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(1)英雄の生誕

プロローグ1(1)英雄の生誕

大ミストリア王国の首都ル-シーの宮殿、アイリスの馬小屋にて王家の嫡子たる男子が誕生した。

その第一報をハイファ・エルフ族の皇帝シャリー・レナンスに告知した、ドワーフ族の長で、首都にそれぞれ20名の部族民を持つ、ドルクレン・ファシスとトゥーロ・デモクールは、後難を恐れて、賢明にも宮殿を脱出して城下町の薄汚れた汚らしい宿屋に潜伏している。

シャリーの身篭った、反逆者ビルーダ公爵に殺された前夫の子供は、予言により女の子と言う事になっている。

何処の世界でも、男の方が王位継承権は上だ。

それ故に、宮殿にとどまれば王権を弟の系統に奪われることになった、独身のシャリーの絶え間ない八つ当たりの対象となり、縊り殺されることになるのは明白なのだ。

シャリーはそういう女性である。

すでにその兆候はあった。王子誕生の第一報を予言により知っていたシャリーは直属の鉄器団をかき集め、王子派の公爵、ミラル・カッペンの所領たる、ラーゼルン島をいきなり没収して、命乞いをして泣き崩れるミラルを公開処刑したのだ。

所領は公爵である王子の大叔父、セタ・ブレーメンに与えられた。

これがミストリア随一の孟将ドルクレンと、知謀の名将にて宰相のトゥーロを酷く脅えさせたらしい。

2人共王子派なのだ。

正体が分かれば確実に暗殺者を送り込んできて殺される筈である。

それ故、スラム街の貴族で議会の議員職を有する、セタ・ブレーメンが経営する鈴区の家と言う宿屋に篭っていたのだ。

マイナーな貴族なのでドルクレンとトゥーロは不覚にもその名を知らなかった。

知っていたら別の宿に潜伏したことは間違えない。セタはシャリー派の急先鋒なのだから。

しかも王子の首を狙うべく暗躍しそうなのは実はこの人なのだ。

王子とトゥーロ達さえさえ葬れば、王女殿下の宰相の椅子はこの人に決まりなのだから。

「これからどうするね?トゥーロ君」

万が一に備えて3人の従僕に宿屋の門に立たせながら、ドルクレンが尋ねた。

彼は孟将だが頭の方は宰相で、兄貴分であるトゥーロに頼りきりである。

当然だろうとドルクレン本人は思っていた。大体軍人が頭を使って政治的な話をするなどミストリアでは御法度である。

軍人は戦術だけ考えられればそれで宵のだ。

それが文民統制というやつである。

しかし、頼られるトゥーロの方は時々うざったくなるらしい。

この時も嫌味をこめてドルクレンに言ってみた。

「お前は少しは自分で考える気はないのかね?俺はもう宰相でもないのだよ」

正確には罷免されていないがトゥーロはそう言っておいた。

その言葉にドルクレンは少し考えて返答した。

その口元が嫌らしく笑っている。

「俺がものを考えるようになっちゃミストリアは長くないだろうよ。軍人は馬鹿だからこそ命をかけられるのだ」

いけしゃあしゃあとドルクレンは言ってのけた。

彼の心に寸分のやましさも存在していない。

軍人は主の命令に疑問を持っても、自分で考えてもいけないのだ。

トゥーロは、そんな融通のきかないドルクレンを理性を持ってたしなめた。

無駄だと思うが一応言っておかねばならない。

「お前はすでにシャリーを裏切っている。シャリーの命令を待たずに逃亡したのだからな。それはお前の意思ではないのか?俺はお前にそういう命令を出したつもりはない。ならなぜお前は王子に付く事にしたのだね?」

ドルクレンは一瞬返答に困った。

実はよく考えてなかったのである。

気持ちより先に、運命に導かれてこうなったと本人は思っていた。

然し実の所はシャリーに殺されるのが嫌だっただっただけの話だろう。

それ故に、裏切り者の汚名を着せられてしまったのだ。

そう、己を納得させたドルクレンは王子の部下としての所信演説をトゥーロに語って聞かせようとした。

「そんなにミストリアを分裂させたいなら聞くといいさ」

ドルクレンはそう前置きすると語り出した。

「そうさ。俺は裏切り者だ。王子の為に国を捨てた以上、うまく立ち回って王子をミストリアの王にしないとこっちの命が危ない。俺にできることは各地の夜盗をかき集め、どこぞの山奥にでも帰農させて王子の隠れ家を作ることだ。早々に王子を支持して無残な惨死体となった、ミラル・カッペンの二の舞にならぬ様に、密かに兵力を蓄えるのだ。そうして頃合を見て、反逆して王位をシャリーから奪い取るのだ」

