾斜国ではレジスタンス組織)となってセタに寝返った(と王族は思っていた)兵士達を攻撃していたのだ。
ここで手を抜けば王族の反撃にあってビヤッカ帝国は崩壊するだろう。
「こしゃくな若造が・・・。軍を取って返してミストリア軍を殲滅する」
案の定逆上したセタは、本気で軍を反転させようとした。
民間船までつぎ込んで、3千隻の船で15万人の兵をパタレーンに送り、主力の5千はサラディスで運ぶ心算だ。
部下達、特に女性兵士は、逆らうと身の安全を含めて命が危ないので文句は言わない。
もっともセタの側にいる女官は、魔界から召喚した魔族であったが・・・。
魔族の女性は美人揃いである。
しかも50歳位の(魔族としては)若い女性であった。
セタは反逆者は陵辱するが、恋愛には興味ないらしい。
567年生きて、妻も子供もいなかった。
妹のセリアは、140歳の普通のエルフである。
勿論義妹だ。
この時、セタに進言したのが、セタに恋心を抱く、ルミであった。
犯される覚悟がなければ、こんな暴君に付き合ってられるか?
セタ軍に女性兵士が少ないのは単に犯されるのが嫌なだけだ。
ルミは慎重に言葉を選んで言った。
「お止め下さい。大勢は我が軍に不利です。ここでパタレーンに固執すればパタレーンも傾斜国もどちらも失い、流浪の身になりますぞ。ここは確実に北傾斜国を抑えて反撃の時を待つべきです」
軍師のルミは命からがら逃げ延びてきて図々しくもセタに進言した。
命がけである。
セタに犯された女性兵士の二の舞には出来ればなりたくない。
「策はあるのか?無能なる軍師殿」案の定セタはルミの言葉に逆上した。
「元はと言えば留守を任せていたお前が失敗して領地を失う羽目に陥ったのではないか」
セタはその拳でルミの背中を殴りつけた。
「そのお前に俺の行動を諌められるいわれはないわ。200万のエルフを率いてパタレーン奪回に向かう。ルミは2万の兵を率いて王族を皆殺しにせよ。今度失敗したら只では済まんぞ
」
セタはサラディスと200万の兵団があればパタレーンを直に解放できる心算でいるらしい。出なければルミに再起のチャンスを与えるだろうか。
「はっ。王族を皆殺しにいたします」
ルミは屈辱に耐え、セタを見た。
こんな外道でも一度は愛を交わした中である。(キス程度だが)
裏切ってジョンに付く心算はなかった。
各地で兵を徴募すれば、20万人位は集まるだろう。
その兵で決戦に持ち込めば傾斜国を併呑できるかもしれない。
そうすれば信用回復に大いに貢献するであろう。
「ではさっさと行け。南部と西部も俺が帰ってくるまでに制圧しとけよ」
理不尽な命令である。
セタがジョンを叩いて戻ってくるまでに半年くらいしかない。
その時間でモルゲイン大陸(という名前)を攻略しろというのか?
「無理だな。しかしやらねばセタ様に処刑されるだろう。
ルミはセタが反撃の軍勢をパタレーンに向けて進軍させた後、
即座にゴブリンの村を襲い、皆殺しにした後、仁君で有名な西部の泥利王にゴブリンの首を届けさせ、降伏するように脅迫した。
「何?ビヤッカとは何処の国だ?」
泥利王は不覚にもビヤッカを知らなかった。
群臣を集めて協議する。
「俺は降伏するべきだと思う。ルミに勝てるか?あいつは卑劣な策ばかり使うトルハより狡猾だぞ」
別の者が言う。
「そうだ。ブルマー好きの変態などよりビヤッカの方がマシだ」
「そうだ、そうだ」
ミストリアを意識しているのか、部下達が言い募った。
然し之が泥利をあらぬ方向へ導いてしまう。
王国の利益と国民の利益を量りにかけた結果、助平だが名君の誉れ高いジョン王に国を譲ってからミストリアにに投降したのだ。
「何?泥利王が投降してきたと?」
報告をうけたジョンは酷く驚いた。
ジョンは領地が増えたのを喜んだが、領地を増やすと軍隊を配備しなくてはならない。
余裕はなかった。
「如何する?ファシー?」
莫大な金で、ジョンの顧問に任命されたファシーにジョンは尋ねた。
