レイジール
それから約一日半後。
「やっと着いたー」
俺達はやっとの事、レイジールの町に辿り着く事が出来た。
まあ、村から町とかを徒歩で行くとこれくらい掛る事があるのはわかっていたけれど、地図も無しに道伝いで行くのも中々に骨が折れる物だね。
ちなみに道中で何度か魔物とは遭遇したのは言うまでも無い。
どれもサンダーソードで楽勝だったけどね。
狼と野犬が多かったかな? イノシシも何度か交戦した。
食事には困らなかったのが幸いか。
あ、途中で大きな道に差し掛かった辺りで魔物との遭遇数はガクッと減った。
なんかやや大きなウサギみたいな魔物や鳥みたいな魔物が居たけれど、攻撃的じゃなかったので相手をせずに通り過ぎた。
エアクリフォの沢から村を避けて通った所為で若干危険な道を通ってしまったんだろう。
「さてと……」
俺は徐に街の出入口に立っている門番へと近づく。
「街に入らないんですか?」
「入るけどね、その前に重要な事って結構あるんだ」
俺の冒険者としての経験と知識からまず必要な事として新しい街にやってきたらやる事がある。
リーサと一緒に俺は門番に近づいて挨拶をする。
「こんにちは。ここはレイジールの町であっているか?」
「ああ、ここはレイジールの町だ」
「それと、通行料を払いたいけど直接的な金銭が手持ちに無い。どうしたら良い?」
俺はそっと魔石を分かる様に見せて尋ねる。
これが金になるらしいから支払う気があるって見せれば良いはずだ。
「ここは通行料を徴収していないから安心して入れ」
それは何より。
俺が前に居た方の異世界だと街によっては通行料を請求されたから助かる。
となると、この門番の仕事は犯罪者や魔物が街に入らない様にする見張りか。
税収はきっと商店とかから徴収しているって所かな?
「それでなんだけど、この町に関して色々と教えてくれないか? 何分、初めての町で行く宛てや良い店に関して碌に知らないから」
と、俺は賄賂とばかりに狼の魔石を門番にポンと渡す。
人間関係を円滑にするのに学んだ知恵だ。
もちろん賄賂は良くないのも知っているけれど、真面目にする事だけが正しい訳じゃない。
どちらかと言えば、情報料やチップ的なやり取りだ。
情報は金になる事を嫌という程、異世界で知ったからなぁ。
円滑にこっちが知りたい事を聞くならこれくらいはしても良いんだ。
だってエロッチも俺が稼いだ金は悪事で稼いだ物じゃないって言ってくれた。
しっかりとした情報には代価を支払うのは当然だからね。
「ふむ……子連れか?」
門番は俺とリーサを交互に見ながら尋ねて来る。
「娘に見えるか?」
俺ってそこまで老けて見えるのか?
まあ、15で結婚して子供を産ませた奴とかあっちの異世界で見た事あるけどさ。
婚期とか世界や国、地域によって差があったりするので、珍しくないという可能性もある。
「いや」
「任されてな。一緒に旅をしているんだ」
「……」
ここは流れに合わせて答えないと怪しまれる。
人攫いとかに思われたらイヤだな。
「そうか……で、何が知りたい?」
「良い宿と飯が食える所。それと毛皮や魔石の買い取りをしてくれる所と、仕事が出来そうな所だな。しばらく厄介になりたくて」
この手の門番ってのは街の警護をしているので街に詳しい。
だからこそ、印象良くしておけば良い所を紹介してくれたりする。
もちろん……逆に悪質な店と手を結んで俺みたいな奴から絞り取ろうってしたりするんだけどさ。
この辺りはまた別の方法とかで情報を照合するのが重要だ。
「ならギルド辺りに行くのが無難だな。それ以外に細かいお勧めの店なら……」
と、門番は気軽に俺に教えてくれた。
ふむ……どうやらこの世界にもギルドがあるらしい。
ちなみにギルドと言っても俺が前に居た世界だと商業組合だったり戦士組合だったりと種類がある訳だけど。
俺が厄介になっていたのは国立のギルドで、俺のポジションから良い仕事なんかを手配してくれたっけ。
職業斡旋所って感覚が強かったけど、こっちの世界ではどうなのかな?