ドルクレンは一気に言い放った。

ドルクレンの本心を知ったトゥーロは唖然としてこのイエスマンの親友を見る。

こちらは一応王国の宰相である。

辞めたつもりでいるとはいえ、さすがに反逆する気にはなれなかった。

しみじみとドルクレンに言う。

「確かにお前はイエスマンでいたほうが良い様だ。お前の考えではミストリアは確かに滅びる」

トゥーロが水を向けると、わが意を得たとばかりにドルクレンは喜んだ。

「だろ?俺は軍人でいるべきなのさ。戦略はお前が練ればいい。俺はそれに従うだけさ」

ドルクレンは話の途中で、宿屋の給仕娘が薄汚れたトゥーロ達のいる部屋にいつの間にか持ち込んだおにぎりを口一杯に頬張りながら、軽口をたたいた。

トゥーロは渋い顔をしてそれを眺める。

疑心暗鬼になっているトゥーロは、あいつ等、俺達の正体を知っているのかと思ったのだ。

そう言えば迂闊にも大声で話しすぎた。

俺達は御握りを注文した覚えもない。

俺達をシャリーに売る心算なのか?

「お前の領地と部族民はお前が治めているのではないのかね?」

トゥーロが唐突に嫌味を言った。

給仕娘に悟られぬように話題をかえたのだ。

単純なドルクレンはトゥーロの詐術にあっさりとかかった。

「確か金鉱の収入が60ディルスだったか?俺の領土は武器職人からの税収が500ディルスだ。ゴブリンなら千名は雇えるぞ」

トゥーロは国家からも給料を貰っている。350ディルスだ。

ドルクレンはトゥーロの作為には気付かず、自慢げに答える。

「トロールが2人いる。彼らの用心棒代が700ディルスだ。俺が二割の税金を受け取っている」

ドルクレンは他にもドワーフを使って、人間の諸部族をかき集めて、4千人のラティール党を組織して、800ディルスの税収を得ていた。

トゥーロは不覚にもその事を知らない。

「俺はこの領地を王子の代わりに治めているのだ」

ドルクレンはそう公言してはばからない。然し、ラティール党のことは誰も知らなかった。

シャリーにとっては頭の痛い存在である。

ドルクレンはは別に反逆の兵を募っている訳ではなかったが、そう思われても仕方がないだろう。

そして軍馬は私財を投げ打って5千頭ほど飼育していた。

どう見ても反乱の準備としかシャリーには受け取れない筈だ。

ちなみに給仕娘はシャリー派である。

国の許可制である旅の宿屋は、国王たるシャリーを支持せずに営業できない。

不支持を表明すれば認可をもらえてもすぐにシャリーの不興を買い、首にされるからだ。

それでいくと潜伏しているこの宿屋もシャリーの手下が来るのは時間の問題である。

トゥーロはようやくこのことを思い出し、軽率にも宿屋になどに逃げ込んだ己の作戦ミスを呪った。

今シャリーの兵がなだれ込んで来たら何も出来ずに、シャリー派に殺害されてしまう、これでは只の馬鹿ではないか?

トゥーロがふとドルクレンのほうを見ると事の重大性に気付いていない彼は頓狂な事を言い出した。

「さっきの給仕娘、子供のようだがなかなかの美人だな」

ドルクレンはドワーフなのに酔狂にもエルフの娘が好みらしい。そんな戯けた発言を幾度となく繰り返した。

エルフとドワーフが仲が悪いのは昔の話だがそれでもメデューサ・エルフとの間には抗争もある。

彼女が何故わざわざ、メニュー表にも載ってないおにぎりを話の途中で運んできたのかドルクレンはまったく気付いていなかった。

ドルクレンは従僕の娘に酒を注がせ、安らかな夢を楽しんでいる。

給仕娘との甘く切ないラブストーリーな妄想に浸っているのは、そのにやけた顔からも分かるのだ。

「あいつは何か企んでいるな」

トゥーロは、いち早く真相を悟り、厠へ行くふりをして給仕娘の住むタコ部屋の前で聞き耳を立てた。

あいつは俺の正体に気づいているのか?トゥーロは何時でも脱出できるように身構えた。

給仕のエルフ娘、トルハとペレトンの2人がシャリーに密告する可能性が高いからだ。

あいつらはおそらく家内奴隷であろう。

家内奴隷である2人を解放できるだけの金を手に入れる為には密告者に支払われる、50ディルスの賞金が是が非でも必要だからだ。

それ故に、放置すれば王子派に未来はない。

密談の現場を押さえて捕らえるしか方法がなかった。

下手に攻撃を仕掛ければセタの反撃によって殺されてしまうだろう。

証拠を握るしかない。

案の定すべて聞かれているとも知らずに、ペレトンが軽率にも口を開いた。

因みにドルクレンの意中の姫は妹のトルハのほうである。

「どうする?トルハ」

双子の姉であるペレトンが、妹のトルハに尋ねた。

言わずと知れたお約束の、トゥーロ達の処遇問題の話である。

トゥーロの読みは見事に当たったようだ。

後は油断した2人を捕らえて物置にでも放り込めばいい。

その後はさっさと逃げるだけだ。

「あいつらを売れば私達、確実に自由になれる上にお金までもらえるのよ。このチャンスを逃したらご主人様は私達に何をくれるかしら?革紐でこっぴどく打たれた上に、女郎屋に売られるのが関の山」

