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マジックジュエル

「まあ……」

「しかも適切な毛皮の剥ぎ方をして、燻しまでしているか……ふむ……」

「機材があればなめす事も出来たんですけどね」

「それはこっちの仕事でもある。状態も悪くは無い……これは雷魔法で仕留めた感じだな? 下手に燃やしたり切り裂くよりは良い仕留め方だな」


 気付かれたか。

 まあ雷などのダメージは見た目に出やすいからな。


「どうやらお前は腕が良いようだ。良いだろう」


 で、なんか買い取りをしてくれる商人がそろばんっぽい機材をパチンと弾いて俺に見せる。

 生憎とあっちの異世界とも違う代物なのでよくわからん。

 ただ、良い感じに買い取り金額を弾んでくれているのは前後の会話でわかる。

 ここで足元を見ている様だったらこんな台詞を言わないだろう。

 もっと滅茶苦茶貶して商品価値を下げるのが悪徳商人の手口だ。

 こことは異なる異世界とはいえ、俺もその辺りは把握しているぞ。

 そろばんっぽい物の玉の……商人が奮発した玉の部分から一つ、位がしたっぽい所のを三個ずらす。


「これくらいおまけ出来ない? これも、追加するから」


 と、リーサが寝ている間にイノシシから拝借した牙で加工した牙のネックレスを追加で置く。


「……良いだろう」


 おまけが利いた。

 暇つぶしに作った物だけど効果があるなぁ。


「あの……」


 リーサがここでエアクリフォの鱗を取りだそうとしたので手で遮る。

 それは希少品だから信用出来る所で買い取りに回すなり、何かの武具にしてもらうなりした方がリーサの今後の為になるはずだ。

 何よりまだこの辺りの相場を知らないしな。

 が、買い取り商人は目を光らせている。


「なんだ? いまチラッと青く澄んだ何かが見えたぞ?」

「それはまた機会があったら」


 ここでがっつくのは良くないと俺の10年の経験が教えてくれる。

 ちなみに俺は商人じゃなくて冒険者をやっていたので知らない事も多い。


「そうか、機会が来る事を祈ってるよ」


 と言う訳で職員は深く詮索する事無く俺に銀貨を25枚程くれた。

 これってどれくらいの価値があるんだろうか?

 あっちの世界じゃ通貨は銅貨銀貨金貨、その上に中に魔法で特殊な加工をされたマジックジュエルがあったんだよな。

 これは普通の宝石とも異なっていたっけ。

 こう……マジックジュエルは宝石の中に硬貨特有の文様が書かれているんだ。

 偽造は他の硬貨と同様重罪なのと、偽造の難易度が凄く高い代物だとか聞いた覚えがある。


 ちなみに銅貨銀貨金貨みたいに段階があって上を数えたらきりがない。

 クリスタルマジックジュエルから始まってサファイア、エメラルドと色々と単位があった。

 俺がサンダーソードを購入する為に貯めた金銭も……あのマジックジュエルで一番近い金額の硬貨に換金して持って行ったら三個くらいかもしれない。


 そう思うとなんか悲しい……。

 で、買い取りを終えてから入り口の受付の人の所へ戻って挨拶をする。


「あ、買い取りを終える事が出来ましたでしょうか?」

「うん、色々とありがとう。ところで更に質問したいのですけど、銀貨25枚の範囲で泊れる所の紹介とか出来ますか?」

「はい、銀貨25枚ともなると……どのランクの宿をお探しでしょうか? それともしばらく滞在する為に借家をお探しでしょうか?」


 これは予算金額からの見積もりや今後の計画的な所から答えるべきだな。

 そもそも……ここはリーサの故郷である村が近い。

 ばったりと村の者と遭遇した際の面倒な状況を考えると、早めに移動する事も視野に入れるべきだ。


「一応は旅人なんでね。この子と一緒に泊れて食事が出来る、なるべく安くて良い宿が良いのです」

「承知しました。少々お待ちください……こちらの宿がお勧めです」


 で、受付の人がテーブルの下からこの町の地図を取り出して俺に見せてくれる。

 それで三件程、高め、普通、低めで紹介してくれた。

 うん、この紹介サービスは悪くないかもしれない。

 とりあえず普通の所が良いかな?


「ではこちらの札を持って行けば宿の方も紹介で来たとわかってくださいます」


 受付の人に宿の紹介までしてもらってしまった。


「ありがとうございます。えっと、お礼は……」

「いえ、紹介料を宿の方から頂いているのでお気になさらず」

「あ、はい」


 チップを断られてしまった。

 これは町の民度が高いのか、そういうお国柄なのか……まだ判断に悩む。


「ありがとうございました。またのご利用を心よりお待ち申し上げます」


 そんな訳で俺達は早速紹介された宿へと向かう事にしたのだった。




 宿は……うん、想像通りで宿代も銀貨二枚で二人泊れた。

 室内は思ったよりも広いし、夜には食事が付くそうだ。

 日本に居た時の感覚だとビジネスホテルみたいな部屋って言うのが正しいかな?