ファシーはジョンに秘策を授ける。
「傾斜国は金の採掘とと織物が盛んです。都にして天下統一の布石にするべきでしょう」
ジョンは部下に命令すると、西傾斜国の守りを強化させた。
緑髪(蛇ではない)のペレトンとトルハも之に同意する。
「折角の貰い物。セタに奪われる訳にはいきません」
イナクレンなども配下のドラゴン兵団を率いて参戦したがった。
ドラゴンは血の気のおおい生き物だ。
「ペレトンさん。部隊を率いて、セタの兵から西傾斜国を守ってくれないか?」
ジョンは西傾斜国の守りにペレトンを任命した。
与えられる兵は西傾斜国兵4万人。
「私は文官でして・・・」
荒事が苦手なペレトンは拒否しようと思ったが、拒否すれば日頃からブルマー姿でジョンを誘惑している苦労が無駄になるかもしれない。
気紛れなジョンを怒らしたら、損だ・・・。
「私でよろしいのでしたら任地に赴きます」
ペレトンは笑顔を作ろうとしたが、無駄だった。
ジョンは不機嫌そうに見えたペレトンの顔をみて人選を誤ったかと思ったが黙っている。
「泥利王。部下を指揮する為の宝剣をお渡し願いたい」
ペレトンが要求すると、王はあっさりと宝剣を渡した。
「では行ってまえります」
ペレトンは子飼いの親衛隊を率いて任地に赴いた。
因みに船は西傾斜国の船団千トン級が5千隻である。
船が不足していたミストリアはこの船団を押えて戦力を回復する。
そしてジョン王は泥利王のようにあまくはない。
即座に声明を発表して殺人鬼のルミと強姦殺人魔のセタを(かつて自分の手下を凌辱したことがあった)討伐する義戦を宣言した。
「我々ミストリアは立場的に婦女暴行魔のセタと共犯のルミを許すことは出来ない。討伐してセタを捕らえてルミと共に罪を償わせる故に、希望者は我が軍に参陣せよ。こないからと言って国家を攻め滅ぼす気はないが、セタと同一の考えに染まるなら、友好関係は保てない」
この下手な演説で集まった兵はゴブリン30万人、ドワーフ5千人、トロール30人である。
当然女性であるエレナは軍を率いて(インフレを押さえ込んでから)ルゼーティアに本陣を置くジョンの下へ参陣してジョン王に協力を誓った。
始めジョンはエレナを警戒していたが、報酬の話をエレナがすると安心した。
エレナは参陣の報酬としてミストリアの誇る播種量81粒のシレーリムを要求したのだ。
エレナは1度ジョンに反逆をしている。
欲を出した方がジョンが安心するのだ。
「良くこられた。アトポックとサーシアはまだ攻略できないのか?僕としては早く攻略してあの憎きペクダールを滅亡に追い込んで欲しいのだが」
戦争になれば軍需物資が高く売れ、穀物の相場も跳ね上がるからパタレーンの穀倉地帯を押さえ込んだジョンとしては是非にも行って欲しいなどと言う本心は流石のジョンも口には出せない。
「ルシー様はお元気か?何れ天下の誉れ高いエティルに行ってみたいものだな」
ジョンはエレナが参陣する前に、ルゼーティアの産物とパタレーンの砂糖と馬を高く売って130億ディルスを荒稼ぎしていた。
その金でパタレーンの産物を買占め、好景気を演出している。
好景気はミストリアとミレイドにも波及して、ミストリアはラザニーヤ国とバルト国の交易拡大に成功。
10億ディルス分の産物が手に入った。
鉱石はミストリアではラザ石(例の合金)と呼ばれていた。
ミストリアの傘下にエティルを加えれば、ミストリアは更に強くなる。
「ジョン王。狡猾なセタを倒す志に感銘して軍に加わった。セタは何処にいる?さっさとセタを片付けたいのだが」
之に対してジョンは答える。
「まあ焦るな。セタなどは大した問題ではない」
この言葉にエレナは驚いた。
(この人はセタとの戦いを地方叛乱くらいにしか考えていないのだろうか)
思わずエレナはそう考えた。
ジョンの考えている事はよく分からない。
エティルを配下にする為にセタを利用したのか?
それともエティルにブルマーを売りつける気なのだろうか?