ペレトンは希望的観測を口にした。

建前だけでも前向きでなければ奴隷家業はやってられない。

トルハはそんなペレトンを哀れむような目で見た。

トルハはペレトンほど甘くはない。

世が世なら1国の軍師になれる位には聡明だ。

「それでどうやって生計を立てるつもりなの?奴隷の私達を雇う企業は何処にもないわ。自由になったってのたれ死ぬだけよ」

夢見がちな少女であるペレトンに比べてトルハは冷静であった。

現実というものを良く分かっている。

一瞬味方に抱きこめるかなとも思ったトゥーロは、金の用意を部下にさせようかと考えた。

然しそれは最後の手段だ。

トゥーロはドアの前に潜むと、2人を拉致する機会をうかがった。

非力なエルフの女の子2人とはいえ、トゥーロとドルクレンでは逃げられてしまうかもしれない。

そうなればすべては終わりだ。

トゥーロは密かに味方にだけ音を聞かせる魔法のアイテム、静寂の鈴を3回鳴らした。

ミストリアの怪しげな御用商人から買ったいんちき商品だが、2回くらいは使えるはずである。

なんでも備えておくべきだ。

「お呼びか、トゥーロ様」

従僕の一人が音を立てないようにトゥーロの元へやって来た。

トゥーロは冷徹な口調で(小声で)命令を下す。

「出入り口を固めてエルフの給仕娘が逃亡できないようにしろ。逃がせば俺もお前もシャリーの追撃を受ける事になるだろう。裏切るなよ。裏切ればお前も家族も結局はシャリーに殺されるであろう」

従僕は之を聞くとあきれた。

トゥーロは以外と小心者だ。

怒りに任せて小声で言い返した。

「ここで裏切るくらいなら最初にやってますぜ。どうかご安心を」

エルフの従僕ルイス・トゥースは、確かに裏切るつもりはなさそうであった。

野心家だがトゥーロを裏切ることはしない男である。

ルイスはトゥーロに提案した。

「俺が聞いていようか?あんたが客間にいないとあいつらは怪しむかも知れねえ。エルフの給仕娘の他にも1人、下男がいるんだ」

下男?さっき庭先で掃除をしていたあの門番の爺さんか。

確かカルトミール・ヘラホッへとか言ったか?

「あの爺さんなら心配するな。あの年寄りを長者に対する礼もわきまえず、門番にするようなシャリーに忠誠など尽くすものか。年寄りはそれだけで長老として奉られるべき存在なのだ」年齢的に150歳のトゥーロは心情的に、年寄りを軽視するシャリーが許せなかった。もっともトゥーロは、ドワーフとしては青年である。

ドルクレンは78歳であった。

「分かった、ルイス。お前が見張っておれ。俺は客間に戻る」

そう言うと、トゥーロは音を立てないように客間へと戻っていった。

「何?」その時、妹より格段に臆病なペレトンがトゥーロとルイスの密談を聞きつけ、ドアを開けた。

その意味では作戦は失敗している。

ペレトンと鉢合わせたルイスは適当に誤魔化そうとした。

腹を抑えて空腹をアピールする。

「腹が減ったよ。悪いが俺達の分のおにぎりも作ってくれないか。話が終わってからでいいからさ」

所詮子供である双子は間抜けそうに食事を要求するルイスの迫真の演技にすっかり騙されてしまっていた。

自分達の悪行を全て聞かれているとは露ほども思っていない。

ドア越しではドワーフや、エルフの耳でもない限り、聞き取れないと思っているのだ。

ペレトンはルイスを人間だと信じている。

「分かりました。2時間後にもって行きます。御飯を炊かねばなりませんので・・・」

動揺を隠せぬ、か細い声でペレトンが呟いた。

それを聞いてルイスが言う。

「脅えることはない。トゥーロ様はお前らを殺したりしないさ」

この台詞を聞いたペレトンの顔がさっと青ざめた。

こいつらは私達の事を怪しんでいるのか?

