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ジュエル

 私が目覚めるとそこは誰か知らない家のベッドだった。どうしてここにいるのか分からない。私が覚えているのは自分がジュエルと呼ばれていたという記憶だけだった。


「目が覚めたかい。」

ベットの横に座っていた人間の老人はそう声をかける。


「ここはどこ。」

私は質問する。


「ここはワシの家じゃ。きみは森の中でひどい傷を負って倒れてたのじゃよ。それをうちの息子が見つけて連れてきてしまったというわけじゃ。」

老人は優しい声でそう言う。

改めて自分の体を見ると包帯が巻かれていて体のあちこちに傷がまだ残っていた。


「傷の具合はどうじゃ。」

老人は尋ねる。

「もう大丈夫。」

そう言って私は体を少し動かしてみせた。


「君の名前はなんというのかね。」

老人は続けて尋ねる。

「ジュエル。」

私はそう答える。

「いい名前だね。」

老人は言う。

私は少し照れた顔になる。


「どこから来たんじゃ。」

老人はまた尋ねる。

「覚えてないの。起きる前のことは何も思い出せなくて。」

私はそう答える。

「そうかい。そうかい。名前だけ覚えていれば十分じゃ。しばらくうちにいるかい。」

老人は優しいこえでそう言う。

「いいの?」

私は言う。

「行く場所が無いならゆっくりしていきなさい。私の名前はムーじゃ。よろしくな。」

老人は笑顔でそう言った。



 私はそれからこの家に住むことになった。ムーさんの息子のライラとその妻のメリーさんとも少しずつ仲良くなっていった。

 しかし、外の人たちは私を見ると、避けるようにどこかへと足早に去っていく。ムーさんが言うにはこの街は昔、魔獣から襲撃を受けて多くの死者を出したことがあったらしい。それから獣族や他の種族には恐れや怒りを抱いている者も少なくないらしい。私がいるせいでムーさんたちが陰で嫌がらせを受けていることも知っていた。それでもムーさんたちはいつかみんな認めてくれるからと優しくしてくれる。ムーさんからは少しでも生活しやすいようにと獣族であることを隠せるフード付きのマントをもらった。お金が無い中でも私のために買ってくれたんだと思う。



 そんなある日、事件は起こった。

 街は魔獣や魔物から守るために大きな壁で覆われているがソイツは空からやってきたのだ。そう飛竜だ。飛竜は人里から離れた魔力の濃い場所にしか居ないと言われている珍しい魔獣のはずだがなぜだろう。


 そいつはこともあろうに最初に私たちが生活しているスラム街から狙ってきた。スラム街の男たちが応戦するも手も足も出ない。街を守る兵士たちも魔王軍との戦争で兵士が減っているためかなかなか応援に来てくれない。


「私がみんなを守らなくちゃ。」


 体が勝手に動いていた。私は飛竜に向かっていった。

 しかし、飛竜と獣族では力の差は明らかだった。なんとか周りへの被害は食い止めてはいるが、私の体はもうボロボロだ。でも諦めるわけにはいかない。私が諦めたらみんなが危険な目にあう。歯をくいしばるが体が動かなかった。飛竜の牙が私にトドメを刺そうとする。

 その時だった。何が飛竜の頭に当たる。飛竜は攻撃をやめ、物が飛んできた方をみる。そこにはムーさんが小石を持って立っていた。


「私の可愛い娘に何をしとるんじゃ。このトカゲが。」


ムーさんは今まで聞いたことの無いような怒鳴り声をあげる。飛竜は標的を変えムーさんへと一直線にとびかかる。しかし、そこに街の男達が割って入る。


「俺たちの街で好き放題しやがって〜」

男たちで竜を抑える。竜の動きが一瞬とまる。そこを私は見逃さなかった。最後の力を振り絞り飛竜の顎に渾身の拳をねじ込む。グシャ。飛竜の顎の砕け、血飛沫が飛び散る。ドーン。飛竜はそのまま倒れ、しばらくバタバタと暴れたあとピタリと止まってしまった。飛竜は死んだ。


「おっ〜〜!」


街の人たちの歓声が湧き上がり、みんなが私のもとに集まってくる。


 その後に兵士たちもきたが、もう何の意味もなかった。おそらくスラム街の人たちしか今回の事件を覚えてもおらず、スラム街以外の人たちは国の兵士が飛竜を倒してくれたと思い込んでいる。


 ジュエルが飛龍を食い止めていたおかげでその事件での死者は0人だった。その日はみんなで賑わった。賑わいの輪の中心にジュエルはいた。


 次の日、ジュエルは綺麗な宝石がはめ込まれたネックレスをムーさんから貰った。ジュエルはこんな高そうな物受け取れないといったが、ムーさんは珍しく頑固だったので受け取るしかなかった。それは先祖より代々この地で守ってきたもので、身につけている者に幸福をもたらすというものらしい。


 

 おじいちゃんは話の終わりにこう言った。


「あの子を頼んだよ。」


俺には最後の言葉の意味がよくわからなかった。しかし、ジュエルに対する考えかたは大きく変化していた。



 その話をドアの外で盗み聞いていた少女は、みんなに認められた証として、ネックレスを今も肌身はなさず大事に身につけている。そして、少女は嬉しそうにその首にかけられたネックレスを見つめるのだった…

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