ミストリアから輸入したスクール水着とやらは実に役に立つ。
陸上運動用ではなくプレートメイル用の、鎧の摩擦で肌が擦れない様に着用する肌着として。ブルマーも意外と役に立つかもしれないから売込みにくれば買ってもいいと思っていた。
然しそれでも解せない。
理解に苦しむ。
「エティルが強大化するのが嬉しいの?」
エレナは尋ねた。
ジョンの発想は常人には理解しかねるとこもある。
恐らくエレナを蛮族の娘ぐらいにしか見ていないのだろう。
確かにエティルは蛮族だが。
「交易相手国としてエティルは極めて貴重だ。だからだよ」
エレナの言葉にジョンはセタが開発していた大砲アームストリーム砲を売り込み始めた。
この際売れる者はみな売ってしまおう。
ジョンはセタからパタレーンを解放した時、大砲鍛冶も押えていた。
セタは腕嵐砲の製造技術を失ったのだ。
「1門500万ディルスでどうだ?ここにある5千門を250億ディルスで売ってやろう。心配するな。大砲鍛冶は貴方に50億ディルスで譲ってやる」
この人身売買的な取り決めは双方の合意の下成立した。
大砲鍛冶は断り切れず、エティルに移住する事を承諾する。
そうでもしなければエティルとの友好関係は成立しなくなるだろう。
それにミストリアには腕嵐砲より威力は落ちるが、戦車砲なら所持していた。
当然大砲鍛冶も沢山いる。
具体的には月450門製造できるだけの生産力を持っていた。
ガレー船なら月25基である。ジョンは早急に腕嵐砲に対抗できる大砲の製造を職人に命じた。
そして魔法使いには1億トンの超弩級空中戦艦ルミナスの製造を命じた。
ジョンは国内に豊富なミスリル銀をふんだんに使って、軍備の近代化に取り掛かったのだ。
よって幾ら返済しても新たな借金が増えるだけなのである。
「ジョン様。金返してください」
商人達はジョンに哀訴した。
然し、今のミストリアに返済能力はない。
仕方なく、ミストリアの観光収入を割愛して借金の一部を返した。
スクール水着の値段が好景気に便乗して2割ほど値上がりして、3億ディルスも増収した。
「エティルの栄光を信じているぞ。国のルシーさんに軍事力を強化するように伝えよ」
ジョンは、エレナに依頼した。
エティルはミストリアの領土では断じてない。
「王。南傾斜国は如何いたします?貴方の物になったのだから兵を送って守らねばならない。ルミを甘く見ては痛い目を見るぞ」
エレナが酔狂にも忠告した。
セタとジョンが共倒れになってくれれば漁夫の利をしめて、天下が取れると言うのにである。ジョンの独特の魅力に少しまいっているらしい。
「そのうちな」
ジョンははやるエレナを抑えて言った。
「セタは南傾斜国を落とすことは出来ない。ここでサラディスを失い、北傾斜国を奪われるからだ。既にサラディスには僕の手下を送り込んでいる。じき陥落するさ」
ジョンはパタレーン攻略作戦の成功で調子に乗っているようだ。
セタが巨人の居住区にしていた、西ノ島アデンを攻略して70万の巨人を入手した。
サラディスがいなくても、この兵力なら必ず勝てるはずだ。
ジョンとエレナはその情報を知らないらしい。
「エレナさん。よろしく頼む。セタを共に打ち破り、東は貴方に、西は僕に国土を分割する」エレナはふと疑問に思いジョンに聞いてみた。
「パタレーンはイーボルトさんに任せるのですか?」
エレナが尋ねた。答える義務はジョンにはないが、一応返事を返す。
「スクール水着姿で不順異性交遊に走るのは本人同士の趣味の問題だし、ミストリアの法律では問題はない。だがあいつの趣味は、帝国の浮沈に係わる厄介事になるだろうよ。スクール水着でそういう事をされると女の子が妙に男の目を意識してスクール水着を着なくなるからな。ブルマーとスクール水着の販売収入で兵を養っている僕には死活問題だよ」
エレナは更に聞いてみた。
「それなら何故イーボルトさんを追放しないの?」
エレナが不思議がって尋ねた。
王国の評判が落ちるのではないか?
「サラディスに勝てる将軍は今の所帝国にはいない。イーボルトさんの趣味は10年後のミストリアには有害だが、今のミストリアでは貴重な人材なのだよ。あいつの趣味は今の所は変態の一言で片付けられるからな。差別用語なのかもしれないがイーボルトさんの趣味を正当なスタイルにしてしまうと帝国が分裂してセクハラ論争が起こるだろう。今は大して気にしないようだが流石にスクール水着で不順異性交遊に走られるとスクール水着は性交の儀式用衣装と取られかねない。そんなものを着て男のいやらしい目線に耐えながら水泳をやれというのか?只の性的虐待と民衆の目には映るだろう。そしてセクハラに厳しい世になっていくのだ」
ならやっぱ追放した方が良いよ。
エレナはそう思ったが口には出さなかった。
何処の世界に敵に助言する物好きがいるのか?
