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強奪

 俺はおじいちゃんに提案され、しばらくの間スラム街でお世話になっていた。ジュエルも特に文句を言わなかった。


 ある日の朝、珍しく家の外が騒がしいので家の外に出ると、人集りが出来ていた。話によるとこの街の王の兵士が2人スラム街に来ているらしい。この街の中ではスラム街は見放されていて、兵士が来ることなど滅多に無いという。人混みを掻き分けていくと、そこには鎧を着た男が二人立っていた。どうやら何かを探していて、聞いて回っているらしい。


「今、国王さま探し物をしている。正確な形は分からないが、とても珍しい宝らしい。」

一人の兵士が群衆に向かい声をあげる。


「心当たりのあるものはいないか。情報をくれたものには国王さまから褒美を頂けるとのことだ。」

もう一人の兵士が声をあげる。


人々は少しざわつくが特に名乗り出る者はいなかった。


「スラム街に伝説の秘宝を持っている者などいるわけもないか…。」

「他をあたろう…。」

二人組はそんな小言を言いながら去っていこうとしていたが、そこで一人が立ち止まる。ジュエルの首につけている物に目が止まったのだ。兵士はジュエルにゆっくりと近づいてくる。


「お嬢ちゃん、そのネックレス綺麗だね。どうしたんだい?」

兵士は聞く。


「もらった。」

ジュエルは言う。


「すまないが。王様の探し物かもしれない。少しの間借りることはできないかな?」

兵士は腰を低くして聞く。


「コレは大切な物だからダメ。」

ジュエルはきっぱり言う。


「そうか。わかった。」

兵士もあっさりと食い下がる。


俺はずいぶんあっさりと兵士が諦めたことに驚いた。

 実は兵士たちもこの宝探しにはあまりのる気では無いのだ。この街の王は、善良な王として有名だった。街の人全員に慈悲をもって接していた。しかし、()()()から彼の行う政治方針はガラリと変わり、それがあまりうまくいっておらず、貧困の差が増すばかりであった。挙げ句の果てに王は宝を探せと言い出した。兵士たちの間でも不満を言うものは少なくなかった。


 兵士たちがその場を去ろうとしたちょうどその時、奥の方から蹄の音とともに兵士たちとは比べ物にならないぐらい綺麗な鎧を重装した体格の大きい騎士が現れた。騎士の身につけている鎧の左胸には太陽のようなマークが刻まれていて、背中には大人の背丈ほどありそうな大剣を背負っている。騎士はしばらく周りをキョロキョロし、自分の持っている一回り小さい本と周りの人達を交互に見ている。騎士の顔がジュエルのところで止まった。そして、馬から降りてゆっくりと近づいてくる。


「そこのお前。その首に掛けてるネックレスをよこせ。」

騎士は冷たい声で言う。


「ヤダ。」

ジュエルは即答する。


その瞬間、騎士はジュエルの首を掴み持ち上げる。

「うっ。」

ジュエルはその速さに反応できなかった。


「ちょっと何やってるんですか。子供ですよ。」

それを見た兵士の一人が慌てて止めに入る。


次の瞬間、血飛沫が周りに飛び散る。


兵士の首が飛んだ。騎士は無言で大剣をしまう。それを見た群衆は悲鳴をあげ、バラバラに逃げていく。


 騎士はそのままジュエルのネックレスを奪うと、ジュエルを地面に投げ捨てた。そのまま騎士は去っていこうとする。その背後から態勢を立て直したジュエルが襲いかかる。騎士はその攻撃をひらりとかわしジュエルの腹を殴る。ジュエルは数メートル吹き飛んだ。


「かえせ…。」

ジュエルは地べたに這いつくばったまま言う。


騎士は振り返りもせず、また去って行こうとする。その時、騎士は後ろに気配を感じてとっさに振り返る。しかし、そこには倒れた少女しかいない。前を向きなおすとそこには男が立っていた。その男の手にはさっきまで持っていたはずのネックレスが握られていた。


「嫌がっている相手から無理やり物を盗るのは良くないなぁ。」

俺は手に持ったネックレスをクルクル回しながら言う。


(俺が言えたことでは無いけどね)

と心の中で自分の言葉にツッコミを入れる。自分でもなんでこんな行動をしたのかわからなかった。しかし、体が勝手に動いていた。


男は俺に向かって大剣を振り上げた。その瞬間、騎士の頭にジュエルの拳が命中する。騎士は態勢を崩す。その隙にジュエルと俺は騎士と出来る限り距離を取る。


「殺す。」

騎士は冷たい声でそう呟いた。俺は騎士の気配がどんどん高まっていくのを感じた。逃げようにも騎士には隙が無い。俺は正直、死を覚悟した。その時、騎士が何かに気づいたように石版の様なものを取り出し、誰かと会話を始める。


「分かりました。」

騎士はそういった。その瞬間、騎士は目の前まで来ていた。俺とジュエルは全く反応できなかった。騎士の拳が俺とジュエルの腹に突き刺さる。目の前が真っ暗になった。


 

 目が覚めたのは、あれから2日後のおじいちゃんの家のベットの上だった。体の痛みはまだ残っている。どうしてあの騎士が俺たちを殺さなかったのかは分からない。俺は周りを見てジュエルを捜す。ジュエルは部屋の隅で暗い顔をして下を向いていた。ジュエルの首にあのネックレスはなかった…。

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