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ホームラン

 簡潔に述べるとエリートクラスの合同授業で校庭に集まって、教官が自己紹介をした後辺りの事。


「あ、リーサ、ルルーン! リーサ~」


 ルーフェが校門から顔を覗かせてリーサを見つけたので、リーサの名を呼びながら手を振り、ゆっくりと学園内に足を入れた。


「なんでこんな所にドラゴンウォーリアーが! く……みんな! 急いで避難するんだ!」

「おい待て! あれはどう見ても――」


 とまあ教官の呼び止めを無視して、的を爆散させた生徒がルーフェに向かって駆け寄りながら魔法をぶっ放したそうだ。


「バーストフレア!」

「ルル!? ルー!」


 強力な魔法の弾が放たれた所でルーフェは即座に臨戦態勢に入り、背負っていた斧を手に取り猛突進、飛んでくる魔法を斧で空高く打ち上げた。

 直後、魔法は学園の空に打ち上がり、大きな爆音を立てて四散する。


「魔法を打ち上げた!? だけどこの程度、俺が止めてみせる!」


 ルーフェに魔法を打ち上げられた的を爆散させた生徒はそのままルーフェに突撃、持ちこんだ杖を棒のように使って近接で倒そうと殴りかかった。


「グルルー!」

「ぐが!?」


 が――サッとルーフェに見切られて避けられると同時に尻尾でプチっと叩きつけられてしまったと言う形だ。


「……危ない」


 そう言ったすぐに後に俺が駆けつけてきたそうだ。



 という訳らしい。

 なるほど、彼の魔法をホームランしてしまった、と。


「くっそ! この、放せ! 何なんだこのドラゴンウォーリアーは! 普通のドラゴンウォーリアーとは動きが全然違うぞ!」


 的を爆散させた生徒はルーフェの尻尾に抑え込まれたまま懸命に抜け出そうと試みている。

 しかし、残念ながら抜け出せそうにはないな。


「早くその尻尾をどかせ!」

「いや、そのまま俺が行くまで抑えておけ」

「ルル?」


 的を爆散させた生徒と親しい生徒がルーフェとリーサに命令しているが……ここでホルツ教官が腕を組んで近寄る。

 そして抑え込んでいる生徒の元に近づいた所でルーフェは尻尾を持ち上げて数歩下がる。


「講師の命令を無視していきなり魔法をぶっ放した挙句、杖で殴り掛かるとは……その血の気の多さは魔法使いよりも戦士の方が向いているぞ?」

「え……?」


 どう見ても怒られる空気を察したのか、的を爆散させた生徒がホルツ教官を寝転んだままきょとんとした表情で見る。


「お前の目にはこれが見えないのか?」


 ホルツ教官がルーフェの首に巻かれている目立つ首輪を指差す。

 魔物を使役する場合に使用する首輪だ。

 これを着用している場合、魔物は基本的に人に危害を加える事が難しい。

 条件に違反しない範囲で自らの身を守るために戦うしか出来ない。

 色々と設定は出来るみたいだけど、基本的にはそうだ。

 孤児院の警護をしている犬型の魔物だっているのだからイストラの街の人達にとって特段、珍しい訳ではない。


 まあ、ドラゴンウォーリアーが飼育された魔物になると言う例は珍しいみたいだけど。

 日本基準だとサーカスとかでクマが見世物にされる感じが近いのかな?

 ただ、いろんな冒険者が出入りする手前、飼い魔物や使い魔等の関係もあって、暴れる魔物でない限り寛容だ。

 俺もその辺りはシュタイナー氏からしっかりと聞いているし、ルーフェはデスペインの行軍が街に来る事を間接的に教えた立役者だからそこそこ有名だ。

 家からここまでの道を歩いてきて騒ぎになっていないのだから問題ないはず。


 近所の人達も今ではルーフェに慣れてきたのか、井戸端会議に混ぜて話をしている始末。

 このイストラって街はいろんな意味でたくましい街だ。

 まあこれくらい大らかな方が住みやすいけどさ。


「であると同時にお前……学園、イストラの街でどんな事を見聞きしていたんだ? ドラゴンウォーリアーがイストラの街に飼い魔物として来た位、来たばかりの俺でも耳にした話だぞ。にもかかわらずいきなり襲いかかるとは……」