「ジョン王。あたしは何処を守ればいいの?」
エレナがジョンに3度尋ねた。
ジョンも珍しく考え込んでいる。
直感勝負のこの男には珍しい。
エレナは誤解したようだ。
「嫌らしい目であたしを見るな」
エレナは身の危険を感じたのか身構えた。
敵陣に身を委ねた状態で抵抗しても無駄とは思うが、一応拒絶する。
「僕は年上には興味ない。ペレトンさん以外は・・・」
エレナを怒らせたらしいと気付いたジョンは慌てて抗弁した。
「何でブルマーとスクール水着の販売収入の税金で大儲けしているだけで僕の人格まで否定されねばならんのだ?」
自分に反抗する勢力はどいつもこいつも、僕をブルマー好きの変態皇帝と言う。
確かにそう言う趣向もあるかもしれんが、僕の趣味の問題だろう?
「エレナさん。次に同じような態度をとるならエティル領は没収する」
だんだん腹を立て始めたジョンは、エレナに言った。
エレナも大人しく引き下がる。
「側近の姫にブルマーコスプレをさせるあたり、誤解するなという方が無理があるかと」
エレナも言い訳に及んだ。
ジョンは思わず逆上する。
「あれは僕がペレトンさんにやらせている訳ではない。僕の人徳を慕って自主的にやってくれているコスプレだ」
その娘はジョンに気があるのではないか?
エレナは思わずそう思った。
幾ら性に寛容なミストリアでも、男の前でブルマー姿になど普通なるか?
公共の本陣でブルマーコスプレに及ぶペレトンらしき少女を見てエレナは考え込む。
「私が何か?偉大なるジョン様の愛妃たる私が気を引きたくて勝手にやっていることです。別に良いじゃないですか?」
流石に側に控えていたペレトンは抗議した。
人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえと昔から言うのだ。
そして穏やかにエレナに言う。
「姫様。話を元に戻しますよ。北傾斜国に攻め込み、本国を落とせ。所領は4対6でどうです?」
勿論あたしが4の方だねとエレナは思った。
エティルの隆盛はジョンの配下に加わった時に既に決まっている。
されディスしか持たないビヤッカでは、ミストリアに勝てないだろう。
「エレナさんが6で僕が4だ。具体的には北傾斜国を僕に、その他はエレナさんの物だ。ミストリアの国力増強によって取り分は変わるがね」
いずれはエティルを飲み込む巨大勢力になるという意味か。
まあ良かろう。
どうせあの狡猾なトルハにも、姉のペレトンにも勝てないだろう。
ジョンは多分気付いていないだろうが、あの娘はあたしより凄い戦術家だ。
ブルマー姿で男の気を引く女の子だから軽そうに思っているのか?
例えそうでも、あの娘は使える。
ミストリアを倒すには、まずペレトンを離反させるべきだ。
エレナはそう思って、それでもその考えを追いやった。
あのジョンがペレトンを放逐する訳がない。
むしろイーボルトを登用した事が本人の言うとおり、ミストリアの鬼門となるのだ。
もしそうなればエティルにも反撃のチャンスはあるのだが流石に同じ女性として彼女らを貶める気にはなれない。
このネタでジョンを変態よわばりすることは(自由意志であるので)ブルマー派の女の子を(99%の未青年女性を)変態よわばりするのと同じだからだ。
エレナは既に敗北を悟ってジョンの家臣になる気だが、部下は許さないだろう。
せめて部下を説得する時間が欲しい。
「ジョン王が真に経世済民の王であられるなら忠誠を誓いましょう。然し国内の意見をまとめるため15年の猶予期間を頂きたい」
その場の雰囲気で何となく忠誠を誓ってしまった。
「あたしとルシー姉様には手をださないでね」
ジョンはこの言葉に内心怒った。
僕はそんなにブルマー好きの遊び人に見えるのか?
女の子に手をだした事など一度もないぞ、多分?
何でブルマーの販売で儲けているからって変態よわばりされなきゃいかんのだ?
