リヴェル魔術学院
馬車で街の中を見て回ろうとレナさんは言っていたがそこは丁重にお断りした。
窓からの景色を眺めるだけじゃ頭に入りきらないと言うのもあるし、長く生活するだろう街を初日から馬車で移動していたらきりがない。
レナさんがシュタイナー氏の孫娘って事で不埒な輩が近寄って来る危険性もあるけれど、それは俺が護衛する形で返り討ちに出来る……と自惚れたい。
それで……なんか凄く長い塀が続く道を俺達は歩いている。
チラチラと大きな塔みたいな建物が見えるけど、ここが魔術学園なのかな?
「やっぱり入学試験シーズンだからか町並みも活気がありますね」
「そうなんですか?」
「ええ」
俺はレナさんが見ている塀の反対側に顔を向ける。
そこは色々と賑わいを見せる家々が連なっていた。
所々でローブなどを着たリーサくらいの子供がチラホラと見える。
「魔術学園へ入学する為に来た人達が滞在している宿とか沢山ありますからね」
「入学は簡単なんですよね?」
来る者拒まずなのかな?
あ、でも試験があるんだから何かしらの基準はあるはず。
「一応、最低限の資質と……その、お金ですね。慈善事業では出来ない所もあります。何より魔法は強力な刃物の様な物でもあるので」
まあそうだよなぁ。
出自のわからない相手を計るなら金銭はわかりやすい計りになるものだ。
「チドリさんが仰っていた金銭なら十分ですよ。それに入学試験で成績上位者ならば学費もかなり免除されます」
あまり優秀では無い者は相応に高い学費を支払わねばならないって事に聞こえる。
夢を見せてはくれるけれど、相応に資質とか努力を見せなきゃ行けない所なんだってのは分かる。
レナさんが若干恥ずかしそうに俯いて呟く。
「私も魔法の成績が良くなくて……薬学で成績上位を取っていなかったら学費が高かったと思います」
シュタイナー氏の孫娘であるレナさんがそうならば中々に大変な場所なんだろう。
とはいえ……リーサには確かな才能がある。
俺はそれをサンダーソードを介してわかるのだから尚の事安心だ。
「……」
ここでリーサに余計なプレッシャーを与えるのは良くないな。
「入学試験まで、レナさんと一緒に魔法の練習をすれば大丈夫だよ。ね?」
「はい。私も最近、思い通りに魔法が使えるようになってきたんです。リーサちゃんとがんばりますよ」
うん、レナさんが居ればリーサの魔法練習は問題ないはず。
なんて思っていると塀が開けて金属製の柵に変わる。
するとそこには荘厳で大きな城とも思わしき大きな建物が広がっていた。
建物までの運動場らしき所には大きな魔法陣が描かれている。
「おお……」
「ここが私やお爺ちゃんが所属しているリヴェル魔術学園です。魔法以外にも錬金術から武器精錬学部、研究棟や寮もありますよ」
「凄い……」
「ちなみにリーサちゃんが望んでいる様にどこかで家を借りて通っている人もいます。勤労学生ですね」
成績優秀者は望めば寮での生活が出来るとレナさんは色々と説明しながら俺達は魔術学園の外堀を歩いて通り過ぎる。
「それじゃあ寮生の方が地位が高いとかそんな感じ?」
「そう言う人も極一部います……金銭で寮を占拠している貴族が多いですね」
あ、言葉を濁された。
リーサがいじめに遭わない様にしないといけないか?
とはいえ、あんまり過保護にするのもどうかと思うしなぁ。
そういう付き合い方を学ぶのも学園だから、どうしたものか悩む。
「ただ、実力主義な所も学則にあるのであまり気にしないで大丈夫ですよ。問題のある生徒と言うのは毎年いて、そう言った者を立派な魔法使いにするのが学園なのですから……問題児の未熟者は淘汰されます」
これはシュタイナー氏の受け売りって奴かな?
