付け替え型
「じゃあ、ちょっとごわついているけど、この毛皮を床に敷いて……寝ると良い」
「はい……おやすみなさい。チドリさん」
リーサは俺の命じるままにイノシシの毛皮を敷いてそこに横になる。
焚火の火が辺りを照らし、俺は空を見上げた。
星の配置が違うな。
やっぱり俺の知らない世界に来てしまっているんだろう。
何だかんだ言って星を知っているのと知らないのでは方角の判断も出来ない。
前の異世界とは……うん、違うのだろうと実感させてくれる。
「あの……」
「うん? どうしたんだい?」
「その、寝る前に……もう少しお話をしてもらっても……良いですか?」
これはアレだな。子供にお話を聞かせて上げる感じ。
俺と同じ歳で日本から召喚された奴が確か今、5歳の子供がいるんだったっけ。
独身の俺からすると色々と凄いなと思えるなぁ。
「良いよ。じゃあどんな話をしようか? 今日はリーサに色々と教えて貰えたから、俺も何か話をしようか。うーん……」
「チドリさんが居た世界のお話とか教えてもらえると嬉しいです」
これは日本の事だろうか?
それとも召喚した前の世界の事か?
リーサに想像しやすい方を考えると俺を召喚した異世界の方が良いか。
「じゃあ何から話をしようかな……そうだな、俺が前居た世界を救ってくれた英雄達の物語を話そうか」
「えっと、チドリさんは、出てきますか?」
「うん。とはいえ、端役だけどね」
だって俺はあっちの異世界では突出した能力は無かったからね。
「今から十年と少し前、とある世界では邪神が勢力を増して、その軍団が人々を苦しめようとしていました。そんな中でとある国が邪神を倒す為に英雄を呼び出す儀式を行い……俺を含め英雄となる可能性のある人々が呼びだされました」
と、物語を初めていく。
これは後に詩人が酒場で英雄譚として語っていた物語だな。
色々と着色はされていたけれど、大きな話は色々とある。
時にはハラハラさせ、時にはドキドキさせたりラブロマンスが混ざったりと緩急が続く訳だけど……。
その物語の序章の途中でリーサは寝息を立てているのに俺は気付いた。
「今日はこれくらいにしようか……おやすみ、リーサ」
俺はリーサに羽織っていた外装を被せると火の番に戻り、サンダーソードを確認する。
ああサンダーソード……やっと手に入れた剣。
この光沢を見ているとドキドキする気持ちが抑えきれなくなってくる。
十年……そう、十年かけてやっと手に入れたんだ。
今日はその威力をマジマジと見せられた。
素振りをするだけで魔物目掛けて雷が落ちるとか凄い性能だ。
切れ味も申し分ない。
前に使っていた剣なんかよりも遥かに良い切れ味をしている。
あの剣は邪神を倒した日本人仲間からお古で譲ってもらった品だったけれど、相応の武器だった。
それよりも切れるのだから当然サンダーソードの方が良い。
もっと良い剣があるって言っていたけれど、やはり俺はこのサンダーソードがしっくりくる。
うん……今まで振った剣は、何か違和感っぽいものが付き纏っていたけれど、サンダーソードはその違和感が無い。
手に吸い付く感覚って言うのかな?
エロッチが俺の為に用意してくれた専用のサンダーソード……素晴らしい!
きっと、まだまだ無数の可能性が眠っているはずだ。
そう言えば……と、俺はサンダーソードの鍔に目を向ける。
このサンダーソードもあっちの異世界で存在する魔宝石を嵌める穴が存在するんだよな。
高位の武器には付いている訳だけどさ……。
今は穴に何も嵌めて居ないから空だ。
かと言って今の俺に魔宝石を入手する手段は無い。
ふと……今日もらったり、手に入れた魔石が思い浮かぶ。
とりあえず……イノシシから採取した魔石を袋から出してサンダーソードの鍔と見比べる。
ちなみにイノシシの魔石はピンポン玉くらいはある。
鍔に嵌めるにはちょっと厳しいか?
研磨したら入らないかな?
なんて思いながら鍔と魔石を合わせて、どれくらい削れば良いかの目算を立てようとした。
すると淡く魔石が光ったかと思ったらスッとサンダーソードの鍔に吸い込まれ、キラッと魔宝石の様に形を変えて鍔に装着された。
そして、なんかサンダーソードの刃渡りが分厚くなったぞ。
「おお……」
サンダーソードにこんな機能があるなんて知らなかった。
「じゃあ……」
俺が持っている一番良い魔石であるタコの魔石をサンダーソードの鍔に近づけてみる。
するとイノシシの魔石と入れ替わる様にタコの魔石が吸い込まれてサンダーソードの形状が青く透明な長剣みたいな形に変化した。
イノシシの魔石が手元に戻ってくる。
付け替え型だな。
試しに近くの枝で切れ味を試すと、スッと刃が入って切れ味が上がっているのがわかった。
これは……売却するよりも良い使用方法かもしれない。
そう思いながら俺はサンダーソードを見つめ、汚れが付かない様に鞘に入れて抱きしめたのだった。
うん、サンダーソードとの旅は始まったばかりだ。
翌日の早朝……。
俺は少し離れた所にサンダーソードを地面に突き刺して離れ……手をかざして念じる。
来い!
するとサンダーソードはフッと姿を消して俺の手に収まっていた。
おお……これは素晴らしい。
さすが俺専用のサンダーソード!
エロッチの施した加護がしっかりと息づいている。
盗まれたって手元に戻ってくるぞ!
店に売って呼び出すなんて真似はサンダーソードを追い求めた俺からしたら禁忌に値する蛮行だからしない。
きっとエロッチの事だからその辺りの配慮を間違いなくしているはずだ。
悪行は許されない。
だって善神だから!
「ん……」
リーサがむくりと起き上がって寝ぼけ眼でこちらを見てきた。
「おはよう……ございます」
「おはよう、リーサ」
「えっと、チドリさんは……もしかして寝ていないのですか?」
サンダーソードを入手した興奮で寝付けなかったです!
なんて半分冗談を言うべきかな?
半分は見張りの意味もある。
俺まで寝たら魔物は元より盗賊の奇襲に対応出来ないからな。
「この程度は馴れているからね。とはいえ、出発までの間に少しだけ寝かせてもらえると嬉しいかな」
冒険者なんてやっていたらこんな事はしょっちゅうある。
一日寝ない程度で根を上げていたら冒険者なんてやってられない。
「あ、もちろん軽めの食事は出来ているから安心して良いよ」
昨日と似た様な簡易的な食事だけど無いよりはマシなはずだ。
「それよりも足の調子はどうかな?」
「え? あ……はい」
リーサは足を確認する。
薬草がしっかりと効果を発揮している様でマメが無くなっている。
水で洗い流すとリーサは歩いて見せた。
次の町までどれくらい掛るかわからないけれど、これなら大丈夫そうだ。
なんて一安心しているとリーサがサンダーソードに目を向けている。
「昨日と形が違う?」
「ああ、なんか魔石を嵌めると形が変わるみたいでね」
「そうなんだ? 凄い……」
ちょっと淡泊な反応。まだ寝ぼけているのかな?
まあ、表情に出すのが苦手な子みたいだし、気にしない方が良いか。
「それじゃあ出発までの間、少しだけ寝かせてもらうね」
「はい」
リーサが頷いたのを確認した俺はそのまま1時間程仮眠を取り、起床後出発したのだった。
エロッチ「あの世界の魔物の核が何故嵌るんじゃ……?」