『牛人類(ゴズ)』の王子 2
船着場に着くと、人でごった返していた。
少々肌寒いこの島も、ここだけ熱気で溢れている。
何しろ英雄の凱旋だ。
急いで来たのにこの人だかり、後方を確認すればムウリ君が凄い勢いで私の下へ向かって来ている。
しかしはて、と思う。
予定よりも大分早いのだ。
この到着の速さには、やはり『秘宝』が絡んでいるのだろうか。
とりあえず、もう少し近くで見たい。
集まっているのは殆どが『牛人類』の人達だ。
クレセン島には『犬人類』の人もいるようだが迫害を受けているようで、パッと見た感じここには見当たらない。
こんな牛人類だらけの中で猿人類の私はかなり目立つだろう、と安心してずずいと人波を分け入った。
ムウリ君ならばその小さい身体をうまく使って、簡単に奥に行けると思ったからだ。
さて、見えた。
「牛人類の王子」だ。
辺りからは様々な声が聞かれる。
好意的なものが多いようだが、その見た目からか、女性からの賛辞も窺える。
確かに、うむ、端正な顔立ちで、雄々しく逞しい。
軽装な衣服から盛り上がった筋肉が見せ付けるように主張している。
ただ、立派な角とは裏腹に、少し悲しそうな表情に見えた。
外交先で何かあったのだろうか?
等とその顔を見つめていると、目が合った。
……ような気がした。
「あれが蛮勇で知られる『王子アステリオ』か、何か思ってたより大人しい感じだね」
いつの間にか隣にいたムウリ君が第一印象を述べた。
ので、私もそうする事にした。
「……好き」
しばしの間があり、ムウリ君の「ええ……」という若干引き気味の声が聞こえる。
その反応は無視して、行ってしまうアステリオを目で追った。
「これが恋かしら」
「違うと思う」
今度は即答だった、気遣いのないやつめ!
と、見送った矢先、「おお……」という低い驚きと歓喜の入り混じった声で群衆が沸いた。
船からもう一人、有名人が現れたのだ。
猿人類でも良く知られている『英雄テッセ』その人であった。
英雄テッセは猿人類でありながら、その怪力は他の人類を凌ぐと言われており、さらにその慈しみ深い人柄は多くの人を魅了する。
そして賢いときたもんだ。
これには流石のムウリ君も驚いた様で「本物の英雄だ」と目をキラキラさせている。
無理もない。
私もかの有名な英雄をこの目で見れた事に感激していた。
しかも想像していたよりも整ったご尊顔をしておられる。
「……好き」
しばしの間があり、また「ええ……」という声が漏れ聞こえる。
「これが恋かしら」
「違うと思う」
もちろん即答だった。