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買い食い

 目が覚めた時には室内が夕日で照らされていた。

 随分と寝ていたみたいだなぁ。

 まあ、三日もまともに寝なかったらこんなもんか。

 とはいえ……目が凄く冴えていて頭にあったどんよりとした感じがなくなっている。

 多少疲れも取れたな。


「んっ……うぅん……」


 リーサはまだ寝ているようだ。

 このまま部屋を出て行ったら困らせてしまうだろう。

 かと言って今起こすのも忍びない。

 ……今の所、特にする事も無いから窓から外を見るか。


 そう思って宿屋の窓から外をぼんやりと見る。

 宿の外はにぎわいを見せる商店街へと続く道だ。

 買い物帰りの町人なんかが荷物を片手に歩いている姿が見えたり、子供達が楽しそうに駆けて行く姿が見える。


 まずしなくちゃいけない事を整理しよう。

 総合ギルドに行くのは重要だとしても、サンダーソードのメンテナンス用の砥石や油、予備の布と衣服か?

 この辺りはギルドに一々聞かなくても武器屋や服屋辺りで聞けば揃えられるだろう。

 問題は値段か。


 服に関しては古着屋に行くのが無難だよな。

 鎧とかは値が張るから今の装備でしばらくはどうにかなるだろう。

 ちなみに俺が着ている防具はこの世界に来る前に着用していた魔物の皮をなめして作った革鎧だ。

 多少良い物で、数年はこれを使っている。

 あ、材料は俺が確保した物を気前の良い職人に安く作ってもらった。

 この世界の基準だとどの程度の代物なのかわからないけどさ。


 ただ、リーサが冒険者をするならもう少し良い物を用意したい。

 まずは防具の確保か、ただ……作って貰っている最中に村の者達と遭遇なんかすると厄介そうだ。

 連れ戻そうとして来るかも知れない。

 リーサは村に戻る気は無いと言っていたし、本人の意志は尊重すべきだ。

 防具ももう少し別の町に移動してからでも良いかもな。

 ……と言う所でぐーって音がリーサから聞こえてきた。


「ううん……」


 リーサがパチパチと瞬きしながら起き上がる。


「おはよう」

「おはようございます……」

「お腹が空いてきたから夕食までの繋ぎに町に出て何か食べようか」

「はい……」


 そんな訳で俺達は早速部屋に鍵を掛けて町に繰り出した。

 リーサは見る物が何もかも初めてなのか、無表情であるにも関わらず様々な物に視線が動いている。


「……私が小さい時にやっていた、村でやっていたお祭りの時みたい」


 屋台等を見ながらリーサは呟く。


「賑やかなのは確かだね。ところでリーサは何か食べたい物はあるかい? 今まで質素な物ばかりだったから何でも言ってくれていいよ」


 そう俺が聞くとリーサは屋台を見ては居たけれど、欲しいとは言わずに俺の手を握って歩いて行く。

 売っているのは肉の腸詰めや酒のつまみになるものが多いなぁ。

 まあ、屋台はそう言うのが多いか。

 どこの世界も似た様な物なのかもしれない。

 世界の違いを見比べてみるのも面白そうだな。


 ん? なんかあっちの異世界には無かった焼きそばっぽい屋台がある。

 香りが何か違うけど……うん、それっぽいな。


「えっと……こことか、どうですか?」


 リーサが選んだ店と言うのは何か……屈強な男達が酒と料理を豪快に食べている酒場で、出されているステーキや肉を指差している。


「ず、随分とヘビィな選定をするね」


 そんなにもお腹が空いているのだろうか?

 見た目と違って肉類が好きとか?


「だって、英雄は豪快に食事をするんでしょ? 道中も肉を食べてた」


 ああ、俺に合わせようとしてくれたのか。

 ちょっとビックリした。


「アレは勿体無いから良い所だけ食べていただけだよ。俺だったら……もう少し軽いのが良いかな。夜にも食べる予定だしね」


 そりゃあ25歳だから酒も多少は嗜みはしたけれど、節約を心がけていたから必要外での暴飲暴食はした事が無い。

 シチューとかスープメニューにパンとかパスタ、サラダとかが無難なんじゃないかな?