「どうしたね?ああ、名前の事か、宰相のトゥーロ様にちなんで名付けられたらしいね。よく勘違いする奴がいるんだ」

うっかりとトゥーロの名を呼んでしまったルイスは動揺を悟られぬようにしながら、言い訳をした。

「そうなのですか?」

ルイスの言い訳を最初から信じているペレトンとトルハは、自由になれる手蔓が、空振りに終わったと重い、意気消沈した。

そこへ追い討ちの一言を告げる。

「ああ、忘れていたが手間賃だ。これで主のことは忘れてくれないかね?妙な噂を立てられると関係のない同姓同名の主に迷惑がかかるのだ」

そう言うとルイスは捨て値で500ディルスはするであろうルビーの指輪をペレトンの指にはめるとよく言い含めた。

正体はばれている様だと流石のペレトンも思った。

ルイスはこの点で失敗を犯している。

「妹と相談してからでもいいですか?私達は自由になれさえすればあの人が宰相でなくともかまいません。口止め料のつもりならできれば現金でいただきたいのですが」

宰相が自分たちを怪しんで買収工作をしている位には思っていたが、他の発言は信じていた。どうせお互い、正体はばれているのだ。

社交辞令はなしにしよう。

少なくともペレトンの後ろでルイスを観察していたトルハはそう思って言った。

「ご心配には及びません。あんたらを売ってもご主人様が手柄もお金も独り占めするだけよ。あたしたちには1ディルスも入らないわ。当然自由になどなれないわね。私達は無駄なことはしないわ」

トルハがそこまで言うと、ペレトンが悲壮な顔つきになって言った。

「ならどうしたら言いの?」

トルハは持論を展開した。

「あたしならトゥーロに付くけど。王子は反シャリーの象徴だから」

トルハは姉の質問を軽くいなした。

ここに500ディルスの指輪を湯水のように使えるバトロンがいるのだ。

現にルビーの指輪をくれたのである。

味方に出来る余地がありそうではないか?

然しペレトンは、この背信行為を知ったご主人様のセタの壮絶な復讐を予想して脅えているようだ。

「あいつらを見逃したらご主人様が怒るでしょ、どうするの?あいつらの為に私達の人生を棒に振るわけ?」

そのペレトンの台詞に、トルハがあざ笑うように言った。

「あいつらはあんな馬鹿でもミストリアの宰相閣下と孟将よ。口止め料に五百ディルスも払ってくれれば母の残した借金の24ディルスをたたき返した上に生活資金も得られるわ。確か利子は15%だから4ディルスくらいね。ご主人様はあの馬鹿の事を知らないから、あの馬鹿に身請けしてもらえば角が立たないわ」

おい、ちょっと待てよとルイスは思った。こんなに金に汚ねえエルフは初めてだ。高貴なエルフ族も長年奴隷でいると心まで汚くなるものか。

然しそれはいい考えだとペレトンは思っていた。

一応東方の大陸、ペクダール大帝国の王族に連なる血筋のペレトンとトルハには、シャリーに義理立てするいわれはなかった。

ペクダールを滅亡に追いやったのはシャリーである。

「でも、私達は失脚した宰相の首を差し出せば確実に報奨金が入るよ。トゥーロの方は払ってくれるか分からないじゃない」

既にルビーをくれてやっただろう。

それでは不満なのか?

ルイスは憤慨した。

こんな奴、さっさと斬るべきではないか?

ルイスが剣の柄に手をかけたその時、トルハの一喝がとんだ。

「私達はこれでも王家のエルフなのよ。主家を滅ぼしたシャリーに媚びる等と恥を知りなさい」

トルハがそう言うとペレトンがぼそりと呟いた。

「誇りでご飯は食べられないわ」

ルイスは心中思った。

王家のエルフが金にまみれるなよと。

その時、怪しげな行動をとる給仕娘に、疑惑を感じたドルクレンが宿屋の客間から声を出した。

「おい。エティル・ゼフィナ産の紅茶が飲みたい。金を渡すから買ってきてはくれんかね?」勤めて穏やかな声で頼んだ。

こそこそと宿屋の自室で密談する怪しげな双子に疑念を持っているとはおくびにも出さない。ペレトンも脅えた口調で言い訳をした。

「困ります。あたしたちが外に出られないのはお分かりでしょう?」

不意に自分達を呼ぶ声を聞いた、トルハとペレトンは慌てて声を返した。

この国の法律では奴隷の主人の許可なしでの外出は禁じられている。

大体その法律を作ったのはトゥーロではないか?

