静電気
「とても強いんですよ?」
「お世辞として受け取っておくよ」
ちょっと野蛮な感じで返事をしておく。
「いえ、別にそんなつもりじゃないのですけど……」
「リーサは冒険に憧れているみたいだから、仲良くしてくれると嬉しいな」
生贄として村で育てられていたのだからあんまり友達とかもいなかっただろう。
これから魔術学園に通う様になるのだから今の内に友達の一人や二人作った方がより楽しく生活できるはずだ。
「じゃあ近いうちに依頼を受けに行こうな! 俺達もギルドの依頼とかやってる事あるからさ」
薬草採取とか弱い魔物の討伐とかかな? 他に材料採取とか……街のお手伝いとか、出来る事は沢山あるだろう。
俺も新米の時は酒場の皿洗いとか武器屋の店員とかやったし……これも全てサンダーソードの為に稼いだ経験だな。
つまり世の中、全てがサンダーソードに繋がっているって事だ。
「うん」
「話はこれくらいにして……畑の様子を見せてね。今日はみんなに挨拶に来たのと経過を見に来たの」
レナさんが孤児たちに言うと、孤児達も誇らしげと言った様子でレナさんを畑の方へと案内する。
おお……ぼんやりと畑にある薬草が淡く光っている様な気がする。
品質は悪くないのではないだろうか?
ただ、一部光っていないのがあるかな?
「基本的には良い感じね。みんな真面目にがんばっているじゃない」
「もちろん!」
「泥棒が時々盗もうとして来る位だもんな」
物騒な話だな。
……どこの世界でも盗人は絶えないか。
「見張りを立てるの大変ですよ。一応腕に覚えのある子達が守ってますけどね」
「あの子達にも守ってもらってるもん!」
と言って……庭に放し飼いにされている犬っぽい魔物に孤児達が近寄って撫でまわす。
番犬も準備しているとは、この孤児院、中々やるな。
「ワンワンワン!」
親しげに近づいてきた番犬達は俺を見るなり吠えまくる。
「コラコラ、この人は悪人じゃないわよ?」
「ウウウウウー……」
レナさんや他の子達が番犬達を注意するのだけど番犬は俺を見て唸るのをやめない。
「あ、お気になさらず。俺、この手の魔物に好かれた事無いんで」
どうも前の世界と言うか日本から似た様な感じなのだけど、根本的に魔物や動物に好かれた覚えが無い。
人懐っこいって言われる魔物とかでも大抵俺を相手をすると威嚇してくる。
特に可愛い系に嫌われる事が多くて時にへこんだ。
非常に失礼言い分ではあるが、仲良く出来たのはリザードマン位なものだ。
何か理由でもあるのかな?
別に強面でも無けりゃ腹に一物とか抱えて見破られているってわけでもないと思うんだけど。
「あ、わかる。このおじちゃん、なんか近くにいると毛がピリピリするもん」
そう、コボルトっぽい獣人の子が俺に言った。
おじちゃん……だと?
うん、いずれ言われると思ったけれど、25歳で言われる様になっちゃうのかー……。
何か二重にショック。俺ってそんな老け顔か?
まだ大丈夫だと思っていたんだけどなぁ。
俺はまだお兄さんで通じると思っていたのに……。
「こら、失礼だろ」
「でも毛がピリッとして近寄りたくないからしょうがないじゃないかー」
つまりはサンダーソードの所為で俺に微弱な静電気が発生してしまっていると言う事なのだろうか?
いや、その前から動物や魔物には好かれなかったぞ?