ジョンは取り合えず、この怒りをセタに向けた。
エレナは、少し怯えながらも、友好的な視線をジョンに送っておく。
元々エレナはジョンの事は嫌いではない。只ブルマー姿を強要されそうなのが嫌なだけだ。
この趣味さえ封印すればジョンに従う諸勢力は増えると思うのだが・・・。
セタだってジョンが普通の為政者なら、諦めて降伏するようにルミ辺りが説得する筈だ。
ジョンのブルマー好き(今の所は誤解)が戦火を拡大させている。
エティルとしては、自分達さえ(人前で)ブルマー姿にさせられなければ、ミストリアがどういう政治方針だろうと関係ない。
勝手にしてくれと言った所だ。
ジョンはエティル攻略は取り合えず諦めた。
軍事力なら一年で落とせるが、人民を口説くのに10年はかかる。
贈り物でも贈って、イメージの回復に努めるべきだ。
然しエレナには脅迫めいた言葉を使った。
「エレナさん。面従腹背なら止めといた方がいい。あと5年もすればミストリアは天下を統一するだけの武力を手にいれる。魔法使いも専門職が50万人に増え、僧侶も200万近くいる。近隣諸国から集めた忠義の士だ。1日決戦を遅らせるごとに貴方の勝機は失われる。必要なら今ここで決戦しても良いぞ」
ジョンはここぞとばかりにエレナを脅した。
エレナは不覚にも信じたようだ。
まあ嘘はついていない。
何れエレナにはミストリア軍一個師団(一万人)を任せてみよう。
「分かりました。然し真面目な話し、ジョン王のエティルに対する悪行の結果ミストリアを憎むものが若干います。彼らを納得させるのに時間が要るのです。勿論15年の間に情勢が変わればミストリアとの決戦に臨むかもしれません」
エレナはミストリアの強大な勢力を信じていた。
確かに大魔法使いは50万人に達しているが。
エティルでは残念だが勝ち目はない。
反乱など起こさず、配下におさまっておけば良かった。
「無駄だ。確かに僕は変態なのかもしれんが、セタの方が更に酷い。誰もミストリアの敗北は望まないだろうよ。セタの世は地獄よりも恐ろしい」
ジョンの治める世だって貴族や悪人にとっては住みにくい世の中さ。
エレナはそう思っていた。
然しジョンはブルマー好きの変態王の他は別に悪い評判はない。
降伏すればブルマー好きの変態王の慰み者になるかも知れないが、死よりはマシだ。
「王様。あたしはセタを許せません。ミストリアの司法は彼を確実に終身刑にしてくれますか?」
エレナの問いにジョンが答える。
「ああ。だが裁くならエティルか北傾斜国の民衆だろう」
エレナは答えに満足した。
この拝金主義者の卑劣王に何が期待できるか?
ジョンはエレナに改めて本国攻略を命令した。
完全に部下扱いだがエレナは大して気にしていないようだ。
「では傾斜国を攻め滅ぼしに参りましょう。停泊地を失えばセタは西部の荒野に逃れるほかありませぬ。そこに兵を伏せて白兵戦に持ち込めばセタを倒し、サラディスを捕縛出来ます」
エレナは言葉を続けた。
「播種量81粒のシレーリムは頂けるのですか?先程も聞いたのですが」
悲願である農業生産力のアップの為に、屈辱に耐え、ジョンに従う事にしたのだ。
何処の世界でも降伏した女子は、慰み者にされるのが、普通だと言うのに・・・。
然し生まれた時から王様で、家臣に恵まれるジョンにはよく分からないらしい。
反応は冷たかった。
「無駄だ」
ジョンは、激しく言い放った。
エレナはそれをブルマー姿を披露しようとしない自分への意趣返しと受け取ったようだ。
「何故です?あたしがブルマー姿にならないのがそんなに気に入らないのですか?」
ジョンは頭を抱えた。
本心を完全に誤解されている。
H関連ならどちらかというとスクール水着の方が好きなのだがななどと言う本心は流石にいえない。
「その話題から離れろ。僕はペレトンさんのブルマー姿とミューファさんのスク水にしか興味はない」
「・・・」
ペレトンは顔を赤らめてそっぽを向くが、ミューファは一応平静を保っている。
「私でよければお望みどうりに・・・」
ミューファはその3日後に王国主流の学生用スク水Uバック形を5着も買い込んだ。
巫女服は3着である。
如何でもよいかもしれないが・・・。
ジョンは得心したらしいエレナに説明した。
「たとえ持っていってもエティルの土では2粒も実らん。土壌が全く違う土に幾ら播いても99%無駄だから止めておいた方がいい。100億出して買った株券が一夜にして紙くずになるような羽目に陥るぞ。そうなっても責任は取らんがそれでも持っていくか?君に後でガタガタ言われて僕が詐欺を働いたような印象を国民に与えるのは困るのだがな。只でさえ僕は変態王と呼ばれている。之に詐欺師を付け加えるのかね?」
素人が幾ら挑戦したって旨くいくわけがない。
ジョンの場合は単に幸運だっただけの話だ。
「セタを倒したらゆっくりと農業の奥義を教えてやろう。あらぬ噂が立たぬように双方150人の側近を連れてくるように」
ジョンはそう言うと手下を呼び、何事か言いつけた。
手下は全員立ち去り、後にはジョンとエレナが残される。
