歌姫
ふむ……もしかしたら□が埋まった魔石は餌として使うと何らかの技とかを与える事が出来るのかもしれない。
単純に味がよかったとか魔石を食べてルーフェが成長したとかの可能性もあるけど。
ただ……アンバーソードボアの魔石だってルーフェに教えたっけ?
「チドリ! すごく美味しかったー! ルルーン!」
「喜んでくれて嬉しいよ」
「ルルーン!」
多少オーバーな反応だが、喜んでくれている様でこちらも嬉しい。
「あ、そうだリーサ」
「何?」
喜ぶルーフェを無表情だけど優しく見つめていたリーサがこっちに視線を向ける。
「学園の休みっていつかな?」
「言えば休みをくれるよ?」
ああ、そういう学園だったっけ。
「じゃあさ、今日こんな依頼を見つけたんだけど」
リーサに俺はギルドで見つけた討伐兼、調達の依頼書を見せる。
「ルーフェが前に狩っていた魔物を倒して街に届ける仕事なんだけどね」
「大丈夫……いけます」
リーサが真面目な表情で頷く。
ちょっと不安だけど……良いかな?
やっぱりデスペインの件がトラウマになっているのかもしれない。
トラウマが大きくなる前に自信を付けさせてあげた方が良いだろう。
「ルル、ルーフェもいける?」
「もちろん。むしろ荷物を引いてもらわないと困るかな」
「ルルーン! やるー!」
「じゃあ明日、学園に連絡したら行こうか。そんなに時間は掛らないはずだからね」
なんて感じにこれからの予定を決め、賑やかにその日の夜も過ぎて行ったのだった。
翌日。
学園に立ち寄って依頼を請ける事を申告、冒険休学って事でリーサは今回の依頼期間中は出席免除になった。
その間に俺は荷車のレンタルを総合ギルドで発注し、用意してもらった。
レンタル費は俺持ちだ。
荷車を破損した場合は賠償しなくちゃいけない。
「ルルーン!」
ルーフェに荷車を押してもらって進む。
ちなみにルーフェは昨日の夜、興奮していたのか庭で落ち着きなく動き回っていたのを俺はなんとなく察している。
「あの……」
で、なぜかルーフェはリーサを背に乗せて荷車を押して進みたがった。
「ルーフェがやりたがっているんだ。あんまり気にしないであげよう」
「ルルー!」
「は、はい」
リーサはルーフェの背に乗り、大人しくしている。
なんとも個性的な編成になってしまっているような気がするけれど、みんなで冒険に出発だ。
もちろんルーフェはいろんな意味で目立つのでイストラの街の中を進んでいくと街の人達が俺達を見て何やら話をしている。
「紫電の剣士がドラゴンウォーリアーと子供を連れてお出かけか」
「今度はどんな魔物を仕留めてくるのやら」
「デスペインの行軍を止めたなんて噂だろ。奇妙なドラゴンウォーリアーを連れたガキ連れでしかねえよ」
……気にしない方が良い。
目立つという事は良くも悪くも厄介事が舞い込む、という意味でもある。
人は往々にして出る杭を打ちたくなるもので、相応に実力を持たねば嘲笑される結果になる訳だ。
別に人々の期待通りの活躍をしなくちゃいけない訳じゃないけれど、俺はエロッチに雄々しく生きろと言われている手前、後悔のしないように生きねばならない。
ただ、無意味に危険な魔物を相手に戦うなんてバカな真似をするのは何か違うと思う。
……街の風聞や二つ名で俺自身のペースを乱すような真似をするわけにはいかない。
無謀な突撃は、俺だけではなくリーサやルーフェの危険を招く。
何事も少しずつ、手堅くやっていけばいいんだ。
俺はそうやってサンダーソードを手に入れたんだからな。
「……」
リーサがぼんやりとルーフェの背に乗って俺を見ている。
なので俺はリーサに微笑む。
「じゃあリーサ、ルーフェ、行こうか」
「……うん」
「ルルーン! 今日は狩りー」
「そうだね。ルーフェ、この前狩っていた魔物であるホーンバイソンの狩猟だ。ちゃんとした生息地での狩りをしたいから付いてきてほしい」
「わかったー! ルルー!」
ゴロゴロと荷車を引いて俺達は進んで行った。
まあ、目的地まではそこそこ整備された道があるので順調だ。
しかし……こうして依頼を達成するために移動していると言う感覚は久しぶりな気がする。
シュタイナー氏達に誘われてダンジョンに行ったのは成り行きだった部分もあるからな。
前の異世界で目当ての魔物を狩猟、捕縛をした時の事を思い出して、少々懐かしい。
「~~~~」
「ルルる~」
リーサがルーフェに乗っているだけなのが暇なのか何やらハミングを始めた。
それに合わせてルーフェも一緒にハミングをしている。
凄くさりげなく歌っているけれど、リーサの声が透き通っているように聞こえる。
そういえばリーサって歌姫の技能を持っているんだっけ。
だからなのか凄く穏やかな気持ちにさせてくれる曲だ。
ただ……何だろう。
どこかに聞いた覚えのあるフレーズだ。
これでリーサがどこかで聞いた歌とか育った村に居た頃に知っていた歌なら良いんだけど……いや、本当に聞き覚えがあるぞ。
この曲を俺は知っている!
