湖底の遺跡
この間の水神祭での出来事では負傷者が出た。多くの負傷者ではないがそれは決して少ないとはいえない負傷者の数だった。街の壊れた建物たちもギルドの冒険者を中心に街の人が協力して修理にあたっている。
俺とジュエルとアカリのパーティーはギルドマスターのダイヤに呼び出された。ギルドマスターは神妙な顔つきで待っていた。神妙な顔といっても見た目からして幼い彼女の顔はまるで親に怒られておやつを取り上げられたかのようなそんな可愛らしさのある顔なのだが。
「呼び出してすまんな。この間の件でお願いがあってだな。あの際に盗まれたあの"水神の護石"を取り返しに行ってもらいたい。」
ギルドマスターはそう言った。
「場所の検討はついている。あの時に現れた蒼龍は他でもない、この街の守り神の"リヴァイアサン"そのものだった。リヴァイアサンは元々気難しいところはあったがな、なによりもこの街とこの街の人々のことは妙に気に入っていたからな。今回のことも何かしら事情というか原因があるんだろう。そのことから考えるとあの気に入らない魔術士の居場所もひとつしか思い浮かばない。奴らはリヴァイアサンの住処にして根城この湖の底にある遺跡にいる。」
少女はそう言った。
「どうして俺たちなんだ?お前が行くのが最もうまくいきそうなものだろ。それに他の冒険者でもいいだろ?なんたってここはギルドの街なんだから。」
俺はジュエルの街で危険な目にあったのにまた面倒ごとに巻き込まれるのを阻止すべく思わず反論してしまう。
「私もそうしたいのだがな。私もお前たちに任せるのは不安なのだが。不安を通り越して不満なのだが。アレが盗まれたからには私はここを離れられない。アレが本来行っていた仕事を私が身を削ってしなければいけないからな。文字通り身を削ってな。それにだ。タイミングが悪いんだ。相手方もまぁそこを狙ったのだろうけれども、この街にこの任務を任せられるような冒険者は残ってない。全員魔王をたおすという名目で持っていかれてしまったからな。忌々しい。」
彼女はそう言った。
それでも俺がまだ納得行かないような顔をしているとギルドマスターは俺の顔を見て
「いいから行け。」
少女は無理やりそういった。そして、子供がなす術がなくなった時に泣き出すように手を出すように少女は俺たちを飛ばした。その場にいた5人と1匹をまとめて転送した。その海底の遺跡の入り口に、というか湖底の遺跡入り口に。ちなみに少女はこれからしなければいけない苦行、つまり"神々の秘宝"が盗まれた今、自分が"神々の秘宝"のかわりとなりこの土地に膨大な力を膨大な魔力を注ぎ続けなければいけないことで頭がいっぱいで彼らの帰り路のことなど頭からすっかりと忘れていた。そういうところは見た目の幼さのままだった。
こうして泥棒と獣族、黒猫、元警官、日本刀使い、寝癖の魔術士という特徴的すぎる5人と1匹のパーティーの初めてのダンジョン攻略が幕を開ける。
ダンジョンの入り口に着く。もちろん息はできる。ここは水中なので息が出来ないとなればこの時点でもう全滅なのだがそうはならなかった。さすがにギルドマスターもそこは分かっていたのだろう。どういう仕組みか分からないかダンジョンの周りにドーム状の透明な何かが包まれていて空気はあった。ダンジョンというからには何か魔術的なからくりがあるのだろう。全体的な作りは遺跡という言葉からは連想できないものだった。それはまるで城のようだった。
城の正面の扉から俺達は中に入る。そして、その場にいた全員が目を見開く。
「えーー!」
はじめに馬鹿みたいな、いや馬鹿なリアクションを大声でとったのはアカリだった。しかし、気持ちは分からなくもない。俺たちは確かに城の中に建物の中に入ったのにそこには森が広がっていた。外から見た城の大きさをはるかに越える森が。ただ自分たちが確かに建物の中に入ったことを証明できるのは森の中に不自然にたつ後ろの大きな扉だけだった。
「目的の物を取り返すって言ってもこんなに広かったらひと苦労だな。」
アカリがそう呟く。
しかし、その心配は不要だった。
「あれ…見て。」
ジュエルは遠くを見ながらそう言った。
俺は最初ソレが建物に見えていた。そうまた森の中にも建物があるのだと。しかし、それは違ったよく見るとそれは蛇のようにとぐろを巻いた巨大な蒼い龍だった。遠くに見えるそれは動かない。おそらく寝ているのだろう。そう信じたい。しかし、目的地は決まったようだ。近寄りたくはないが。
しばらく、その蒼龍に向かっていると、また彼女が声を上げる。
「うわぁ!」
アカリがそう叫んだ。
もしこれであの龍が起きたらどうするんだと、俺は5時間くらいアカリに説教したい気持ちだったが俺もそれを見て不覚にも声を上げてしまった。そこには魚が泳いでいた。泳いでいるといってもそこに水があるわけではなく。ソレは空中を泳いでいた。魚は俺達を気にすることなく通りすぎる。しかし、その時1人が反応した。1人というよりかは1匹が。そう巻き込まれるかたちでついてきてしまった黒猫が。俺についてきてジュエルに気にいられついて来ていた黒猫が。本能とでも言うのだろうかその魚
を見て思わず飛びかかった。
「おい何すんだよ。」
この言葉は俺の言葉ではない。魚が喋ったのだ。空を泳いでいた魚が。
「初対面の相手に向かっていきなり飛びかかるなんてどうかしてるぜ。常識が無いのか。これだから猫は昔から嫌いなんだよ。」
魚は流暢に喋り出した。
「だいたいそんな乱暴なことする奴がまだここで生きていたとはな。凶暴な奴らはもう全員あの方に食べられたか逃げ出したとばかり思ってたぜ。」
魚は言った。
あの方というはおそらくあの巨大な龍のことだろう。しかし、言われてみればダンジョンというのはもっと凶悪な魔物が沢山いて襲ってくるとばかり思っていたけれどここに来てからそんなことはまったくなかったのである。おそらくそんな危険な魔物は、龍の眠りを邪魔する魔物はもうここにはいないのだろう。あの龍の見てからだと妙に納得が言ってしまう。そんな龍のところに自分たちから向かっている自分たちのにも嫌気がさしてしまう。
猫はその魚を少しかじろうとしていたが魚はバタバタと暴れてすぐに逃げていってしまった。
とくに魔物との戦闘になることも無く、順調に歩を進めた。正確には魔物は見つけたりしたのだがどの魔物も敵意がまったく無かったのだ。魔物を見つけるたびにただただアカリが声を上げるだけだった。苦労したことといえば途中カニの魔物を見つけたときにその魔物をアカリは食べようとしていたのをみんなで全力で止めたぐらいだ。
龍の巨大さがもう十分にわかるぐらいのに距離に近づいた時だった。それは空からやってきた。落ちてきた。飛んできた。襲ってきた。
ドーカン!
雷のように。文字通り雷を纏ってその少女はやってきた。襲ってきた…