肉の納品
「ルルー」
ルーフェがリーサの背もたれと言うかベッド代わりにいつものポーズでじゃれており、リーサは日課の魔法の練習を終えたら俺に勧められてすぐに就寝した。
見張りは俺とルーフェが交代で受け持つ事にしたが……特に問題なく済み、リーサを起こさずに済んだ。
カンガルーの魔石を調達できたの丁度よかったなぁ。
もちろん言うまでもなく接近される前に俺が仕留めたんだけどさ。
寝ているリーサを起こさないよう、雷を出さないようにして切り伏せた。
ルーフェも起こさないようにと小さな翼と手でリーサの耳に音が入らないようにしてくれたしね。
依頼を達成するために出かけたんだけど、結果的にピクニックで終わってしまったような気がする。
「そういやルーフェ」
「ルル?」
「ルーフェが使う武器って野生だとどうやって確保しているんだ?」
今使っている斧は大分古い感じだけど、人の手が入った代物に見える。
「ルル~普通は自分で作る。木を切って棍棒、魔物の鋭い骨を付けて斧、これはルーフェを捕まえて改造した奴から持たされた」
自作するのか。
しかも持っている斧はオーダーメイド品って事で良いのかね。
かなり大きなバトルアックスにも見える。
バット代わりに魔法をノックするのは中々器用な真似をすると思う。
料理もできるし……ルーフェは器用だな。
……料理が出来る様になったのはサンダーソードのお陰な気もするけどさ。
「ルーフェが捕まる前だと縄張りの手下とかに武器を作らせているのもいた」
魔物の中にも文化があるってことか。
色々と謎が解けていくな。
「なるほどな」
「ルル、ルーフェはチドリの事、もっと知りたい。リーサも知ってる事を教えてほしい」
「見張りをしている間暇だろうし……俺も仮眠するまで少し話をしておくか」
俺は前にリーサに話した前の世界での冒険譚等を語って行った。
「すー……すー……」
リーサの寝顔を俺とルーフェは見ながら、ゆっくりとした夜は過ぎて行った。
焚火を囲いつつ仲間達と夜を楽しむ。冒険の醍醐味だ。
そんな感じで野営も特に問題なく終わった。
ギルドに依頼通り狩ってきた肉の納品をした。
完璧な下処理をしていたので報酬金額に結構色を付けてもらえたのは言うまでもない。
リーサに頼んで凍らせていたのも高評価だった。
「さすがは噂に聞く紫電の剣士一行! まさかここまで正確な処理をしたホーンバイソンを確保して頂けるとは」
肉屋が受け取りに来て驚きの声を上げていた。
「家で飼っている魔物の食料確保に丁度良いと思って請けたのですが、結果的に喜んでもらえてよかった」
「ところで……こちらは!? クリスタルホーンバイソン!?」
肉屋が驚いている。
やはり珍しい魔物なんだろうか?