 15歳で召喚されたから俺もビジネスホテルには泊った事は無いんだけどさ。

 同じ日本から召喚された奴から聞いた話から想像したに過ぎないけどね。


「ふー……」


 部屋のベッドに倒れるように横になって一息つく。

 あー……なんかドッと疲れが出てきた気がする。

 まあ、数日まともに寝てないから疲れるのも当然か。


「えっと……」


 リーサが部屋に入ってどうしたらいいかと困った顔をしている。

 いや、無表情だけど、そう言った顔をしている様に見えるってだけね。


「とりあえず休んで旅の疲れを落した方が良いんじゃないかな? もう魔物を警戒しなくても良いからね」

「は、はい」


 何だかんだ言ってリーサも馴れない旅だったんだから疲れがあるだろう。

 俺はもう片方のベッドを指差してリーサに休む様に促す。

 恐る恐ると言った様子でリーサはベッドに腰掛けて横になった。


「……」

「ごめんね。もしかしたら町の中を探索したかったかい?」

「い、いえ……私も疲れていたので、大丈夫です」

「そう? それなら良いけど……」


 こう……ここ数日でリーサと色々と話をしたけれど、感情の出し方がよくわからないって感じの子みたいだ。

 時々顔を赤くして照れたりしているけど、それ以外は無表情……意識して出来ている訳ではないっぽい。


「リーサは休んだ後に何がしたい? まずは食事かな? 町の中を適当に探索しながら良さそうな店に入るのも良いかもね」

「は、はい……」


 なんかリーサがモジモジしている。

 うーん……何か言いたそうだけど、どう言ったら良いのかわからないって感じかな?


「じゃあこの先の事に関して聞こうかな。リーサはどうしたい?」

「どう……とは?」


 あ、ちょっと伝わらなかったか。


「何をしたいか……何になりたいか、かな。どこかで平和に働ける場所を見つけたいのか、勉強をして良い職業に就きたいとか、そういうので良いんだ」


 後者はお金が必要になってくる。

 身寄りのないリーサからすると……難しいかな。

 俺も出来る限りは支えようとは思うけどね。

 まあ、リーサってかなりの美少女だし、働こうと思えばどこでも行ける気もする。

 接客業はもう少し愛想が良い方が良いとは思うけど。

 何より水龍の鱗があるから、本当にやりたい事を見つけたら売却してお金を捻出出来る。


「……」


 リーサは俺の質問に考えるように黙りこんでしまう。

 やがて……。


「まだ、わからない事が沢山あって決められないけど……その、今はチドリさんを支えられるような冒険者に、なりたいです」


 おおう、健気でドキッとする様な事を言われてしまった。

 異世界召喚をされてから二年くらいは美少女にこんな事を言われないかなって妄想と期待をしていたけれど、十年越しに叶うとは思いもしない。

 だが浮かれてしまう訳にはいかないな。


 ここで頷くのは簡単だ。

 だけど人一人の一生は思ったよりも重たい。

 十年冒険者で金を稼いでサンダーソードを買った後に死んだ俺だからこそ言える物もある。

 それなりに苦楽を経験してきた訳だしさ。


「そうすぐに決めなくても良いよ」


 これと決めたら他に目移りしちゃいけない訳じゃない。

 どこでどう転ぶのかわからないのが世の中だ。

 冒険者はあくまで過程であって、結果にするのはあまり感心出来る物では無い、と思う所もある。


 俺もサンダーソードを手にしたのだから次の目標を決めなくちゃいけない。

 けど、当面はこのサンダーソードとの冒険を楽しみたい。

 そうだなぁ……30歳くらいまで冒険を楽しんだら、その後は余生って訳じゃないけど何処かで平和な生活を、とかぼんやりと考えている。

 まだ決めている訳じゃないけどさ。


 とはいえ、その前の目標はリーサだ。

 幸い俺はサンダーソードを手に入れるという目的を達成したので、現状特に目的らしい目的はない。

 だから、リーサの居場所の確保、あるいはなりたい職業になる為の手伝いをする、というのが目的となる。


「まあ、俺もだけど冒険者をやって色々と見聞きして最終的に決めるのは良いかもしれないね」

「はい」

「とはいえ、俺はこの世界に関してリーサよりも知らない事が多い。だから……そうだね。さっき行ったギルドで冒険者……仕事を受けるにはどうしたらいいかを一から聞いて行こうと思うんだ」

「チドリさんも?」

「うん。まあ……俺が聞きに行くのってなんかおかしいかもしれないけどね」


 この世界はLvが存在するらしい。

 で、俺の場合は染み付いた冒険者としての何か癖のような物を察知されてしまうかもしれない。

 にも関わらずLvが低く、ルールに詳しくないと言うちぐはぐな存在になり、目立つ。

 俺を殺してサンダーソードを奪った奴も、そんな目立つ何かを目印に俺を狙ったのかもしれない。

 十分に注意しないといけないな。


「リーサ、君がいるからこそ助かる事態もあるかもしれない。だから頼りにしているよ」

「はい」


 ちょっと照れくさそうにリーサは頷く。


「それじゃあ……今はゆっくりと休んでから次の行動に移ろう」


 そんな訳で俺達はベッドに横になり、すぐに寝入ってしまったのだった。


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