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竜と少女

「えっと……」


 俺もシュタイナー氏に視線を向ける。


「うむ……間違いないと思っての。ヘーブナーの地下迷宮で守護者をしていたドラゴンウォーリアーが蘇ってチドリ殿に会いたいのじゃろう」

「やはりそうですか……」


 いくらなんでも符合する条件が多すぎる。

 あのドラゴンウォーリアーを相手に俺は何度サンダーソードを振りかざしたっけ?

 会って礼を言われるなら良いんだけど、血沸き肉踊る戦いをもう一度したいとか言われたらどうしよう。


 強い剣士ってフレーズが不吉だ。

 死に場所を求めて歩き回っているようにも聞こえる。

 出来れば再会したいってだけの方向が良いんだけど。


「もしかして心当たりが?」

「ええ、イストラの街に来る前にシュタイナー氏と一緒にダンジョンの探索をしましてね。その際に戦ったドラゴンウォーリアーと状況が酷似していたもので」

「それなら悪い魔物じゃないと思うし、妙な通報を受けて討伐されたら後味が悪い。是非とも会ってやってくれないか?」


 うーん……。

 まあ、戦う事になっても出来る限り穏便な方法で事を収められるように努めるか。

 実は時期に死ぬからせめて一目でも会いたいとかだったら嫌だなぁ。

 魔法実験の代償みたいな感じで。


「わかった。じゃあ案内してくれ」

「助かる。ここから結構離れた所で半日はかかる。どうか来てくれ」

「うむ。チドリ殿、こっちはワシに任せて行って来てほしい」

「はい。それじゃあよろしく頼む」


 これもサンダーソードが招いた縁って事で良いのかな?

 冒険者達にとって俺は……命を助けてくれた引換券的な扱いな気もしてくる。

 どちらにしても会って話をするべきか。

 と言う訳で俺は冒険者の案内で件のドラゴンウォーリアーに会いに行く事になった。





「ルルルルン!」

「あの……」


 件のドラゴンウォーリアーは冒険者達が案内した山道で遭遇した。

 俺を見るなり地響きを立てて猛突進を始め、飛びかかるように俺にじゃれつき始めたのだ。

 敵意があるのかと思って、思わずサンダーソードを抜いてしまったが、そういった気配はなく、親しげな目をしており、舌でベロンベロンと俺をこれでもかと舐め回してくる。


「やっとあえた! ありがとう!」


 ドラゴンウォーリアーは冒険者たちに感謝の言葉を投げかけ、嬉しそうに尻尾をパタパタさせている。


「喜んでくれてなにより」


 冒険者達も満足そうだ。

 いや、俺は唾液塗れなんだけどさ。


「それで……俺に何の用だ? 礼を言いたかっただけか? こっちは身を守るために戦った訳だから、悪いとは思うけどそれ以上は無いんだ」


 するとドラゴンウォーリアーは俺にじゃれるのをやめて、見つめてくる。

 なんだその表情?


「そのことは、きにしないでイイ」

「ああ、そう……」

「ワタシ、ルーフェネット」

「彼らから名前は聞いてるよ」


 中々におしゃれな名前だと思う。

 こういう魔物の場合、親が名付けたりするんだろうか?

 それとも自分で考えるのか?


「ルルン! パリパリの剣士、なまえ」

「俺の名前が知りたいのか? 俺の名前は文月千鳥。千鳥が名前」

「チドリ! ルーフェ、チドリといっしょにいたい。すき」


 お、おう……。

 雰囲気的に懐かれているんだとは思ったけど、直球だな。

 今まで他人に好きなんて言われた経験が無いから、ちょっと照れる。

 例え相手が巨体の竜人……ドラゴンウォーリアーでも、だ。


「イキテイタ……死なずに、ジユウになれた。これほどすばらしいことはない。かんしゃ、いっしょにいたい。つよくてほれる」


 ルーフェネットは死しか救いがないと思っていた所に、別の答えがあった事に喜んだ。

 であると同時に、自身を解き放ってくれた俺への感謝の気持ちが溢れてきたそうだ。


「だから、ともにいたい。ルーフェとヨんで、チドリ!」

「まあ……来るもの拒まずって事で受け入れる事はできなくはないけど……」


 ルーフェネットはかなり大きなドラゴンの戦士って感じの魔物だ。

 イストラの街に連れて行って大丈夫なのかな?

 俺もこの世界に関して知らない事ばかりなので学んでいる最中だ。

 まあ……魔物の使役とか出来るみたいで、街でも見ない訳じゃないけどさ。


「ドラゴンウォーリアーなんて使役している奴なんて俺達見た事無いぜ!」

「凄いな!」


 なんか冒険者達は話が良い方向に転がっていると判断して喜んでいるし、ルーフェとイエーイって合いの手をしている。

 んー……まあ、リーサも成り行きで世話をする事になった訳だし、今更か。

 餌代とか高く付きそうだけど、当面はどうにか出来るはずだ。

 もちろんシュタイナー氏と相談してからになるけれど……。


「じゃあ、上手く一緒に居られるかどうかわからないけれど、これからよろしく頼むな」

「ルルン! ルーフェがんばる!」


 と言う訳でアッサリとドラゴンウォーリアー、ルーフェネットが同行する事になった。

 あ、荷物なのか、何個も小袋を担いでいる。

 私物かな?

