襲撃者
ぐっすりと寝ている男にフードを被った少女はゆっくりと近づく。そして、襲いかかる。ぐっすりと寝ていたはずの男はそれが分かっていたかのように瞬時に、目を覚ましその初撃をかわし、その襲撃者と距離を取る。しばらく二人の間に静寂が生まれる。
先に静寂を壊したのはフードを被った少女の方だった。
「私から盗んだものを返せ!」
少女は怒りのこもった口調で言う。
「君も俺から物を取ったんだからお互い様だろ。交換だよ。」
男は言葉を返す。
何が起こったのか事の真相を知るためには時間を数時間前に戻してみよう。
少女はいつものように街を歩いていた。獲物を探して。彼女は盗みをやる。その手段は簡単に言うとスリのようなもので人混みに紛れて裕福そうな大人からぶつかった時にお金になりそうな物を取るのだ。
少女は獲物を見つけた。その獲物は高価そうな衣服を身に付けている。この街の貴族たちの間で最近流行のブランドだ。しかも新品である。間違いなくこの男は金になる物を持っていると確信した彼女はいつものように人混みに紛れて男にぶつかる。そして、いつものように物を素早く盗み、一言謝る。
「(物を盗んで)ごめんなさい!」
少女はその男から離れた後に盗んだ物を確認する。見たことのない形のポーチのようなものだ。折りたたみ式になっている。中には人の顔の描かれた長方形の紙と大きさと形と素材が微妙に異なる丸い物がいくつか入っていた。見たことのない物だ、。高く売れるに違いないと思い、彼女は小さくガッツポーズをする。そして、その盗んだ物をポケットにしまう。そこで違和感に気づく、昨日と一昨日と盗んだ物を売って得た金をしまっていた小さいポーチがないのだ。
「ついさっきまで持っていたはずなのに…。どこかに落としたのかなぁ…。」
彼女はうなだれながらそう呟く。しかし、それと同時にある可能性に気がつく。彼女は確かについさっきまでそのポーチを持っていたのだ。そう、ついさっき獲物の男とぶつかる前までは。
「やられた。」
そう呟く彼女の目から怒りが見える。
そのころ男は、幸か不幸か手に入れたお金で宿を探していた。
「こっちも盗まれたんだし、あっちの物を盗んでもおあいこだよな。」
男は自分に言い聞かさるようにそう呟く。
男は適当な宿を見つけ部屋で寝ていた。そして、少女は"におい"を頼りに男の居場所を見つけ出した。そして現在の状況に至るというわけだ。
少女は男を睨みつけていた。
「物を返さないなら。あんたごと連れていく。」
少女は強い口調で言う。
「まぁまぁそう焦らないでくれよ。」
男は余裕な表情で返す。男は彼女が襲撃してくるのを気づいていた。しかし、すぐに逃げなかったのは彼女の気配が一般的な人間の少女と変わらなかったからだ。危険は無い。そう判断したためだった。男は喧嘩は弱い。しかし、だからといって普通の少女に大の大人が組み伏せられる訳がない。そう思っていた。
「もう一度だけいう。返して。」
彼女はさらに強い口調で言う。
「なぁどうして盗みなんかしたのか聞かせてくれよ。」
男は言う。
「わかった。もういい。」
そう言いながら彼女は頭に被っていたフードをはずす。
猫耳だ。フードをはずした彼女の頭にはたしかに猫耳が生えていた。さっきまでフードであまり顔が見えていなかったが容姿も整っている。
「(可愛い…。)」
男は思わずそう思ってしまった。しかし、それと同時に男は自分の犯したミスに気づく、フードを外した少女の気配は先程とは全く異なるものへと変わっていた。その気配は街へ来るまでの森で感じた気配たちほど邪悪では無いが、凶暴さが今まで感じたどの気配よりも一番強かった。
「(気配を隠せるフードなんて聞いてないよぉ)」
男は心の中で嘆いた。
男は即座に逃げようとする。しかし、少女はそれを見逃がさない。少女は様子見に逃げる男に軽いジャブを放つ。拳が男の体に当たる。男はウッと小さく声を漏らし床に倒れこむ。少女は流石にこれだけで終わることはないだろうと臨戦体勢を解かない。しかし、終わった。男は綺麗に気絶している。
少女は気絶した男から盗まれた物を回収して、男を担ぎ上げる。
目がさめる。目の前には見たことのない天井がみえる。体を起こそうとしたが体が縄で縛られていて起きられない。
「気がついたか人質。今からお前にはお金になってもらう。」
少女は悪い笑みを浮かべながらそう言った…。