……思えば乾燥するとよく静電気が発生するタイプだった。
まあ、動物に好かれない理由が何かわかった気がして少しスッキリしたから良いか。
「気にしなくて良い。別に意識してやっている訳じゃないけど、ごめんな」
「ううん。こっちこそごめんなさい」
素直に謝れる良い子だな。
ここの教育は中々良い物かもしれない。
「色々と大変ですね」
「近所のおばちゃんとかが盗みに来た時は切なかったなぁ」
それは気まずい。
ご近所の仲が良いと思っていた人達が実は泥棒だったとか子供の精神衛生上に良くない。
日本に居た頃のネットの掲示板で見た様な案件だ。
こっちは畑から野菜を盗まれるって話だったはず。
「盗人達の暴論も酷い物もあるわよ。孤児共にやる金があるならこっちがもらっても悪くないって……」
ちなみにこの手の問題はあっちの異世界でも聞く話だ。
しかも盗人を捕えるのには中々に骨が折れたりする。
妙に強い奴とか混じっている時があって、そう言った相手と敵対した場合は割に合わない依頼だったって事も多分に存在した。
強ければ盗みなんてしなくても良いって思うかもしれないが、強いからこそ楽をしたいって奴は一定数いるんだ。
元々盗みと言う評判が悪い事なんで風評なんて知らないって奴がな。
「かと言って……薬草栽培をやめると運営にも響きますしね……滅多にないですし、気にし過ぎてもって所です」
悩ましい問題が転がっているんだな。
警備はそれなりに良いみたいだから、精々盗人への厳罰化が無難な所かな?
「つまり盗まれるくらい品質が良い薬草を栽培している場所って事なんですよね?」
「ええ」
ここで孤児達が、なんかニヤニヤしながら胸を張る。
「泥棒を捕まえるとお金が貰えて晩のおかずにデザートが付くんだぜ!」
「泥棒カモーン!」
「ヒャッハー!」
「あのおばさん偉そうで嫌いだったからザマぁ無かったぜ! なに人の庭に入って被害者ぶってんだってな!」
「きっと機会を伺っていたんぜ!」
「ハッハー!」
……子供達のテンションに邪悪さを感じる。
君達は裏家業とか世紀末から来たのかな?
「……後で教育をお願いしますね。アルフレッドさん」
「そうしましょう。どこでこんな言葉を覚えたのか……」
「ヒャッハー?」
リーサが小首を傾げて俺を見て来る。
こういう風に伝染していく訳だ。
「真似をしちゃダメだ。アレは悪い見本」
「泥棒を捕まえるとお金が貰えて嬉しい?」
「悪い事をした人を捕まえるのは良いけど、悪い人が来る事を望んでいる様なのがダメだなぁ」
幾ら良い環境でも孤児院……妙な所から知識を持ってきたりするのは変わらないらしい。
逞しいとも言えるけど、レナさんは元より、アルフレッドも大変そうだ。
「渡世術を習得していると思えば良いか……?」
盗人に人権なんて考えは日本独自の概念だしな。
前に居た異世界だと国にもよるけど罪人への対応って自由刑……懲役とかは無くて体罰か違約金とかのどっちかが主流だった。
刑務所なんて施設を作る事自体が割と無駄な感じだし……。
あ、でも場所によってはあったか……主にタダで奴隷の如く働かせる労働力としてだけど。
奴隷船とかのイメージで出て来る船を漕ぐあの仕事とかは罪人を集めて使っているって話を聞いた覚えがある。
開墾作業にも従事させたとか……それ以外だと鞭打ちとか見せしめに街の広場で磔にされたりする感じ。
物騒なのだと処刑とかな。
ちなみに磔にされるだけで時期が過ぎると解放される奴だった。
もちろん、刺青を首に付けられて前科者って扱いで。
どちらにしても犯罪者を捕えてお金が貰えた訳だし……逞しいで片付けるのが無難なのか。
しかも薬草栽培を真面目にしている子供達って事みたいだし。
「こっちは?」
俺は光りが見えない場所に栽培されている薬草を指差す。
これはどうも上手く行っている感じがしない。
「ああ、それは試験的に栽培しているナイトグロウです。野生化だと夜間に光る花を咲かせます。主に魔力回復を促進させる効能があるんですよ」
「ここまで育てんのに苦労したぜ!」
「すぐ枯れる」
「けど枯れないだけで全然咲かない」
「夜中にたまーに咲いてるからその時だけ採取する感じで効率悪い」
「高く売れるのにねー」
なんだろう。さきほどまでの純粋無垢な可愛い子供達から途端に恐ろしいほどの守銭奴な匂いを感じてしまう。
大丈夫だろうか?
俺も守銭奴で倹約家だったからか勘が孤児他を同類と感じてしまう。




