それぞれの闘い
2人は満身創痍だった。リヴァイアサンとのこのまま闘い続けても勝ち目の無いことは痛いほど痛感していた。しかし、少女のために、仲間のために2人はボロボロになりながらも守り続けていた。そんな2人の行動が物語を大きく変える。彼女の心を大きく動かした。
ゴッ!
その時、後ろから鈍い音がした。二人はジュエルの方を見る。彼女は立ち上がった。片方の頬を真っ赤にして。ジュエルは自分に喝を入れるために自分の頬を殴ったのだ。
「ごめん!私バカだった!また、目の前で友達を失うのは嫌だ!」
ジュエルは珍しく大きな声でそう叫ぶ。
「それにアイツがあんな簡単に死ぬわけない!」
ジュエルはそう言ってリヴァイアサンに殴りかかる。
それを見て2人は顔を見合わせて無言でうなずき。リヴァイアサンに向かっていく。
カエデが自分の日本刀に力を込める。するとカエデの衣服は着物へと姿を変え、日本刀は美しい光を放ち出す。彼女は魔剣使いなのだ。彼女が日本刀を振りジュエルの行手を阻む水の壁を切り裂く。エマはジュエルに魔法をかける。するとジュエルに炎の翼が生える。エマは魔力の量は少ないがが自分の魔法を繊細にコントロールすることができる。
カエデの斬撃で道を切り開き、エマの炎の翼によって極限まで加速したジュエルの渾身の拳がまるで矢のようにリヴァイアサンの体に巻きつく鎖に突き刺さる。
「うぉーー!」
ピキッ
鎖にヒビが入る。
鎖を破壊することは出来なかったが。服従の魔法が弱まったのか自分自身で自分に対抗しているようにリヴァイアサンの動きは先ほどまでに比べると明らかに遅くなっていた。
2人から3人になったところでリヴァイアサンの圧倒的な強さは変わらない。変わらないはずなのだが、戦況は明らかに良くなっていた。決して倒すことが出来ずとも決して負けない。そんな状況を作り出していた。それは絶望的な状況に変わりはなかったのだが、3人にそんな気持ちは無い。彼女たちは根拠は無いが信じて疑わなかったのだ。アイツの帰りを。泥棒の帰りを。
アカリの状況は変わっていない。
アカリは少女に攻撃していなかった。しかし、少女の攻撃は激しさを増すばかりである。瞳に涙を浮かべながら。
戦闘のなかで彼女は思わず呟いた。誰にも聞こえないぐらいの小さい声で。
「……助けて。」
彼女はそう言った。瞳に涙を浮かべた身体に雷をまとう少女は小さくそう呟いた。
「わかった!」
アカリはそう言った。当たり前のようにそう言った。
彼女の名前は「3号」。魔術士によって作られた。改造された人間。黒い魔術士によって不幸にもさらわれ、非道な魔術実験の中で完成した改造人間。これまでもさまざまな悪事に使われてきた。何人も人の命を奪ってきた。それを彼女が望まなくても彼女のからだはそれを止めてはくれなかった。彼女は誰かに止めて欲しいかった。もう誰も傷つけたくは無いから。どうか誰かに殺してほしいかった。
彼女のからだは、もう立っているのもやっとなボロボロのアカリを仕留めにかかる。殺しにかかる。今までの比べ物にならないほど雷を体に纏い地面をえぐりながらアカリヘと向かっていく。
アカリは大きく息を吸い深呼吸をする。そして剣を鞘ごと腰から外し剣を手に取る。そして腰を少し落とし姿勢を低くする。
「少し痛いが一瞬だ我慢してくれ。」
アカリはそう言った。
「……ありがとう。」
少女は小さくそう呟いた。
そして2人の体がぶつかりあう。物凄い衝撃と共にあたり一帯を電撃が包み込む。
………。
………。
少女は目を開けた。少女は死んでいなかった。死ねていなかった。アカリは少女のことを斬らなかった。アカリは剣を捨てて少女の渾身の一撃をノーガードで受けていた。ボロボロの身体で受け止めていた。
「うぉーりゃー!」
アカリはそう叫ぶ。
アカリは力一杯少女を投げる。一本背負いで少女を投げる。そして流れるように少女に袈裟固めをきめる。少女の動きを力強く、ギュッと抱きしめるように抑え込む。少女のかからだを抑え込む。
少女のからだはそれを解こうと電撃を身体に纏めう。アカリはうめき声を上げる。しかし、アカリはその手を離さない。
少女の身体はさらに強い電撃を身体に纏う。
しかし、アカリはその手を離さない。
少女の身体は更に更に強い電撃を体に纏い続ける。
しかし、アカリはその手を離さない。絶対に。
もうアカリの身体は動くこともできないであろうほどにボロボロのはずなのに電撃を身体に受けながらも決して手を離さなかった。
「私は離さない。もう君が誰も傷つけなくていいように。私は頭が良くないから、どうしたら君を助けられるのか思いつかなかったけれど。だからせめて君がもう誰も傷付けなくても良いように私がずっと君のからだを抑えておく。少し我慢してくれ。そしたらきっと仲間がどうにかしてくれる。それにあのこそどろ野郎だっている。アイツは犯罪者だがな私のことも助けてくれたんだ。自分の危険もかえりみずに。ヒーローみたいに。だからきっと今回もなんとかしてくれる。絶対に。だからもう少しだけ。もう少しだけ我慢してくれ。」
アカリはいつもの笑顔でそう言うのだった。
少女の瞳は涙で溢れていた。