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神託の巫女  作者: たけのこ
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秘宝『ステップスティック』

 動けなかった。

 少女の気迫に気圧されてというのもある。

 それでも、その手に持つ杖が『秘宝』であるのか見極めなければと目を見開いた。


 そんな私とは違い、英雄テッセは視界から外れ大きく横に飛び退く。

 そしてやはり、追いかけるように少女の杖は確実にテッセを捉えた。


 ……うん?追いかけるように?

 そうだ、そのまま直進すればあの杖は私に直撃してもおかしくなかった。

 それがどうだ、視界から外れるほど横移動したテッセに向かっているではないか。


 その光景は少女が何かしているというよりも、杖自らが向かって行き、それに少女がぶら下がっているかのようだった。


 勢いよく吹き飛んだテッセは民家に打ち付けられた。

 そして少女はこちらをちらりと覗き、私の手枷を確認すると。

「お前も罪人か、大丈夫、何とかする」

 口数少なく追撃に向かって行く。


 ……どうやら勘違いされているようである。

 確かに、傍から見れば私は無理やり連れてこられた罪人のようにも見える。

 この村も罪人の村と呼ばれているらしいし、無理もないかもしれない。

 という事は、だ。

 彼女は私を助けようとしてくれている……?

 いやはや何だかくすぐったいなあと感じると共に、やはり誤解があるのだと分かる。






 少女はやはり不格好な姿勢で距離と詰め、テッセに肉薄する。

 が、その目の前が白い空間で覆われた。

 洗濯物だ。

 狙ったのかどうかは分からないが、洗濯物が干してある民家に打ち付けられたテッセはそれを利用し、少女の視界を遮った。

 テッセは回り込み、構えるが……

「当たれ!『ステップスティック』!!」

 呼びかけに応え、視覚を奪われた少女の一撃は的確にテッセを捉えた。


 少女の呼びかけは『当たれ』だ。

 そして先ほど、「避けられない」とも言っていた。

 相当自信があるのか、それともある種の強がりかとも思えたが『そういう能力』なのだとしたら納得がいく。

 つまりやはりあれは『秘宝』の『能力』なのだ。








『秘宝』の名は伊達ではない。

 それには必ず何かしらの『能力』が備わっていて、様々なものが存在する。

 その『能力』は特殊と言って差し支えなく、『行』とは違った仕組みで行使される。


 これは機密情報だが、基本的には正式な『所持者』以外に『権能』が与えられる事は無く、固形物としての『秘宝』を持っていてもその『能力』を行使できない。

 さらには『秘宝』と呼ばれてはいても、その姿かたちは宝であるとは限らない。

 謎に包まれた存在なのである。


 テッセはあの杖が『秘宝』だと睨んでいるようだ。

 私もそれに賛成だ。

 そしてその『能力』は。









「必中、とかその類いだろうな」

 言いつつ、少女の攻撃をしっかりと受け止めていた。

「大体分かった。そして、面白い」

 テッセは不適に笑ってみせた。

 流石の少女も一旦距離を取る。

 少女が攻め立て防戦一方だったテッセだが、今度は形勢逆転だとばかりに攻め始めた。


「しかし弱点もある。

 攻撃は確かに必中かもしれないが、その威力は『所持者』の能力に大きく左右される。

 そして『当たる』と分かっていればあとはどこに当たるかだけだ、防ぐのは容易い。

 そう、避けられなければ受け止めればいい」


 いくら必ず当たる攻撃だとしても、少女の腕力ではたかが知れているのだ。

 例え身体強化されていたとしても、相手も同じ条件であればその事実は変わらない。

 苦悶の表情を見せ始めた少女に対し、余裕で話し続けるテッセ。


「攻撃している間はまだ良い。

 問題は防御に転じた時だ。

 必中であれば防御に転用すれば鉄壁の防御にも成り得る。

 ただやはりそれも攻撃時と同じ理由で……」


 テッセの攻撃にも少女の杖は超反応する。

 一撃ならばそれでいい。

 しかし軽い攻撃にも防御行動をしてしまう。

 戦い慣れた相手から高速で繰り出される猛攻を受け、無理な体制になった少女はそれでも攻撃を受け止めようとする杖に振り回されている格好だ。


 とうとうテッセはその杖を掴み、振り回して放り投げた。

 土埃を立てつつ無様に倒れ込む少女。

 どうやら少女の『秘宝』は『所持者』を守る類いのものではないというのが分かる。









 もういいのではないか。

 もう十分なのではないのだろうか。

 私は少女に駆け寄り、テッセを睨みつけた。


『秘宝』所持者でも明らかにテッセの方が強い。

 これでは弱い者いじめではないか。

 もう決着は付いた、これ以上は無意味だ。

 私は戦いを見守る老人を見て、止めるよう進言しようとした。

 しかしその視線の先は……


「……まだ、まだやれる……」

 私の後ろで杖を突き起き上がる少女がいた。

「もういいよ、これ以上あなたを傷付けたくない」

 思いを吐露するも、少女に引く気は無いようだ。


「『ステップスティック』の真価はこの先にある」

 少女はつぶやき、前に出た。

「『つちのえ』『石片宙』」


『行』の行使によって空中に石の礫が現れた。

 多分だがこれは、初歩中の初歩の『祝詞』だ、こんなもの一体……

 と思った矢先だ。

「飛ばせ!『ステップスティック』!!」


 少女は振りかぶり、『行』によって作られた石の礫をその杖でもって打ち上げた。

「『石片宙』」

 また、石の礫だ。

 そしてまた杖で弾く。


 それらは天高くに飛ばし過ぎたり、真っ直ぐテッセに向かったりしたが、難なく防がれる。

 しかしそれは最初だけだった。






 少女は『石片宙』で礫を作っては叩き作っては叩きを繰り返しつつ、少しずつ少しずつ前に進んでいく。

 異変が見え始めたのは『石片宙』が十を超えた辺りだろうか。


 狙いが外れたと思った礫が、既に弾かれて転がっている礫とぶつかり軌道を変える。

 それが『偶然』テッセの足にぶつかったのだ。

 それは攻撃というには御粗末なものかもしれない。

 そのたった一回であれば。


 決定的だったのは大暴投した礫が空から降ってきて、今まさに撃ち込まれた礫とぶつかり、その両方がテッセに当たった事だった。

『偶然』にしては出来過ぎている。

 しかし狙って出来る事だろうか……?


 ある種の不気味さがある。

 少女であるが故に傷付くのを見たくなかった。

 しかし、少女であると同時に戦士の覚悟の様なものを感じる。


 間違いない、『分かっていてやっている』のだ!

 このペリペテという少女……足が不自由で杖を突いている少女……

 それでもただのか弱い少女ではない。

 私が守るべきような存在ではない、ペリペテは強い!

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