表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

水の都

 俺は馬車に乗せられていた。あの女と知らない二人が同乗している。何度も逃走を試みたがどうしてもその女に捕らえられる。俺はどうやら今回の騒動の重要参考人として隣街のギルドまで連れて行かれるようだ。

 

 女は思いもよらないことを言い出した。


「あっちの世界では、あんなにも捕まえられなかったのに。まさかこっちの世界でお前を捕まえられるとはな。ハッハハ。」

女は上機嫌な調子で言う。


「お前もまさか異世界から来たのか!」

俺は衝撃的な言葉に思わず反応してしまう。


女は少しムスっとして


「まさか。私のこと覚えてないのか?」

そう言って俺に顔を近づけてきた。

俺はその女の顔を見つめる。


…………。…………。………あっ。


思い出した。


 その女は前の世界で泥棒としての俺の顔を唯一知っている人間だった。俺は顔を見られた事がショック過ぎて頭からその記憶を無理やり消していたのだ。


「思い出したよ。」

俺はそう言う。


女の顔が上機嫌な顔に戻る。そこで同じ馬車に乗っていた寝癖のすごい男が口を挟む。


「その方も異世界から来たんですか!前にアカリさんから聞いた時はにわかには信じられなくて…。」

寝癖の男は言う。


「私たちはおそらく異世界から来た。」

女はそう言った。


 俺は異世界から連れて来られたのが自分以外にもいることに少しホッとしてしまったが、今の状況からそう喜んでもいられなかった。



 しばらくして女が口を開く。


「着いたぞ。」

女は言う。


そう言われて馬車の外を見た。その街はまるで湖の上に浮かんでいるかのようだった。街の中まで水路が通っていて、街の中をゴンドラのような船が通っている。建物は地中海を彷彿とさせる白を基調にした建物が多い。


「ここが私たちのギルドがある街"アトラ"だ。」

アカリは少し自慢げに胸を張りながらそう言った。



 街に着いた。俺は寄り道せずそのまま一直線にギルドへ連れて行かれた。


 ギルドに着くと奥の部屋に案内された。どうやらギルドマスターから直々に尋問されるようだ。ギルドマスターは人前には滅多に顔を出さないという。三人の会話から察するにこの三人もギルドマスターのことをあまりよく知らないらしい。


 奥の部屋の扉の先で待ち構えていたのは女性というにはあまりにも幼い女の子だった。


「よく来たな。」

女の子は少し偉そうにそう言う。


「お嬢ちゃん、俺に用があるっていうギルドマスターはどこにいるのかな。」

俺は言葉を返す。


「失礼なやつだな。私だよ。わたし。私がギルドマスターのダイヤだ。」

女の子は言う。


「えーー!」

俺の驚きの声より先にアカリが声をあげる。


俺を含めて全員の空いた口が塞がらない。


 どうやらこの女の子がギルドマスター張本人のようだ。驚きから生まれた少しの間の後にギルドマスターが口を開く。


「隣街で起きたことはだいたい分かっているのだが、一つお前に聞いておかなければならないことがあってだな。わざわざこっちに来てもらったわけだ。」

ギルドマスターは俺の顔を見ながらそういった。


連れて来るにしても最も他に方法があったのではと俺は文句を返しそうだったがグッとそこは我慢して言葉を返した。

「聞きたいことっていうのは何だ?」


「あの秘宝にかかっていた封印を解いて盗み出したのはお前か?」

ギルドマスターは俺に問いかけてきた。


「封印?あのネックレスをしまってあった石の箱みたいなやつか?」

俺は言う。


「そうだ。秘宝の力を封じ込めてしまう古代の術式だ。あれに囚われている間、秘宝は力を失ってしまう。」

ギルドマスターはそう答えた。


「あの石の箱なら俺が開けたよ。思っていたよりてこずったけどな。」

俺はそう答えた。


 ギルドマスターは少し笑ってから言葉を発した。俺にはどこに笑うポイントがあるのか分からなかったがギルドマスターは見てくれから不思議さしかなかったのであまり気にしなかった。


