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マッサージ師疑惑

「むしろこの場じゃ俺の方が浮いてるけどね」


 俺の格好と言ったらどうだ?

 革の鎧を着た極々普通の冒険者でしかない。

 貴族とかそう言った連中の場にこれほど合わない格好の者も珍しいだろう。

 しかも日本人顔な訳で異世界人とも何か顔の作りが違うし、身長も人間の男性冒険者の中で見ればやや小柄だ。

 無骨な大男って感じの人が冒険者には多いからなぁ。


 一応、この世界では亜人や獣人がいるみたいではある。

 あっちの世界じゃゴブリンとかオークとかエルフがいたっけ。

 ゴブリンやオークとは戦う事が多かった。

 闇の勢力というか敵の軍門に下っていた連中が多かったからなぁ。


 逆にリザードマンとかは味方として力強く一緒に戦ってくれた。

 会話がちょっと通じ辛いのが難点だったけど、それなりに仲良くはなった。

 彼等が教えてくれた秘密の調合レシピのお陰で俺もお金を稼ぐ事が出来た訳だし……儲けの余剰分は彼等へとしっかり返せていた。


 ……俺があっちの世界で不幸にも殺された事を知ったら……彼等も悲しむだろう。

 エロッチが何かしらの手で彼等に俺が別の世界に旅立ったから悲しまないでくれと伝えてくれる事を祈るばかりだ。


「リーサ、レナさんはこれまでの旅での様にしてくれれば良いってだけなんだ。無理に背伸びしなくて良いよ」

「わ、わか……った。凄くベッドが柔らかい。良い匂いがする……家」

「うふふ、そうね。これまでの寝場所に比べると違うのは私もわかるわ。馬車や宿のベッドよりも良いもの」

「いつまでも甘えたくなるくらい凄い屋敷ですね」


 客室でベッドに腰掛けるだけでわかる位だ。

 ここにいつまでもいたら感覚が世間とずれるのは確実だろう。

 むしろ俺がこの町でしなくちゃいけないのは、どこかに部屋ないし家を借りて住む事……だな。


「チドリさん達はお爺ちゃんが気に入っていますから、いつまでも居ても良いんですよ?」


 それはどう言った理由で?

 正直、マッサージ師として雇われている疑惑が晴れない。

 馬車の旅の最中でも時々俺に肩はいつ頃凝る様になるのかと再三に渡って尋ねられた。

 シュタイナー氏にとって肩凝りと言うのはそれだけ重い悩みだったって事なのかもしれない。


 幾らなんでもそれだけの理由でいつまでも甘え続ける訳にはいかない。

 俺は恩を着せたらしゃぶりつくす守銭奴では無い。

 目的のサンダーソードの為にお金を貯めていた訳で、目的を達成したのだから自由にお金を使って冒険者を楽しみたいのだ。


「さすがに甘え続ける訳にはいきませんよ……出来る限り早めに住む場所を決めてお金を用意しないと」

「お金……あるんじゃないの?」


 リーサがレイジールで稼いだお金を入れてある袋に目を向ける。


「こっちのお金はリーサが学校に行く為のお金にしようと思っているんだ」


 レイジールのギルドで得た金銭は根本的にリーサの学費等に当てる事は決定している。

 生活費は俺がこれから稼いでいく。

 幸いにしてこれまでの道中で俺が倒した魔物の魔石が結構あるし、キャラバンに売った素材のお金もある。

 シュタイナー氏に頼まれた依頼の報酬もあるから住む場所さえ確保できれば、当面は大丈夫なはずだ。


「どこに住むのが良いかなぁ……しばらく街の中を探索して良さそうな場所を見繕わないといけないね」


 リーサが魔術学園に通いやすくて、俺も仕事がしやすい場所が良いはず。

 当面は冒険者として依頼を達成して行ってお金を稼ぐのが目的になりそうだけどさ。


「その辺りはお爺ちゃんも考えて、良い物件を紹介してくれるんじゃないかと思います」


 それは非常に助かる。

 正直甘え過ぎな気もするけれど……まあ、リーサの為にもしばらくはこのイストラの町に腰を落ち着けて置くのも悪くない。

 俺の目的であるサンダーソードを入手するってのは叶っている訳だし、リーサを保護しているんだからその責任はしっかりと果たさないとね。


「住む場所を決めるのも重要ですけど、それ以外に家具や生活用品も確保しないといけないですもんね」

「お金が湯水の如く飛んで行くね」

「……」


 あ、リーサが申し訳なさそうな顔をして俯いてしまう。

 ここはフォローをしなきゃいけない。


「まあ、俺も長い事根無し草だった訳だし、こう言うのも良いと思うんだ」


 後は住処をどんな所に設けるかを考えてみるのも良いかもしれない。

 アパートみたいな所を借りる……そこで冒険者、ハードボイルドな路線だなぁ。

 住む場所が決まっていた先輩冒険者の家がそんな感じだったっけ。

 酒好きでよく酔い潰れていたけれど渋い感じだった。

 俺もあんな感じの家にするかな?