「そ、それは……」

「そもそも魔物を使役して街に入れるなんて話、そこら中に転がってる。町並みを見ていれば誰でもわかる。お前は魔物を使役した奴を見た事無いとでも言う気か?」

「教官、彼は先日珍しい鳥の魔物を使い魔にしていると話していましたよ」


 的を爆散させた事を鼻で笑っていたブッククラスの生徒が告げ口を行う。

 この生徒、使い魔を持っているのか。


「珍しい魔物だから襲いかかった……は、理由に出来ないな。敵意を持って襲いかかってくる訳でもない。人語を喋っている。そんな相手にいきなり爆発魔法をぶっ放し、逸らされたら殴りかかる……魔法使いにしては考え無しだったな」


 おおう……教官、ズケズケ言いますね。

 言葉の棘が痛いですよ。


「栄えあるリヴェル魔術学院の生徒として恥かしい限りですよ。魔法使いを志すならば、冷静沈着に状況を分析してほしいものですね」


 と、便乗してくる鼻で笑っていたブッククラスの生徒。

 言いたい事はわからなくもないが、ちょっと感じの悪い反応だ。

 なんというか如何にも魔法使いって感じで……この辺りは別の異世界でも似ているな。


 同じ魔法使い同士だから少し事情は異なるのだが、本来暴力沙汰というのは魔法使いよりも戦士や狩人、剣士などの前衛が起こす問題だ。

 そういう粗野な所を魔法使いは嫌う傾向がある。

 これだから戦士は……みたいな嘲笑いを含めた感じでな。

 だから魔法使いは暴力沙汰はあまり起こさない。

 これも魔法が知識や知性と言った分野として扱われているからだろう。


 とはいえ、魔法使いは魔法使いで起こす犯罪に傾向がある。

 代表的なモノで言えば詐欺だ。

 魔法使いや錬金術士と言った連中は知識や知性に優れる。

 目的の為にその頭を使って他人を騙そうとする訳だ。


 ちなみにこういう傾向の所為か戦士達は、これだから魔法使いは……と呆れていたりする。

 なので、これは職業による傾向って奴だ。

 どこの世の中も変わらないな。


「えっと……ルーフェ、大丈夫だった?」

「ルルーン」


 大丈夫だってさ。

 まあ魔法使いの見習いである学生ぐらいなら対処出来るって事なのかもしれない。


「とりあえずお前は指導室と反省房行きだ。今日はしっかりとそっちで学んで来い。どこの世間知らずか知らないが、魔法使いを志すなら世間に目を向けろ。隠者はお呼びじゃない」

「そ、そんな――」


 絶句した表情で異議を申し立てようとするが、教官は完全に聞く耳を持っていないかのように背を向けてしまう。


「ルル……ごめんなさい。ルル」


 で、事の原因になってしまったルーフェに謝られる始末。

 彼の側からするとかなり惨めなのではないだろうか。


「く……」


 そのとばっちりなのか、俺とリーサが睨まれているような気がしてならない。


「あー……シュタイナー氏が『最初から全てを出来る必要はない。スタッフもブックもロッドも例外無く、学園はそういった物を学ぶ場所なのじゃからな』だってさ」

「くっ……」


 言ってから思った。

 余計な事を言ってしまった気がする。


「連れて行け」


 騒ぎを聞いて駆けつけた俺以外の警備班が的を爆散させた生徒を連行していく。

 激しく申し訳ない事をした気持ちだ。


「えーっと」

「ルル……」


 思わず俺とルーフェが頭を下げる。


「気にしなくて良いぞ。血の気が多いのはどこの訓練所でも変わらん。だが、人語を解し、敵意も無い飼われている魔物にいきなり襲いかかるなんて論外だからな。アイツの今後の為にも必要な事だ」

「ルル?」


 小首をかしげるルーフェを教官が少しばかり眉を寄せて言った。


「しかし……随分と出世したもんだな」

「あはは……」

「またその苦笑いか。まあ良い」


 そう言ってホルツ教官は俺から視線を外し、生徒達に言った。


「講義に戻るが、よく覚えておけ。お前らは魔法使いだ。さっきみたいによく確認もせずに魔物に突撃するのはお前等の仕事じゃない。そんなのは戦士などの前衛がやる事だ。わかったな?」

「「「はーい!」」」


 教官の言葉にエリートクラスの新入生達が揃って返事をする。


「ではさっきも言ったが俺の担当は近接戦闘の講義だ。魔力が尽きた時や戦士の戦いを経験することで魔法使いとしての戦いをどうするかを学べ。今日は基礎体力を測る。お前ら校庭を走れ!」

「はーい……」


 と言う感じで教官が生徒達に命じ、リーサ達は校庭を走り始めた。

 魔法使いなのになんで……という空気がある気がする。

 これも一応学生として必要な事なのかな?

 体育の授業みたいな感じでさ。

 まあ、魔法使いだとしても体力はあった方が良いのは事実だしな。


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