作戦会議
「う……」
電気マッサージを終えるとサレルは何事も無かったかのように立ち上がって、俺から少し離れた所で座る。
心なしか動きの無駄が減ったか?
「……」
「どうだった?」
「体が少しだけ軽くなって力が入るようになった気がする。それと鎧が前よりしっくりくるような……いや、気のせいか?」
おお、やはりというか彼はなかなか自身の体の感覚を掴むのが上手な様だ。
何を弄ったのか即座に理解したみたいだぞ。
「サレルがもっとチドリさんの事を信じてくれるようになったら……秘密を教えてあげるね」
リーサが俺の方を見てからサレルに言った。
「何をしたのか知らないが……これで満足か?」
「一応ね」
「それじゃあ、明日に備えて休むぞ」
「それが良い。リーサ、ゆっくり休んでくれ」
「ルルー、リーサお休み」
「はい……見張りはするので時間になったら起こしてください。おやすみなさい……」
俺のお願いを聞き入れてリーサは軽くあくびをしてから、毛布を羽織って焚火の前で横になった。
寝入りも早い。
初めて会った頃の、ちょっと儚げな所は大分、鳴りを潜めてきたなぁ。
どんどん冒険者っぽくなって来ている。
頼もしいと思う反面、もっと安全な所で平和に過ごすって発想を持ってほしいというわがままな考えが浮かんでしまった。
こういう時、俺の過去の話をルーフェと一緒に聞きたがるリーサだけど、今回はサレルがいるからか、聞かずに寝てくれた。
「おやすみ、リーサ」
「ルル、おやすみ」
「……おやすみ」
俺達はリーサを寝かしつけた。
そんなこんなで夜の見張りとなり、リーサが仮眠を取った。
リーサがしっかりと寝入ったのを確認してから、俺はサレルとルーフェに声を掛ける。
「なんだ?」
「明日の作戦だ。リーサには内緒の」
「……わかった」
サレルも俺の意図を察したのか素直に応じる。
「ルル」
そんな訳でリーサがしっかりと寝ているのを確認してから三人での秘密会議。
「ブレイスリザードに挑む事に関してなんだが。寝る前に話した、火口なんだな?」
「ああ、奴はそこから姿を現して襲いかかって来る。攻撃手段は強烈な火炎。炎を纏った体当たり、溶岩を操って津波のように放つラーヴァウェーブ。そしてこの攻撃をする時に必ず魔力を込めた咆哮、ドラゴニックボイスまでは混ぜてくる。ここまでは逃げ帰った者たちの証言でわかっている。それと……戦闘中に配下の魔物共が集まって来る」
「まだわからない攻撃手段がありそうな構成だな」
「炎一つでも即死の威力を持っているんだ。並みの魔法使いじゃ氷の魔法で相殺する事すら出来ない。耐火装備の騎士でも蒸発したって話だからな……」
「恐ろしく強いってのは風聞で聞いていたけど、そんなにもなのか」
マグマを操るとか範囲攻撃も完備じゃないか。
「……マッドストリームオクトパスも似たようなもんだぞ。本当に倒したのか?」
「俺じゃなくて神様がね」
「そんな神様がいるなら苦労しねえ。誤魔化すんじゃない」
なんで誰も信じてくれないんだろうか。
エロッチ……貴方はこうして人知れず正義の為に戦っておられるのですね。
俺は貴方の偉業をこの世界に風聞したいです。
如何に貴方が慈悲深く、人々を助ける善神であるかを。
とにかく、そんな化け物にこれから俺達は挑まないといけないんだな。
「とりあえず陣形を決めよう。俺が最前線に立ってどれくらい攻撃が通じるかを測る。ルーフェ、お前はリーサを守る為にリーサの近くに居てくれ。いざとなったら離脱も視野に入れてな。最優先はリーサだ」
「ルルン!」
ラジャー! と言った感じでルーフェが片手を額辺りに当ててポーズを取る。
ここで俺の事を心配して異議を言わないのは、ルーフェが俺の事を信頼してくれているからだろう。
「サレルはリーサの方に群がる配下の処理を頼めるか?」
戦闘に関して私情を挟まれると厄介だ。
なら最初から大事なリーサを守る事に意識を向けてもらっていた方が戦いやすい。
