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一刀両断

 無数の足跡を追いかけていくとライブモットの巣穴らしき場所を見つけた。

 そこから無数のライブモットが出入りを繰り返していた様なのだが……振り返る様にライブモット達が巣穴に戻って行くので直ぐに何かが起こっていると判断した。

 本来だったらリーサ達がどうなっているのかとか色々と確認してから行くのがセオリーなのだが、何かが起こっているのなら便乗しない手は無い。


「レナさんは下がって……」

「で、ですが……」

「あそこは巣穴でしょうし、何か騒動が起こっている。レナさんを守りながら戦う余裕が無いかもしれないので……レナさんは捕まらない様に周囲を確認しながら待っていてください」

「……そうですね。チドリさんはとても強い方です。悔しいですが今の私では足を引っ張ってしまうかもしれません。どうか……御無事で」

「ええ、上手くリーサ達を保護したら急いで逃げた方が良いでしょうからその退路の確認をお願いします」

「はい。お爺ちゃんが追いついてきたら事情を説明します」


 俺はそう打ち合わせ、レナさんを待機させて巣穴に近寄る。

 するとバシャンという水音とリーサの苦悶を堪える声が聞こえ、急いでサンダーソードを手に巣穴に飛び込んだ。

 中ではボロボロで自身の血で塗れたリーサがアルフレッドやみんなを守る様、ライブモットに抑え込まれて大きなライブモットからの攻撃を耐えていた。

 カッと俺の頭の中で怒りの感情が噴出し、サンダーソードがその感情を読み取ったかの如く電圧を引き上げる。


「リーサァアアアアア!」

「チュ!? こんな所に飛び込んでくるなんてバカな冒険者がいるようだ」


 喋る魔物か……まあ、あっちの異世界でも稀に居たし、俺の中じゃ不思議ではなくなっている。

 エアクリフォとかもそうだったし、一定の強さを持つ魔物はみんなそうなのかもしれない。


「だが高々人間一人が来た程度で何が出来る! 行け! 皆のモノ! 愚かな人間に我らの恐ろしさを味わわせてやるのだ!」

「「「チュウウウウウウウウウウウウ!」」」


 ライブモットが津波の様に俺に向かって群れを成して流れ込んで来る。


「……アームドサンダー!」


 ここは洞窟内。

 素振りによる落雷は発生しない。

 ならばする事は一つ。

 タコの手の様に雷をまずは伸ばし薙ぎ払う。


「チュウウウ!?」


 それは今までよりも力強く、思い通りにライブモット達を弾き飛ばす。


「はあああああああ!」


 そしてそのまま俺はサンダーソードを構えて突撃し、ネズミの群れに向かって横薙ぎを放つ。

 ズバッと三匹のライブモットを一刀の元に切断する。


「おお、随分と切れ味の良い武器を持っている。だが、その程度――」


 なんか群れの奥で大きな棒を持った白いネズミがほざいているな。

 バチバチと……俺の怒りを体現した様な雷がネズミの群れへと感電して行く。


「「「チュウウウウウウウ!?」」」


 まるで弾け飛ぶように無数の白いネズミ共が壁に叩きつけられる。


「邪魔だ」


 俺はその弾き飛ばしたネズミ達を無視し、リーサを嬲っていたと思わしき棒を持った白い大ネズミに向かって詰め寄る。


「な、バカな! お前達!」

「「「チュウウウウウ!」」」


 懲りずに白いネズミが俺に向かって来るが知らん。

 サンダーソードで薙ぎ払い弾き飛ばす。


「こんな……! ありえない! 幾らなんでも……」


 俺は白い大ネズミの前に立ち構えを取る。

 リーサをいたぶった報いを受けさせたいという心の声が聞こえたけれど、それは違う。

 今はリーサ達を……孤児達の身柄を救う事を優先すべきだ。

 スパンと……俺は隼を放ち、サンダーソードを抜刀したまま白い大ネズミを通り過ぎてリーサを抑えつけていたネズミ共をアームドサンダーで弾き飛ばし、リーサを抱える。

 服は裂け、血が出て骨が折れるほどの怪我をしている。


「チドリ、おじさん」


 孤児達が青い顔をし、恐怖で震えた顔をしている。

 リーサはこんなになるまで戦意を失わず、みんなを守ろうとしていたんだろう。

