孤児院
「違う違う。あそこに居るのはチドリさんとリーサちゃん、冒険者をしていて旅の途中で知り合ったの」
「そうなんだ?」
「いいなー冒険者かー」
「リーサちゃんはリヴェル魔術学園の入学試験を受けるし、この町に住むからこれから仲良くしてあげてね」
「おおー!」
「そうなんだー!」
なんか子供達のテンションが随分と高いなぁ。
まあ、子供って本来はこんな感じなのかもしれないけどさ。
「リーサちゃん、折角だからこの子達とも仲良くしてあげてね」
「……うん」
お? リーサが自発的に頷いて輪に近づいて行く。
「リーサ=エルイレア……です。よろしく……」
人見知りするようにリーサは絞り出す様に自己紹介を行う。
「リーサちゃんはどこからやってきたのー?」
「……」
リーサは話したくないとばかりに俯いて視線を逸らす。
「こらこら、そんな踏み込んだ質問はしない」
アルフレッドって呼ばれた少年が子供たちに注意する。
「お前達だってここに来た時に聞かれたらイヤだったろ?」
「そうだけどー」
「この子、凄く可愛いよなー! アルフレッド兄ちゃんどう思う?」
「ま、まあ確かに……」
言われて子供達と見比べるとリーサって確かに他の子に比べて顔と言うかいろんな所が可愛いと思えるかな?
顔も整っているし髪もサラサラ、大人しい所もチャームポイントになっている。
肌も……他の子が焼けているってのが理由だけど、白くて浮いている様な気がしなくもない。
まあそれは生贄として大事に育てられていた影響なんだけどさ。
「あ! 兄ちゃん俺達とぜってー比べてるー!」
「ひどーい!」
「そ、そんな事はないぞ! レナさん、彼女はレナさんの親戚、もしくは貴族の方ですか?」
「親戚じゃないですよ。キャラバン隊に成った時にたまたま声を掛けて知り合ったって関係だし、リーサちゃん、どうなの?」
「……」
ここでレナさんは俺の方に顔を向けて来る。
一応俺が保護者だしな。
「貴族とかそんな大層な立場じゃないよ。それよりここはどんな場所か教えてくれると助かるな」
少なくともリーサは村で育てられていた生贄の少女な訳で、貴族って訳じゃない。
「あ、失礼しました。ここはアヴィン孤児院です。ここの子供達はみんな孤児なんです」
やっぱりそうなのか……ただ、悲観的な雰囲気が無いから孤児院の中でも割と良い方なのは俺でもわかる。
前の異世界でも孤児院とか稀に仕事で行く事があったけれど、悲惨な所は本当に酷かったもんなぁ……。
かと言って俺がどうにか出来る術も無くて……国に報告するのが関の山だった。
一応、責任者を解任とかさせて良くさせる事は出来たけれど、あの孤児院の様な陰鬱な雰囲気はここには無い。
「そうなのですか……レナさんとはどう言った関係で?」
「ええ、ここはお爺ちゃんが援助している孤児院で魔術学園や総合ギルドに栽培した薬草等を卸す事で運営費の一部を賄っているんですよ」
孤児を労働力として使うってのは何処の異世界でも似た様なモノだけど、割と健全な雰囲気がある。
「私はここで薬草の調達をお願いする関係で親しくなりまして、よく来る関係なんです」
薬草の栽培管理委託先なのか。
シュタイナー氏も結構手広いな。
魔術学園の薬草学で使われる薬草の栽培までしている。
うん。経済的には良い関係なんだ。
「アルフレッドもここの元孤児の兵士なんですよ」
「アルフレッドです。チドリさんで良いのかな?」
「よろしく」
「ここには警備兵として出戻ってきてます。ここの卒院者もお金に余裕があったら援助してくれていますね」
「なるほど」
「チドリさんは……異国の方でしょうか? あまり見ない顔つきと髪色ですよね」
これはあっちの異世界でも似た様な扱いだったのでもう俺自身が違和感を覚え無くなってきてしまっている。
シュタイナー氏も特に指摘してこなかったしな。
ただ、亜人獣人とかがいる影響か肌とか髪色程度じゃそこまで嫌われる事の方が珍しい。
あっちの世界じゃ異世界人って一発でわかる程度の認識だったし。
こちらじゃリーサの話じゃあまり異世界転移なんかの類は聞かないそうだ。
「そんな所です」
「凄く腕が立ちますし、マッサージが凄く上手なんですよ。なんたってあのお爺ちゃんの肩を解せるほどなんですから」
するとアルフレッドさんや孤児達が驚いた様な表情になった。
「え!? あのシュタイナー様を!?」
「すっげー!」
「滅茶苦茶力あるんだなー!」
そんなにもシュタイナー氏の肩凝りは有名なのか。
まああんなに堅いと逆に健康に悪そうだもんな。
そういえば最近、シュタイナー氏の顔色が良くなって、心なしか若々しくなっている様に見える。
「私もマッサージして貰いましたし……本当、良く効くんですよ……」
とレナさんが若干乙女な感じで両手を口元に合わせて呟く。
いや、その反応はどうかと思うんだけど……。
アルフレッドさんは元より、孤児達が怪訝な目で俺を見て来てるよ。
「……」
リーサもレナさんの真似をしない様に。
俺の立場がどんどん悪くなっている感じがする。
「俺の地元の整体術ですよ! そんな卑猥な事はしてませんから!」
……ただ、レナさんとリーサのエッチな声に関しての事は否定できない。
性的なマッサージじゃない!