姉に比べて感情の出やすいトルハは不条理な怒りをトゥーロに向けたが一応、慌てて客間に駆けつけた。

その間、ドルクレンはトゥーロの説得を受けている。

「あんな素敵な娘が俺達を売るわけないだろ?」

トルハの魅力にぞっこんのドルクレンはトゥーロの説得に反感を覚え、弱弱しく抗議した。

イエスマンを気取っているドルクレンにしては珍しい反応だ。

「お前がどう思おうとあいつらは俺達を売る相談をしていたんだ。あいつらは俺の首を狙っているんだ」

これにドルクレンが噛み付いた。

「狙われているのはお前の首だろう?俺はお前の犬だがあの給仕娘を敵に回すなら見捨てるしかないな。話し合え。知謀の宰相の名が泣くぞ」

これを聞いたトゥーロは妥協案を示した。

取り合えず給仕娘を人質にして反応を確かめてみようと言う事になった。

それでトルハに声をかける。

「おい。さっさと茶を持ってきてくれんか?この宿屋にある奴でいいから」

エティル産の最高級茶を飲みなれているトゥーロとドルクレンにとって庶民の飲むお茶にも興味はあったがそれは口実で、給仕娘を一人きりで誘い出すのが狙いである。

「はい。今行きます」

トルハはそう言いながらも身の危険を感じてうろたえていた。

「る、ルイスさん、一所に行ってよ。密談のことはばれてるんでしょ?一人で行ったら凌辱された上で弄り殺されるに決まっているわ」

トルハはドルクレンの方には好感を持っていた。

どうせ凌辱される運命ならドルクレンの方に抱かれたい、位いには思っている。

然し、トゥーロは馬鹿宰相だと決め付けていた。

大体ミストリアに奴隷制度などというものがあるのと、彼の在任中にペクダールが滅んだのがその根拠であろう。

彼女の治世に、多くのエルフがメデューサ・エルフと呼ばれ、その瞳を狙う強盗団により殺害されたのだ。

女郎屋に売られ、凌辱されたエルフも数多い。

雑役婦として24ディルスで売り飛ばされた双子は幸運なほうであった。

「あいつらはドワーフだぞ?エルフにとってお前は美女だがあいつらにとってはゴブリン並だ。凌辱などしないから安心しろ。ちなみに俺には妻のエミリーと娘のルシーとアミとエレナがいる。アミは4歳だ」

可愛い娘がいる身で他の娘に手など出すかといいたいらしい。

それで何とか勇気を振り絞ってトルハはトゥーロの面前に現れた。

「申し訳ありません。ご主人様は外出中でして、私達は法律により外出できないのです」

全てばれているのは知っているがそれでも芝居を続けることにした。

トゥーロはそれを聞いて思った。

そういえば先代の宰相のアーカルトン・フェシスがそんな法律を作ったな。

事情を知っているトゥーロは眼球に怒りと脅えをたたえるトルハに優しく言った。

「あんたはやはり俺を知っているのか?」

その時ドルクレンが素早くトルハの手を取ると彼女を客間に引き込み、その首筋にナイフを当てた。

トルハの顔が死の恐怖に真っ青になる。

降伏して命乞いしようかと思ったその時トゥーロの脅し文句が飛んだ。

「もう一人の娘に言え。逃げれば殺す。助かりたければエルフの血に誓いを立てて俺の兵士になれとな」

之を聞いたトルハは面食らった。

この人は宰相の癖にやっている事は夜盗も同様ではないか。

こんな馬鹿宰相の支配下にあるミストリア人は哀れでならない。

捕らわれの身になったトルハはそんな他人事のようにルーシー人に同情していた。

そしてこの事がトルハの王族の誇りに火をつけたらしい。

公然と言い放った。

「あんたらは夜盗なの?高貴なるエルフ族が汚らしいドワーフなどの脅しで魂を売るなどと本気で思っているの?凌辱するなり殺すなり好きにしたらいいわ」

トゥーロを売る密談を聞かれたと思ったトルハはどうせ命乞いしても無駄だと諦めたらしい。トルハはあっさりと抵抗を止めると様子を見る事にした。

それを見たドルクレンは言う。

「ほら、やはりこの娘は俺達を売るような娘じゃないだろ?」

ドルクレンは神妙なトルハの態度に安心したのかトゥーロに嫌味を言った。

そのまま説得モードに入る。

「あんたらが俺達を憎んで戯れにもでも売り飛ばす相談をするのは分かるが凌辱される覚悟まであるなら俺を嫌うのだけはやめてくれないか?俺はぶっちゃけた話、あんたに惚れちまったんだ。取り合えず友達から付き合ってくれる気は・・・、やっぱないよな」

「はあ?」

唐突で突然の一目惚れ宣言にトルハは間抜けな声を出して反応した。

メデューサ・エルフにとってドワーフは不倶戴天の敵である。

その恨みはミストリア建国戦争の折、軍資金調達のため、ドワーフがメデューサ・エルフを虐殺して瞳を奪い取ったことに由来する。

それが恋愛をしようというのか?ドルクレンは血迷ったか?