「総合ギルドとも連携して出る課題もあります。あ、これは入学してからですよ。毎年無謀な仕事をして命を落とす学生も多いですけど……ちなみに私はもう課題を達成していますよ」
なんかレナさんがアピールしてくる。
まあ課題を終えていないとシュタイナー氏の手伝いには参加出来ないよな。
「……どんな?」
リーサが空気を読んで尋ねて来るぞ。
「今回の長期休暇を利用してギルドで依頼を達成する事ね。お爺ちゃんと一緒にいろんな所を巡ったからあっという間に終わっちゃったわ。まあ……私一人で魔物を倒すって依頼も達成したわ」
どうやら頭でっかちの学園では無いみたいだ。
実力というのは実戦も含まれたものらしい。
「自力では難しい場合、冒険者を雇って手伝って貰うという手も認められているからリーサちゃんの課題をチドリさんが手伝っても大丈夫なはずですよ」
「それは安心だね」
「うん……チドリさんが居れば安心」
期待が重たいなぁ。
俺はあっちの世界じゃ二軍も二軍程度な最終決戦で戦力落ちして待機していた組みなんだけどな。
危険すぎる依頼は事前に断らせる事も考えないと。
尚、手伝ってもらった場合、評価は相応の物になるらしい。
この辺りは実戦向きか研究向きかの生徒で分かれるそうな。
「どうですか? ギルドの方に行くのをやめて学園内を少し見ます?」
なんて軽い入学概要を説明してからレナさんが小首を傾げて尋ねて来る。
「ありがとう。リーサが無事入学すれば嫌でも色々と教えてくれそうだから気にしないで良いよ。それよりもレナさんの用事を片付けよう」
「はい。それじゃあこちらです。ついでに総合ギルドの方もこっちなので丁度良いですね」
と言う感じで俺達は魔術学園に背を向けて俺達が街に入った時の門の方へと移動をする。
「ここですね。ちょっと待っていてください」
その途中で教会っぽい敷地の広い建物にレナさんが立ち寄る。
塀が高いな。
「あ、レナさんだ!」
敷地の庭で遊んでいたり畑の世話をしている子供たちがレナさんを見つけて駆け寄って来る。
「久しぶり!」
「確かシュタイナー爺さんと一緒に各地の調査に出かけていたんだよなー!」
「どんなだった? お話してー!」
と、レナさんは子供達に囲まれて一斉に挨拶と質問攻めに会い始める。
「こんにちわー! 今日は帰って来た事を報告に来たの。みんな良い子にしていた?」
「うん!」
「畑の具合も凄く良いぜ!」
「学園に降ろす分の薬草は十分だよ」
どうやら並々ならぬ仲の良い関係である様だ。
相手が子供達……つまりレナさんは人気者であるらしい。
「そう……後で品質を見せて貰おうかしら」
「もちろん!」
なんて所で教会っぽい建物から子供に連れられてレナさんと同じくらいの年齢の少年が子供達に連れられてやってくる。
やや押しが弱そうな少年って感じだ。
子供達より年上でリーダー的な雰囲気を纏っている。
「レナさんおかえり」
「あ、アルフレッド。調子はどう?」
「特にこれといった事は無いよ。いつも通りさ」
彼は……レナさんの彼氏かな?
なんて思っていると彼氏らしき人物が俺達の方に目を向け、小首を傾げつつレナさんに視線を戻す。
子供達も気付いたのかこっちに顔を向けてきた。
「誰?」
「新しい子?」
「入居者?」
何だろう……この台詞、ここがどんな場所なのか前の異世界の経験からなんとなく察する事が出来るぞ。
おそらく孤児院とかその手の施設か、宗教関係の教会なのは間違いない。
リーサの方を見て新しい子とか入居者と聞いたと言う事は新規の孤児と思われているのだろうな。
「……」
リーサが俺を無言で見つめて来る。
確かに今のリーサの立ち位置って、村から飛び出した家出娘、もしくは俺が保護している孤児みたいなモノだ。
問題はリーサの住んでいた村がリーサに捜索願なんかを出されていた場合は俺は人攫いって事になってしまう訳だけど、本人が帰りたくないと飛び出したのだから破却されるだろう。
教官の反応から大体の状況を把握していただろうし、村の者達も説教されていると思うほか無い。
あの地を治める水龍もリーサを再度生贄として差し出そうとしたなんて耳にしたら怒るだろうし。