「ではあたしも行きます。ジョン王陛下は船団を引連れ、後から御出でになればよいでしょう」
セタの支配する北傾斜国など半年もあれば軽く落とせる。
問題はサラディスと激闘になったとき死人を出さずに乗っ取れるかであった。
既にサラディスが座礁して放棄された事などジョンは知らない。
ジョンの目をくらますため、西傾斜国を経由してパタレーンの西海岸から奇襲する作戦を立てたのが裏目に出た。
ジョンの仕掛けたミスリルの柵に掛かって沈没したらしい。
西海岸は交易路になっていないので柵も6個しか沈めておかなかったのだが・・・。
この時新兵器のカルガモ君が開発され、ミストリアの農業に大いに貢献した。
戦争景気で物資は売れに売れ、セタの持ち込んだコスプレ用ブルマーの収益からの税金で、かつらの販売を始めて、大儲けしたのだ。
特に「帝国の名もなき女性兵士」の髪から作ったかつらは、500億ディルスで売れ、兵士は東方大陸に広大な領地を買ったらしい。
それを知らぬミストリア軍は、パタレーンでセタ軍を待ち受けた。
「セタは何処へ言ったのだ?何故サラディスで反撃するか大砲を使わない?」
セタを失って組織的抵抗力を失ったビヤッカ軍はルミの元再結集をはかっが、エレナ君の疾風の如き攻撃に僅か1月で領土を失い、南極(地図上で最も南方にあるだけで寒くはない)に落ち延びた。
エレナは来た傾斜国を押えるとセタの兵を尋問しようとした。
「あっけない。セタは如何して反撃せんのだ?」
捕虜になった7億のゴブリンを問い詰めた結果、セタの消息が分からないらしいという事が判明した。
「何だと?ではサラディスは何処にいる?戦う気ならとっくにミストリア軍と接触しているはずだ」
エレナはゴブリンを更に尋問した。
ゴブリンは、7日以上も拷問に耐えたが、三角木馬をエレナが用意するとようやく口を割った。
「南傾斜国経由でパタレーンの西海岸を奇襲する作戦なんです。今頃30万の大軍がパタレーンを奪回するため、ハルラーンを包囲した筈です」
ほう。そういう作戦だったのか。
セタを以外に策士だ。
セタを只の連続婦女暴行魔と見ていたエレナは、少しだけ感心した。
だがそれと之とは話が別だ。
女性の敵であるセタを許すわけには行かない。
「西傾斜国を屈服させろ。セタがジョン王に敗れて撤退するときを狙って総攻撃を掛ける」
エレナはジョンの勝利を疑っていない。
操船技術のつたないセタの事である。操船を誤り、貴重な文化遺産でもある船を座礁させた可能性も視野に入れていた。
でなければ、ジョン王からパタレーン方面への転進命令が来るはずだ。
「取り合えずパタレーンは大丈夫だ。南極とやらを落として今度こそルミを生け捕りにするか?然し南極は磁場が強いからなぁ。方位磁石も役に立たない。どうやってルミは南極に行ったのだ?」
エレナは少し考え込んだ。
「そうか貿易風に乗ればたどり着くだけなら何とかなるか?」
エレナは外洋航海用の船を所持していなかった。
強行すればセタの二の舞(推測だが)である。
ルミを追撃するのは諦めるしかなかった。
「サディズム将軍(略称サド)は南部へ進駐せよ。正式にあたしの領土に加える許可を頂いている。反抗者は排除せよ」
エレナはまず、国境守備隊の隊長に降伏勧告を促した。
傾斜国を入手してジョンに対抗するか献上するかすればあたしの立場が良くなる。勿論ルシー様も・・・。
「降伏だと?もう我々の王になった心算でいるのか」
エレナにとって運の悪い事に隊長の炉鳥下種は主戦派であった。
炉鳥下種は即座に軍を集結させ、エレナ軍と向き合った。
炉鳥下種は戦いに有利な川沿いの山岳の城に軍勢をおいている。
当然戦いは持久戦となった。
ジョンは迂闊にもエレナに兵糧を送らなかった。
当然補給は続かない。
傾斜国はエレナより炉鳥下種に味方する。
「変態王の腰巾着に屈服などできるか」
講和の為にエレナの使者をそう言って追い返した。
そしてその夜に夜襲を仕掛けたのだ。
反撃などい有り得ないと油断していたエレナ軍は敗北。
国境の砦に立て篭もり、炉鳥下種の猛攻を防ぎきった。
「まっまさかあたしが敗れるとは・・・」
撤退する炉鳥下種軍に反撃を試みて兵力の殆どを四散させたエレナは身1つで港へ向かい、エティルへ逃げ帰ってしまった。
エレナの敗北につけこんでジョンが北傾斜国へ攻め上るのは分かりきっているからだ。
命さえあれば何度でも再起は図れる。
エレナは決してジョンがエティル本国を併呑するとは思ってなかった。
それをやると住民の宣撫工作に手間取り、セクハラ問題と合わせてミストリアが内部崩壊するとジョンが不安に思っているからだ。
「ぬかったわ。今のあたしではセタはともかく炉鳥下種には勝てない」
エティル領内に戻ったエレナにジョンは使者を送った。
「アトポックとサーシアを攻略する命令である。貴軍は軍を整え、出陣せよ」
この理不尽すぎる命令にサドを始め、エレナ軍の将軍達は交戦を主張した。
血迷っている。
炉鳥下種を倒せなくてジョンに勝てる保証が何処にあるのだ?