「私メデューサ・エルフなのよ?ふざけて言ってるの?」

トルハはドルクレンに好意を抱いてはいるがあくまで友人となるならである。

ドルクレンは如何見ても恋人としての関係を望んでいるようだ。

エルフとドワーフならプラトニックな恋愛が一般的だがドルクレンの目を見れば誰だって身の危険を感じる。

「俺は都市出身のドワーフだからな。人間のような好みなのだ。あんたはドワーフは嫌いかね」

当たり前じゃないとトルハは思った。

メデューサ・エルフにとってドワーフは悪魔より邪悪な卑劣漢である。

いや悪魔はエルフの瞳で(宝石としての価値と魔法製品としての価値がある)商売などしないから悪魔に失礼だろう。

悪魔の中にも正義の心に目覚め、地上に降り立った、ダーク・エルフと呼ばれる種族もいる。勿論エルフとの血縁関係は無い。

余りにも世間体が悪いので同盟を結ぶ勢力も無く、結局魔界にも戻れず、夜盗化するものが殆どだ。

東方大陸にはダーク・エルフの一大勢力が潜んでいて王国を造っていたがブァンレイア帝国と称する宇宙国家と取引をして月を入手したと伝えられている。

この権利は50年前のシャリーによる東方遠征でミストリアに移った。

然し宇宙軍を持たないミストリアではテレポートの呪文でも使わぬ限り屯田兵を送り込めない。

この呪文を使えそうな素質を持つものは今の所シャリーとカルトミールしかいなかった。

それはともかくトルハは取り合えずドルクレンと話し合う事にした。

少なくとも殺される心配はなさそうだ。

トルハが唐突に質問する。

「瞳狩りはトゥーロ様の命令なの?」

ドルクレンの執拗な説得の言葉を適当な聞き流していたトルハは聞いてみた。

実はトルハは無常にも瞳狩り事件を全く他人事として捕らえているのだが、ドルクレンにとっては冷酷に聞こえたらしい。

慌てて言い訳をしたのが今の状況だ。

「トゥーロ君は関係ない。瞳狩りはミストリアの商人がやっている事だ。俺達の部下に1000ディルス以上の資産を保持しているものはいない。

瞳狩りは合法だからやっている奴がいれば贅沢な生活をしている筈だ。

そして瞳狩りはシャリーの命令じゃないと廃止できない決まりになっている。トゥーロ君を攻めないでくれ」

ドルクレンに好感を持っていたトルハはこれを聞くと神妙な顔つきになって言った。

穏やかに微笑む。

機嫌を良くしたトルハがドルクレンの問いに答えてやった。

「友達からで言いなら、交際してもいいよ。でもあんた自分の恋人に刃を突きつけないと話もできないタイプなわけ?年上の癖にしっかりしてよね」

それを聞くとドルクレンは刃を捨て、トルハを自由にした。

そんなトルハの態度に気を良くしたトゥーロは穏やかに尋ねた。

「なら同族の王子に忠誠を尽くせないかね?俺はできれば殺人鬼などと呼ばれたくはない。お前達が王子に仕えてくれれば俺はお前を殺さずにすむのだ。お前はどうせ俺をシャリーに売る相談をしていたのだろう?なら王子に仕えろ。月120ディルスと契約金500ディルスにドワーフの召使4名と王子の遊び相手の地位を保証してやろう。俺はまだ正式に宰相を解任されていない。お前をミストリアの貴族に登用するだけなら簡単だ。どうだ?俺は金で解決するなら10万ディルスだって出すぞ」

トルハは呆れた表情でトゥーロを見た。

この外道な誘拐犯は自分の手下になりそうな人材を金に任せて雇っているのか。

まったく、こんな金に汚いドワーフなど始めて見た。

こんな奴が宰相とはミストリアも長くはないな。

心中そう思っていたのだが考え直した。

折角の出世の手蔓なのだ。

王女たる身分を回復する為の第一歩なのだ。

「それならまず、私達を奴隷から解放してくれませんか?ご主人様にその金を渡して自由にして下さい。それなら王子に忠誠を誓いましょう。そして宰相の命令で大赦令を出して債務奴隷だけでも解放してください。そうすれば王子の名声が高まり、シャリーも迂闊に王子に手が出せなくなるはずです」