 冒険者たるもの身体作りは大事だからな。栄養管理もしっかりしているつもりだ。


「そうなの?」

「無理に俺の好きそうな物って考えなくて良いから、リーサの食べたい物を選んで良いよ」

「わかりました」


 と言う訳でリーサが次に興味を示した屋台で売っていた……アメリカンドッグみたいな串料理を食べながら歩いて行ったのだった。

 なんだろう?

 このアメリカンドッグみたいなのに味がじゃがバタみたいな不思議な料理は……?

 中の具もウィンナーかと思ったら野菜っぽい。

 なのにジューシーな風味がある。


 後に聞いた所によると、植物系の魔物二種を使った皮の部分はカボチャっぽい魔物で、芯の部分はニンジンっぽい魔物の料理だとわかった。

 野菜だけど肉料理って代物だったみたいだ。


 そんな感じで町をぶらついているとリーサはアイスキャンディのようなゼリーの様なお菓子を売っている店で足が止まる。


「一個ください」

「あいよ」


 俺は店に金を払って一個購入し、リーサに渡す。


「良いの?」

「もちろん」

「……ありがとうございます」


 そうしてリーサは渡されたアイスキャンディーっぽいゼリー……水団子とでも言う何かを食べる。

 お? 目が見開いている。

 美味しかったみたいだ。


 自然と俺は微笑んでいたっぽくて、リーサが俺の顔を見て恥ずかしそうに下を向いてしまった。

 あんまり贅沢を経験した事が無いんだろうなぁ。

 かと言って甘やかし過ぎちゃいけないだろうし……多少は気を引き締めていかないと。


 それから俺達は出店で見つけた砥石とメンテナンス用の油を購入した。

 一応質感で確認した後、油も妥協できるラインの代物だ。

 それぞれ砥石は銅貨30枚、油はちょっと値が張って銀貨1枚の出費だった。

 後は古着屋を見つける事が出来た。


「ここでちょっと服を買おうか」


 異世界には古着屋ってのが結構ある。

 まあこの辺りは文明の差って奴なのかもしれないけど、布って中々高価だからか売り買いが盛んなんだよね。

 金持ちが着なくなった服とかが流れて来る事が多い。

 それを一般市民が着て、それが更に草臥れてきたら売り、貧乏な人が買う。

 穴が空いても繕う事で誤魔化して……って感じに使われているんだ。


 値段に関しては文字がよくわからないけど、リーサは数字くらいはわかるみたいなのでどれくらいか聞いての判断だ。

 節約癖から値切りも視野に入れてはいるけど……まだ判断し辛い。

 ただ、割と値段は低めで売っている様なのであまり気にせず購入する事にした。


「リーサ、君の予備の服を買っておこう。冒険者とは言え、同じ服だけで生活するのは良くないし、洗濯用にもう一着は欲しいから」


 俺は自分の服を手にとってからリーサに言う。


「はい」


 今のリーサの格好って生贄用の衣装らしく、そこそこ品質が良い。

 それにはやや劣る感じで、リーサは年相応の服を手に取る。

 中古品で結構草臥れている服だ。


「ごめんね。本当だったらもっと良い服を買ってあげた方が良いんだろうけど」

「いえ……」

「冒険者として仕事が出来るようになったら、良い服を買おう」


 リーサは生贄に選ばれるだけあって美少女だから、着飾る楽しさも十分にある。

 是非ともお金に余裕があったら目の保養のために買い与えたい。

 そういう楽しさを知って欲しいという気持ちもある。


「その……余裕が出来たらで……良いです」

「うん」 


 で、ついでにボロ布を購入。

 これでちゃんとサンダーソードのメンテナンスが出来るようになったぞ。


「結構買い物をしちゃったね。後は総合ギルドに顔を出して冒険者になるにはどうしたらいいか聞いてから宿に戻ろうか」

「わかりました」


 そんな感じで結構荷物を持ちながら俺達は総合ギルドの方へと向かう。

 途中で馬車の発着場を発見。

 うん、別の町とかに行くにはここを利用するのが良さそうだ。

 なんて思いながら俺達は総合ギルドに到着した。


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