 それとも気の合う仲良し冒険者がお金を出し合って一軒家に住む感じの家も悪くない。

 ルームシェアならぬハウスシェアってね。

 纏めてルームシェアって言うのか?


 サンダーソードの為に特定の拠点を持たずに生きていたあの時の俺からしたら想像できない悩みだなぁ。

 尚……俺と同じ日本人の強かった連中は大きめの一軒家を当たり前に持っていたっけ。

 世界が平和になったらその時の実績を元に安定した役職や国の手厚い保護を受けて各地の治安維持とかの仕事をしていた。

 改めて持ち家と考えると、ワクワクしてくる。


「冒険……」


 リーサは冒険に憧れがあるのかな?


「冒険も大事だけど、住む家を確保するのも良い事だよ。まだまだリーサは子供なんだから今しか出来ない事を楽しんで行けばいいんだ」


 だってリーサは生贄として育てられた訳だから、普通の子供が普通に得られる幸せな気持ちを知らない。

 俺としては、死の危険に脅かされる事無く、精一杯楽しい学園生活を楽しんでもらえる事が嬉しい。


 なんでここまで思えるのかと言うと……うん、俺自身のやりたい事が達成され、頼りになるのが俺しかいないリーサがいるからこそなんだろうな。

 自由というのは良い言葉だが、目的が無いと持て余す物だ。


「じゃあさっそく街を案内しましょうか。まずは総合ギルドが良いですか? それとも市場とか見に行きます?」

「魔術学園も気になるかな」

「今は長期休暇で、学園の授業は無いですし一部の寮生しかいないかと思いますよ?」

「そうなのか……けれど、どんな場所かを見ておきたいな」


 魔術学園ってロマンがある気がする。

 あっちの異世界でもあったけど俺は適性が無くて部外者だったから碌に行った事が無い。

 剣術の道場には通った事はあるけどさ。

 ラルガー流はそこで習ったんだし。


 思えば……異世界だからって興奮していたなぁ。

 特に技を始めて使えるようになった時は凄かった。

 隼は体が軽い気がする程度だったけど、鎌鼬を始めて放った時は興奮した。

 あんまり戦闘の才は無いと言われていたけれど、がんばればどうにかなると思ってしばらく打ち込んでいたっけ。


「私も後で行きたかった所がありましたし、丁度良いですね」

「何か予定でも?」

「あくまで帰って来た事を報告するだけですよ」


 これは魔術学園に連絡って事かな?


「じゃあ早速、少し見て回りましょうか。じっくり見ると日が暮れて帰る時間になっちゃっいますし」


 もう昼過ぎだからなぁ。

 ちょろっと見学するには丁度良い。


「さすがに日が暮れるまで説明はしないですよ」

「そう? 思ったよりも時間かかりそうかな? って思ったけど」

「確かに一から全部説明したら日はくれちゃうでしょうけど……私も知らない所がありますよ。大丈夫です」

「じゃあ魔術学園を見てからレナさんの用事を片付けようか」

「はい。その後は……チドリさんが仕事をしやすい様に総合ギルドに行って帰りましょう。買い物は明日からでも遅くは無いですから」

「うん」

「学園……」

「もう少しで入学試験日だからそれまで楽しみにしててね」

「試験……」


 リーサが若干不安そうな顔をする。

 試験が不安な気持ちはわかるつもりだ。

 高校受験とか不安でいっぱいだったからな。

 魔術学園と比べると比較にならないのか?


「大丈夫! 魔法が苦手だった私だって入れたんだから! けど、リーサちゃんはしっかりと魔法が使いこなせるんだから余裕で合格するわ! 私なんかよりも将来有望なはずよ」


 リーサが若干不安そうに腕輪に手を当てている。

 んー……リーサの魔法の性能って腕輪に全てゆだねられているのか?

 割とアッサリとシュタイナー氏が教えた初歩の火の魔法を覚えたし、俺のステータス閲覧でもしっかりと技能は習得していた。


「そもそも魔法が出来なくても別の学問で成績を取るって手があるの! 調合とか錬金術ね」


 それはレナさん自らの事を言っているんだろうな、とはシュタイナー氏との会話で推測出きる。

 薬学の成績良かったらしいもんね。

 うーん……ここで俺が下手に応援とかするとリーサはより緊張してしまうかもしれない。

 かと言って何も言わないのも良くないよな。


「肩に力を入れず、普段通りリーサは一生懸命やって行けば大丈夫だよ」

「はい」

「それじゃあ、行こうか」


 出かけて気分転換した方がここでウジウジと悩んでいるよりも結果的に良いはず。


「そうですね。行きましょう」


 と言う訳で俺達はシュタイナー氏の屋敷から出て早速出かける事にしたのだった。


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守銭奴はなにか違うような?
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