シュタイナー氏も悶絶させちゃったしなぁ。
こっちも性的じゃない! 背景ピンクっぽい感じだったけど論外だ!
「そもそもレナさんには触ってないじゃないですか!」
「そう言えばそうでしたね」
「あんまり誤解を与える様な事を言わないでくださいよ」
「誤解……? ああ! そうですよね! ごめんなさい。あの後私もすこぶる調子が良くてそれを説明したかっただけなのに……」
ぺこぺことレナさんが謝ってくれるけど、疑惑を拭いきる事は出来るか?
「冒険者をしている千鳥だ。リーサの保護者をしている。詳しい事は……リーサが話したいなら話して良いよ」
「……うん」
そう言ってリーサは黙りこんでしまう。
「リーサちゃんは今年学園の試験を受けるんだっけ、じゃあネールと同じだな!」
孤児の一人が何やら同じ様な受験者の名前を呼ぶ。
すると孤児の中の女の子が手を上げて頷く。
女の子はローブを纏い杖を持っている。
そういやリーサは杖は持っていないんだよな。
武器として買って上げた方が良いだろうか?
俺が異世界召喚される前に見た、魔法学校が舞台の映画だと杖って大事な武器だったし……。
……リーサにとっては腕輪が杖の代わりなんだろうけど。
「ネ、ネール=アヴィンです。よ、よろしく」
ちょっと気弱そうな女の子みたいだ。
リーサに恐る恐るって感じで自己紹介している。
へー……学園は孤児も受け入れているのか。
そういえばさっき卒院生とか言っていたっけ。
優秀な成績を収めるのならある程度免除されるってレナさんも言っていたし、教育がある程度行き届いている場所なんだろう。
少なくともネールを入学させられるだけの金銭がこの孤児院にあるんだな。
「出かけている間に私、魔法の練習をして調子が良くなってきたの。ネールちゃん、今度リーサちゃんと一緒に魔法の練習をしましょう」
「うん」
「がんばって試験に合格しましょうね」
なんとも微笑ましい。
リーサにレナさんにネールちゃんが揃って魔法の練習をするのか。
「リーサちゃんは冒険者なんだっけ?」
「まだそんなに冒険してない……」
「あ、そうなんだ?」
「チドリさんが強くて見てる事が多い……」
「ふーん。確かに手慣れた感じがするね」
ちなみにこっちの世界で俺は碌に依頼を達成した事が無い。
シュタイナー氏の護衛をしただけだ。
魔物を倒して素材と魔石を売っただけかな?
出来れば多少なりとも実績と信頼を稼いで仕事が無くて困る事態は避けたい。
俺に見合った依頼ってどの程度の物が良いかなぁ。
手堅くやっていくのが前の異世界で覚えた処世術なんだけど……。
レイジールの町での事もあるからあんまりサンダーソードを堂々と見せる様な事はしない方が無難なのかなぁ。
俺も自称中堅って程度の強さだし……今までの魔物が弱かったから助かっているだけだもんな。
全部サンダーソードのお陰でもある。




