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神託の巫女  作者: たけのこ
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王女ドネ 3

「さて、何が目的か、そろそろ話す気になったかしら?」

 そう言って現れたのは、僕達を捕まえに来た少女だった。


 はっきり言って満身創痍だ、顔を上げて確認するのがやっとである。

 手足を拘束され、身動きが取れず水だけの時間が半日近く過ぎた。

 少なくともリンナがそれだけで済んで安心している。

 これから先どうなるかは分からないが……


「ムウリ君、大丈夫?」

 僕を案じてリンナが声を掛けてくれるが、返す言葉もない。

 ややあって何とかうめき声を絞り出した。

 我ながら拷問の跡が痛々しく映る。

 殴る蹴るの暴行がメインだったので、見た目はそうでもないだろう事が救いだ。必要以上にリンナを怖がらせずに済む。

 しかしながら腫れた顔と、所々に出来ている痣は隠しようがないであろう。

 口元から垂れた血は拭えずに固まっていた。


「と言ってもあなた達も知らないんでしたっけね」

 苛立ちを隠しもせず、吐いて捨てるように言った彼女はおそらく。

「さっきからそう説明してるのに!ムウリ君が可哀想だよ!」

 悲痛な叫びを聞かされ、ああこの人は、と思う。

 僕は別に可哀想だっていいのだ。

「こんな所に、わざわざ……何の御用です……ドネ王女……」

 僕が指摘すると空気が張り詰めた。

「……え?!王女様って?え?」

 まあ、リンナが分かってないのは仕方ない。

「目的を話さないなら……いいわ、何故私が王女だと?」


 ここが踏ん張り所だ。

 しっかりと王女の目を見て答えた。

「簡単な事です。この国に猿人類ヒイは珍しい、そして猿人類の王女がいるという情報は元からあった、この国の人は皆知ってますよ。

 そして、僕達の前に現れたあなたは兵士を従えていた、地位の高い人物だ。そしてこんな時間、城の地下牢に単身で来られる人物……後は想像です、あなたが王女ドネである可能性はかなり高い、そうなんですよね?」


 これは確認だ。

 彼女が王女である事は間違いないだろう、否定されたとてそのつもりで動く。

 なぜならば『秘宝の情報は王家の人物のみで共有されている可能性が高い』からだ。


 秘宝の情報はほぼ一般市民には行きわたっていなかった。

 あるとすれば王家に伝わるもの……或いは一子相伝的な何かか。

 一部の人間で管理しているに違いないのだ。

 それならば、王女は秘宝に繋がる情報源足り得る。


 王女は目を逸らし、少し思惑を巡らすように呟いた。

「……危険ね……あなた」


 王女は鍵を取り出し、無言で牢を開けた。

「ちょっと!何なの!何する気!」

 リンナは強気に反抗するが、拘束具に繋がった鎖がジャラジャラと軋むだけでその手は届かない。

 そして何故か僕の方の鎖だけを解いた。


 何故だ……?

 呆気に取られる僕は振り返りリンナの顔を覗くと、彼女もあんぐりと口を開けていた。

 その表情が不思議と可笑しくて元気が出てしまう。


 そして王女は僕だけを連れ、地下を出た。

 背後からリンナの叫び声が聞こえてきたが、今は信じる事にする。


==========

 城を裏口から出て広場を抜けた小川からその先、鬱蒼とした森の小道を少し行くと、暗がりから古井戸が姿を見せた。

 もう早朝だというのに森はほんのりと薄暗い。

 怪我も無く、気分も良ければ木漏れ日が気持ち良い等と思うのだろうか。


 結果だけ言えば、ドネからの情報はほぼゼロだった。

 少なくとも彼女が王女ドネだという事を認めた事と、更には秘宝について何か知っていると思われるという事以外は。


 城を出てからドネは自ら名乗り、まだ話を出来るのではと期待したのだが、僕が秘宝について何か知らないかと尋ねた瞬間一層険しい表情となった。

 それきり何を聞いても答えてくれない。

 具体的に何かが分かった訳ではない。

 ただ、ドネは足掛かりにはなるであろう。

「開けなさい」

 この状況さえどうにかなれば……


 ドネに指示された通り古井戸の蓋を開ける。

 森の中にあるからか蒸すような空気が漏れ出すが、井戸自体は枯れているようだ。

 蓋が新しいのでまだ使っているのかとも思えたが、そうではないらしい。

「入って」

 まさか。

「入れ」

 この問答無用な感じ、どこかリンナを思わせる。

 ……どうか、無事でいてくれ。

「ここは、出れるのかい」

 一応聞いてみる。

「さあ、どこかの下水と繋がっているようだわね。

 出口があるのかどうかは知らないけれど、ドブネズミにはお似合い」


 その言葉を聞いた瞬間、頭に血が上るのを感じた。

 僕は思い切って古井戸に飛び込んだ。

 このままではドネに汚い言葉をぶつけてしまいそうだったから。


 思ったより深かった。

 井戸に落ちた事なんて無いから、これが他と比べてどうかなんて事は分からない。

 とにかく、落下の衝撃と拷問で受けた痛みが合わさり、一瞬死んだような気分になった。


「犯罪者をここに落とす事もあるの、精々魔物に食べられないよう気を付けるのね」

 が、聞こえるので生きてる。

 歩けるかどうかは怪しいが、何とか生きている。

 どうせ死ぬなら痛み無くあっさりと行きたかったものだが、まだそれは許されないらしい。

 ほんの少し、地下探検と行こうではないか。


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