「良ければ一緒に買い取ってもらって良いでしょうか? ただ、出来れば角とかは別に使えそうなので、そちらはこっちが使いたいのですが」
「も、問題ないです。まさかホーンバイソンの上位個体であるクリスタルホーンバイソンまで狩ってくるとは……」
おお……どうやらこの魔物は上位個体だったみたいだ。
「デスペイン騒動も耳にしましたが、やはり魔物が活発化している様ですね……」
肉屋もシュタイナー氏のような渋い顔でクリスタルホーンバイソンの死体を見つめる。
「活発化ねー……」
「シュタイナー先生や学校の先生達も言ってた。ルーフェ、何か知ってる?」
そういや前にシュタイナー氏も言ってたっけ。
キャラバンで移動中の出来事を思い出す。
あの時も魔物の襲撃に遭って、速攻で魔物を仕留めたんだった。
その際にイストラの街に運び込まれた肉は既に消費し尽くされたからこそ、こんな依頼があったのかもしれない。
……鳥肉と牛肉は違うか。
「ルル? 知らない。でもなんか凶暴になってる気もする」
うーん……別にルーフェは魔物の言葉を翻訳出来るって訳ではないみたいだ。
同族やそれに近い種族の意思疎通はできるみたいだけど、生憎とルーフェ以外のドラゴンウォーリアーに遭遇した事はないしな。
「でもチドリ、チドリがこの魔物を倒したら周囲の気配、弱まった」
「ボス魔物だったって事なんだろうね」
その地域を縄張りにしている魔物が配下の魔物に人間に襲いかかれと命じていたら、そりゃあ凶暴に見えるだろう。
で、ボス魔物を倒せば魔物も大人しくなる。
その後も魔物を狩っていたけどさ。
この辺りは一概に言えないか。
「何かあるのかもしれないけど、そういった物を調査するのも冒険者や学者なんじゃないかな?」
「うん……」
「ルルー」
俺達は日々の生活を大事にしていけば良いか。
「とにかく、ありがとうございました! 報酬はここに。クリスタルホーンバイソンの肉も一緒に買い取らせていただきます!」
「ありがとう。革と角はもらうね。あ、こっちの肉は俺達ので……」
「はい。ここまで状態が良いのでしたらいつでもお願いしたいです」
どうやら相当気に入ってくれたようだ。
依頼人の肉屋が誰の目にも分かる形で笑顔を向けてくれる。
「普通の冒険者が持ってきた肉の処理をするのが大変な物ですから……本当に助かりますよ」
「血抜きをしてよかったんですよね?」
「もちろん。まあ、死体をそのまま持ってきてもどうにか出来るのですけどね」
「出来るんですか?」
「ええ、魔石を止まった心臓に付けて強く魔力を流し、擬似的に心臓を動かして血抜きを再度行うとある程度はどうにか出来ます。更に専用の機材に漬ける事で熟成出来るので……ですが迅速に血抜きをした方が良いのは本当です」
はー……異世界の技術ってのも凄いんだなぁ。
俺も真似してみようかな?
サンダーソードで死体を動かすとか……いや、それはやめよう。邪悪っぽいし。
生命の冒涜行為はエロッチも見過ごすはずはない。
「この肉の卸先の酒場とかあるのでしたら教えてくれませんか?」
「もちろん良いですよ。ここまで良い仕事をしてくださったのでしたらサービスするように言っておきます」
「ありがとうございます」
教官と飲みに行く酒場も決まった。
「それで……」
俺がリーサの方を見ると買い取りに来た肉屋の人も察したのかギルドの人に話を通してくれた。
しっかりと依頼を達成したと学園に話が通るようになっているらしい。
と言った形でイストラの街で俺達が自主的に請けた最初の依頼は大成功に終わった。
「ルルー! お仕事終わり?」
「そうだね。後は自由時間だけど、一旦家に帰るのが良いかな?」
なんて話をしていると教官が俺達を見つけて近づいてきた。
「依頼を達成したみたいだな」
「ええ、大成功でしたよ」
「ふん……お前ならもっとでかい仕事ができると思ってるぞ」
「ははは、前にも言った通り無意味に危険な事をしたりしませんよ」
「ホーンバイソンは危険じゃないとでも言いたげだな……」
何やら教官が言っているけれど、そこまで脅威的な魔物ではない。
俺は元よりリーサとルーフェでも倒せる魔物なんだ。
これは……あれだな。
教官、冒険者に自信を付けさせるために遠まわしにヨイショしてくれているんだ。
雑魚魔物を倒しても『○○を倒して来ただと!? 将来有望だ!』みたいに褒める感じ。
新米冒険者は田舎者や学が無い奴が多いからコロッと騙される、と前の異世界で仲良くなった奴が言っていた。
ちなみに俺も言われた事がある。
まあ過去の恥ずかしい記憶という事にしておこう。
「教官、良い肉を仕入れた酒場を教えてもらったんで今夜にでも飲みに行きませんか?」
「ん? まあ良いが……懐の温かいお前の奢りだよな?」
「少しくらいは出しますが全部となるとこっちも色々と良くしてもらわないと、ね」
「抜け目のない奴だ」
教官が苦笑している。