何より、魔法使いであるリーサの能力を遺憾なく発揮するには守ってくれる仲間が必要だからな。
「お前がそれで良いと言うなら従う」
「情報から判断するにブレイスリザードの攻撃は出来る限り避けるんだ。じゃなきゃ少数で来た意味が無い」
「舐めるな。お前が足止めするならリーサを担いで逃げる事くらい出来る」
その件に関しては不安は微塵もない。
なんせ、ちょっと前にリーサを背負って逃走した位だしね。
「ルル! サレル、逃げるの早い。大丈夫」
「後は……落とし穴とか何かしらの罠を掛けれたら苦労しないんだが……」
「成功したって話は聞かない。騎士団が討伐に出た際、国の技術者達が駆使して作り出した大型の魔法兵器を投入してもダメだったって話だ」
まあ、そうだよな。
どちらにしても考えうる手段を用いて挑んで敵わなかった相手なんだろう。
「そんな話も随分と昔……数多の冒険者や犠牲者を食らってきた今のブレイスリザードがどのくらい強いのかって話だ」
その時点でとなるとな……はぁ。
無謀だったかと少し後悔してくる。
けど、ここを乗り越えないと俺はリーサの保護者である資格が無い。
「それこそ……伝説の武具とか言われる代物でも投入しないと元来倒せる相手じゃない。それはブレイスリザードを平気で倒さないと手に入らないなんて言われている位だ。実在するかわからないけどな」
ああ、トンチみたいな武具を入手する物語の事かな?
不死身の化け物を倒す剣を手に入れるにはその不死身の化け物の心臓が無ければいけないって話だ。
倒せないから武器がほしいのに、手に入れるには倒せない相手を倒す必要がある。
神の与える試練とかにありがちな内容だが、いやらしい話だよな。
とはいえ、前の異世界でもそんな事を課した実際の神様ってのは聞かない。
サンダーソードの場合は金銭だったしね。
「それは大丈夫。ここにサンダーソードがある」
善神エロッチの加護が掛った伝説の剣だぞ!
エロッチが何本も作ってそうだけどさ。
「嘘言うな。そんな話、聞いた事が無い」
うーん……信じてもらえないのは悲しい。
まあこの世界の物じゃないから当然と言えば当然だが。
……はて?
ブレイスリザードを倒さないと伝説の武器は手に入らない?
じゃあ同格のマッドストリームオクトパスが倒された場合は?
そんな武器もらったっけ?
エアクリフォに誤魔化されたかな?
もしかして水龍の鱗がそれなんだろうか?
「まあ、俺達の装備にはエアクリフォからもらった鱗がある。多少の火なら耐えきれるかもしれない」
「確かにあの鱗なら……あり得るな」
「ルル……? リーサの匂い……? ルル?」
水龍の鱗の匂いを嗅いでルーフェが首を傾げている。
まさか偽物って事は無いだろう。
なんて思いつつ、作戦を練り続けた。
とりあえずリーサを守る陣形で、攻撃は俺がやる。
リーサは後衛で任意の魔法を放ってもらおうという事になった。
そもそもマッドストリームオクトパスの魔石でサンダーソードがパワーアップしている。
敵わないとは思わずにやっていけばいいんだ。
翌朝。
ルーフェの背に乗って俺達は火山の火口に到着した。
道中で火の鳥のような魔物が出てきたが、ルーフェがサンダーブレスを放って仕留めた。
一応リーサも相手をしたけれど、水と氷の魔法が相性良いのか苦戦せずに倒してしまった。
もちろん魔石は回収済み……。
サレルもリーサの魔法の腕前に関しては褒めていたっけ。
ここで苦戦をしたと思って下がってくれていたらよかったんだけどな。
サレルも火の鳥は上手い事持っている道具の数々で仕留めていた。
人員としては中々だろう。
「ここにブレイスリザードがいるのか」
火口は……噴火はしておらず、黒い。
いつでも噴火しそうな大地が広がっている。
結構広いな。
周囲には炭が無数に転がっている。
……改めてその炭に視線を向けると、それは人の形を僅かばかり残しているように感じた。
そして、どれも胸辺りがぽっかりと穴が空いている。
これはもしや……犠牲者達の亡骸って事で良いのだろうか?