「勝てない。エティルの人口は1億。ミストリアは3億だ。しかも魔術師や僧侶はエティル中掻き集めても50人しかいないだろう。それなのにどうやって勝てというのか。お前らがあたしの政策に異議を唱えて反乱を起こさなければ今頃はミストリアに匹敵する魔法兵団を編成できたが?あたしに逆らった罪は重いぞ」
エレナはこんな馬鹿な手下に付き合ってられないとばかりに兵士達を追放すると13歳の女性のみで編成された部隊を徴兵して作り上げた。
その武力を背景に女子教育制度(体操着は上下ジャージとなった)を450万の剣の力で強引に認めさせた。
「あのジョンの属国にエティルをする心算かぁ」
怒りの男共の叛乱は兵士達の実践訓練の場に過ぎない。
全て即日鎮圧された。
なお、女子教育制度にかこつけてブルマーやスクール水着を売り、大儲けしようととした商人は拍子抜けしたが、めげずにパジャマとしてブルマーを売り出すことにした。
之が政治的思惑も重なってエティル中に広まり、寝る時の寝間着として国民服になってしまうほどの流行商品となった。
であるからして(パジャマを着て陸上運動をやる奴は余りいない)エティルでは助平な男の永遠の夢の1つであるブルマー姿を鑑賞できるのは恋人同士だけである。
この国でブルマー姿になってあげると言われたら男の愛を(かなりフェチだが)承諾すると受け取られ、当然同意の上と裁判所も判例を出すだろう。
この慣習のせいでミストリアは自国民のエティルへの移動を禁止せざる負えなくなった。
慣習の違いから(同意が成立したと信じて)女の子が凌辱される事件が起きないようにするするためだ。
エティル側では迂闊にもそこまで思慮深くなかったエレナの失策でエティル人が4人ミストリアに入国する事件が起きた。
同時期にミストリア最悪の婦女暴行事件とされたスクール水着美少女凌辱事件が起こってしまう。
之はエティル人とは関係のない2人のミストリア人のエルフによる同意の上での不順異性交遊であったが、かねてからセクハラに寛容なジョン王の政策に不安を抱いていたマクユイ(セタとは関係のない1派)を激怒させた。
之を機にミストリアの国論は2分され、無実を信じる8割を占める擁護派と2割のマクユイが議会で対立する事となった。
ちなみに同じ様な性犯罪は6年で72件。そのうちの6件がスクール水着姿でいかがわしい事をしようとしたケースだ。
セクハラの段階で女性の反撃にあい、男は周囲の通行人にたこ殴りにされ、裁判所は6件とも(未遂なので)再販出来ないように強力な拘束呪文を掛け、釈放している。
具体的には女性に触ろうとすると雷が落ち、黒焦げになるのだ。
解除するには女性が裁判所に出向いてその人だけ触れるようになる解除キーを教えてもらう必要がある。
なお47件がブルマー猥褻未遂事件。
残りの19件が普通の猥褻未遂である。
なお、ブルマー猥褻未遂事件の41件は最終的に(かなり強引だが)同意しており、たこ殴りにした通行人は治療費を払わされた。
犯罪行為を確認もせずにたこ殴りにする権利は通行人にはない。
そしてブルマー猥褻未遂事件を教訓にミストリアの女性は警報アラーム機能付きの、魔法の腕章を装着する事が義務付けられた。
セクハラされても構わないという奇特な女の子以外は・・・。
ちなみに他国ではエティルが1724件。
南傾斜国が4749件である。
ミストリアではセクハラがある程度公認されているのがガス抜きになるのか性犯罪については驚異的に少なかった。
然し一度こういう事件が起こってしまうとやはりセクハラはよくないと言うことになるのであろう。
実際、この事件後ミストリアの女学生のブルマー着用率は87%にまで下がってしまった。
しつこいが、ブルマーとスクール水着の販売収入の税金で兵士を養っているジョンにしては死活問題である。
そしてスクール水着美少女凌辱事件以降、やはりブルマーやスクール水着の収入では頭打ちになり、魔法の腕章の収入に切り替えられた。