之を聞いたトゥーロは意外な拾い物をしたと思った。

この娘は使える。

今から訓練すればシャリー亡き後のミストリアの親衛隊長になるかもしれない。

この娘が後20年早く生まれていたらペクダールは滅亡しなかったかもしれないとトゥーロは思った。

トゥーロは考えた末、ついに決断を下した。

「ドルクレン。宰相の名の下に大赦令を宣言する。名目は王子誕生だ。ルーシーの住民に触れて回れ」

トゥーロは、トルハを手下にする為だけに、大赦令を国内に宣言した。

この頃になると、ペレトンも諦めたのか王子支持に回っている。

こうして以外にあっさりとトルハとペレトンは奴隷から開放され、市民となった。

然し人の欲はこうなると加速するものである。

トルハは宿屋の主人のセタを追い詰めるべく、狡猾で非道な作戦を考え出した。

取り合えず、2人の持ち物である官給品を整理し始めるとセタが戻ってきた。

「何をしている?」

セタが怒りを含んだ声を出した。

まあ、短気なセタの事である。

之でも我慢している心算なのだろう。

「大赦令が出ました」

トルハは覚悟を決めて事の成り行きを説明した。

「何だと?俺の奴隷を勝手に自由にされてたまるか」

所用から戻って来た宿屋の主人、セタ・ブレーメンは、これを聴くと怒り狂ってトルハを革帯で殴りつけた。

その額から鮮血が噴き出ている。

「大赦令を出したのはあの憎きトゥーロです。私に文句を言われても困ります」

トルハが必死に言い訳したがセタは聴く耳を持たない。

強かに殴りつけられたトルハは戦術を変更した。

セタの目にはそう映っただけでトルハにとっては予定どうりの行動である。

セタを怒らすことだけが目的なのだ。

「殴りましたね」

トゥーロは大赦令を聞きつけて集まってきた元家内奴隷8千人の目の前でセタの行為を確認した。

「殴って何が悪い。奴隷を躾けるのは飼い主の義務だ」

セタは状況によっては確実に元家内奴隷によるリンチ事件に発展しかねない立場に気が付いていない。

トルハを殴ると胸ぐらを掴んで地面に叩きつけた。

トルハは勝利を確信した目でセタを見た。

セタは之に気付くと、トルハに殴りかかろうとしてあっさりと足を掛けられ、倒されてしまう。

「お前は俺の奴隷なのだ。大赦令など俺は認めん。シャリー様に願い出て貴様を逮捕してやる」

セタはトルハに突きつけられた棒から迸る閃光に脅えながらもトルハを脅そうとした。

そのセタを冷たい目で見たトルハは静かに通告した。

「大赦令により私達は家内奴隷ではなくなりました。その私に暴力を振るうことは傷害事件になり、千ディルスの慰謝料を払う義務が生じます」

セタは之を聞くと逆上してトルハを殴りつける。

トルハはあっさりと之をかわした。

「その馬鹿が宰相だという証拠などないぞ」

セタはトルハが血みどろになって倒れるまで殴り続けた。

「どうだ思い知ったか、奴隷の癖に生意気な発言をしているんじゃねえ」

トルハは法律に乗っ取ってセタを挑発して慰謝料としてセタの領地となっていたラーゼルン島を差し押さえる計画なのだが、逆上したセタは全く気が付いていないようだ。

元奴隷達は挙ってセタの行為を告発するであろう。

8千人も証人がいればシャリーも無碍にする事は出来ないのだ。

「お、おいもういいだろう、止めてくれよ」

ドルクレンもトルハの狡猾な計画を知らなかったが取り合えず止めに入った。

自分の恋人が悪漢に殴りつけられているのを止めないわけには行かない。

「殴りたければ俺から殴れ。但し、俺はドルクレン・ファシスだ」

名将ドルクレンに楯突く奴もいないだろうと言ってみたが無駄だった。

セタは逆上する。

「それが如何した?邪魔するな。この腐れドワーフ」

セタは今度はドルクレンを革帯で殴り続けた。

セタがドルクレンを殴ることは、(市民権と軍籍は剥奪されていないので)単なる殺人未遂もとより障害事件となってしまい、セタは追放か処刑される運命なのだが逆上したセタは気付いていないようだ。

「俺に逆らうやつは全てこうなるのだ。お前ら。大逆罪で処刑されたくなければこの偽宰相を殴り殺せ」

セタは態度を表明していないカルトミールを盾にすると、そう宣言した。

セタはシャリー派だからセタに手を出すとシャリーが出てくるという脅し付である。

然し誰も動かなかった。

奴隷の逃亡を知り、捕まえに来た主人達ですら体制非なりを悟ってセタの資産を没収してそれを分けて奴隷を失う損害補填をし、事なきを得ようと思っていたりするのだ。

それにどう見てもエルフの少女を虐待する暴虐な主の攻撃から少女を庇ってドワーフの若者が殴られ続けているように周囲には見える。

「止めないか。その少女はもはやお前の奴隷ではないのだぞ」

良識のある若者がセタを羽交い絞めにして無理矢理ドルクレンから引き離した。

「お前にはこの約8千人の元奴隷が見えないのか?いつ暴動を起こしてお前の命と財産を根こそぎ略奪するかもしれんのだぞ。小娘2人などさっさと解放して、慰謝料を払って事なきを得ろ。大赦令が出た時点でお前の負けだ。宰相本人の命令はシャリーだって無視できない。お前が引かなければ体よく見捨てられるぞ。それでこの暴徒に身包みはがれても良いのか?」

別の若者が適切な指摘をした。

「その娘はお前が慰謝料を払う義務が生じるようにお前を挑発しているのだ。拒めばラーゼルン島を差し押さえてトルハがラーゼルン王になる筋書きなのだ。既にお前の行為は俺達も暴徒達も目撃している。言い逃れは出来ないだろう。お前はあの奴隷がお前の資産を横取りして王になるのを是認するつもりか?その娘はお前よりはるかに狡猾だぞ」

