嘘偽りのない真実
「ルルーン」
ルーフェはそんな生徒達を楽しげに見つめている。
「……むしろお前の方が教えられるんじゃないか? 紫電の剣士様よ」
教官が露骨に俺の二つ名でブローを掛けてくる。
情報収集は冒険者の基本だから、既に教官の耳に入っている様だ。
別に自分で風潮して回った訳じゃないんだけど……。
「ルル? チドリ、教える?」
「教えない教えない。役職違うし、教えるほど能力ないから」
俺はあくまで警備員だ。
精々用務員並みの雑務をするのが精一杯だよ。
こういう授業って強い人が教えるのまで上手とは限らないもんなんだ。
教えるのには教える為の才能が必要と言えば良いのか。
何より俺の場合はサンダーソードが凄いのであって、俺自身の能力は並だしな。
「ルル?」
「とりあえず……気持ちは嬉しいけど、騒ぎを起こしかねないからルーフェは家に帰っていてほしい。お願い出来る?」
「ルーン。わかったー。じゃあねチドリ、リーサ! ルルーン」
ドスンドスンとルーフェはお弁当を渡して去って行った。
こう……悪気はないのはわかるし、俺達の事を考えてくれているんだろうけれど、サイズと言うか種族を考えて行動してほしい。
……的を爆散させた彼に悪い気がするなぁ。
顔だけ知っている名前知らない子だけど……今度聞いておいた方が良いかな。
リーサに聞いたら教えてくれるかな?
「まあ……なんて言いますか、これからリーサをよろしくお願いしますね」
「ああ。本当、妙な縁でこんな所まで来たもんだ」
なんとも微妙な空気が俺と教官の間で流れる。
「……経過で言うとな、ラング村は大人しくなったぞ。エアクリフォが何とかしてくれたからな。追っ手の類は無いし、お前は別に人攫い扱いはされていない。安心しろ」
「そうですか。それは何より」
リーサの居た村に関して色々と気にはなっていたんだ。
「それで気になっていたんだが……」
「なんですか?」
「お前はどこから来たんだ?」
んん?
ああ、俺が現れた経緯とかよくわからないから気になるって所か?
まあデスペインとの戦いであれだけ大立ち回りしたんだ。
気になる人が出て来てもおかしくはない。
詮索される可能性は考えていたし、言い訳も考えてある。
とはいえ、教官になら話しても良いか。
「異世界から神様の祝福を受けてピンチのリーサの前に舞い降りました」
「ふざけて煙に撒くつもりか……まあ、そんな事はどうでもいいのかもしれんな。あの子を育てるには良い場所に来たみたいだからな」
おや? 信じてもらえなかったぞ。
俺は嘘偽りなく真実を話したんだが……まあ、良いか。
どっちにしても荒唐無稽な話だし、信じてもらえなくても良い。
「じゃあ俺は警備と雑務の仕事に戻りますね」
学園内でいざって時にすぐに現場に駆けつけられるように俺は雇用されている訳だしね。
他にも色々と知りたい事はあるので、リーサも色々と学んでいるんだ。
俺もちょっと学ぶのも悪くない。
15歳から冒険者やっていて碌に高校生活も大学生活も満喫できなかった。
魔術学園って所の空気を堪能しておこう。
「ああ、またな」
なんて感じで俺は警備に戻ったのだった。
警備をしている最中、シュタイナー氏と遭遇した。
「チドリ殿、何やら先ほど騒ぎがあったようじゃな」
「ええ、突然の物音に急いで現場に駆けつけた所、家のルーフェネット……ドラゴンウォーリアーが発端になって騒ぎが少しばかり」
俺はシュタイナー氏に経緯を説明した。
「大事が無くてよかったのう」
「全くです。下手をしたら大怪我では済まない所でした」
「うむ。チドリ殿が保護したドラゴンウォーリアーが猛者でよかったのう」
ん? この反応、シュタイナー氏的には的を破壊した彼にルーフェが殺されてしまう可能性を懸念していた様に感じる。
弱い魔物だったらそうなってもおかしくはないが、幸いルーフェはそこまで弱くはない。
俺としては生徒側の彼に悪い事をしたな、という意味で言ったのだが。
こう、ほら……現代の話になるが、保護者が騒ぎそうじゃないか。
「魔術学園の講師として正式に謝罪する。申し訳ない。まさかそこまでの世間知らずが入学するとは思いもせんかった」
「いえ……ところでルーフェはどの程度の強さなんでしょうね」
これは俺が聞くと激しく危ない話題ではある。
何せ俺も世間知らずなんだから。
