スラム街
どうやら彼女は俺を人質にして貴族から身代金を要求しようという作戦らしい。しかし、彼女は致命的な勘違いをしている。
「悪いんだけど。俺は貴族じゃ無いんだ。」
俺はそう訂正する。
「嘘だ。じゃあなんでそんな上等な服をもっているの?」
彼女は納得いかない様子だ。
「コレは商人の荷車から盗んだ物なんだ。」
俺は申し訳なさそうに言う。
彼女はまだ納得していない様子だか、俺を人質にする作戦はどうやら諦めるようだ。
「どうして盗みをしてるんだい。」
今度は俺から話しかけてみる。
(トントンッ)
彼女の返答より先にドアを誰かがノックする音が響いた。
「ジュエルいるかい?」
ドアの向こうからシワ枯れた声がする。
どうやら彼女の名前は「ジュエル」というようだ。ジュエルは一瞬、俺の方を見て"何も言うなよ"というにらみをきかせてきた。俺はそれに無言で頷く。ジュエルは俺を縛っている縄をほどくと、ドアを開け来訪者を招き入れる。
「あれ、お客さんかい。珍しいね。」
入ってきたおじいちゃんいはそう言い俺の顔を見る。
俺は苦笑いで答える。
「よかったらうちでご飯を食べてかないかいジュエル?お客さんも一緒にね。」
老人は笑顔で言う。
ジュエルは俺の顔を一瞬見たあと少し考える。
「うん。行く。ありがとう。」
ジュエルは答える。
老人の家に行くことになった。
ジュエルの家を出ると、そこには昨日見た街の様子とはあったく違う光景があった。きれいだった町は面影もなく、ぼろぼろの家に小汚い格好の人々が何人か地べたに座っている。ここはいわゆるスラム街なのだろう。俺が昨日いた街と、ここが同じ街ということに驚きが隠せない。
「ジュエルおねぇちゃん!」
3人で道を歩いていると、前から笑顔で4人の子供が駆け寄ってくる。ジュエルは4人の頭を順番に撫でてあげる。頭をなでてもらった4人は満足したようで笑顔で、またどこかへ駆けていく。
先頭を歩いていたおじいちゃんが家のなかに入っていく、どうやら目的地に着いたのだろう。俺とジュエルも続いて家の中に入る。
家の中には女の人とガタイの良い男の人、小さい子供とまだ立って歩くことも出来ない赤子がいた。
「あら、いらっしゃい。」
女の人が言う。
「メリーさん、ライラさんこんにちは。」
ジュエルは恥ずかしがりながら言う。
「今日のご飯はブローライスよ。」
そういいながらメリーさんはご飯をテーブルに並べている。しっかりと俺の分まで用意してくれている。
こっちに来てからちゃんとしたご飯を食べるのは始めてだなと俺は思う。出されたご飯は、ご飯の上にカレーのようなルーがかかっているものだった。美味しそうだ。
全員で席に着く。
「いただきます。」
俺はブローライスとやらを口に入れる。
「美味しい。」
俺は思わず呟いてしまう。
メリーさんはそれを聞いて満足そうだ。
「限られた食材をどうやったら美味しく食べれるか考えてレシピを自分で作ったのよ。」
メリーは自慢気に言う。
コレを自分で作ったのか、と俺は感心した。
「このスラムに住んでる人たちはみんな家族みたいな者だからいつでもいらっしゃい。」
メリーは優しく言う。
「そちらのお客さんはどうしたのだい?」
おじいちゃんはジュエルに尋ねる。
少しの間の後、ジュエルが答える。
「気にしないで。」
おじいちゃんは何かを察したような顔で
「すまないねぇ。」
と小さく言ったのが聞こえた。
全員がご飯を食べ終わると老人が俺は手招きして奥の部屋に招いてきた。ジュエルは子供と一緒に赤子をあやしていてこちらのことに気づいていない。
奥の部屋に入り、おじいちゃんが言う。
「すまないことをしたねぇ。どうかあの子を許してやって欲しい。」
詳しい話を聴くとジュエルは貧しいスラムの人に貴族たちから盗んで得た金で食料を買い恵んであげてるようだ。おじいちゃんは盗みをするのを止めたそうだが、飢えで苦しんでいる人を見るたびにジュエルはスラムを出て栄えている町に向かい、食料を持って帰ってくるそうだ。
「あの子は本当は良い子なのにねぇ。私たちが不甲斐ないからこんなことを彼女にさせてしまっている。」
老人は言う。
「どうか恨みがあるならなら私を責めてくれ。」
そう言いながらおじいちゃんは頭を下げる。
少しの静寂の後、俺が口を開く。
「恨んでなんていません。それに彼女のおかげで美味しいご飯も食べることができましたし。」
おじいちゃんは笑顔になる。
俺は続けてずっと疑問に思っていたことを言った。
「ところで彼女は人間しかいないこの街でどうして1人だけあの姿何ですか?」
老人は語り出す。彼女について…。