水晶の角
「ルルー! チドリすごーい!」
「凄いのはサンダーソードだ!」
これは俺の実力ではない。
サンダーソードの力だ!
「チドリさんの勝ち」
リーサも拍手をしてくれる。
「この魔物はターゲットとは違うよね?」
「ルル、たぶん違う。チドリ、ホーンバイソンを狩る言ったけど、これホーンバイソンに近いけど違う。もっと大きくて強い」
ルーフェが太鼓判を押してくれる。
やっぱりそうか。
「まあ持って帰って買い取って貰えば良いか。牛革とかも剥いで鎧や盾にするって方法もあるしね」
ホーンバイソンの革とかも買い取りしてくれるみたいだし、肉以外でも良い収入になるはずだ。
そんな訳で早速出てきた魔物……クリスタルホーンバイソンを血抜きを行って解体をした。
近くに生えている木にロープで吊るして血抜きをしつつ行う。
ルーフェに持ち上げてもらうって手もあったけど、手慣れた方法で解体する事にした。
正面から戦ったら苦戦しただろう。
それは解体したらわかった。
というのも、かなり筋肉質な体をしているみたいで、吊るして血抜きしつつ、ある程度バラそうとしたんだけど、刃が思った通りになかなか入らなかった。
サンダーソードでこれなのだから普通の武器ではどうだったんだろうか?
ただ……時間が経つごとに徐々に肉が柔らかくなっているような気もする。
死ぬと肉質が変化していく性質でもあるのだろうか?
どちらにしても仕留めた直後はかなり筋肉が引き締まった魔物の肉って感じだ。
心臓辺りを開いて魔石を取り出し、リーサに洗ってもらった。
クリスタルホーンバイソンの魔石 □□□□
お、四角四つか。
ホーンバイソンが四角三つの魔石だからやはり格上であるのは間違いなかったようだ。
後でサンダーソードに嵌めた際の性能を確認しよう。
まずは解体だ。
「……」
リーサが絶命したクリスタルホーンバイソンの顔を凝視している。
今更だけど美少女の目の前で血塗れになる解体をしてよかったのだろうか?
結構グロイし、耐性の無い人が見たらきつい光景だ。
「堅そうな角」
「ルルーン」
絶命した牛の顔をぼーっと見つめる少女には、なんとも言えない不気味な雰囲気が漂う。
リーサからしたら村で飼っていた魔物を絞めたような見慣れた光景なのかもしれない。
異世界に来た直後の俺は結構精神的なダメージが大きかったんだけどなぁ。
15歳の日本人にとって血なまぐさい臓物の処理は中々にハードだった。
今はもう馴れてしまったけどさ。
「臓物はー……」
牛って捨てる所が少ないし、色々と食えるんだけど……大丈夫かな?
「ルル……おなか減ってないけどちょっと食べて良い?」
「ああ、良いよ。ここまで荷車を引いて大変だったろ?」
俺は取り出した臓物を念の為、サンダーソードで滅菌処理を行ってかららルーフェに差し出す。
「ルルーン! 大変じゃなかったけどありがとうー」
取り出したばかりの新鮮な臓物の一部をルーフェが食べ始める。一部と言うのは食べる前にルーフェが切り取って分けていたからだ。
……もしや今日の晩のメニューにするつもりか?
しっかりと処理しているから大丈夫だとは思うが、少しばかり不安だ。
ただ……臓物を貪るルーフェの姿は……やはりというか何と言うか野性の魔物にしか見えない。
「ルル! チドリ! 新鮮でホーンバイソンより美味しい! 高級!」
どこで知ったのか、ルーフェが高級なんて言葉を使って味が良い事をアピールしている。
「リーサ! これ美味しい」
「そう。よかったね」
「ルルーン! 料理が楽しみ! ホルモン焼き!」
生のままリーサに勧めるとかはしないのか。
そういった提案をするんじゃないかとハラハラした。
ルーフェって思ったよりも考えているように感じる。
……近所の主婦を相手に色々と教わっているお陰かな?