 ……とても立派な事だ。

 俺がリーサの年齢の時には出来なかったし、今でも真似出来ないと思う。


「みんな、助けに来た。アルフレッド」


 俺は腰に差していたアルフレッドが置いて行った剣を投げ渡す。


「チュ、チュウウウ! 何が助けに来ただ! 調子に乗るんじゃない!」

「調子に乗る?」


 何か大ネズミがさえずっているな。

 残念ながら調子に乗るも何も……決着は既に付いている。


「者共――アガ!?」


 唖然として動かずに居た大ネズミが振りかえって何やら言おうとしていた様だが……肩口辺りから袈裟懸けに切り裂き済みだ。


「お前は既に倒されてるんだよ」


 ズルンと大ネズミは一刀両断されてその場に崩れる。


「チュ!?」

「チュウウウウウウ!」


 司令塔を失った所為か大量のライブモット達が蜘蛛の子を散らす様に洞窟の外へと走り出して行った。


「なんだ。烏合の衆か」


 無数に飛びかかってくるのなら容赦なく返り討ちにしようと思ったが……まあ良い。

 頭を仕留めたらそのまま逃げるとは……まあ、こんな物か。

 っと、そんな事よりもリーサだ。

 ヒーリングサンダーは……なんとなく使用者しか回復しないのがわかる。

 薬は……く、念のためにとレナさんと一緒に持ってきた応急手当て用の薬位しか無い。


「誰か! リーサの手当てを!」

「う、うん!」


 リーサと一緒に魔術学園の試験を受けるネールって子が駆け寄り手当てを施そうとして困った表情を浮かべる。


「杖が……」

「これで代用できないか?」


 大ネズミが持っていた棒を俺は下半身の死体から取って渡す。

 ネールは若干眉を寄せていたけれど、震える手で棒を持って確かめる。


「……うん。どうにか出来そう」


 そう言ってネールがリーサの傷に向けて回復魔法を施し始める。

 俺も応急手当て用の薬をリーサの傷口に塗る。

 くそ……骨も折れてる。

 この世界の回復魔法がどの程度なのか分からないけれど、回復には手間取りそうだ。

 徐々にリーサの傷が塞がりつつある所でアルフレッドと孤児達が牢屋から出られずに居るのがわかった。


「みんな下がって」


 アームドサンダーで牢屋の扉を強引に破壊する。

 するとみんな揃って飛び出す様に牢屋から出て来る。


「チドリさん! 助かりました!」

「ああ、間一髪って所だったみたいだな」

「ええ……みんなを守る為にリーサちゃんが率先して前に出て……」


 それからアルフレッドはこれまでの経緯を教えてくれた。

 リーサが大ネズミを仕留める為に一人で何らかの儀式で仲間を増やすネズミの不意を突こうとした事、諦めずに居た事なんかを色々と。


「リーサちゃんの手当てさえ出来ればどうにか出来そうですね」

「そうだけど……リーサ、無茶をし過ぎだよ」


 アルフレッドから経緯を聞いて俺はボロボロで意識のないリーサの顔を撫でる。

 どんな事があろうと生き残る事が大事だって言ったのに無茶をして……。

 確かに、リーサが前に出て戦わなければ孤児達の誰かが犠牲になっていたのは間違いない。

 勇敢でとても誇らしいと思う反面、無茶をした事に対する怒りもある。


 ……俺は目が覚めたリーサにどう注意すべきなのか悩んでしまうな。

 褒めたらいけないと思うし、かと言って叱るのも良くない。

 本当はめちゃくちゃ褒めてやりたいが……。


 はぁ……ただ、どうにかなりそうで良かった。

 大事が無くてとは思わない。

 こんなにもボロボロになってしまっているんだから。


「後でしっかりと注意はするけれど、よくがんばったね。リーサ……」


 俺だったら自分の弱さを理由に脅えて何も出来ずにいただろう。

 この歳でこれだけ勇敢に戦えるのは、きっと誇らしい事なんだ。

 ただ、それでも命を大事にして欲しい。


 君はまだ世界を見ていないんだ。

 冒険はいつでも出来るけど、幼い時というのはあっという間に過ぎてしまう。

 この時間は、冒険よりも何よりも掛け替えのないものなんだ。


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