トルハはこれを聞くとセタに殴られた怒りも手伝って逆上した。

「人聞きの悪いことを言うな。私がこの計略を思いついたのはセタに殴られた後だ」

半分は嘘だが元奴隷達は信じ込んだ。

之を聞いたセタは逆上する。

「この奴隷娘がぁ」

セタは若者の手を振り払い、ストレートパンチを繰り出した。

トルハはそれを左手で抑えると左手から繰り出す電撃の魔法でセタを黒焦げにする。

「貴様。奴隷の癖に主に歯向かうとは」

とたんに大人しくなったセタは泣き言を言い出した。

「この奴隷が俺を殺そうとするんだ。だっ誰か助けてくれ」

セタは従順無垢と信じていた奴隷の反抗に恐怖して気が動転しているらしい。

あの高圧的なセタの突然の狂奔に唖然としながらも正当性を主張した。

「これ、正当防衛だよね?殴りかかってきたのセタの方だし」

トルハは泣言を言うセタを蹴倒して長年の恨みを晴らすと、冷酷に宣言した。

「セタは私への傷害行為により、慰謝料を払う義務がある。本人に払う意思がないことは明白であるので資産を差し押さえて王子の直轄領とする。私個人には1500ディルスのみ、領地から支給される」

青ざめるセタにさらにトゥーロが補足の言葉を付け加えた。

「大赦令により奴隷から解放された諸君にはラーゼルンの市民として保護される。4ヵ月間の猶予期間を得て納税の義務が発生する。その代わり最初の5ヶ月間の基本税は一晩農民の5倍とする。大体月金貨1枚が基本税で後は収入に応じて徴収する」

セタの顔がさらに青ざめる。

ようやくトルハの悪逆な計略に気付いた様だ。

もはや遅すぎるが・・・。

「ちょっと待て。俺の資産だぞ」

トルハの足元にすがり付き、情けを求めだしたセタにトルハは冷酷な面で言い渡す。

「もはやお前の物ではない。お前はこの国の貴族でもなくなった。下郎が、宰相様の御前であるぞ。土下座して媚びるがいい。そうすれば犬の糞掃除の仕事を与えてやろう。喜べ、さぞ嬉しかろう」

増長したトルハがこの3年間言いたくてたまらなかった嫌味を言い出した。

「そういえば貴族だったお前は世俗の法律では裁かれないのだったよな?市民に対する犯罪は裁かれても貴族への犯罪は法で裁けない。そんなことはありえないとされるからだ」

トルハは勢い余ってセタの処刑を命じようとした。

それをドルクレンとペレトンが力ずくで止める。

「もう良いじゃない。計画通り、ラーゼルンは私達の物になったのでしょう、トゥーロ?」

ペレトンがすがる様な目でトゥーロを見た。

それをトルハがたしなめる。

「あいつを生かしておけば王子が受難を受けることは明白。ここで処刑してしまおう。そうすれば100年はミストリアは安寧のときを過ごすであろう。然し彼を逃がせば多くの市民が殺されますぞ」

何故か偉そうな口調でトルハが宣言した。

「たったしけてくれぇ」

セタが見苦しく命乞いを始めた。

トルハは得意の雷撃の呪文でセタを狙う。

「そうだ。私を庇ってくれて有難う。殺人鬼になっても私は貴方に好意は持っているよ」

変な言い回しだが自分を対称に話しているらしい。

遺言のようにも聞こえた。

「止めろ。どんな理由があっても強姦と殺人だけはやってはいけない」

ドワーフにしては俊足の100m8.28秒を叩き出し、トルハ引き寄せるようにして抱き寄せ、腕を掴み雷撃を消した。

ドルクレンは雷撃をまともに手に受け、大火傷をする。

「あんたは人殺しなどしなくていい。それが出来るのは裁判所だけだ。逮捕状の出てない者を処刑すれば罪に問われなくとも確実に仇討ちされるぞ。そんなことが社会通念上許されるわけが無いだろう。セタを殺せばセタの家族があんたを殺す。そしてセタ派と王子派に分かれての内戦になる。多くの民が飢えと略奪に苦しめられるぞ。そしてあんたのような立場のものが激増するのだ。それでも良いのか?」

普段からイエスマンを気取るドルクレンの台詞とは思えないとトゥーロは思った。あいつは本気でトルハに一目惚れしたというのか?

トゥーロは場違いな感慨にふけっていたが冷静になるとトルハを嗜めた。

「ドルクレンの言うとうりだ。それにセタを殺したら王子が天下を取れん。綺麗事だけでは政治は出来ん。セタを生かしておいて利用する方法を模索するべきなのだ」

ドルクレンも発言する。

「そうだ。早速王子派を連れて赴任したいものだが王子を連れにルーシーに戻ると俺は確実に処刑されてしまう。どうしたものか」

トルハが2人の説得によって態度を軟化させたその油断を狙ってセタは渾身の力を振り絞ってトゥーロに殴りかかろうとした。

「死ねえ。この偽宰相がぁ」

「セタ。お前にはもう少し役に立ってもらうぞ」

トゥーロはセタの一撃を受け止めると従僕2人に取り押さえさせた。

「放せ偽宰相」

トゥーロは構わずセタを縛り上げさせる。

そして取り合えず宿屋の納屋に放り込んでおいた。

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