「このレイジールの町でお前みたいな流れ者が行けるギルドは……この道を広場にある大きな建物の総合ギルド窓口だ」
「色々と教えてくれてありがとうな」
「貰うもんもらってるから気にするな。それにこれも仕事の一部だ」
って感じで門番も特に疑われる事なく情報収集をする事が出来た。
「じゃあ行こうか」
「うん。ありがとうございました」
「ああ、じゃ月並みに、ようこそレイジールの町へ」
門番に手を振り、俺達はその足で総合ギルド窓口って所へと向かった。
町並みを確認……んー……石造りのしっかりと整備された町並みだな。
思ったよりも文化体系は悪くないのかもしれない。
少なくとも表通りに浮浪者っぽいのは居ない。
治安もそこそこって所かな?
匂いもそんな臭くも無いし、清潔な生活をしているのが分かる。
前に居た世界だと国や場所によっては汚かったからなぁ……。
お? なんかハリネズミみたいな魔物が街の中を首輪に紐を付けられて歩いてる。
ペットかな? ああ言うのもいるんだな。
なんてやや田舎者っぽい歩調でキョロキョロと町並みを見渡しつつ歩いて行く。
「はぐれないようにね」
「はい……」
もちろんリーサの手を握ってだ。
で、目的地の広場にある大きな建物へと俺達は入る。
戦士っぽい格好の奴や魔法使いみたいにローブを羽織っている奴が掲示板みたいな所で何か依頼が無いか確認している。
どこの世の中でも何でも屋に該当する奴等は変わらないか。
ちなみに冒険者とか呼んだりもする。
で、入ってすぐのカウンターに居る女性が俺達に声を掛けて来た。
「いらっしゃいませレイジール総合ギルドへようこそ。初めての方ですよね?」
「ええ、さっき街に着いたばかりで、門番の人に教えてもらって来た訳だけど……」
ここは素直に応じるのが無難だ。
特に理由が無ければ極々普通の応答が良いだろう。
「本日はどのような御用件で? 私どもでお教え出来る範囲でどこのカウンターへ行けば良いか案内いたします」
「ありがとうございます。じゃあまずはお金が心許ないので買い取りをしてくれる所は無いでしょうか?」
と、俺はイノシシとオオカミの毛皮と、魔石を取り出して見せる。
「ここの窓口に無いのでしたら買い取りをしてくれる所を教えてくれると助かります」
「えー……買い取り専門の商人の店に行く方法と、総合ギルド内の専属買い取り商人の所に持って行く方法があります。どういたしましょうか?」
経験から買い取り専門の商人の方が買い取り金額とかいろんな面で上下が激しいのは分かる。
こう言った大きな総合ギルドと銘打っている所となると信用が第一だから……多少は買いたたかれても、元から金が無いのだからケチ臭くするのは悪手だ。
ギルドとのコネクション構築や仕事斡旋の面も含めて、多少安くてもここで買い取ってもらうのが良いだろう。
何より、これまでの旅と簡素な食事の所為でリーサも疲れている。
早めに宿を確保して休んでおきたい。
「今回はこちらのギルドにお預けしたいです」
そして、新たに街に来た者に対してどのような扱いをするのか、総合ギルドとしての顔って物を評価しなくちゃいけない。
余所者を騙して食い物にする様な場所なら早々に移動すれば良いだけだしね。
「承知いたしました。それでは右手の奥にある買い取りの受付にこの木札を持ってお並びください」
そう言われて受付の人から貰った札を手に言われた通りの窓口へと向かい、買い取りして欲しい毛皮と魔石を提出する。
「アンバーソードボアとブラックウイングウルフの毛皮と魔石か……こりゃあ手こずっただろ」
買い取りをしてくれる老齢の職員が俺を見て答える。
おや? 強めの魔物だったのだろうか?