ホルモン焼きなんて言葉があるとは思いもしなかった。
なんてルーフェを見ているとリーサがクリスタルホーンバイソンの角をこんこんとノックしている。
「固くて尖ってるね」
「そうだね。これに刺されたらひとたまりもなさそうだ」
地球でのバイソンの突撃と同じく、異世界であっても牛の魔物の突進を受けたら相当な被害を受ける事になる。
装備が良ければ耐えれたりする所が異世界独自の法則なんだけど、どちらにしても受けないに越した事は無い。
普通のホーンバイソンよりも厄介なのは間違いない訳だし。
「この角って武器とかに使えるのかな?」
「どうなんだろう? 上手い事使えば確かにできそうだよね」
「ルル?」
モグモグと臓物を食べながらルーフェがクリスタルホーンバイソンの体に手を合わせて持つ動作を離れて行う。
そうだね。ルーフェなら武器として扱えそう。
ハンマーって感じで。やや小さめだけどさ。
処理方法が未知数だから角付きで頭を持ち帰るべきか。
革も綺麗に切り取りたいしね。
「クリスタルホーンバイソンは目標じゃないけど収穫になった」
手早く処理を行う。
途中血の匂いに魔物が寄って来たけれどサンダーソードで威嚇の雷を落としたらすごすごと逃げて行った。
解体する魔物を増やしたら元も子もない。
そんなこんなで処理を終えてクリスタルホーンバイソンを素材として荷車に積載した。
リーサが仕上げとばかりに氷の魔法で閉じ込めて冷却してくれる。
非常に助かる。
「リーサも色々と魔法が使えるようになってきたね」
「うん。もっといろんな……強い魔法を覚えたい」
俺が見たステータスや技能欄は元よりシュタイナー氏の分析でもリーサは並々ならぬ魔法の才能を持っている。
氷の魔法なんて簡単に覚えられるんだな。
今は冷却位なのだろうけれど、そのうち大きな氷を出して攻撃とかもできるようになりそうだ。
そういえば前の異世界でも氷の魔法の使い手がいたなぁ。
雪だるまを呼び出して代わりに戦わせている奴がいた。
あんな感じにリーサも戦う様になって行くのだろうか?
魔法の違いに関して俺はよくわからないけどさ。
「リーサ凄い優秀! ルーフェの弟分みたい!」
「弟分?」
リーサが小首を傾げてルーフェに尋ねる。
「ルルン! 人間に捕まる前に育ててた」
ああ、人間に捕まる前の時の話か。
確か弟や妹が居るんだったか。
「みんなそれぞれの属性で得意なの別れてた。リーサは水も氷も火も使える。凄い優秀」
「へー……」
「ルーフェって人間に捕まる前から面倒見は良い方だったって事かな?」
「ルル? 子供は育てる。当然」
母性豊かって事で良いのかね。
「すぐにリーサも強くなる! ルーフェ楽しみ」
「……」
あ、リーサがルーフェ相手にする微妙に渋い顔をしている。
ルーフェの親面っぽい感じが苦手なのかな?
こう、リーサは保護者に恵まれなかったから、この話題は地雷である可能性が高い。
「リーサの成長が楽しみだね。だけど、俺としてはもう少しゆっくりでも良いよ。冒険者経験からだけど、生き急いだってあんまり良い事はないからさ」
焦って動く冒険者程、無茶をして死ぬ確率が高まる。
そうやって早死にした冒険者を俺はサンダーソードを買うまでの十年間で嫌って程見ていた。
「……」
リーサもこの前のデスペインの件で身に染みてわかっているのか、俯いてしまう。
物怖じするのはよくないけど、かといって無謀で良いとは言えない。
色々とさじ加減が難しいなぁ。
「ルル。人間の教育、まだ知らない。ルーフェも勉強」
「一日一日を楽しんでいれば良いってだけだよ。早く焦っても楽しめないだろう?」
「ルルーン! ルーフェ、チドリ達に再会して一日がとても楽しい!」
そう言ってもらえて何より。
「お留守番も、畑の世話も、お話も、お仕事もみんな楽しい!」
「そうだね」
俺はリーサの肩に手を乗せて微笑む。
「今は冒険者として食料調達の依頼を楽しもう」
「……はい」
若干落ち込んでいたように見えるリーサは顔を上げて微笑んでくれた。
「じゃ、ささっと次に行こう」
「ルルーン!」
と言う訳で俺達は次のホーンバイソンを探して移動を開始した。




