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神託の巫女  作者: たけのこ
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秘宝『ステップスティック』 2

「全力!『じゅつ』!

 私に力を!『ステップスティック』!」


 ペリペテは必死の形相で気を放つ、そうして『秘宝』の力を自身の身体に巡らせているのだ。

「『つちのえ』!『地震流』!」

 ペリペテの力強い祝詞が響くと、辺りの地面が揺れ……揺れない? いや、ちょっとだけ揺れている。


 だがテッセは違った。

 まるで彼だけが乗り物に乗ったようにフラフラとたたらを踏んでいる。

 これはやはり『秘宝』の効果を有効に活用したからだろう。

 本来この術は広範囲に影響を及ぼすようなもののはずだ。

 必中の効果かどうか分からないが、それを使って『効果をテッセに集中させている』のだ。


 テッセの動きはほんの少しだが制限される、その隙に……

「『つちのえ』!『石射弾』!」

 間髪入れずに祝詞を唱えるペリペテ、『秘宝』の力を巡らせた術には『秘宝』の『能力』が影響する。

 即ちその礫の弾丸は目にも止まらぬ速度でテッセを射止める。


「『つちのえ』!『石射弾』!」

 ペリペテは容赦しないらしい。

 テッセは未だ初撃を食らい仰け反った状態だ、次を食らえば……


「『しん』!」そう言って体勢を立て直したテッセは、素手でその弾丸を弾いてみせた。

 ……ちょっと待って。

『宣誓』を、今使うのか。

 本気ではなかった、というのは何となく分かっていた。

 ペリペテだってつい先ほど『宣誓』をし直した。

 これは『気』を急激に上昇させる場合にする事だ。

 しかしテッセは?

 まさか今の今まで『行』を全く使っていなかったというのか……?

 古井戸からここまで一緒に行動してきた。

 その間、彼は『宣誓』を行っただろうか? いや、していない。


「このお!『つちのえ』!『石射弾』!」

 三発目、四発目と見境なく撃ち続けるペリペテ。

 それは吸い込まれるようにテッセの元に到達し、そして弾かれる。

「まだ……!」

 五発目、六発目と撃ち出すと同時に今度は。

「追え!『ステップスティック』!」


 一気に距離を詰めるペリペテに呼応するかの様にテッセはやっと剣を抜いた。

 一射目をその剣で割り、二射目をかわす。

 ペリペテの直接攻撃を剣で受けると、『偶然』跳ね返って来た礫が背後に当たった。

「『石射弾』!」

 ペリペテは特に狙いも定めずでたらめに『術』を放ち、でたらめに杖を振るった。

 そしてそれらは必ずテッセに到達した。

 狙いなどは無くとも、『秘宝 ステップスティック』の能力を使えば時間差はあれど必ず当たるのだ。


 この時間差が実は厄介だった。

 超近距離戦にもつれ込んだ訳だが、その攻撃はいわゆる跳弾の原理で予測不能な角度からテッセに向かっていく。

 一対一の戦いならば無類の強さを誇るであろう。


 ……そう、本来ならば。

 忘れてはならない、ペリペテが対峙しているのはあの『英雄テッセ』だ。

「『かのえ』『金剛力』」

 今まで『行』を使わずに『秘宝』所持者と拮抗していた。

 それが身体強化だけでも恐ろしい事だが『祝詞』によって更に戦力が上乗せされるとなると。

 仮にも英雄等と呼ばれる人物だ、その『行』も常人のそれとは思えない。


 私は嫌な予感がして飛び出した。

「『石射弾』!『石射弾』!」

 ペリペテは半泣きで術を見舞う。

 それに対しテッセは身じろぎもせずそれを受け止め、風でも受けているようだ。

「さっきも言ったが、お前が持っているそれは使用者の能力に大きく影響されるタイプの『秘宝』だ。

 その程度では俺を本気にする事さえできない。

 ……残念だったな」

 いよいよテッセは剣を振りかぶり……

「やめてーー!!」


 剣は私の眼前で止まった。

「命まで取る必要ないでしょう、私達は秘宝が欲しいだけ」

 テッセと私の視線が交差する。

 背後にいるペリペテはどんな顔をしているだろうか。怯えているだろうか、それともまだ反撃の機会を窺っているだろうか。

 ふう、とテッセは息を吐き、剣を鞘に納めた。

「元々寸止めするつもりだったんだ、急に出てきたら危ないだろう」

 ……何という言い草!

 やれやれといった感じでテッセはさっさと行ってしまう。


 ついさっき知り合ったんだからそんな事分かる訳ないじゃない!

 それにもしもという事だってある。

 少女の無残な姿は見たくない、それもこのような村で。


「村の長と話を付ける、お前たちも来い」

 これまた素っ気無い。

 まあ結局何の役にも立たなかったし、秘宝を手に入れられそうだから結果オーライか?

 でもテッセの物になるのかな、譲ってくれるのかな。

 等と考えていると。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 ペリペテは俯き震えている。泣いているのだろう。


「君だけでも逃げ……」

 いつの間にか集まって来ていた村の住人達だったが、私の手枷を確認しその意見を引っ込めた。

 気持ちだけでも嬉しい。

 謝り続けているペリペテもそういう事なんだろう、私を気遣ってくれているのだ。

 早く誤解を解かなければならないが、私とテッセが同時にいないとややこしい。

「行きましょう」

 私はテッセの後を追いかけ、後ろからはペリペテが肩を借りて付いてきていた。

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