「単純な強さだけで言うならば普通のドラゴンウォーリアーを凌駕しておるじゃろう。さすがはドラゴニックボイスを使えるだけの事はあると言う事じゃな」
そういえばルーフェって改造ドラゴンウォーリアーって扱いなんだっけ。
少なくとも普通のドラゴンウォーリアーとは異なる強さを持っているのは間違いない。
「頼もしいとは思いますが、ご迷惑を掛けてしまって……」
「いやいや、なかなか面白いドラゴンウォーリアーじゃ。専門家に調査を任せたいのじゃがな」
「それは……どうなんでしょうね」
ちなみにルーフェは錬金術師や調教師みたいな人種は嫌がる。
街に連れてきた際に近寄ってきた者でそういった役職の人からは極力距離を取りたがったし、威嚇していたので間違いない。
これは改造されて術式に組み込まれていた事に由来する嫌悪って事なのだろうと思われる。
俺が弄る事に関しては嫌がったりしないんだけどなぁ。
一応ルーフェも俺達に助けてもらったし、何度も俺に敗れたからってのが理由らしいけど……俺以外がルーフェの体を調べるには相応の覚悟がいるみたいだ。
「うむ……それで何か、ワシやレナが答えられる疑問はあるかの?」
「そうですね。ルーフェが今回のような……危険と思われて襲われないようにするにはどうしたらいいかと悩んでいる所です。何かありますか?」
「ふむ……」
シュタイナー氏は髭をいじりながらしばし考える。
「そうじゃのう……この辺りの問題はやはり変異に賭けてみるのが一番じゃとは思うのじゃが……野生で見られるドラゴンウォーリアーの変異観測ではソルジャードラゴンばかりじゃしな」
「やはりそうですか……」
「うむ……ただ、人が飼育した魔物はある程度言葉を理解するほどの知能を持つ者がおる。そのような場合、飼い主の望む変異をするという事例もある。探してみるのも良いかもしれん」
「そうですね。ルーフェが望む変異がないか、手探りでがんばってみます」
「その場合は是非とも経過を報告してくれるとありがたいのう。希少な人に馴れたドラゴンウォーリアーがソルジャードラゴンとは別の変異をするのじゃからな」
魔術学園的には調査内容として気になるってことね。
こういう所はシュタイナー氏も魔法使いって事なのかもしれないな。
「ええ、それでお聞きしたいのですが」
「なんじゃ?」
「ドラゴンウォーリアーがソルジャードラゴンに至るのに必要な魔石は何なのかお分かりでしょうか?」
「ふむ……チドリ殿がルーフェネット殿を飼い魔物にした際にワシも資料を探して目を通したからすぐに出てきそうじゃ」
シュタイナー氏が視線を上に向けて頭に手を当てている。
やがて思い出したのか、俺の方を見てから言った。
「思い出したぞ。あくまで野性での観測した者の報告資料で述べるぞ」
「はい」
そこからシュタイナー氏は俺が覚えきれないほどの魔物の名前を羅列して言って一旦止めてもらった。
よく覚えていると呆れる。
が、ルーフェの項目を確認した際に見た名前とは食い違っていて参考にならない。
掠りもしないのは逆に凄い。
「共通して言えるのはドラゴンウォーリアーの生息域近隣の魔物が多いから総当たりをすればソルジャードラゴンには至れるじゃろう。若干格上の魔物を倒さなくてはならんが、チドリ殿がいれば容易いじゃろうしの」
もしかしたらルーフェが昔、人に捕まる前に近隣に生息していた魔物があの項目に表示されているってことで良いのかもしれないなぁ。
もしくはルーフェは改造ドラゴンウォーリアー。
普通のドラゴンウォーリアーとは亜種扱いで変異に必要な魔石が違うのかもしれない。
あの掠れた名前をヒントに探せば割と簡単に魔物を探す事は出来そうだけど……。
「魔石の調達か……」
「ドラゴンウォーリアーの生息域からこのイストラの街は離れておるからのう。狩りに行かねばならんじゃろうな」
「リーサの事もあるし、あんまり家を空けるのも……って所ですね」
「それなら多少は大丈夫じゃぞ。学園は冒険に関しては寛大じゃ」
そうなんだろうけれど入学していきなり長期で冒険に出るのはどうなんだろうか?
何か間違っている気がする。
リーサも勉強に専念出来ないだろう。
「うーん……もうしばらく考えてみます」
「そうかの? それなら少々割高になってしまうが、ギルドに依頼を出すと言うのも手じゃな」
ああ、確かにそうだ。
依頼を受けて達成する事だけがギルドではない。
必要な物があるのなら頼んで取って来てもらうって手もある。