 持っている武器は会った当初に持っていた斧だ。

 こちらはかなり刃こぼれしている。


 それから来た道を戻った訳なのだが、ルーフェが俺を背に乗せたいと譲らなかったので止む無く背に乗ると……まあ乗り心地は悪くない感じで、足も中々に早かった。

 ちなみに道中で聞いた所、冒険者達を助けた後、怪我の治療のために安全な場所で仮眠を取ったために、遠くで見えたはずの雷に気づかなかったらしい。

 なんかちょっと間抜けな奴の様だ。

 尚、シュタイナー氏も俺が仲間として連れてきた事を当初こそ驚いたが、成り行き上しょうがないと受け入れてくれた。


 そんな訳で俺達はイストラの街に向かい、リーサとレナさんの待つ屋敷に到着した。

 ああ、もちろんイストラの門番とかには多少驚かれた。

 シュタイナー氏が気を利かせてルーフェが飼い魔物である証として魔物使役用の首輪を用意してくれた。


 これがあれば特定の条件下以外では人に危害を加えられない証明になるんだとか。

 他にも色々と条件を設定できるらしいけどさ。

 デフォルトの条件っていうのは想像に容易い。

 ロボット工学三原則だったっけ?


 人間に危害を加えてはならない。

 命令に服従しなくてはならない。

 前二つを反しない範囲で自身の身を守らねばならない、


 って奴に似た感じ。

 もちろんケースバイケースで、対処しなくちゃいけないんだけど……ルーフェは頭は良いみたいだからダメな事の区別は付くようだ。

 事前に街で人を安易に傷つけちゃいけないと注意したら『わかった』って頷いていた。


「おかえりなさい、チドリ……さん」

「えーっと……?」


 リーサが我先に俺達の元に駆け寄り、ルーフェを見上げる。

 レナさんも同様だ。


「……ダンジョンに居た?」

「うん。あの時瓦礫の下敷きになったドラゴンウォーリアーが解放してくれたお礼って事で俺達の仲間になりたいみたいなんだ」

「ルルルン! ルーフェネットとイウ! ルーフェってよんで! あなたは?」


 すりすりとルーフェはリーサにすり寄る。

 まるで超デカイ犬か猫だ。

 ルーフェを知らない人からすれば普通に怖いと思う。


「ルルン?」


 更にすり寄るルーフェにリーサが若干渋い顔をしながら答える。


「リーサ……=エルイレア」

「リーサ! リーサ、よろしく! ルーフェ、リーサ守る」


 なんか必要以上にルーフェがリーサに絡んでいる。

 尻尾と羽で守る感じ。

 美少女とドラゴンだから絵的に映えるな、と思ってしまう。


「チドリさん……」


 当のリーサは困り顔で俺に助けを求めている。


「まあ、ルーフェ、いきなりだとリーサも驚いちゃうからさ」

「ルルン?」

「纏めますと、チドリさんの仲間になったって話ですね」


 レナさんがシュタイナー氏から事情を聞いて訪ねてくる。


「そうなるね」

「となると住む家は……」

「あー……」


 一応、いつまでもシュタイナー氏の家に甘え続ける訳にはいかないと家を決める話になっていたっけ。

 デスペイン騒動のお陰で良い家を安く……ほぼタダで提供してもらえる事になっているんだけど。


「大丈夫じゃよ。業者の者と話をして、当初から予定していた家でもルーフェネットを住まわせられるじゃろう」

「それって随分と大きな家になっちゃいません?」


 少なくともルーフェはシュタイナー氏の屋敷には入らないぞ。


「チドリ殿……そうではなく庭と雨戸と軒先で寝食をしてもらえればどうにかなるじゃろうと言う話じゃ」

「ああ、なるほど」


 確かにそうだよな。

 季節的にはどうなのかわからないけれど、今のところは寒くも暑くもない気候をしている。

 当面はどうにかなるだろう。

 馬小屋とか、そういうのを作るという手もあるしな。


「それに、上手くすれば家の広間くらいには入る事が出来る家じゃし、問題あるまい」

「そうなんですか?」

「うむ。今日はもう夜遅いから明日見に行くとしよう」


 と言う訳で俺達は明日、シュタイナー氏や街の業者の勧めた家を見に行く事になったのだった。


「ルルン。リーサ、良い匂い」

「……」


 尚、ルーフェはいつの間にかリーサを中心に犬みたいに寝ころんで包むように丸まっていた。

 なんていうか……リーサに凄く懐いていて、喧嘩の心配は無さそうだ。

 リーサ自身は、無表情だけどなんとなく渋い顔をしているような気がする。


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