「分かった。もう良いぞ。この街もなかなか良いところだ。少しゆっくりしていくと良い。」

そう言ってギルドマスターからの尋問と言うにはあまりにも短く簡易な面会は終わった。ギルドマスターからの直々の尋問に多少なりとも心の準備をしていた俺からするとただの取り越し苦労だった。


 ギルドマスターはアカリ達に俺に街を案内してやるように言った。


 俺たちは部屋を出た。



「あの封印を一人で解いてしまう人間か…。懐かしのう。」

ギルドマスターはみんなが部屋を出た後にそう呟くのだった。



 ギルドを出て街の中を案内される。街の人々は忙しそうに何かの準備をしているように見えた。


「近々何かあるのか?」

俺は言う。


「この街の守り神に感謝をする"水神祭"というお祭りが明日から始まるんですよ。すごい賑わいですから是非観ていって下さい。」

日本刀を腰に携えているカエデと呼ばれている女はそう言った。


 しばらく街のなかを案内された。しかし、ギルドを中心に発展した街と言う割に見かける冒険者のような人は少なく感じた。


「あんまり冒険者っていないのか?」

俺は尋ねてみる。


「今は魔王との戦いが激しくなってしまっているので上級(高ランク)の冒険者はほとんどそっちに駆り出されてしまっているんですよね。」

カエデはそう丁寧に答えてくれた。


 街を一通り見学してギルドに戻ってきた時だった。


 俺は背後に殺気を感じた。次の瞬間、何者かがアカリに襲いかかる。アカリはその拳を華麗な身のこなしで当たり前のように避ける…ことはできずその拳をもろ顔面にくらう。しかし、その奇襲をくらい体勢を崩しながらも泥臭くその襲撃者の腕を掴む。そして、顔を上げ襲撃者にお返しの右ストレートを放とうとしたところでアカリの手が何故か止まる。その隙を見逃さずに襲撃者はさらに追撃をくらわせようとする。


「ジュエル!ちょっと待て!」

その攻撃が届くより先に俺が声を上げる。


 ジュエルはどうやら俺が()()された聞きつけて助けに来てくれたようだ。確かに俺がやられた事は誘拐でほぼ間違いないのは認めよう。全てはこのアカリとかいう女が悪いのではないだろうか。


 それから俺はジュエルに状況を説明した。そしてアカリがそんな強引に俺を連れてきていたことを知らなかったアカリの仲間の二人は俺とジュエルにこれ以上ないくらいに謝ってきた。アカリをどつきながら。アカリは因縁の相手だったのでついやり過ぎてしまったと一応反省はしていたようだ。


 ジュエルは鼻血が止まらずティッシュのような物を鼻に詰めているアカリのところに歩いていく。


「いきなり襲いかかってごめんなさい。大丈夫?」

ジュエルは言う。


「全然大丈夫だ。私も危うくこんなに可愛い少女を傷つけてしまうところだった。私の方こそごめん。」

アカリは言う。


アカリが攻撃を止めたのは襲撃者が子供であることに気づいてしまったからだった。二人はそう言葉を交わし恥ずかしそうに握手をした。まるで小学生同士が喧嘩した後のお互いが恥ずかしがりながらやる仲直りだ。それを見ている3人は込み上げる笑いを堪えるのに必死だった。


「すまん。一つお願いがある。」

アカリが言った。


「その猫耳を触らせてくれ。」

鼻血を出しながら言うその女の言葉には変態性しか感じなかった。



 それから、ジュエルも街が見たいということで5人でまた街のなかを巡った。もうすっかりジュエルは3人に懐いていてアカリにちょくちゃく猫耳を触られているがジュエルも満更でもないようだ。ジュエルの希望で5人で明日から始まるの"水神祭"に行くことになった。


 

 

 そして、水神祭で事件は起こる…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