間違いない!
これは……俺が作ったサンダーソードの愛を語る歌の一つ!
ああ、高嶺のサンダーソードの歌~サンダーソードの為に三千里~ だ!
歌詞は無いようだけど間違いない!
ハミングでわかるほどしっかりとした旋律だ!
どうしてリーサ達が知っているんだ!?
ルーフェまで知っているとはどういうことだ!
もしかしたらどこかで似た歌でもあるのか!?
「その歌……」
「チドリさんが剣を研いでいる時に口ずさんでた」
「ルルーン」
俺の質問にリーサとルーフェが頷いて言う。
え? まさか聞かれていたのか!?
そこはかとなく恥ずかしい様な気が……ってよく考えてみれば別に恥ずかしがる必要は無い。
だってこれはサンダーソードを讃える歌だから!
「そっか、じゃあその歌の歌詞を教えてあげようかな。あ~高嶺のサンダーソード~君に出会って俺は~」
それから歌詞付きで俺は歌っていたのだけど、何故かルーフェは歌うのをやめてしまった。たぶん聞き入っているのだろう。
リーサは黙って聞き続けている。
やがてワンフレーズを歌い終わった。
どうだいリーサ、ルーフェ!
俺のサンダーソードの想いはこれだけじゃないんだよ。
「ルル……」
「えっと……良い歌ですね」
「ああ! 俺がサンダーソードを手にするまでに作った歌なんだ」
エロッチには歌うなと言われてしまったけれど、これは俺のサンダーソードへの想いの形なんだ!
なんせ十年分の想いが込められている。
「リーサ、すごい」
「しー……」
おや? 何やらリーサがルーフェと心が通じ合っているようなやり取りをしている。
いつの間にか距離が縮んだようだ。
仲が良くなって俺も嬉しい。
「ルル……リーサ、何か他の歌も歌って! 歌ってくれるとルーフェ楽しい!」
「わかった」
ルーフェに言われてリーサが別の歌を歌い始める。
今度の歌は俺も知らない歌だった。
歌の内容は干ばつと水害で人々が生活するのも大変な地に水を司る竜が舞い降りて人々を潤わせるという内容の歌だ。
そんな竜は人々に距離を置いていたが、その偉業にとある女性がお礼に歌って踊って楽しませ、人と竜は手を取りあって平和に過ごしましたという形で締めくくられる。
なんとも優しい歌だ。
ドラゴンウォーリアーのルーフェに取っても、聞いていて良い気分になる歌なのではなかろうか。
「ルルーン!」
「素敵な歌だね。リーサは歌の才能もあるみたいだ」
「……」
おや? リーサがなんとなく照れているのがわかる。
無表情なんだけど、付き合いが長くなればそれだけわかってくるって事かな?
なんとものどかな時間だ。
そんな感じでゆったりとした時間を堪能しつつ俺達は目的地への移動を続けたのだった。




