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水神祭

 "水神祭"に行くことになった。そのワクワクからジュエルは朝からテンションがやけに高い。

 街のなかは祭りで大賑わいだった。立ち並ぶ屋台の数々、溢れんばかりの人、魔法なのだろうか昼間だというのに花火も打ち上がっている。ジュエルとアカリは立ち並ぶ屋台から漂うグルメな匂いに釣られて忙しそうに2人で片っ端から屋台を買い食いしている。アカリの仲間の2人もその2人に呆れながらついて行く。


 少しして俺は人混みに揉まれているうちに4人から逸れてしまった。その人混みの中で俺は()()()を見つけた。俺は必死にその女を左手人混みに揉まれながら追いかける。その女が人気の無い野路に入っていったとき俺は追いついた。


 そこに立っていたのは美しい金髪の女だ。そう間違いない。俺がこの世界に来るときにあった女だった。


「なぁ元の世界にはどうやったら戻れるんだ。」

俺はすがる思いで後ろから女に尋ねる。


「あなたはまだこの世界でやらなければ行けないことがあります。その役目を果たせば元の世界に戻れるでしょう。」

女は俺がそこにいることがわかっていたかのように答える。


「役目ってなんだよ。」

俺は言う。


「魔王を倒して下さい。」

女はそう言った。あのときたしかに"世界を救ってくれ"と言っていた女はそう言った。


そして、俺が次の言葉を口にしようとした時、


「ニャー!」

後ろから猫の声がして思わず振り返る。そしてまた女の方に視線を戻すがそこに女はもういなかった。


「肝心なことは何も聞かなかった。」

 俺は大事なチャンスを無駄にしてしまったと気を落としていると。先ほどの声の主が俺のことをじっくりと見ながらゆっくりと俺の足下まで近づいてきた。黒猫だ。その黒猫の頭を俺は撫でようと手を近づける。しかし、気安く触るなとばかりに猫は俺の手を引っ掻こうとする。その黒猫の目つきの悪さにどこが懐かしさを感じる自分がいた。


 4人を探そうと路地を出る。目つきの悪い黒猫は器用に人混みを避けながら着いてきた。


 しばらくしてジュエル達と合流した。ジュエルはすぐに俺の後ろにいる黒猫に気がつき。頭を撫でようとする。俺は止めようとするが、黒猫は俺の時とは違いあっさりとそれを受け入れて気持ち良さそうにしている。


「その黒猫ついてくるんだ。」

俺は言う。


「じゃあ私が面倒見る。」

ジュエルはそう言い切った。

黒猫も意味が分かっているのかジュエルにスリスリと頭を擦り可愛さをアピールしてるように見えた、。その後、俺はもう一度頭を撫でようとしたがやはり黒猫は俺だけには触らせてくれなかった。


 人々は同じ方向へ向かっている。どうやらこの祭り"水神祭"のメインイベントが始まるようだ。人々は街の奥の湖の辺りに集まる。しばらくすると、1人の巫女のような衣装に身を包んだ女性が人々の前に姿を表す。その巫女の手には丸い宝石が宝石というには少しばかり大きい、水晶とでも言うべきだろうか。それを両手で持っている。その巫女はその水晶を湖のほとりにあらかじめ用意されていた祭壇のようなところに置く。そして、儀式めいた踊りを踊り出す。しきたりや伝統的ななにかなのだろう。その踊りは美しいがどこか神々しい恐ろしさのようなものも感じてしまう。

 しばらくすると、龍が現れた。現れたといっても巫女のように舞台の袖から現れたのではない。そう湖の中から。湖の中から巨大な蒼い龍が現れた。俺とジュエルは驚くがそれがこの祭りのメインイベントとしてメインの儀式の一部なのかと思い込む。しかし、様子がおかしい。その龍を見た人々のなかには悲鳴をあげる人がいる。逃げ出す人もいる。そして、次の瞬間に俺は現状の危険を理解する。龍は街の建物を攻撃し始めた。龍の口から水が直線状に放たれる。水と言っても激流。建物を壊すほどの威力の激流の水が。人々は逃げ惑う。アカリを含めその場にいたギルドの冒険者たちは一斉にその龍を止めようとする。しかし、止まらない。止められない。魔法を使える冒険者は逃げる街の人々を必死に守っている。


 そして、その龍の後ろから1人の魔術士が姿を表す。全身黒色のローブに身を包み、顔は見えないがその気配の禍々しさに俺は思わず息を飲む。そして、その魔術士がニヤッと少し笑い杖を少し掲げると辺りは光に飲み込まれた。



 俺は目を覚ます。俺の前にはあの少女が、とても見た目とは不似合いな称号を持つギルドマスターの少女が立っていた。浮いていた。


「逃げ足だけは大したものだな。」

ギルドマスターのダイヤはそう言う。


 どうやら彼女がここにいる全員をあの魔術士の魔法から守ってくれたようだ。やはりギルドマスターという肩書は伊達では無いらしい。


 しかし、魔術士はもう居なくなっていた。巨大な蒼い龍と一緒に。


「少しばかりめんどくさいことになったなぁ。」

ダイヤはそう言って顔をしかめながら祭壇へと目を向ける。



 そこにはあったはずの水晶が無くなっていた。あったはずの秘宝が盗まれていた…

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