「エレナ姫。チャンスです。この機に乗じてアトポックとサーシアを攻略してしまいましょう。そしてエティルへの援助を申し入れるのです。国論が2分されている今、ミストリアは拒否できません。金と技術をたっぷりと頂きましょう」
黒仮面卿がエレナに進言した。
この機を逃し、大人しくしていては2度とチャンスはめぐって来ない。
「あたしは船を持っていないし、第一アトポックに着いたとたん敵の総攻撃で軍勢を壊滅させられる。どうやって攻め滅ぼしたらいいのだ?」
炉鳥下種に敗れて以来気弱なエレナが尋ねた。
「姫はジョンについています。ジョン王の威光を借りて脅せば2国とも降伏するでしょう。北傾斜国はまだジョンの手に落ちていない筈なので再び軍を送って占領すればジョンに対抗できます。大体2国の追討を命じたのはジョン王本人です。2国は確実に落ちます」
エレナは言われたとおり、2国に使者を送り、之を降伏させると北傾斜国を占領して自立を宣言した。
どうせ直に滅ぼされるが、少し位権力を振るっても良いだろう?
エレナはこの時、傾斜国の地で聖木アフェンの実である聖胡椒(ホーリーペッパーと俗に呼ばれる)を偶然発見した。
この木は魔力が込められていて、1年以上服用すると微力ながら魔力が宿るとされている。
ミストリアの呪文による魔法とは別系統の魔法だ。
「良いものを見つけましたな。早速原木も探してエティルに持ち帰りましょう。ジョンが愚かな論争を始めている間に我々は国力を増大させ、魔法を発展させる。まずはサラディスの姉妹艦のゴルディス4隻の複製を作ることから始めましょう」
エレナ軍が炉鳥下種に敗れた後、黒仮面卿はセタに発見されてしまったサラディスの発掘場所を調査し、船を4隻発見していた。
国内の魔法使いを動員して、複製製作に取り組ませている。
聖胡椒の発見と聖胡椒は、魔法使いの技術革新でエティルがミストリアの上をいったことを意味していた。
しかも古代人が残したらしい手引書まで付いているのだ。
エティルはこの発見で、ゴーレム製造技術と巨人召喚システムも手に入れることとなった。
どのような地形でも山彦を起こす事のできるほら貝とかエメラルド製の笛など一見役に多々なそうな物まで入手している。
エレナはこの技術でエティルの方から巨人を送り込み、巨人の住む妖精界に侵攻を開始して領地を獲得した。
エティルのゴーレム技術は巨人の島ナタール帝国を完全に圧倒して島を領地化したのだ。
そこで採れたファーリクム鉱石(ダイヤモンドより硬い)とラルシス鉱石(男のメデューサ・エルフの眼球と同じ鉱石)を使って軍備の増強に乗り出した。
セクハラ問題で窮地に立たされているジョンを見限り、エティルに渡ってきた造船工を配下にしたエレナは造船工を妖精界へ送り込み妖精界での海軍の増強にも努めた。
銀河系ほどに広大な妖精界を支配するには造船工の力が必要なのだ。
島だけでもこの惑星の35倍はある。
「エレナ姫。早速ゴーレムを動員してパタレーンを落としましょう」
黒仮面卿がエレナに忠告した。
愚かな論争にかまけているうちにエティルの勢力を拡大する事に成功した。
後はジョンを倒すだけだ。
「いや。あたしがパタレーンに侵攻すればセクハラ問題を先送りにしてミストリアは団結する。分裂させておいてマクユイを支援するのが良い」
軍事的成功で自身を取り戻したエレナは妖精界に援軍を送り込んだ。
ジョンと敵対すれば謀反になってしまう。
妖精界なら侵略して文句を言われる筋合いはなかった。
エレナは勢いに乗ってジョンに月額100億ディルスの上納金を収めろと要求した。
セタが行方不明になって捜索に掛かりきりであったジョンに要求を拒む実力はない。
100億ディルスを泣く泣く支払った。
ジョンはそれでも文句は言わなかった。
エレナを敵に回せばセタが反撃に出るだろう。
それだけは避けたかった。
「意外と旨くいきましたな。この金で民衆の生活を向上させろ」
エレナはそう言うとジョンに貰った播種量81粒のシレーリム(結局貰った)の栽培に専念する事にした。